小田原おひとりさまライド(後編)

2022/01/05(水) 17:25

小田原おひとりさまライド(後編)

おひとりさまライド!
お手軽シェアe-bikeで小田原へ(後編)

2020年、日本のナショナルサイクルルートに指定された太平洋岸を貫く太平洋岸自転車道は、千葉から和歌山までの太平洋岸を続く海の道。このルート内の神奈川県の湘南エリアを、e-bikeが借りられるシェアサイクルを利用し、走ってみることに__!

前編はこちら

「かまぼこ通り」の散策を終え、太平洋岸自転車道に指定された国道一号線ルートに復帰。まだ立ち寄らねばならないグルメスポットが続く。ランチ前、最後の立ち寄りは、「柳屋ベーカリー」。老舗の薄皮あんパンの店だ。当初、帰路に寄ろうかと考えていたのだが、完売とともに午後には店舗が閉まると聞き、急遽往路に組み込むことにしたのだ。
ちょうど小田原城の真南に位置するエリアに差し掛かると、思わず中をのぞきたくなってしまうような特徴ある店舗が並んでいた。自転車を降り、押し歩きで歩道を行く。木造の時代劇にも出てきそうな店構えの店舗が見えてきた。これが柳屋ベーカリーだ。


時代劇にも出てきそうな「柳屋ベーカリー」


午前中にもかかわらず 、すでに売り切れの種類も

店舗名が彫られた木の看板の下のガラス戸をガラガラと開け、のれんをくぐる。中も期待を裏切らない、古き日本の家屋的な空間が広がっていた。手前にガラスケースがあり、その上にあんの名前が書かれた箱が並び、数個ずつの丸い小ぶりなパンが並んでいる。すでに売り切れてしまったパンもあるようだ。ケースの手前には、ケースに沿うように行列ができている。想像していなかった豊富な種類の「あん」展開と、一方通行の雰囲気が漂う整列の様子を見て、緊張が走る。自分の会計の順番が来るまでに、速やかに、購入するあんパンを、選び取らねばならない! つぶあん、こしあん、白あん、ずんだ、くり、いも、さくら、抹茶、うぐいす……。優柔不断の筆者は、もはやパニックである。さらにケースの中には、シナモンロールや各種(!)カレーパン、クリームパンなども並ぶ。どれも極めておいしそうに見える。追い込まれながらも、つぶあん、ずんだ、さくら、黒豆をセレクト。会計を終え、受け取った袋の重さに改めて驚いた。パンの重さとは思えない。


ずっしり重いあんパンの生地の薄さに驚く

店を出て、さっそく、つぶあんパンを開けてみる。パン生地が驚くほど薄く、ほぼ「あん」である。こんない薄い生地で、どうやって包み、どうやって焼き上げるのだろう? また、たっぷり詰められた上品な甘さの「あん」の、おいしいこと! 創業は大正10年だというが、ここまで続けてくれたことにお礼を言いたい気持ちになった。
ちなみに、帰宅して食べたずんだあんも、黒豆あんも、さくらあんも、どれも涙モノの絶品だった。お高いはずの黒豆などは、特に原材料をふんだんに使い、素材の味を生かした甘さに炊き上げている。どうしてこの値段で提供できるのかわからないほど。いつか全種類のあんを制覇してみたい__そんな夢が膨らんだ。

夢見心地のまま、ルートに復帰。ルートは一号線からJRの線路沿いに曲がり、早川を越えて、海沿いへ。間近に打ち寄せる海を眺めながら進み、「漁港の駅 TOTOCO小田原」へたどり着いた。ここは物販と食事が楽しめる施設であるが、ルート上のサイクルステーションに指定されている。


海沿いの道へ

「漁港の駅」は海鮮グルメが充実していることで知られ、一度訪れてみたかったところ。一目散に、ずっと強い興味を持っていた「かます棒」を販売する窓口へ。
カマスは、相模湾の定置網にかかり、小田原の魚市場に多く水揚げされる魚であるが、食べ方のバリエーションが干物程度に限定され、いまいち販売が伸びない時期が続いたという。そこで「北条一本抜器」なる、身を切ることなく、骨を一気に除去できるタピオカのストローのような器具を考案し、中骨のないカマスのフライの販売を始めたのだ。今回のライド、実はこの「かます棒」を食べたいがために企画したものでもあった。


ここで「かます棒」が食べられる!価格は1本250円とリーズナブル

たどり着いた「かます棒」売り場には「チーズかます棒」のオプションも。一瞬気持ちが揺らぐ。だが、聞けば、身を開いてチーズを入れているという。自分が食べたいのは、身が開かれていない、丸のままのカマスのフライ__。調理法を先に聞いた自分の機転を自賛しつつ、「かます棒」をオーダー。あぶないところだった。
注文を受けてから揚げるらしく、待つことしばし。受け取ったカマス棒は、まさに揚げたてのアツアツ!


手に入れた「かます棒」。さくさく衣の中の身はふわふわ

建物の外に出て、包みを開ける。想像していたより小ぶりだったが、この後のランチを考えると、胃に響かないのはありがたい。さっそくかぶりつくと、外側はカリカリながら、中からはふわふわの真っ白な身が現れた。新しい食感! 魚の丸揚げなどは、骨があり、切り身のフライはやはり切り身である。丸のままの魚でありながら、骨がない。分厚いからこその食感があって、やみつきになるおいしさ! ハフハフしながら、あっという間に食べてしまった。目的を達成した満足感にひたる。

上階には、人気の海鮮レストランが入っている。名物の刺身食べ放題は、十分に食べる自信がなく、海鮮丼が人気の「とと丸食堂」を選んだ。並ぶメニューに目移りしたが、地のものであろう「あじ丼」をセレクト。刺身とタタキを楽しめる逸品だ。


ランチに選んだ「あじ丼」。特製ゴマソースをかけて食べるのがミソ!

