2025/01/22(水) 18:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は1月18日・19日に行われた「PIST6 Championship」WINTER STAGEの「1月第3戦」の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip WINTER STAGE 1月第3戦 決勝レース動画】
今開催はここまで52連勝をあげている河端朋之が、約一か月ぶりに参戦。他にも伊藤信、荒川仁と優勝経験者も名を連ねた中、自分としては123期、125期といった若手選手に注目をしていました。
その中でも一次予選から無傷の3連勝で決勝へと勝ち上がってきたのが、123期の浮島知稀です。浮島は今年の前期からS級に昇班しており、初めての記念競輪となった和歌山グランプリでも、格上の選手たちを相手に積極的なレースを見せていました。
浮島の持ち味はその先行力であり、初参戦となるPIST6でも自分の脚力を試していくかのように、バックを取り続けていきます。それが功を奏する形となったのが、伊藤を相手にした準決勝でした。
残り2周を前に先頭にたった浮島は、そのまま押し切って1着でゴール。最終周回のバックから捲ってきた伊藤を振り切った走りは見事でした。
また、125期の遠藤拓巳は日本大学自転車競技部の出身で、自分の後輩にも当たります。遠藤は全日本学生選手権スクラッチで優勝。インカレのケイリンでも3着となっているだけでなく、125期での在所成績は33勝を挙げて1位ともなっています。
遠藤は昨年デビューながら先行力を武器として、その年の後期にはA級2班に特別昇班しています。競技経験者だけにPIST6向きの選手だと思っていましたが、250バンクの経験者を相手にしながら、しっかりと決勝に勝ち上がってくれました。
その浮島や遠藤だけでなく、119期の菅野航基と田口勇介も含めて、20代の選手たちが4名も顔を揃えた決勝戦。絶対王者とも言える河端を相手に、それぞれの選手がどんなレースをしてくれるかと期待をしていました。
ただ、結果としては河端の完勝。これは若手選手たちと河端の今大会にかける意識の違いが、結果となって現れたと言えます。
決勝のスタートはインコースから③浮島知稀①河端朋之⑥爲田学⑤遠藤拓巳②田口勇介④菅野航基となりました。
並び的に有利となったのは1番手となった浮島です。ただ、すぐ後ろには河端が控えており、後方にいる遠藤、田口、菅野がどう動いてくるかも気になっていたはずです。
「PEDAL ON」で動き出したのは、セオリー通りに6番手となっていた菅野でした。その動きに遠藤、そして田口も乗っていきます。先頭に立った菅野ですが、抑え先行のような形になっただけでなく、その番手に入った遠藤も菅野との車間を取ったのは、やはり、河端の動きが気になっていたのでしょう。
ここで菅野は河端が仕掛けてくる前に、後方の選手たちとの差を引き離していっても良かったと思います。また、先行選手の番手という、絶好の位置となった遠藤も、菅野のスピードが上がらなかった時点で、一気に交わしていった方が良かったのかもしれません。
菅野が流しているのを見た河端は、残り2周半から加速していくと、残り1周半のバック過ぎでは先頭に躍り出ます。その後ろをしっかりと付いていったのは、競輪でもマーク屋として名を馳せてきた爲田学です。
爲田は今年で52歳となります。自分が現役だった頃に対戦した選手が、若手選手を相手にPIST6を走っているのは驚きです。PIST6には幾度となく参戦しているものの、今開催は番組にも恵まれたこともあってか、これが初めての決勝進出。その決勝でも河端の後ろという、マーク屋としては最高のポジションになりました。
爲田にとって幸運だったのは、河端が一気に仕掛けていくのではなく、仕掛けのタイミングを早めにとって、長めから踏み出していったので、そのスピードについて行けたことでした。捲られる形となった菅野は3番手となりまずが、その外から交わしにかかったのは、爲田の後ろに切り替えた田口です。
1番手だった浮島は後方の選手に捲られていった結果、6番手までポジションを下げてしまいます。残り1周のホーム前から仕掛けていくも、前を行く河端もスピードを上げていくので、その差は縮まりません。
