2022/04/16(土) 18:00 0 3
2021年10月にTIPSTAR DOME CHIBA(千葉市)で開幕した「PIST6 Championship」。すでに数多くの名シーンや名勝負が生まれているが、PIST6で勝利した選手たちはどのような感想を抱いているのだろうか。今回netkeirin編集部では ZEROラウンド7で優勝した山田義彦選手にインタビューを実施した。学生時代やデビュー当時のエピソードをはじめ、ピストフレームのこだわり、持病(重症筋無力症)のことまで幅広く語ってくれた山田選手。ポジティブ思考とサービス精神、インタビューでは柔軟かつ強靭な選手のメンタルに惹きつけられた。※インタビューはオンラインで実施(取材日:2022年4月5日)
ーー中学高校時代は陸上に取り組まれていたそうですね。当時のエピソードはありますか?
兄が陸上をやっていたんですが、自分自身も個人競技の方が向いてるなと思って陸上を始めましたね。小学生の頃は少年団に入ってたんで、野球とかサッカーとかをやってたんですけど。それよりは陸上の方が手柄は一人占めにできるし、責任も自分次第だし、そっちの方が向いてるなと(笑)。それで中学高校と陸上をやっていました。
始めたばかりの中学1年の頃は長距離種目と短距離種目の両方をやってました。県大会のタイムスケジュールが強烈に厳しかったです(笑)。100m終わった5分後に1500mに出なきゃいけないこともありましたね(笑)。
その後、先生に『(長距離種目と短距離種目と)どっちつかずよりはどっちかに決めた方がいいんじゃないか?』みたいに言われました。よくよく考えたら、長距離種目はキツ過ぎて、“好きじゃないな”っていうのを1年やって気づいてたんですよね(笑)。それで100mの方が自分に合ってると思って、短距離種目に取り組んでました。
ーー高校時代には短距離で全国大会に出場されてます。当時を振り返っていかがですか?
高校の練習はきつくて、なんかもう軍隊みたいというか(笑)。休みも年に二、三回しかなくてキツ過ぎるイメージしか記憶にないです。ただひたすら走ってた感じですね。でもそのおかげで全国大会に行けたんで良かったですけど。
当時は体型もすごくガッチリしていて、『あいつドーピングしてんだろ』みたいに言われるぐらいガッチリしてたんですけど。筋肉がつきやすいタイプなんでしょうねきっと(笑)。ただひたすら練習がきつかった…って振り返りですね。
ーー高校を卒業された後には競輪学校に入学ということになりましたけど、改めて競輪との出会いを教えてください
きっかけは高校の部活を引退して、顧問の先生に『お前大学どうすんだ?』みたいに言われたんですけど、いくつか推薦の話が来てたので大学には入れました。でも4年間一生懸命頑張っても、「サラリーマンか体育教員」しか頭に思い描けなかったんですよね。陸上を一生懸命頑張った先の選択肢が少なくて。
それだったらやったことはないけど、少し話で聞いたことある競輪選手はどうだろう?って思いついたんですよね。自分がやった分だけ対価としてお金がもらえるという話を聞いて「何か夢があるな」と思いましたね。先生と話している時にパッと思い浮かんだのがきっかけで、そこから本格的に目指した感じです。
ーー無事競輪学校を卒業して、2007年の7月、西武園でデビューをされていますが、デビュー当時のことで何か覚えていることはありますか?
いやマジで緊張しましたね(笑)。緊張しすぎて、作戦とかもよく聞けてなかったし、競輪学校で走った流れしか覚えてないんで、レースの駆け引きなんかも全くわからなかったですね。とにかくガチガチに緊張していた、それだけです(笑)
ーーデビュー戦は1着デビューとなりましたが、当時の心境はいかがでしたか?
1着は1着なんですけど、あんまり覚えてないですね(笑)。なんか“綱渡り”っていうか…。もう足ガクガクだったの覚えてますね。
ーーその半年後、今も治療を続けられている「筋無力症」が判明します。そのときはどのような気持ちになりましたか?
入院する時に思ったのは「看護師さんと出会って結婚できるんじゃないか?」みたいな前向きな気持ちです。正直、選手に戻れるかどうかわからなかったんですけど、深刻には考えなかったというか。ある意味“出会いの場”があんまりなかったんで、そっちにシフトチェンジしてポジティブに入院を捉えていました(笑)。
そこから1ヶ月ぐらいで練習を始められたんですけど、首に力が入らなくなって頭を支えることも難しくなるような感じで。重症筋無力症(※指定難病)の症状が出始めました。それから8カ月くらいは入院しましたね。
ーー8ヶ月入院されてからレースへ復帰されたと思うんですけど、久々にレースに出たときの感覚はいかがでしたか?