海を眺められるテラス席を選び、花弁のように盛り付けられた「あじ丼」をいただく。コリコリした新鮮な刺身に、特製のゴマソースがよく合う。朝から食べ続けている感は否めないが、自転車でカロリーを消費し、動きながら、とびっきりおいしいものをいただけることに、至福の喜びを感じる。
満腹になって、施設を出ようとしたところ、デザートが並ぶ店舗が目に入った。プリンとソフトクリームの専門店らしいが、デザートのユーモラスな見た目に釘付けになった。モナカ生地をトッピングできるようになっているのだが、この形が、小田原らしいサカナ、貝殻、城と、非常にユーモラスなのだ。あまりのかわいらしさに食べずにはいられなくなり「激突!プリンソフト」を注文。


プリンとソフトクリームとをベースにしたオリジナルデザートを販売する「小田原漁港プリン」

プリンの上にソフトクリームが乗り、そこにサカナのモナカが、あたかも激突したかのように、ぶっ刺さっている。なんと斬新なアイデアだろうか!


「激突!プリンソフト」一度見たら忘れられないだろう

ソフトクリームも、プリンも、サクサクのモナカも味は上々で、見ても、食べても楽しめる満足度の高いデザートだった。この施設でも食べ続けてしまった! ここからは消費モードへ入る。e-bikeの性能を生かし、石垣山一夜城歴史公園に上ってみよう。

一夜城のある石垣山は、豊臣秀吉が1590年に小田原の北条氏を包囲した際に本陣の総石垣の城を築いた地。一夜で櫓などの骨組みを作り、白紙を貼って、白壁を作り上げたかのように見せたことから「一夜城」や「石垣山」と呼ばれるようになったという。この山に向かうヒルクライムは、2kmほどで200mほどの高度差を上る、かなりの急勾配なのだが、このe-bikeなら上れるに違いない。


いきなりの急傾斜!でも、e-bikeなら怖くない

上り始めてすぐ、路面に滑り止めが施された急勾配が現れる。くじけそうになるが、今日はe-bikeだ! 変速を軽くし、アシストパワーを上げると、この急坂でもバイクはスイスイと軽快に上がっていった。広がる小田原の街のパノラマは感動的だ。ルート沿いの果樹畑の黄色い柑橘がたわわに実る様子も、ほっこりした気持ちにさせてくれる。急勾配のヒルクライムでありながらも景観を楽しみながら、公園にたどり着くことができた。


急傾斜を上ると、小田原の街のパノラマが広がる


果樹畑が並ぶ。たわわに実る柑橘に手が届きそう

一夜城まで自転車で上がることはできないが、徒歩であれば自由に散策することができる。展望台からは秀吉と同じように(時間は経ったが)小田原の景観を眺めることができるそうだ。ただし、この公園は東京ドームの1.2倍もの広さがあり、散策するには、時間に余裕を持って訪れる必要がありそうだ。この日は、美しいレストランなど、公園手前に広がる雰囲気や眺めを楽しみ、下山することにした。


一夜城の石垣。徒歩であればこの上まで登ることができる


ヨロイヅカ・ファームの庭園の向こうには海が望める

眼前に広がる絶景を眺めながらのダウンヒルが最高に気持ちいい! あまりの美しさに、何度もバイクを止め、写真を撮ってしまった。楽しみ尽くし、まったりとしてしまったが、ここからはゴールを目指そう。来た道を戻るため、行程はシンプルだ。


一夜城公園から、大パノラマを楽しみながら下る

太平洋岸自転車道に再度合流し、矢羽根に従って、大磯平塚方面を目指す。帰りは大磯でバイクを乗り換えず、シンプルに平塚のポートに向かい、バイクを返すことにした。

夕方になると、国道一号線の交通量はかなり増えてしまう。少し、楽しみすぎてしまったと反省。できるかぎり速やかに平塚に戻ろう。帰りは道もわかっており、寄り道もないため、スムースだった。クルマに気をつけながら15kmほど走り、大磯プリンスホテルに入り、ここからさらに10kmほど走って、平塚のe-bikeステーションにたどり着いた。疲れていてもアシストがあるため、一定のスピードはキープできるのが嬉しいところ。予定通り、e-bikeを返却し、徒歩で平塚駅に到着。全行程、無事に終了!


大磯プリンスホテルまで戻ってきた!矢羽根に従い、敷地内を抜ける


平塚へ向かう。大磯〜平塚間は海側にも使用可能なルートがあるそうだ

e-bikeの1日の利用料上限は2500円(12時間以内)。これだけの性能があるe-bikeを、2500円で借りられれば、かなりリーズナブルと言えるだろう。


「KUROAD」ポートが設置された平塚サンライフガーデンホテルに到着!

この日走ったエリアには、魅力的でクオリティーの高い立ち寄りが多く、正直なところ、事前に予想していたよりも、はるかに楽しいライドとなった。太平洋岸自転車道の印である矢羽根をたどっていけば、道に迷わないという点もありがたかった。

走行した日は火曜日で定休日に設定している店舗も多かった。走りに行く際には、事前に休業日の確認をした方がよいだろう。
太平洋岸自転車道は、千葉から和歌山まで続いている。他の区間も機会を見つけて、走りに行ってみたい。

画像:編集部
太平洋岸自転車道(P-Navi編集部)

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