2023/05/01(月) 15:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は4月26日・27日に行われた「PIST6 ChampionShip」ファーストクォーターラウンド4の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip ファーストクォーターラウンド4 決勝レース動画】
決勝にはタイムトライアル1位(10秒129)の安倍大成と3位の田川翔琉(10秒397)が3連勝で勝ち上がってきました。その中でも安倍は18日と19日に開催されていた「ファーストクォーターラウンド2」でも、タイムトライアル1位(10秒212)となっていました。その節も決勝に進出していたように、レースでは競技でならしたスピード能力の高さをいかんなく発揮しています。
安倍は岩手県出身であり、しかも自分の息子(坂本紘規)と年齢も近く、大学の競技大会などで幾度となくレースを見ています。当時からPIST6向きと言える短距離に合った脚質で、早稲田大学在籍時には「全日本大学対抗選手権自転車競技大会」のタンデムスプリントで優勝。実力も兼ね備えていました。
自分の時代も大学入学時にタンデム自転車(※二人乗り自転車)に乗っていたことがありました。タンデムは入部してきたばかりの新入生に力を付けさせるだけでなく、上級生と同じスピードを覚えさせる意味があり、練習ではよく使われています。感覚としては四輪駆動車のそれです。前の選手がハンドル、そして後ろの選手がエンジンといった感じ。後ろになった時には前を見ることなく、がむしゃらにペダルを踏んでいたことを思い出します。
決勝に進んできた早坂秀悟もナショナルチームの強化指定選手だった頃にコーチとして良く見ていた選手です。早坂は八戸で行われていた合宿にも頻繁に来てくれていました。しかも三浦翔大も宮城所属で良く知る選手であり、早坂も茨城に移籍する前は宮城に所属しています。この安倍、早坂、三浦の3人の選手をよく知っているだけに「決勝でどんな走りをしてくれるのか?」と注目していました。
決勝スタートの並びはインコースから④三浦翔大③早坂秀悟①安倍大成②田川翔琉⑥安部貴之⑤畝木聖となりました。
3番手からのスタートとなった安倍は3月に特昇して勢いもあっただけでなく、前回の出場からそれほど時間を置かずに参戦したことで250バンクの感覚も残っていたはず。それは一次予選からの積極的なレースに表れていました。力の拮抗している決勝でも安倍が自分の力を出し切れるようならば「2着・3着探しのレースになるだろうな」と思っていました。
しかし、そうはさせまい! とばかりに意地を見せたのが、このPIST6では百戦錬磨の早坂と三浦だったと思います。「PEDAL ON」の前に動き出していったのが、最後方6番手の畝木でした。2番手となった三浦は車間を取りながら後ろを警戒して誰も来ないことを確認した残り2周で一気に先手を奪い返します。この積極的な判断は好判断だったと思います。
先手を奪い返した三浦に反応したのが後ろを走っていた早坂です。この辺は元宮城所属の選手同士とでもいうのか、お互いに脚力をわかっていたでしょう。自然発生的にラインのような感じになり、早坂は三浦の仕掛けを追いかけました。安倍も抜け出した2人についていく形で3番手に上昇していきます。その目まぐるしい先頭の入れ替わりは、競技の練習を見ているような印象さえありましたが、残り1周で安倍が前の2人を交わしにかかります。
その安倍の後ろをマークしていたのがタイムトライアル3位、3連勝で勝ち上がってきていた田川です。田川としても安倍の後ろの位置は「優勝を狙うには絶好のポジション」だと思っていたでしょう。ただ、前を行く三浦と早坂のカカリが良く、2人の後ろで脚を溜めていた安倍でも交わし切るのが難しい状態になっていました。
三浦と早坂は安倍のタイムトライアルでの時計や、勝ち上がり3走の走りを見て、自分たちが勝つためには「先に仕掛けて外からの捲りを封じ込む」という作戦しかないと対策していたはずです。2番手の早坂は安倍の仕掛けを分かっていたかのように最終周回に入る手前で三浦の横にポジションを変えただけでなく、3コーナーでは安倍の前に出る形で、直線での三浦との叩き合いに持ち込みます。
自分はこの展開となった時に「勝つのは早坂か」と思って見ていました。ただ、三浦に並びかけた時に思ったよりもスピードが出ていないことを懸念していました。そこを外から交わしに行った安倍のスピードが良く、3/4車輪だけ早坂を捕らえた場所がゴール線でした。
先ほども書いたように、早坂はナショナルチームの強化指定選手だった頃から走りを見てきた選手です。その頃から指導してきたことでもありますが、今回のようにゴール前になると腕の力が入り過ぎるでしょう。当時から一瞬だけ上半身が力んでしまう傾向が見られました。
必要以上の力を入れてしまうと後輪の動きは不安定になります。ペダルを踏んでも思うように前に進んでいかなくなるのです。冒頭で触れたタンデム自転車で例えるなら、後ろの選手との息が合っていない感じに陥るのです。しかも三浦を抜くのに脚力を消費しているので、結果としてはゴールまで粘り切ることができませんでした。
早坂は残り2周の手前、安倍との距離を見定めるような余裕も見せていました。リラックスして走るというのか、もう少し安倍を引き付けてから抜け出しを図った方が、早坂の脚色的にも気持ち的にも余裕のある走りができていたのかもしれません。それだけに勿体ない走りでしたし「早坂、アイツらしいな…」と思いました。
ただ、このあたりは安倍の準決勝までの走りも影響しているでしょう。長い距離を早めに踏んでいくような走りを見せていたことが、早坂にとって大きなプレッシャーとなっていたのでしょう。勝ち上がり段階からどのような走りを見せておくのかが、自転車トラック競技「ケイリン」では必要になるのです。それが決勝の駆け引きに繋がり、プレッシャーを生み出す要素になるんですよね。
安倍は2度目の参戦での初優勝。この結果は本人にとって自信になったと思います。安倍のスピードならばS級との混合戦でも十二分に通用するはずです。ラウンド8でも出場予定とのことですし、そこで格上の選手と当たった時に安倍のスピードがどこまで通用するのかが楽しみです。
今後の期待も込めて安倍大成をMVPに選出したいですね。競技のケイリンになぞらえたPIST6では「タイムこそ絶対能力」と言えるだけに、安倍のスピードならば現在の競輪選手としての格をPIST6では超えられるはずです。
そして敢闘賞を贈りたい選手もいます。それは長い距離を踏みながら先行を見せた三浦翔大でしょう。タイムトライアル上位の安倍に対して、「自分が勝つための走りをしていく」という覚悟がありました。ファンの立場に立っても面白いレース展開を作れる選手だと証明しましたし、今後も三浦を車券の軸に据えたくなるような走り・勝負姿勢だったと思います。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。