久々の復帰で、今まで通り走れるかはわからなかったですけど、「戻ってこれた〜」という幸せは感じました。この先健康な状態でいられるかはわからなかったものの、ひとまず戻って来れてよかったっていう気持ちがありました。
今も治療をしながらなので『病気が良い経験になってる』というのは違うんですが、悪いことばかりではないです。(競輪選手は)日々自分で考えて動かないといけないので、「正攻法ではやらないぞ」とか、あの手この手を使おうと考えるきっかけになったり、体調管理の面でもシビアになり、意識が変わったりしました。
ーー筋無力症の方をPIST6にご招待されたそうですが、その辺りどのような想いがあったのでしょうか?
招待したのはお子さんがいるファミリーです。お子さんが筋無力症と闘っていて、その子は水泳をやっています。PIST6は雰囲気も良いイメージで華やかだし、自分が負けてもご家族みんなで楽しめるんじゃないかなとは思っていたので、「ぜひ応援に来てくれませんか」みたいな感じで招待しました。
自分の場合は大人になってから、筋無力症になったんですけど、その子は違うじゃないですか。それってどんな感覚なんだろうとは思いました。大変さがわかっているので。それに何より“筋無力症のお子さんを育てる”って(ご両親が)どういう心境なのかなと考えましたね。“大変さ”の目線は違うし、(大変さの度合いを)また違う角度で想像しました。
お子さんにももちろん楽しんで欲しかったんですけど、ご両親にも楽しんでもらいたくて。励みにして欲しいってわけじゃ全然ないんですけど、少しでも一生懸命走るところを見てもらえればいいな、と思ってドームに呼びました。もう何回か来てくれているんですよ。
ーーこれまでPIST6では優勝2回、そして出場すれば全てトップ3という成績を残しています。ご自身の中でどうしてそれだけ活躍できるのか自己分析されている部分はありますか?
PIST6が始まるときに、もうその前からずっとカーボンフレームで練習はしてたんですよね。もともとスピードを上げたいという気持ちがあって、200mのハロンとかでもできるだけタイムを上げたい考えを持っていたんです。そんなときにPIST6が始まると聞いて、講習会とかも率先して行って練習してた感じですね。
最初は10.8秒くらいだったと思いますし、250mバンクはレースも難しかったです。でも良い練習になっていたのと、自分は不器用なので“場数だけは踏んでおきたい”と考えていたので、講習会に行ける日は行ってました。今走ってる人と比べるとちょっとアドバンテージがあるかなと思います。
ーー2節連続の完全優勝がかかってプレッシャーもあったと思いますが、予選から決勝までどのような心境で臨みましたか?
もう最近は、ハロンのタイムでちょいちょい一番時計とかも出してたので予選では負けられないって雰囲気がありました。
ーー決勝レースでは残り2周半で全員がけん制する形になりました。その後三浦選手の後ろ2番手を取りに行く形で動きましたが、その時は三浦選手が前に出てくるだろうとある程度の予想をしていたんですか?
いいえ。自分が仕掛けるつもりでした。というよりも、三浦くんが仕掛けるよりも先に俺が踏んでるんです。多分(自分の)ギア比が重いから遅れたんですよ。先に行ってペースに入れようとしてたんですけど、たまたま上から来たんで「これ番手入った方がいいな」と判断しました。本当は早めに仕掛けようと思ってたんです。だから単に重いギアだったから遅れただけというのがありますね。
ーー決勝レースの登場時に「元気玉」ポーズで魅せていただきました。元気玉をやり始めたきっかけみたいなものはありますか?
元気玉のときは、準決勝で脚がいっぱいになり過ぎて、もう自分だけじゃどうしようもない感じになりました。準決勝の勝利者インタビューで「ちょっともう体力ないんで」って言って思い浮かんだのが『元気ください』です(笑)。その流れで元気玉ポーズをやりましたね。完全に思い付きです。
特にドラゴンボールが好きというわけではないんですけど(笑)。でもドラゴンボールって結構ポーズ多いなと思って参考にさせてもらおうかなって感じです(笑)。
ーー元気玉をやったあとにスーパーマリオのポーズもやっていましたが、あれはどのような意図だったんですか?
さきほど話に挙がった招待したお子さんがスーパーマリオを好きって言ってたんで、誰も気づかなくてもいいから、後からでも気づいてもらえればと思ってスーパーマリオをやりました(笑)。
ーーそうだったんですね。今後もレース前の入場パフォーマンスから楽しみにさせていただきます
ーー前回は優勝ディスクホイールに「ヨシヒコ」と刻み、今回2回目の優勝を果たしたことで「山田ヨシヒコ」が完成しました。率直に2つのサインで名前が完成したときは嬉しかったですか?
