2023/06/30(金) 18:30 0 3
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は6月27日・28日に行われた「PIST6 ChampionShip」ファーストクォーターラウンド10の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip ファーストクォーターラウンド10 決勝レース動画】
決勝を制したのは青野将大で、2着が雨谷一樹とS級1班が上位を占めました。青野はこれが3回目の優勝かつ、自らの誕生日を優勝で祝うことにもなりました。
青野は高校の頃から競技では名の知れた選手であり、大学(法政大学)に進学してからも幾多のタイトルを手にしています。大学を卒業後はどうするのかとも思っていましたが、銀行に就職したと聞いた時には残念だなとの思いがありました。
ただ、青野が別のインタビューでも語っていたように、自らが得意としていたスクラッチやパーシュートは、競技としては中距離のレースとなります。そこに一瞬の踏み出しの早さとなるようなダッシュ力や、短距離でもこなせるようなスピードが無いと、競輪では苦労する傾向がありました。
普通は銀行に就職できたのならば、競輪だけでなく、自転車競技からも足を洗うのではと思っていましたが、そこで自転車で食べていくという夢を諦めずに競輪選手になったのも立派ですし、それだけ強い思いがあったからこそ、中距離選手の弱点を長所とするような走り、そしてスピードを補う練習をしてきたことが、S級1班での活躍にも繋がっているのでしょう。
競輪だけでなく、250バンクで行われるPIST6もまた、一気にトップスピードに上げて行けるようなダッシュ系の選手、競技種目スプリントといった短距離をやってきた選手が、有利に運ぶ傾向があります。それが決勝に進んできた雨谷であり、そして、安倍大成や木村佑来と言えるでしょう。
タイムトライアルでも雨谷、安倍が10秒2を記録したのに対して、青野は10秒5、木村は10秒6となりましたが、人気の堀江省吾は準決勝で敗れており、一次予選のレースからしてもスタートの並び次第では、誰にでも優勝のチャンスがあると思っていました。
決勝のスタートの並びはインコースから①雨谷一樹④青野将大②安倍大成⑤木村佑来⑥伊勢崎彰大③佐藤友和となりました。
このスタート順で圧倒的に有利なのは雨谷です。しかも競輪と同じように、このPIST6でも徹底先行を決め込んでいる木村が4番手から動いていく並びであり、雨谷はその番手を狙える最高の位置となりました。
ただ、タイムトライアル後のインタビューで雨谷も話していましたが、競輪でもいい走りを見せている青野がすぐ後ろにいたのは嫌だったと思います。そして、安倍も早めに捲ってくるだけに、前の木村を気にしながらも、後ろ(青野、安倍)の仕掛けにも注意しなくてはいけなくなりました。
残り2周半で動き出したのは、やはり木村です。そのまま木村は先行体勢へと入りますが、ここで雨谷は木村との車間を取って、後続の動きをけん制します。こうなると、捲りを狙う安倍にとっては苦しい展開となります。
残り1周半から動き出していった安倍ですが、その仕掛けと合わせるかのように雨谷、そして青野も前に踏んでいきます。一気に木村を交わしに行った安倍でしたが、それが叶わなかっただけでなく、インで並走する青野との争いにも屈する形で後方へと下がってしまいます。
これまでは残り1周半からの捲りが面白いように決まっていた安倍でしたが、主にA級のメンバーと戦っていたこれまでの大会とは違い、この決勝では雨谷や青野のようなS級の選手が相手となっていました。だからこそ、仕掛けに合わせられた時に交わし切れなかったのでしょう。
安倍の捲りを封じ込んだ雨谷は、残り半周で木村を交わしにかかります。準決勝までならば、これで優勝確定だったのでしょうが、この決勝では後ろで脚を使ってなかった青野がいたのは誤算でした。
雨谷と青野は準決勝でもレースをしており、その時も雨谷が3番手、青野が4番手と似たようなスタート並びになりました。結果は雨谷が1着、青野が2着でしたが、この時は後方から捲っていった雨谷の後ろを、東矢昇太に奪われてしまい、青野は後方6番手という絶望的な位置取りとなります。
それでも距離をロスするのは覚悟しながら、東矢の外から捲っていっての2着となりましたが、決して楽ではない展開で2着まで持ってきたあたりが、やはり力のある選手だなと思いました。
結果は先に抜け出した雨谷を、外から捲ってきた青野が交わし切って優勝しました。ただ、雨谷はスタート順にも恵まれたとは言えども、自分のやりたいレースは出来ていたように見えましたし、特にここ数戦は消極的なレースも続いていたので、先行も見せていた今大会は、本人としても手ごたえがあったのではないのでしょうか。
そして捲ってきれなかった安倍ですが、失格となった前回(ファーストクォーターラウンド8)ではS級1班かつ、これまでに5度の優勝経験のある伊藤信を捲り切っています。この決勝では力を出し切れなかったものの、250バンクならばS級とも互角に戦えるところまで来ていると思います。
その安倍よりも将来性を感じているのは、この決勝でも先行していった木村です。競輪でもPIST6でも、とにかく風を切っていくという意識が見えており、最近ではそのまま確定板に上がれるようなレースも増えてきました。
木村はPIST6で結果を残したいという気持ちもあって、先行を見せていると思いますが、競輪でもGIといった特別競輪を取るために、自分が今、どんなレースをするべきかを考えた乗り方をしています。安倍も木村もまだ20代前半。今後も自分の持ち味を生かしながら、PIST6と競輪の双方で更なる活躍を期待しています。
バースデー優勝を飾った青野です。競技で中距離だった選手が、こうしてPIST6で優勝を果たしているどころか、今やGIの舞台でも活躍しているのは、同じ競技をしている選手たちの励みにもなるはずです。
そして敢闘賞は木村ですね。風を切っていく走りをしながら力を付けていくレースは、同世代の若手選手たちにとっても刺激になっているはずです。次の大会では全て逃げ切りでの優勝を見せて欲しいです。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。