残り半周となったバックで河端が更に加速していきます。爲田もスタンディングでついていこうとしますが、追走に精一杯となります。後方から迫ってくる選手の中で脚色がいいのは田口ですが、前には爲田がいるので、どうしても外を踏まざるを得ません。
4番手まで押し上げてきた浮島は、更にその外へと進路を向けていきますが、長い距離を踏んできただけに、直線でスピードが鈍ってしまいます。その争いを尻目にするかのように、直線に入ったあたりで後方との差を確かめた河端が前人未到と言える56連勝を果たすとともに、これで14大会連続での完全優勝。2着にはゴール前で爲田を交わした田口が入りました。
田口としては準決勝のように、河端のすぐ後ろでレースを進められていたのならば、まだ面白いレースになったと思います。ただ、決勝は車番が悪かったのと、番手を譲らなかった爲田の粘りに屈した形となりました。
残念だったのは先ほども書いたように、浮島、遠藤、菅野といった若手選手たちです。田口も含めた若手選手たちは、1次予選から自分の力を試すかのように、大きなレースを見せていたはずです。ただ、決勝では河端の名前に委縮したように、小さなレースをしてしまいました。
もし、若手選手たちがこの決勝でも早めに仕掛けていって、結果的に河端に交わされてしまったとしても、それは仕方のないことです。相手はナショナルチームで活躍してきただけでなく、昨年の寛仁親王牌でも3着となっているわけですから。
河端のように記念競輪やGIを走っているような選手たちと、クラスの壁も無く戦えるのがPIST6の良さです。それだけに若手選手たちが決勝でも大きなレースを見せて、結果的に河端の仕掛けるタイミングを狂わしていれば、まだ結果は違っていたかもしれません。
今大会の河端の走りを見ると、連勝を伸ばそう、優勝をしようという気持ちよりも、更に高い志でレースに臨んでいた印象を受けます。
河端は1次予選から勝つレースというよりも、常に長めを踏んでいくレースを意識していた感があっただけでなく、決勝も含めての4走で常に自分自身に課題を課したような走りをしていました。
河端にとってPIST6とは、現行の競輪にも繋がっていく舞台との考えもあるのでしょう。絶対王者として追われる立場になったとしても、攻めていく姿勢は変わることはなく、それが4走全てで長い距離を踏んでいった走りにも表れていました。
自分も現役時代に35連勝を達成しましたが、その時はプレッシャーを全く感じることはなく、どのレースでもシンプルに、自分の力を出し切ろうと考えていました。それは自分のレースが貫けたのならば、まだまだ勝てるという信念も持ち合わせていたからです。
河端も自分の力を出し切った向こうには、競輪のGIを取るというという信念があるのでしょう。その意味では若手選手たちとは、決勝の前から目指す方向が違っていたはずであり、それがレースにおける役者の違いともなっていました。
ただ、2着となった田口だけでなく、浮島、遠藤、菅野もまた、これを糧としてもらいたいです。次回もPIST6への参戦はあると思いますが、その時は相手に関わらず、常に自分の力を出し切るような、大きなレースをして見せて欲しいです。
浮島以外の若手選手たちも、今後S級に昇班できるだけの能力があるだけに、現行の競輪でも河端と戦う日もあるはずです。まずはPIST6で、そして競輪でも、河端にリベンジを果たせるように頑張ってもらいたいです。
勿論、河端ですね。今の河端ならば、まだまだ連勝は伸びていくと思えるだけでなく、GIでも優秀な成績を残すだけでなく、タイトルホルダーとなって、250バンクに戻ってきてもらいたいですね。
敢闘賞は爲田でしょう。PIST6に参戦するベテラン選手に光を与えるような走りを見せてくれました。決勝はアドレナリンも出たのではないかと思いますが(笑)、河端のスピードについていったことは、心身ともに刺激になったはずです。今後もPIST6と競輪の双方で、まだまだベテラン健在! といった走りを期待しています。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。