アプリ限定 2024/12/27(金) 18:00 0 87
1990年のKEIRINグランプリは2度のスタートけん制が入り、当時レースが行われた立川競輪はスタート時点で大きくどよめいたそうです。そのレースを制してグランプリチャンピオンとなったのがロスの超特急こと坂本勉氏。決まり手は逃げ切りでの優勝でした。今回は坂本氏の「グランプリ優勝の記憶」と弟子・新山響平選手も出場する「KEIRINグランプリ2024の展望※記事下部に買い目情報あり」をお届けします。ぜひ最後までお楽しみください。(構成:netkeirin編集部)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。いつもはPIST6の回顧記事でお目にかかっていますが、今回はKEIRINグランプリについて語りながら、年末の大一番を予想していきたいと思います。
KEIRINグランプリは今年で節目の40回目を迎えます。自分は34年前、1990年のグランプリを優勝したのですが、2度のスタートけん制がありました。今年は古性優作が1番車を選びましたが、現在はスタートを取るラインが有利にレースを運ぶ傾向にあります。ただ、当時は誘導のタイムも遅く、スタートを取って突っ張り先行へと入ろうとしても、後ろから来たラインにあっさりとインを切られることもありました。加えて他のラインも抑えに来るとスタートを取ったラインは内で詰まるレースを余儀なくされます。
1990年のグランプリ、前を任せた俵信之君とは「スタートを取りに行かず、後ろから攻めよう」と作戦を立てました。ですが、他のラインも同じ考えだったのでしょう。私は「このメンバーならスタートを取りに行くのは単騎の選手もしくは自分と同じ先行型の滝澤正光選手だろう」と思っていました。そんな中、2度のスタートけん制が発生することとなりました。
1回目のけん制で場内はざわめきましたが、2回目ともなれば怒声も交じりました。グランプリには毎年のように多くのファンが来場しますが、その時の立川競輪はとんでもない数の来場者がありました。あの緊張感の中での怒声交じりのどよめき…、あの“異様な雰囲気”は今でも忘れられません。しかし、この場面で自分は不思議な感覚の中にいました。怒声を耳に“異様な雰囲気”の渦中にいながらも、どこか落ち着いていく自分がいました。いわゆる“ゾーン”に入った状態だったんだと思います。今思い出してもあれは不思議な感覚でした。「勝てる!」といった直感めいたものが湧いてきたのを覚えています。
その直感がレースにも表れたのか、勝負どころでは身体が勝手に動いていました。頭で考えた動きではありません。後でレース映像を見返しても自分が走ったにも関わらず、思っていたレースとはまるで違いました。それだけ集中して走れていたのだと思います。学生時代にはロサンゼルスオリンピックで銅メダルを取らせてもらいましたが、グランプリの優勝はそれとは違った喜び「競輪選手としての充実感」がありました。
優勝した直後から、「来年もグランプリに出たい!」と気持ちが高まりましたし、それが選手としてのモチベーションになりました。グランプリにはそういう力があります。
それでは今年の話をしていきましょう。
今年のグランプリに出場する9名の中で、注目すべき記録に挑戦できるのが古性です。今年はオールスター、寛仁親王牌とGIを2勝。グランプリも優勝となれば昨年、脇本雄太が樹立した「年間獲得賞金」3億584万2300円の記録を更新します。今年の古性は競輪祭以外のGIで決勝に名を連ね、年間を通して安定した走りを見せました。それは古性が先行もしていけるほどのタテ脚があるだけでなく、番手として横の動きもしっかりとできるという、まさに現在の競輪に適したオールラウンダーであるからです。
オールラウンダーといえば郡司浩平もそうでしょうし、清水裕友、眞杉匠も先行だけでなく、横の動きも強くなっています。こうした選手たちは先行選手としてラインを引っ張るだけでなく、時には番手の仕事もできるので、展開を問わず活路を見い出すことができます。
