2023/03/30(木) 17:30 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は3月25日・26日に行われた「PIST6 ChampionShip2022-23」EXTRA STAGEラウンド7の決勝レースを回顧していきたいと思います。
決勝メンバーの中で注目していたのは、6名中唯一のS級1班だった竹内雄作です。竹内は共同通信社杯を優勝しているように競輪での実績は格上の存在です。PIST6はこれで3回目の参戦となりますが、過去の大会の走りを見ていると、競技経験が少ないこともあるのか、250バンクでは競輪ほどの強さが発揮できていませんでした。
今大会も一次予選は力の違いで押し切ったものの、5番手からのレースとなった二次予選は捲りが不発に終わり5着に敗退しています。ただ、この敗戦で気合が入ったのか、最内枠1番手となった準決勝ではPEDAL ONから3周先行して、そのまま後続を振り切って見せました。
竹内は競輪でも早めに主導権を取って押し切るレースを見せていますが、それでも250バンクを3周逃げ切るのは、よっぽどの力が無ければできません。しかも決勝では1番手に入っただけに、準決勝の再現があるのでは…と楽しみになりました。
3連勝で決勝に勝ち上がってきたのは、「EXTRA STAGE」ラウンド3で1年ぶりの優勝を果たした山田義彦と、これが4度目の決勝進出となった神田龍です。他にも優勝経験のある早坂秀悟や、レース巧者の小佐野文秀。これが初めての決勝となる原清孝と、多種多彩なメンバー構成となりました。
決勝のスタートの並びはインコースから④竹内雄作⑤神田龍②早坂秀悟③原清孝①山田義彦⑥小佐野文秀となりました。
先ほども書いたように「突っ張り先行」も辞さない竹内にとっては絶好のポジションでしたが、その竹内の番手に入った神田も好位置です。一方で5番手となった山田は優勝するためにはこの位置から竹内を捲っていく必要があるので、竹内に突っ張られる可能性も考えられるため、前の2人よりも厳しいポジションと言っていいでしょう。
「PEDAL ON」となってからも6人の隊列は崩れません。その理由は他の5人が山田の動き出しを見ていたのもありますが、前を行く竹内が何度も後ろを振り返りながら、『ここでも突っ張り先行をするぞ』という雰囲気を出していたのも大きかったですね。
競輪でも実績を残している竹内が牽制をしてくると、山田だけでなく、他の選手も動き辛くなります。しかも、その竹内の番手に入っている神田は、むしろ位置をキープする方が好都合ですし、結果として残り3周でも隊列は変わりませんでした。
ただ、5.67倍という大ギアを踏んでいる山田は加速まで時間がかかるだけに、このまま竹内に先行させておくと勝機がありません。意を決して動き出したのが残り2周からでしたが、1周半で先行体制に入っていた竹内を交わし去ったのは、さすが山田だと思いました。
山田が上がっていった時に絶好の位置取りとなっていたのが最後方の6番手に入っていた小佐野でした。レース巧者の小佐野にとっては願ってもない展開であり、そのまま山田について行ければ、ゴール勝負に持ち込むことも可能でしょう。ただ、小佐野は山田のスピードについて行けずに離れてしまいました。その一方で神田は状況を判断して、竹内の番手から山田の番手にスイッチしていきました。
今大会の神田に目を向けると、積極性が全面に出ていました。一次予選からすべて逃げ切りで勝利をおさめているあたり、積極的にレースを動かす覚悟で臨んでいたと思います。決勝ともなれば、さらに積極性が必要になるだろうと考えていたはず。竹内の番手から抜け出すタイミングも図りながら、山田が捲ってくる展開にも備えていたでしょう。
とはいえ神田も竹内を交わし切るような山田のスピードには驚いたとは思います。それでも、「いつでも前に踏み出す覚悟」を持っていたからこそ、小佐野が付いていけなかった展開を逃さず、スムーズにスイッチできたのだと思います。
竹内が失速していく一方で、大ギアを踏みながらスピードを維持していた山田ですが、竹内の先行を捲り切ったあたりで脚には相当のダメージもあったように思います。結果としてゴール前で神田に交わされてしまいましたが、ファンの皆さんの前で、自分らしいレースを見せてくれたのではないのでしょうか。
一方、神田は4度目の参戦にして初優勝となりました。スタートの位置だけでなく、展開に恵まれたとはいえ、準決勝までの積極性をそのまま決勝でも切らさなかったことが、悲願の勝利に繋がったと見ています。神田も優勝したことでPIST6への参戦意欲もさらに高まったと思いますし、次の大会でも積極的なレース運びで盛り上がてくれるでしょう。
また、6着に敗れはしたものの、強いメンバーと走る決勝においても突っ張り先行を貫こうとしていた竹内の勝負姿勢は立派だと思います。最近の競輪における竹内の走りを見ていると先行は見せるものの粘り切れず、どこか勝ち切れていないレースが見受けられます。
でも準決勝で見せた思い切りの良さは、まさに竹内雄作らしい走りでした。結果は結果としても、竹内本人も気持ち的に納得がいく負け方だったのではないのでしょうか。これをきっかけにできれば、競輪でも結果に繋がり、成績が残せるでしょう。
今大会の表彰式で2着の山田と3着となった早坂が、神田の初優勝を笑顔で称えている姿が印象に残っています。先日まで行われていたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でMVPとなった大谷翔平選手が『厳しい試合展開となっても楽しんでプレーをしていた』とコメントをしていました。
競輪も自転車競技も、そしてPIST6もまた、いくら練習を積み重ねたとしても、レースではっきりと結果が出てしまう厳しい世界です。ただ、その中に楽しみを見出せたのならば、取り組み方も変わっていくはずであり、その前向きな気持ちが選手の能力を高めてくれるのだと思います。
競輪は脚力をはじめ能力があってもラインという集団での戦いもあり、そこにヨコの動きも絡んでくるので、実力通りとはまた違った結果となる難しさがあります。その側面にこそ面白さがあると言えるでしょう。
一方で競技種目の“ケイリン”に準じたルールで行われるPIST6は、自身の能力が重要となるだけでなく、そこに「優勝しよう!」という強い気持ちが加わることで、より勝利へと近づいていきます。経験や前向きな気持ちだけでなく「PIST6は楽しい!」という思いも選手を強くする原動力になっていきます。そしてそれは競輪にも良い影響をもたらすに違いありませんし、競輪での結果も向上していくでしょう。
MVPは念願の初優勝を果たした神田ですね。この結果はPIST6だけでなく、競輪にも良いきっかけになるでしょう。神田の競輪での走りにも注目していきたいです。敢闘賞は不利な位置からも自分のスタイルを貫いた山田でしょう。難しいレース展開の中で、優勝こそならずもファンを納得させる走りを見せてくれました。
山田の表彰式での晴れ晴れとした表情からしても、自分自身が納得のいく走りをしての2着だったと思います。今後の大会でも山田らしい走りでPIST6を盛り上げて欲しいです。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。