2024/02/21(水) 18:00 0 6
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は2月17日・18日に行われた「PIST6 ChampionShip」フォースクォーターラウンド38の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip フォースクォーター ラウンド38 決勝レース動画】
今大会の主役となっていたのは、1月20日、21日に開催された「フォースクォーター ラウンド34」で6場所連続の完全優勝し、連勝も24まで伸ばしていた河端朋之です。その河端は前検日に行われたタイムトライアルでも1位のタイム(10秒080)を記録。一次予選から危なげないレース内容で決勝へと勝ち上がりました。
その決勝にはタイムトライアルで2位となった中川誠一郎(10秒310)と、3位の安倍大成(10秒390)も、河端と同様に無傷の3連勝で決勝進出を果たしています。河端と中川は共にナショナルチームに在籍していた時期があり、しかも、同じスプリント競技でしのぎを削り合っていました。
リオオリンピックで自分は短距離のヘッドコーチをしていたのですが、実績は中川が上でも、勢いや伸びしろは河端の方に感じていました。この2人がいいライバル関係を築いてくれたのならば、更にタイムも上がってくると期待をしていたのですが、河端が競輪で落車をして、ケイリンの競技にも出場できなくなってしまいます。
オリンピックに出場するためには、ケイリン競技のポイントレースで実績を重ねていく必要があるのですが、河端はそれがままならなくなりました。結果として、スプリント競技の日本代表には中川が選ばれたのですが、もし、河端が競技に出場し続けていたのならば、ポイントで中川を上回っていたのかもしれません。
今は2人ともナショナルチームを離れているだけでなく、共に年齢も重ねています。それでもタイムトライアルでの優秀な時計や、PIST6での走りを見ると「スプリントで世界を目指した競技者」としてのプライドも感じさせました。
決勝のスタートの並びはインコースから③安倍大成①河端朋之⑥佐藤友和②中川誠一郎④山田義彦⑤小林史也となりました。
「PEDAL ON」を前に6番手から動き出したのは小林です。その動きに反応したのが4番手だった中川であり、外から安倍を抑えにかかった小林の後ろに切り替えると、5番手の山田も中川の後ろをキープし、残り3周のホームでは3車が並走する形となります。
小林が安倍を抑えたと思いきや、中川はスピードを緩めることなく、小林を抑えにかかります。その時、物凄いスピードで2人の上を捲っていったのが山田でした。
PIST6の山田と言えば、5.67倍の大ギアです。脚力ではタイムトライアルの上位3名(河端、中川、安倍)に劣る山田ですが、この3人が牽制し合って、後ろがもつれる展開となれば、大ギアがもたらす、スピードの持続力を生かして、あわやの結果もあり得ると考えたのでしょう。
その動きを見逃さなかったのが、インコースにいた中川です。PIST6の“絶対王者”となっている河端を倒すためには、タイム差もあるだけに、中川は先に動き出していくしかありません。しかも、山田が仕掛けてくれたことで、残り2周のホームでは山田の番手という最高のポジションに入ります。
ただ、中川にとって誤算だったのは、自分の後ろに河端が入っていたことでした。残り3周のバックで山田がコースの上まで自転車を持って行った時、河端は内にいた安倍を交わしただけでなく、その前にいた小林も交わし、中川の後ろに入っていました。
この展開の前、ホームから上がっていた中川の後ろは、後方にいた佐藤だけでなく、中川に抑えられた小林、小林の後ろにいた安倍も取りに行くことができました。もし、この3人のうちの誰かが、中川の後ろを取っていたのならば、さすがの河端でも苦戦を強いられたかもしれません。
河端は第3コーナーから中川に並びかけると、直線では現時点での力の違いを見せつけるかのように、中川を差し切って優勝。中川も積極的なレース内容で最後まで頑張りましたが、力及ばずの2着。3着にはゴール前で小林を交わした安倍となりました。
河端は優勝後のインタビューで、「勝つには運も必要だった」と話していましたが、これには多少のリップサービスもあるでしょう(笑)。河端の走りを予選から見ていても、連勝記録を意識することなく、攻める競走を貫いていましたからね。その結果が決勝での位置取りになったと思いますし、本当に素晴らしい走りでした。
自分は河端の性格をよく知っていますが、競技で負けた時にも後を引きずらないというのか、「次に頑張ればいい」と気持ちの切り替えが早い選手でした。
PIST6に参戦している際の表情を見ても、とても楽しそうであり、250バンクでどれだけ自分の力が発揮できるかと純粋に向き合っているような気がします。
残念だったのは1番手だった安倍です。安倍は中川が上がっていったときに小林を交わして、中川の内で粘り込む選択もありました。そうなれば外から捲ってきた河端は中川と並走になるので、後ろにいる安倍にもチャンスが生まれていたはずです。
安倍はこの決勝では唯一の20代。若手らしい積極的なレースを期待していました。ですが、競技における経験値の少なさもあるかもしれませんし、競輪では格上の存在である河端と中川を相手に、どこか臆してしまったのかもしれません。
有利だった1番手から6番手まで車を下げなければいけなくなり、残り1周のホームでも前に小林と佐藤が壁になっていたので、優勝争いから遠ざかってしまいました。
安倍は、まだ河端ほどの気持ちにはなれないかもしれませんが、格上の選手たちとPIST6で戦っていくうちに、より自分らしいレースができるようになると思います。タイムも上位の2人(河端、中川)とは遜色がない。場の空気に飲まれない走りができるようになれば、今後優勝のチャンスは来るはずです。
勿論、V7を達成した河端となりますが、敢闘賞は中川です。決勝の走りは称えられるべきでしょう。競輪では持ち前のダッシュを生かすべく、後方で脚を溜めての捲りを見せていますが、今大会のPIST6では予選から積極的に動き出していきながら、長い距離を踏んでいくレースを見せてくれました。まだまだ、こんな若々しいレースができるのかと驚きましたし、今後のPIST6だけでなく競輪での走りにも注目したいですね。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。