2024/03/13(水) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は3月9日・10日に行われた「PIST6 ChampionShip」フォースクォーター ラウンド41の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip フォースクォーター ラウンド41 決勝レース動画】
今大会はタイムトライアルの結果にも表れていたように、若手選手の台頭が目立っていた一方で、競輪での成績を見ると、そこまで抜けた選手はいないのかなといった印象がありました。
その中でも記念競輪でも活躍しているだけでなく、PIST6のセカンドクォーターも優勝しているように、実績面で上位の存在となっていたのが、タイムトライアルでも1位となっていた山根将太です。
山根は高校の頃から競技で活躍しており、中央大学に進学すると自転車競技部に入部。4年時には全日本大学対抗自転車競技大会(インカレ)の「スプリント」、「1kmタイムトライアル」、「チームスプリント」を優勝しています。
競輪学校の在籍中にもゴールデンキャップを取っており、デビューから半年足らずでS級2班への特別昇級を果たしています。ただ、学生時代の実績からすると記念競輪への出場で満足しているのではなく、GIに出ていてもおかしくない実力を持った選手だと思っています。
二次予選では2着に敗れたものの、それでも準決勝ではゴール前で1/2車身差で差し切るという、卒のないレース内容で決勝へと進出を果たしました。
その準決勝で山根に交わされはしたものの、2周半程の距離を先行していきながら2着に残った保田浩輔も、山根と同じ中央大学の自転車競技部出身です。それどころか山根と保田は共に倉吉西高校の卒業生ともなります。
2人は競輪選手となってからも同じ岡山に所属しており、先輩後輩の関係性は続いています。その2人が真っ向勝負ができるのもPIST6の面白さと言えるのではないのでしょうか。
また、この決勝にはPIST6の優勝経験がある鈴木浩太と三浦翔大に加えて、過去の大会では2着となったこともある長尾拳太も、優勝を狙えるチャンスがありました。今大会が初めての決勝となる依田翔大は自分の大学の後輩(日本大学)であるだけでなく、今大会では積極的な走りが結果に現れていた印象もあるだけに、どんな走りをするかにも注目してました。
決勝のスタートの並びはインコースから⑤依田翔大①山根将太⑥長尾拳太④三浦翔大③鈴木浩太②保田浩輔となりました。
「PEDAL ON」の前にまず動いていったのが5番手となっていた鈴木です。6番手で並び的には不利だったはずの保田ですが、自分が動き出す前に車間が詰まっていっただけでなく、鈴木が1番手の依田の前に出たところを、一緒に上がっていった三浦も切ってくれたことで、残り2周ではそれほど脚を使うことなく先頭となります。
ただ、その保田の後ろに切り替えていたのが山根でした。展開的にも有利な2番車からのスタートとなっていた山根ですが、いつでも交わせるとばかりの車間を取りながら「FINAL LAP」を迎えます。
5番手まで下がってしまった鈴木も巻き返しを図りますが、かかっている保田までとの距離は遠く離れてしまいます。こうなると優勝争いは山根と保田のどちらかとなりますが、ゴール手前で図ったかのように山根が保田を捉えて優勝。3着にはスタートから山根の後ろを守り続けた長尾が入りました。
この決勝メンバーを見た時、各選手は「先行するのは保田か依田」だと思っていたでしょう。ただ、1番手となった依田は鈴木が来た時に突っ張らなかったので、保田が先行する形になりましたが、そうなると優勝に近い位置は保田の番手ということになります。
それを見越していたからこそ、鈴木と三浦は保田よりも早めに動き出していったのですが、結果的に先行していった保田の後ろに入っていたのは山根となりました。
残り2周で保田が先頭に立ったとき、そのインコースにいたのが三浦でした。250バンクの並走はコーナーでの遠心力が働く分、インコースが圧倒的に有利であり、この時、三浦は脚を使ってでも山根の後ろを取りに行くべきでした。
しかも、山根の競輪でのレースを見ていると、並走での走りはそれほど得意ではありません。もしあの場面で粘っていたら三浦にも優勝のチャンスがあったはずです。
1番人気に支持されていた鈴木ですが、5番手でのレースを意識し過ぎたのかなと思います。結果的に「PEDAL ON」の前に自分から動き出していきましたが、保田が先行していくと予想していたのなら「PEDAL ON」の前に保田の後ろ(6番手)に車を下げる、いわゆる「ワープ」をしても良かったと思います。
鈴木も三浦も優勝経験があるだけに、この決勝も作戦次第では何とかなったはずです。その意味では勿体ないレースをしてしまったと思いますね。
その点、すんなりと保田の番手に入った山根は、あの時点で優勝が見えていたのではないのでしょうか。ゴール前ではちょい差しのような形となりましたが、準決勝と同じように、普段から一緒に練習している保田の脚力が分かっているからこその仕掛けだったと思います。
先ほども書いたように、山根のポテンシャルはGIの常連となっても、なんらおかしくない選手だと思います。競輪でも自分の得意な展開となると、物凄く強いレースを見せてくれるのですが、その一方でどこか構えてしまうところもあり、ここで仕掛けたらいいのにな、と思う場面で動けず、結果的に後方からのレースとなる姿も見受けられました。
今回のPIST6での走りを見ていると、能力のある選手だということが再確認できました。その能力の高さが競輪でも発揮されていくことを期待せずにはいられません。また、PISTに目を移しても、同じ岡山所属の絶対王者である河端朋之がいます。山根には「河端の連勝を止めるのは自分だ!」ぐらいの気持ちで練習を重ねてもらいたいですね。
PIST6、そして競輪と更なる期待を含めて山根となりますが、今大会でMVP級の活躍を見せたのは保田ではないのでしょうか。決勝の後でこの選手は強いなと思い、競輪での成績を調べてみたのですが、どうして、PIST6でこれほどの力があるのに、チャレンジレースを走っているのかびっくりしました。競輪でも自分から積極的に動いていくレースが多いようですが、それが継続できたのならば、一年後、もしくは半年後にガラッと化けてしまう可能性があります。将来が楽しみにな選手だと思えるだけに、今後のレースには注目していこうと思います。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。