2023/08/25(金) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は8月21日・22日に行われた「PIST6 ChampionShip」セカンドクォーターラウンド17の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip セカンドクォーターラウンド17 決勝レース動画】
今開催も一次予選から決勝まで無傷の4連勝という圧巻のレース内容で、4開催連続での完全優勝を果たしたのが河端朋之です。
大西祐が何とか食らいついていった二次予選以外は、まさに“独り相撲”。河端といえば元々ナショナルチームに所属しながら、オリンピックを狙っていた選手です。ケタ違いのスピードがあり、250バンクも走り慣れています。河端の独壇場になるのは当然の結果とも言えるでしょう。
今振り返ってみると、なぜ初参戦から4大会もの間、優勝できなかったのか不思議にもなってきます(笑)。
初優勝となった「2022-23 EXTRA STAGE 年間ファイナル」から、走りに“力み”が取れてきた印象があります。2度目の優勝を決めた「ファーストクォーター ラウンド9」のタイムトライアルでは初の9秒台となる9秒966を記録してますし、気候が暑くなるにつれて調子も上がってきたのでしょう。
ただ、今開催は「セカンドクォーター ラウンド11」の決勝に名を連ねていた伊藤信、神田龍、菅田和宏、山田義彦も出場していました。伊藤と山田はPIST6の優勝経験が豊富ですし、中でも伊藤はラウンド11の決勝で6番手から捲っていき、早めに先頭へと躍り出た河端とゴール前でデッドヒートを繰り広げています。1/2車輪まで迫った伊藤だけでなく、決勝で河端と走った他の選手たちも、その時のリベンジを果たすつもりに違いないぞ、と注目していました。
準決勝Bは好メンバーが揃う中、伊藤と山田がかち合いました。両者で人気を分け合ったものの、揃って敗退してしまいました。準決勝Aからは神田と菅田が勝ち上がりましたが、河端からすると、決勝の走り方が実体験でわかっている伊藤と山田が揃っていなくなった流れには、かなりホッとしたはずです。
決勝のスタートの並びはインコースから③神田龍⑤菅田和宏④小林史也⑥小野大介①河端朋之②原田亮太となりました。
1周目を過ぎ、4番手にいた小野が最後方の6番手にポジションを変更しました。小野からすると、直後にいる河端がスパートをかけた時に、自分が最後方まで下がってしまうリスクがあります。それならば、6番手でも河端の動きが見える位置にいた方がレースを組み立てやすいと考えたに違いありません。
ポジションという意味では絶好となったのが、初手は6番手と言えども、河端の後ろに位置をとれた原田でした。原田は競輪でも先行を見せていますし、今開催のタイムトライアルでは3位。ポジション変更後の並びを見て「もしも原田が河端の捲りについていけるようならば面白い結果になるかもしれない」と思っていました。
「PEDAL ON」となった残り3周。前を行く神田だけでなく、2番手となった菅田も河端の動きを警戒していましたが、残り1周半前から河端は仕掛けていきました。ホーム手前では一気に先頭へと躍り出ていましたね。
その仕掛けについて行けなかったのが原田です。原田は外を踏まされたこともあって、神田や菅田も交わし切れませんでした。残り1周のバックでは最後方まで下がってしまい勝負圏にはいられませんでした。本来ならば捲っていく河端の番手は最も有利なポジションです。にも関わらず、何のあおりもない状態で引き離されてしまった事実は、原田にとってショックだったことでしょう。
そんな中で、“第二先行”とでもいうのか、捲った河端には引き離されたものの、何とか追走していったのが神田でした。河端に飛びつけなかったことで、脚を使わされるような展開にはなったものの、自らの持ち味とも言える持久力のある走りで粘り強く踏み続け、後続の追撃を振り切っていきます。
3番手となった菅田は、優勝の目はなくとも「せめて2着か3着に」とペダルを踏んでいました。ただ、神田を交わそうと残り1周で車を外に持って行きましたがスピードが及ばず。最終コーナーでは失速してしまいました。そして、この時にインから抜け出したのが、神田の後ろに切り替えていた小林です。
3着の小林はPIST6に参戦してから初めての表彰台となりました。この結果は自信になったはず。次に参戦する時は「さらに上の着順を目指す」という目標で臨めるでしょう。
繰り返しになりますが、今開催は河端の力が圧倒的でした。タイムトライアルでも3度目となる9秒台を記録。2位の岸田剛とも0秒4もの差がありました。それに加えて、さきほども書いたように、伊藤と山田のいない決勝は走りやすかったと思います。「油断さえしなければ勝てる」と考えてもいいレースですが、守りに入る「小さなレース」はせずに、自分のタイミングで積極的に勝負していく「大きなレース」をしたことが、この圧勝劇に繋がったことでしょう。
河端は競輪でも記念開催(GIII)の決勝にも進むようなS級選手です。普段は一緒のレースを走ることもない若手の選手たちが同じ条件で戦えるのがPIST6であり、それが面白いところです。今開催でいえば123期の梶原海斗や助川翔太郎が参戦していましたし、121期の岸田や加藤将武も、改めてS級の走りやスピードを目の当たりにしたはずです。
こうした若手選手たちにPIST6で得た経験を競輪に持ち込み、生かしてもらいたいですね。若手選手は競技経験も豊富ですし、PIST6への順応力も高い選手が多いです。今後も競輪とPIST6の相互のレースを走りながら、相乗効果を求めて欲しいと思います。こういった部分にも注目して欲しいですね。
MVPは4開催連続の完全優勝を果たした河端です。能力的には勝って当然と言える選手でしょう。しかし、今開催は一次予選から「オレはこんなに強いんだ!」と見せつけるようなレース内容でした。この姿勢が素晴らしかったと思います。見ていても気持ちのいい走りでしたし、今後もさらに連勝を重ねていけるように期待したいです。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。