2023/12/12(火) 19:45 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は12月8日・9日に行われた「PIST6 ChampionShip」の「サードクォーター」の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip サードクォーター 決勝レース動画】
今大会を制したのは、3大会連続での完全優勝を果たした堀江省吾です。これで前人未到の8度目の優勝と、PIST6では手の付けられない強さとなっています。
決勝には6度の優勝を果たしている伊藤信や、11月3日・4日に行われた「サードクォーター」では、その伊藤を交わして1着入線を果たしながら、斜行で失格となった皿屋豊も、堀江と同様に1次予選からの3連勝で決勝へと進出してきました。
今大会の「3強」とも言えるこの3人は、開催前日に行われたタイムトライアルでも伊藤が1位、堀江が2位、皿屋が3位となっていただけでなく、準決勝までのレース内容もそれぞれが自分の持ち味を発揮していました。ただ、ハイレベルな決勝を制して堀江が優勝できたのは、機を見てはどんどん仕掛けていくような、若手らしい積極的なレース運びと、そして「3強」のスタート順だったとも言えます。
決勝のスタートの並びはインコースから①伊藤信③皿屋豊②堀江省吾⑥田中弘章⑤河村雅章④真船圭一郎となりました。インコースが有利とされるPIST6ですが、こうなると1番手からの出走となった伊藤にとっては、願ってもないスタート順のように思えてきます。ただ、実力者の3名だからこそ、この並びとなった時に最も有利となっていたのは、前の2人を見ながらレースができる堀江でした。
「PEDAL ON」を迎える残り3周の前に、最後方から動いていったのは6番車となっていた真船でした。その仕掛けに河村が乗っていくのもセオリーと言えますが、「PEDAL ON」で真船が伊藤を抑えにかかったあと、河村がその前へと抜け出していきます。
その2人の仕掛けに乗っていったのが2番手の皿屋でした。皿屋は先頭に立っていた河村を、残り2周で交わして先頭に立ちます。競輪では先行選手として早めの抜け出しを図ることもある皿屋ですが、PIST6では脚を溜めての鋭い捲り追い込みを持ち味にしています。ただ、前が伊藤で後ろが堀江の並びかつ、真船と河村が抑えに来たからには、あのタイミングで動かざるを得なかったのでしょう。
その皿屋の仕掛けを読んでいたかのように、「PEDAL ON」から後ろについていたのが堀江と田中でした。堀江は残り2周のバック前から皿屋に勝負を挑んでいくと、残り1周では更にスピードを上げて一気に皿屋を抜き去っていきます。この時、堀江のスピードに付いて行けなかった田中ですが、それでもインで粘り込みを図る皿屋の後ろに入っていました。
6番手となった伊藤は、残り1周の手前から捲りに入ります。スピードの違いで真船と河村を交わしたものの、カカリ切った堀江や、前との差を詰めようとする皿屋との差は縮まりません。バックではインを走る田中の前に出た瞬間もありましたが、コーナーで再び田中にリードを許すと、直線で抜き返せず4着でゴール。優勝は堀江、2着は皿屋、そして3着は単勝6番人気の田中となり、3連単は2,620円と「3強」の一角が崩れたことで、まずまずの配当となりました。
高配当の立役者となった田中はタイムトライアルの時計が全体の22位。「3強」とは0秒6近く離されていることから、普通ならば勝負にならないはずです。ただ、競輪では追込選手としてならしているだけでなく、PIST6でも自分の脚質を生かしたスタイルと言える「先行した選手の番手に付け切る」レーススタイルで、今大会も決勝へと進んできました。
決勝では堀江のスピードには付いて行けなかったものの、その後、皿屋の後ろに付けたあたりも見事でした。本人も決勝後のインタビューで話していたように、準決勝では伊藤、決勝では堀江と並びに恵まれた感はありますが、その並びを生かすレースで決勝でも表彰台に上がったわけですから大したものです。
田中は今年で52歳。これでPIST6での決勝進出は4回目となりますが、競輪でもPIST6効果が出ているかのような、若々しい走りを見せています。今後も並び次第ですが、田中がスタート順で積極的に動いていきそうな選手の後ろに入った際は、高配当を演出してくれるはずです。
その一方で、決勝では堀江の後ろに田中がいたばかりに、仕掛けるタイミングを見失ってしまったのが伊藤と言えます。もし、堀江が動き出していったときに、その後ろに田中がいなかったのならば、伊藤は堀江の後ろに切り替えていたのかもしれません。
伊藤も競輪では先行選手ですが、PIST6では捲りのようなレースを得意としています。タイムに差もある一次予選や二次予選ならば、どんなレースでも勝ち上がれますが、メンバーが強くなる準決勝、そして決勝となれば、やはり自分の得意とする形に持ち込まないと勝ち切れなくなります。
そういった意味では自分の勝負できる位置から捲りを繰り出したくとも、決勝のように巻き返すタイミングがないどころか、後方に置かれたままのレースは向いてなかったと言えます。もし伊藤が3番手のスタートだったら、また違った展開になったのでしょうし、動いていった堀江の後ろを回れていたのならば、最後の直線で交わし切っていたのかもしれません。
皿屋も他の2人より早めに動かざるを得なかったことで、捲りで見せているような脚が残っていなかったと言えます。そう考えると堀江は3番手だったからこそ、これまでの勝ち上がりと同じようなレースができただけでなく、そこに思い切りの良さが加わったことで、皿屋に4車身差をつける圧勝となったと言えるでしょう。
今大会は上位選手とのスピード差があっても、田中のようにそれを補う走りをしていた選手が印象に残りました。
決勝では6着となっていた真船ですが、2着となった準決勝では5番手からのスタートながらも、残り5周で6番手の堀江を前に入れて自分が最後方に下がります。「PEDAL ON」で3番手の小嶋敬二が先行していったレースは、残り2周で5番手から堀江が発進。それを見越していたかのように付いていった真船は決勝進出を果たしました。
若手選手にスピードが劣っていても、こうした駆け引きで上位を狙えることを、田中や真船が証明しています。早めに抜け出しを図っていく選手の後ろについていけたのならば、優勝も狙えるはずです。今後、車券予想をする際には、「上手いベテラン選手」を探してみるのも手かと思います。
その一方でベテラン選手の域に入りながらも、5.17倍という大ギアを踏んで、初日には先行逃げ切りで2勝。準決勝では決勝進出とはならなかったものの、順位決定戦でもまた逃げ切りを見せた小嶋は凄いというか、若手選手よりも若々しいレースを見せていましたね。素晴らしい。
準決勝も堀江には抜かれても、2着には残りたいという気持ちが現れた積極的なレースだったと思います。小嶋はPIST6を楽しんでいるというのか、あの走りを見た他の選手には、次の大会では若手選手よりも、小嶋の後ろを取りたいと思ったのではないのでしょうか。
V8の堀江しかいないですね。堀江はレース間隔をしっかりととって、良い状態でPIST6に臨んでいることもこの成績に繋がっていると思います。今後はV9が目標となりますが、それを過去の大会のように完全優勝で果たしてくれることを期待しています。
敢闘賞は皿屋ですね。実力的にも優勝できるところまではきていますし、後ろに堀江がいるにも関わらず、積極的に仕掛けていった走りは、必ず次の大会に活かされてくるはずです。優勝の暁には改めてMVPを授けたいと思っています。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。