いつの日か、を信じて
昨年の競輪祭の準決勝終了後、新山響平は新田祐大に後ろを走りたい、と自ら頭を下げた。それに対して新田は「チェッ」というリアクションをして、多くを語らず仕方なく引き出し役を演じて最後は新山が初タイトルを手にしたわけだが、その話し、そのレースをふと思い出した。
頼まれる側にもイロイロな感情はあるが、いつもラインの先頭で死物狂いで命を懸けて奮闘する選手なら、頼む側にもそれなりの覚悟はある。観てる側からしたら、競輪なんだからそれでいいじゃん!と単純に勝手に納得して、ヨシ!としてしも、そんな簡単な話しではないはずだ。
そして、今年も今までラインの先頭で勝負してきた松井宏佑が南関連携の中で、壮大な自力選手としての実績をもつ深谷という選手に「番手をまわりたい」と伝えた。松井は2020年の競輪祭で郡司をG1初Vに誘ったわけだが、レース後、極度の緊張から解放されて号泣して郡司と喜びを分かち合ったシーンは今もハッキリ記憶している。
S級初勝利を上げてから約4年近く、松井は南関の前でやるべきことをやってきたはず。深谷がそれに対して「チェッ」という気持ちで引き受けたのか、迷わずオッケーしたのかわからないが(おそらく後者、と信じたい)、今まで師匠の金子貴志、浅井康太、南関移籍後、2021年は全日本選抜川崎で郡司を優勝に導いてきて、若干、優勝請負人か!みたいなところはあるが、それも深谷だから為せる技とみて、心に決めたひとつを迷わず貫く先行勝負で、今日は勝って泣こうよ!松井が渾沌とした2023年の獲得賞金ランキング圏外から突き抜けてのG1初制覇、グランプリ出場をキメる!!
もちろんこのメンツならば番手まくりを敢行するしかないのだが、そうは簡単には済ましてもらえないのが太田海也の存在。ナショナルチームで強化に強化を重ねた脚は、104日欠場して久々に出場した8月の西武園オールスターから開花した感があり。準決勝では4着だったが新山をタタき沈め、昨日の準決勝ではまたしても返り討ちにあわせる新山撃破を演じてさらに押しきりのオマケ付きを魅せた脚は、主導権、というのにこだわる南関勢にとっては超脅威。
おそらく太田が南関の好きにはさせない!というのをテーマにして挑むとしたら、ラスト2周から間違いなくグチャグチャの展開になるのは見え見えで、8月の西武園オールスターで鎖骨骨折、肺挫傷でドン底だった脇本がひとまくりで今年の初戴冠なるか、脇本が踏み出す前に思いきって仕掛けられれば眞杉が2つ目のG1ゲット、北津留が地元で悲願のG1初制覇を達成する可能性はもちろんある。
とにかく黙っていれば深谷がひたすらギセイになるレースをするのは間違いなく、キーマン太田がどうするのか?それをトコトン考える決勝戦。
準決勝のレース前から「お前が1番強い」と太田をアジテーションしてその気にさせて主導権を取らせる策士・松浦であったとしても、覚悟を決めた深谷を相手に無事に太田が先手を取ることはできないし、脚はそうとう使うので3着までの買い目でガマン。