その一方で脇本や、北井佑季、そして新山響平といった先行型の自力選手たちは、ラインのためのレースをすることが多くなります。それでもしっかりとこの舞台に立つことは並大抵ではない能力と、血のにじむような努力が備わっている証とも言えるでしょう。3名の中でも特に先行意欲が強いのは、北井だと思います。北井は卓越した先行力を武器にして、いよいよGI初優勝を果たしました。
先行型の自力選手はGI決勝の常連となっても、なかなか勝ち切れないこともあります。ただ、高松宮記念杯の決勝に関しては郡司が先行。北井は番手回りとなり、3番手を和田真久留が固めました。まさに南関東ラインが結実しての勝利でした。この勝利をきっかけに一気に飛躍するかと思いましたが、GIを勝ったプレッシャーもあるのか、先行してもすぐに捲られてしまうこともしばしば。タイトル獲得後は以前のようなレースができていませんでした。
それでも今年のグランプリは、北井が果敢に先行してくるはずです。古性が1番車を選んだことからも、前受けをするのは近畿ラインが濃厚ですが、もしダッシュのいい郡司がスタートを取れば、その時は突っ張り先行でもという腹づもりではないかと思います。自分の持ち味が生かせる展開となれば、北井も思い切ったレースができるだけに、南関東ラインはかなり有利にレースを運べるでしょう。
ただ、侮れないのが南関東3車の後ろに入るラインです。近畿ラインか関東ラインもしくは単騎の清水と新山です。脇本はスタートを取らなくとも南関東の後ろでレースを進めていく作戦もありますが、これまでの走りから最後方まで下げてからの捲りではないかと読みます。
そのため、4番手に入るのは眞杉もしくは清水ではないかと考えます。眞杉としては平原が2番車となったことで、スタートを取ったラインの後ろが取りやすいポジションです。北井が先行して突っ張るなら、その後ろから捲りに切り替える手があります。また、北井が後方から上昇した場合でも、並走して先行争いをすると見せておき、郡司のところで粘りこみながら、番手か3番手の岩本俊介をどかしにいく走りもできます。
目標がない清水も、同じような組み立てを考えているでしょう。ただ、清水は共同通信社杯で落車した後から、どうも調子が戻りきっていないように見えます。それだけに脚を使いながら、眞杉とポジション争いをするのは難しいかもしれません。南関東の後ろを巡って、眞杉と清水がごちゃついた時にチャンスが出てくるのが、新山です。
最近は捲りでもいい脚を使えているので、間隙を縫う形で一気に踏み上げていったのならば、一気に先頭に立てる可能性があるだけでなく、北井が突っ張ったとしても、新山の動き出しを見た郡司選手が車間を詰めていくので、その後ろに入る可能性も出てきます。
南関東の3番手に入れる展開となれば、後ろから捲ってくる脇本に合わせ出て行ったり、もしくは早めの捲りを打って行けたのならば、優勝もあります。新山は若手選手の台頭により、「徹底先行だけでは勝ち切れない」と気付いたことが、戦術の幅に繋がっています。
新山は過去のグランプリではライン戦でしたが、今回は単騎戦です。シンプルに自分が勝つことだけを考えたレースができます。新山とは先日、メールでやり取りする機会がありました。「必ずチャンスは来る、その機会を見逃さずに頑張れ」と伝えました。
グランプリは一発勝負だからこその難しさがあります。9名が様々な想定をしてレースへと臨みますが、スタートの位置取り次第で全く違った展開となるだけでなく、これまでのレースと違った走りをしてくる選手がいるのもグランプリならでは、です。
ただ、新山へのメールにも書いたように、9名の選手にはもれなく全員に必ずチャンスが訪れる瞬間があります。1990年の自分のときのように、「ゾーンに入った選手」が絶好機を見逃さなければ、今年の競輪界の頂点へ上り詰めると思います。それでは、今年はウマい車券の特別枠を用意してもらっているので、そこで買い目を出していきたいと思います。