小田原おひとりさまライド(前編)

2022/01/04(火) 17:26

小田原おひとりさまライド(前編)

おひとりさまライド!
お手軽シェアe-bikeで小田原へ(前編)

2020年、千葉から和歌山までの太平洋岸を貫く太平洋岸自転車道が、日本のナショナルサイクルルートに指定された。すでに観光地として有名な土地も多く、魅力的なエリアが連なっており、まさに日本を代表するルートと言えるだろう。

この中の湘南エリアには、シェアサイクルのポートが増えており、中には最新のe-bikeを借りられるエリアもあるという。気軽に使えるシェアサイクルにも興味があり、小田原の気になっていた施設に向けて、「おひとりさまライド」を決行することにした!(実施日は昨年11月)

使用するのは「HELLO CYCLING」。東京都を中心に全国に展開しているシェアサイクルで、15分70円で自転車を借りることができる。加えて鎌倉から大磯までの湘南エリアには「KUROAD」というe-bike専用のポートがあり、15分140円で使用することができる。シェアサイクルは、日常利用では、複数のポート間を短時間で繋いでいくことが多いが、たとえば「KUROAD」には12時間の最大料金(2500円)が設定されており、観光目的に使うこともできる。今回は、平塚~小田原間を、このe-bikeで散策してみる計画を立てた。

スマートフォンに「HELLO CYCLING」のアプリを入れ、JR東海道線に乗り込む。事前に平塚の「KUROAD」ポートの待機自転車を検索してみると、バッテリーが極めて少ない表示になっている。これはまずい! 大慌てで大磯の「KUROAD」ポートを調べると、こちらのバイクはフル充電状態。急遽行程を変えて、大磯駅前でノーマルバイクを借り、ノーマルバイクとe-bikeの両方のポートがある大磯プリンスホテルでe-bikeに乗り換える作戦に組み替えた。先に調べておいてよかった!


左が平塚のポート、右が大磯のポートのe-bike のバッテリー残量(ポートの待機自転車情報掲示画面より)


大磯駅前のシェアサイクルを予約(予約情報掲示画面より)

大磯駅で東海道線から降り、「HELLO CYCLING」のポートに向かい、電車内で予約したバイクを借りる。ここから大磯プリンスホテルまでは3.6km。歩くには少々厳しい距離だ。念のため、ハンドルにスマートフォンのナビを取り付け、プリンスホテルに向けて出発! 大磯駅周辺は、海のリゾート感が漂っており、ここからすでにテンションは上がり気味に。


大磯駅前で通常仕様のシェアサイクルを借りた。電動アシスト付き

走っていくと「太平洋岸自転車道」の指示看板が! 看板の指示に従い、太平洋岸自転車道に入る。細い路地にも、自転車の通行位置を示す矢羽根が描かれていた。


太平洋岸自転車道へ誘導する看板が掲げられている


ルートであることを示し、同時にドライバーに自転車の通行を伝え注意喚起するブルーの矢羽根が路面にペイントされている

矢印通りに進んでいくと、遊歩道のようなスペースに誘導され、降りた後も、丁寧な誘導が続く。スムースに、大磯プリンスホテルに到着することができた。ちなみに太平洋岸自転車道は大磯プリンスの駐車場を貫いている。民間の施設の中が、ナショナルサイクルルートに指定されるのは非常に稀なのだとか。


陸橋上のルート


経路案内や注意喚起のピクトグラムが並ぶ

アプリを元に、返却可能なポートの位置を探し、借りた自転車を返却。ここから徒歩でKUROADのポートに移動し、改めてe-bike貸出しの手続きをした。バイクはマットな黒で仕上げられており、シャープな印象だ。


大磯プリンスホテル内のHELLO CYCLINGのポート


同施設の敷地内の「KUROAD」ポートでe-bikeに乗り換える

バイクには日本が誇るコンポーネントブランド、シマノのSTEPSというモーターが内蔵されていた。乗り手のペダルの踏み込み方に応じ、細やかにアシストしてくれるスポーツ走行をサポートできるe-bike用のモーターだ。このバイクは、ノーマルモードの走行で120km程度をサポートできる大容量のバッテリーが付き、ギアも9段変速。日本の法令では、速度が上がるとアシストパワーは低減されて行き、時速24kmに達した時点で、アシストがゼロになる。だが、時速24kmを超えても、バイク自体の走行性能が十分に高いため、問題なく走行することができた。アシストを受けたゆったり走行も、平坦などを速く走ることも可能というわけだ。

