2023/07/25(火) 18:00 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は7月21日・22日に行われた「PIST6 ChampionShip」セカンドクォーターラウンド14の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip セカンドクォーターラウンド14 決勝レース動画】
決勝メンバー6名の中で格上の存在となっていたのが、ここまで5度の優勝経験を誇る中島詩音と3度の優勝経験を持つ永澤剛です。2人とも競輪の記念開催でも好走を見せていますが、特に今期からS級に昇格した中島の活躍が著しいですね。
中島はS級に上がってからは2度目の記念競輪となる「阿波おどり杯争覇戦」でも準決勝に勝ち上がっています。競技をしている頃から期待をしてきた選手だけに、PIST6、競輪と双方での活躍は嬉しい限りです。
そして、青森が登録地である永澤も、普段から「八戸自転車競技場」で熱心に練習してる姿を見てきただけに、今大会の走りには注目してきました。
永澤は普段から“泣きが入る”というか、インタビューでも強気なコメントは出しません。それも普段から謙虚な人間だからなのですが、自転車に跨ると人が変わったように番手選手としての仕事をきっちりとこなすタイプの選手です。普段の練習も真面目に取り組んでいますし、競輪だけでなく、自力型の強いPIST6で、好成績を残しているのも納得がいくところです。
中島は3連勝で決勝に勝ち上がりましたが、永澤は3走続けて2着となっていました。しかも二次予選と準決勝では中島と永澤は同じレースを走っています。二次予選でのレースに決勝の戦いに繋がるポイントがありました。
この二次予選は1番手となった永澤がインから突っ張っての先行を見せます。結果的に永澤は後方にいた中島に捲られて2着となりました。永澤はここで無理に先行せず「準決勝に勝ち上がれる着順を取りに行く作戦」を選択することもできたはずです。ただ、確実に勝ち上がれそうな二次予選で、中島を相手に先行を見せておくことを重要視していたのではと思いました。
永澤の先行を見た中島は今後のレースで再戦した時に、並び次第では先行もしてくるだろうな、との考えを持ったはずです。それが中島が準決勝で先行した理由だったとも思いますし、中島はレースの主導権を握りながらも、常に後方にいる永澤を意識していたはずです。
一方の準決勝に臨んだ永澤は、3番手をキープしながら、確実に決勝に勝ち上がってくるレースをしていました。こうした“予選段階からの心理戦”が決勝の2人の走りに影響していました。
決勝のスタートの並びはインコースから④永澤剛③小畑勝広⑤安彦統賀①中島詩音②松山桂輔⑥小林史也となりました。残念だったのは準決勝まで3連勝ながらも、ゴール後の落車で決勝に進めなかった田口勇介です。3連勝の内容も全て逃げていましたし、怪我で休んでいた影響も感じさせないような走りでした。田口には次の大会で今回の鬱憤を晴らすような走りを見せてもらいたいです。
その田口がいないこともあってか、道中は隊列にも変化がなく、落ち着いた流れとなりました。そしてPEDAL ONを迎えます。動き出したのは6番手となった小林です。競輪では先行と捲りを見せている小林ですが、PIST6でも位置が悪いと思えばしっかりと前々にポジションを上げて行きます。
この小林の動きは他の5名も想定していたはずです。永澤の前に入った小林でしたが、すかさず動き出していったのは5番手となった中島であり、その後ろに付けていた松山も中島を追走していきます。
残り2周で小林を捲り切って先頭に躍り出た中島でしたが、その後ろにいた松山も小林の前に入ります。この展開に「しまった!」と思ったのは、4番手まで下がってしまっていた永澤でしょう。永澤にとっても、後ろにいた中島が先行してくるのは想定内だったはずですが、松山がその番手をキープしてくる展開は想定していなかったでしょうね。
ただ、永澤の凄いのはラスト1周に入ってからの走りでした。ホーム手前から捲りに入ると、前を行く小林をあっという間に交わし、松山との並走も力の違いとばかりに外から交わし、第3コーナーから4コーナーにかけては、中島との一騎打ちに持ち込みます。
最後の直線ですが、残り2周半から逃げていた中島はさすがに脚色が鈍っていました。そこを力強く交わしていったのは永澤であり、その永澤についていった小畑が中島を交わして2着に入ります。
レース後のインタビューで永澤は「イチかバチかで無理矢理行きました」と話していました。脚力もさることながら、咄嗟の判断に加えて、早いと思いながらも動き出していける勇気があったということです。永澤は記念開催といったレベルの高い競輪のレースでも“瞬時の決断”を何度も経験してきており、だからこそ迷いもなく動き出せたのでしょう。
永澤の後ろを回れた小畑は展開に恵まれました。本来なら決勝では前でレースをしたかったと思います。PEDAL ONの後に位置が5番手となってしまったのは、本人も想定外だったはずです。ただ、結果的には永澤の捲りに乗っての2着ですから、次の大会では早めに自分から動いていっての上位入着を目指し、優勝を狙って欲しいですね。
残念だったのは3着中島です。田口が決勝に進まなかったことで、先行はしやすくなったことでしょう。でも幾分か早い仕掛けとなってしまったのは永澤への意識が大きかったと思います。ただ、相変わらず力のあるところは見せてくれましたし、今後の大会でも常に優勝候補であるのは間違いないでしょう。
悔しかったのは中島の番手という最高の位置を走りながら4着に沈んだ松山です。優勝に近い最高のポジションを取りながら、想定よりも早く永澤が動き出して外にかぶせてきた時には「しまった!」と思ったはずです。
これが競輪ならば永澤の動きをブロックしながら、中島の番手からの発進で充分勝機はあったはず。ですがヨコの動きが認められていないPIST6のレースではそうはいきません。結果として動き出しを待ってしまったのが敗因となりました。松山に関しては「永澤よりも早く中島を捉えていたら」また違った結果が出ていたはずです。
今開催が4回目の優勝となる永澤がMVPです。大会初日に38歳の誕生日を迎え、翌日に自らをお祝いをしたとも言えるでしょう。実力的に優勝して当然の選手ですが、今後も練習を重ねて競輪とPIST6の双方で頂点を目指してもらいたいですね。
そして敢闘賞は中島です。これまではPIST6における絶対王者となっていた中島ですが、最近は競輪でも持ち前の先行力を発揮しており、レースぶりも安定しています。今後は競輪を舞台に永澤と戦う機会も増えてくると思いますが、2人がどんなレースを見せてくれるのか楽しみになってきます。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。