そうですね。もう1回「ヨシヒコ」って書こうかなとも思ったんですけど。漢字書けないのかって思われてもいやなので「あ、そっちで来たのね」と思ってもらえると、と思って書きました(笑)。
実はちゃんとしたサインも一応あるんですけど、なんか人と同じだと面白くないなと思って。ちょっとひねくれてヨシヒコって書いたんですけどね。ちょっとでも爪痕を残したいと思ってます(笑)。
ーー山田選手の瞬発力があってこそだと思うんですが、決勝レースは他の方と比べても5.67とPIST6では最も重いギアを踏まれていました。競輪が4.00未満という制限がある中で、ギア比のギャップがあると思いますが、その辺りはいかがですか?
正直な話、一番ギアが重い方が脚にダメージはくるんですよ、やっぱり。でも前提としてPIST6には『勝ちに行く』っていうよりは『速くなるために練習しに行く』って感覚を大切にしているんですよね。練習しに行くっていうのは誤解されちゃいますかね? 一番重いギアを踏むことで、勝っても負けても次に繋げていくぞ、みたいな気持ちが常にあります。
本当は3.50以上はすべて大ギアだと思ってます(笑)。でも練習の一貫だと思えば、一番重いギアの方がいいなっていう感じで選んでますね。
ーーギアは0.1上げるだけでも大きく変化しますが、競輪と競技で結構な差があるので、調整が難しいのかなと思うのですがどうでしょうか?
はい。でもこのギアで体感スピードが上がっていけば、自然と競輪の鉄フレームでもスピードが上がると自分は思ってるんで。屋内バンクで、風もなくて、条件が一緒の中で毎回ハロンのタイムが測れるんで、すごいいい環境だなと思ってます。とりあえず今は9秒台のタイムを出せるようにと、そこを目指しています。
ーーそういった意味で言うと、普段の400mバンクよりは、250mの屋内ドームは山田選手にとって走りやすい環境ですか?
いや、走ること自体は難しいです。でも競輪の400mとか333mバンクとかに行っても、広く感じるようになりました。“怖さ”がなくなるんですよね。技術がちゃんと上積みされてて、コーナー練習とか、踏んでいいとこ・いけないところもハッキリとしてくるんで。
PIST6は自分にとってすごいありがたい環境ができたなと思ってます。競輪の方にもいい影響が出てくるだろうと思ってます。
ーー前回の決勝レースとかもそうですが、山田選手が乗られているLOOKのカーボンフレームは、現状ポジションは適正だと感じますか?
ポジションは大体あの辺で合ってます。あとはハンドルの送りとか、体調に合わせて変えてますが、大体もう今のところで行こうと思ってます。適正ポジションを計測してくれる機械があるんですが、それでは適正になってて。あとはそのときそのときの筋肉とか体調でちょっと調整するぐらいですね。
ーー山田選手的には競輪のフレームとPIST6のカーボンフレームでは、どちらが乗りやすいとかありますか?
カーボンって多分6割ぐらい合っていれば(ポジションが)出るんですよ。しかもギアもかけられるんで、ごまかしが利くんですよね。でも鉄フレームは、みんなギアも一緒だし、ごまかしが利かない。その点鉄フレームはすごく繊細だと思いますし、セッティングの難しさはありますね。
ーー普段の練習は基本的には地元の大宮バンクが多いですか?
西武園が多いですね。大宮と西武園が使えないときは久留米でお世話になったりもしてましたね。
ーー普段バンクではどんな練習をされてますか。街道練習も行きますか?
バンクではギアを上げてパァーっともがいて帰るぐらいですね。街道もギアをかけて坂道をたくさんもがいてます。
ーー普段からよく話をする同じ地区の仲の良い選手はいますか?
(しばらく考えて)あれ、やばい。出てこない(笑)。オレ仲良い人いないのかな(笑)。平原康多さんにはよく相談に乗ってもらいますね。あと阿部大樹が結構なめてかかってきます(笑)。仲良いと思いますね(笑)。
ーー最後に、PIST6を楽しみにしているファンのみなさまに山田選手からメッセージをお願いします!
まだPIST6もできたばかりで、今だったらお客さんの声も反映されると思うんで、たくさん来ていただきたいですね。選手も主催者もお客さんも手探りの状態が今だと思うんです。いろんな意見が出てきて、これからどんどん良くなればいいなと思います。あとは来ていただいた方には純粋にレースも雰囲気も楽しんで欲しいですね。
出身 :埼玉県
生年月日:1986/4/14
班級 :S級2班
府県 :埼玉県
身長 :176cm
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山田義彦選手 Twitter
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