大磯から、太平洋岸自転車道に指定された国道一号線をベースに、小田原方面に向かう。このルートは、ほぼ旧東海道にあたるそうだ。
スタートしてまもなく、二宮町に入った。果樹栽培などで有名な二宮だが、評価の高いスイーツ店が多数存在している。まずはここで店舗に立ち寄ってみることにした。


昔ながらの店構えの「豆友」

二宮付近には、「豆」の看板を掲げる店舗が多い。中央通り商店街に入り、ガラス越しに豆店の中の様子を眺めてみると、豆と言っても、落花生を販売しているようだ。中で地元の方らしい女性が手招きしている。近寄ってみると、
「私、ここの豆が一番好きなのよ。おいしいから買ってごらんなさい!」
これだけたくさんの店舗がある中で、地元の方が言うのだから、味に間違いはないだろう。
ガラス戸に「豆友」と描かれた小さな店舗は、奥が作業場になっており、手前に年代を感じさせるガラスケースが置かれていた。ケースの中には、落花生のパックが入っている。ひとつ、買ってみようか。

地域に豆店が多い理由を店舗の男性に聞くと「このあたりは、日本で最初に落花生の栽培をした土地なんです」と説明してくれた。落花生は千葉のものだと思っていた! 男性は微笑むと「昔、この先には落花生畑が広がっていたんですよ」と、北側のエリアを指差す。東名高速建設時に、落花生畑が大幅に用地とされたり、分断されたりで、落花生栽培は一気に下火になったのだという。
当時の農家さんの気持ちを思い浮かべ、少ししんみりとしながら落花生を注文した。同じように見えるが、コクのある大粒と、少しさらりとした小粒があるという。コクに惹かれて、大粒を選んだ。


「豆友」の大粒の落花生


ホンモノのオーラが漂うパッケージ

男性は落花生をパックに詰め、風情ある包装紙に手際良く包んでくれた。「ホンモノ感」漂う、いい雰囲気のパッケージ! 素敵な店に出会えたことが嬉しくて、お礼を言って店を後にした。後でわかったことだが、「豆友」は創業100年の老舗で、皆に愛されてきた店であった。

二宮のスイーツも食べてみたくなり、そのまま北上し、ケーキ店にも訪れてみることにした。


かわいらしい「菓子の里」の店舗


生ケーキたち。このいちごタルトは絶品との評判

走ることしばし。「菓子の里」に到着した。メルヘンな外観の店舗のドアを開けると、所狭しとスイーツが並んでいた。フルーツの風味が生かされていると評価の高い生ケーキも、さまざまなフレーバーを取り入れた焼き菓子も、種類が豊富で、どれもとてもおいしそう! かわいらしいディスプレイも店舗のネーミングに合っていて、「菓子の里」を訪れているという楽しい気持ちを盛り上げてくれる。


やさしさがあふれる店内に並ぶ焼き菓子たち


悩み抜いてこの4点に絞った。食感も、甘さも、考え抜かれた上質のお菓子ばかり

タルトには強烈に惹かれたけれど、まだライドの序盤ということもあり、持ち運び可能な焼き菓子を中心に購入することにした。ザラメの食感が楽しそうなクッキー、ナッツのフィリングがたっぷりのケーキ、マーブルケーキのスライスに、チーズ風味のお菓子。自転車に戻り、マーブルケーキをさっそく頬張る。しっとりとし、ふわふわなでありがら、まったく油っぽさを感じないスポンジは秀逸! ペロリと食べてしまった。
いつか、ここのいちごタルトを食べるぞ!と心に誓いながら、先を急ぐ。再び一号線に戻り、一路、西へ!

この一号線はそれなりの交通量がある路線であることは心得ており、ある程度は覚悟して臨んだのだが、午前中のこの時間はそれほどクルマも多くはなく、路面に矢羽根表示があるからか、抜き去っていくクルマも距離を保ってくれるため、懸念していたような走りにくさは感じなった。
しばらく行くと、海が見えてきた。海を見ると、テンションが上がってしまうのは、なぜなのだろう。ウキウキでバイクを走らせる。酒匂川にかけられた橋を渡る。開放感のある眺めが気持ちいい。もう小田原エリアに入っているようだ。


ブルーの矢羽根を確認しながら進む


海が見えてきた!景色の移り変わりも楽しい

この地域で有名などら焼き店「どらやき屋・菜の花」でストップ。サイクリストも多いようで、スタンドがない自転車も駐輪できるサイクルラックが用意されていた。


サイクルラックも設置された「どらやき屋・菜の花」。なぜかヒョウがお出迎え

小田原・箱根エリアで広く展開している和菓子店で、小田原のおいしい水を使い、炊き上げたあんこが売りだという。どら焼きにはうさぎの刻印が押されているなど、商品にも、パッケージにも個性が光っている。店内はおしゃれにディスプレイされていて、商品選びから楽しめるように演出されている。


エンターテインメント的に楽しめる店内


どらやきなどをお買い上げ。よいご縁がありますように

荷物が増えてしまうけれど、食べてみたくて、白あんのどら焼きと、渋皮栗を丸ごと包んだ「月の黒うさぎ」、縁結びのパッケージに惹かれ「九頭龍餅」を購入した。ギフトにも喜ばれそうだ。どら焼きをさっそく味見。こだわりのあんはもちろんだが、生地がふんわりしていて、人気があるのも納得の味だった。

もう小田原城も近い。ここで、気になっていた「小田原 かまぼこ通り」に足を運ぶことにした。小田原には「鈴廣」や「かごせい」などかまぼこの名店が多く、品質のよいかまぼこの生産地として知られているが、その歴史は非常に古い。
江戸時代、この地区は、東海道最大だった小田原宿にあり、豊かな漁場に隣接していることから、かまぼこや干物などの水産加工業が盛んで、大いに栄えた漁師町だったという。現代になっても老舗が立ち並び、歴史情緒あるエリアではあったのだが、存在を発信していくため、近年になって「かまぼこ通り」を活性化するプロジェクトが立ち上がったそうだ。
太平洋岸自転車道であることを示す矢羽根が、小田原城エリアを前にクランク状に曲がるのだが、ひとつめのコーナーの後、一号線に入らず、細い路地を使って奥に入ると、一号線と並行して走る「かまぼこ通り」に入ることができた。


「かまぼこ通り」に立ち寄った


「鱗吉」店舗。 店先でも、イートインスペースでも食べられる

風情のある通りで、観光地的な華美さはないが、その分、ホンモノがありそうで、わくわくしながら自転車を進める。かまぼこ店は、揚げかまぼこの食べ歩きなどができるようだ。どうやって店舗を選ぼうかと悩んでいると、黒を基調とした、おしゃれな店舗が見えてきた。

店舗はお歳暮の発注に来たらしい地域の方々でかなりにぎわっていた。ショーケースをのぞくと、商品のおいしそうなこと! どうしても食べてみたくなって、早々にこの「鱗吉」への立ち寄りが決定。自転車を停め、商品を買いに行った。


ショーケースには食べ歩きOKのアイテムが並ぶ

どうやら、多くの人が「炙りじねんじょ棒」なるものを食べているようだ。揚げかまぼこに自然薯が入った、ふんわり感もある独特のかまぼこらしい。ディスプレイやポップの巧みさにも完全にやられてしまい、食べてみたくてオーダーした。「温かいものを出しますから、少しお待ちください」と丁寧に対応してくれた。


炙った香ばしい香りが漂う熱々の「炙りじねんじょ棒」


ついガチャポンもやってしまった。伊達巻ゲット!

現れた「炙りじねんじょ棒」は本当に熱々で、炙ってくれた焦げ目もあり、シンプルな揚げかまぼこながら、強烈に食欲をそそられる。パクリと頬張るとプリプリとした歯応えに、香ばしさもあり、でも、自然薯のおかげなのだろう、硬すぎず、絶妙な歯応え! 黒胡椒の香りとピリッとした辛さが、風味をさらに引き立ててくれる。

ふと「創業天明元年」の文字が気になって、歴史に疎い筆者は、いつ頃なのか尋ねてみると「240年ほど前です。田沼意次さんなどの時代ですね」と女将さんはさらりと答えた。たぬまおきつぐ!? そんな時代から、魚を練って、かまぼこを作っていたかと思うと、本当に驚きだ。創業は1781年で、獲れすぎた魚の有効活用として、かまぼこ製造に乗り出し、これが小田原かまぼこの発祥になったそうだ。
現在の「鱗吉」は、ケースでの販売に加え、売り場横のイートインスペースで音楽を聴きながら、お酒とおでんが楽しめる様子。余談だが、オリジナルのガチャポンも人気があるようだった。初代の店主は、こんな発展を想像もしていなかったことだろう。

気さくで魅力的な女将さんにお礼を言って、店を後にする。「かまぼこ通り」には他にも多数の店舗が存在しているようで、後ろ髪を引かれる思いだが、ライドに戻ろう。

<後編へ続く>

画像:編集部
太平洋岸自転車道(P-Navi編集部)

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