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【坂本勉のPIST6徹底回顧】村田瑞季の“奇襲”を乗り越えた河端朋之、勝因は過去の失敗を糧にしたこと/レジェンドが見た疾風迅雷 #23

2023/03/08(水) 18:00 0 2

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は3月4日・5日に行われた「PIST6 Championship」EXTRA STAGE年間ファイナルの決勝レースを回顧していきたいと思います。

【PIST6 ChampionShip2022-23 EXTRA STAGE年間ファイナル 決勝レース動画】

シリーズ中に修正をしていた河端朋之

 今大会は年間ファイナルということで、タイムトライアルでも好タイムを出す選手が揃っていました。一次予選から積極的に動いていく選手も多く、ハイレベルな戦いが繰り広げられていましたね。観ていて面白いレースが多かったシリーズのように思います。

 そんな中、タイムトライアル1位となっただけでなく、一次予選から3連勝で決勝に進んだのが河端朋之です。一次予選では勝負所で構えてしまうレースをしたばかりに、番手に付けていた市本隆司に3/4車身まで詰め寄られました。しかし、その点を修正した二次予選、準決勝は早めに動き出して後続を振り切っています。一次予選のレースで気が引き締まったのでは? と思えたほどの変わりようでした。

タイムトライアル1位、3連勝で決勝へ進出した河端朋之

 その河端とは対照的だったのが、もう一人の優勝候補・雨谷一樹です。一次予選からどこか積極性が出ていなかったように思います。準決勝はスタートが最後方となり、不利だったのは仕方ありませんが、村田瑞季が上がっていったタイミングで付いていくなど、何度か仕掛けていけるタイミングはあったように思えます。

 その準決勝は、終始内を通ってのレースとなっていただけでなく、最後の直線でも抜け出せなまま僅差の3着に敗れています。このレースで雨谷は人気も集めていましたし、そのファンの支持に応えるためにも、外を回してでも『力を出し切るレース』をして欲しかったです。

 雨谷と同じ組の準決勝で、ゴール前では皿屋豊を交わし1着となったのが村田瑞季でした。村田は一次予選からレースの主導権を取りに行くような走りを見せていましたし、それが決勝進出への原動力となっていました。村田だけでなく、決勝には橋本壮史後藤悠太田龍希と20代の生きのいい選手が揃っており、河端を相手にどんなレース運びをしてくるかと楽しみにしていました。

“大逃げの策”に打って出た村田瑞季

 決勝のスタートの並びはインコースから②橋本壮史太田龍希河端朋之皿屋豊後藤悠村田瑞季となりました。

 並びは基本的には「前にいる選手が有利」となるPIST6ですが、この決勝で1番手となった橋本は嫌だったと思います。河端をはじめ、機動力のある選手たちが後ろにズラリ。この選手たちが次々に前に動いていく可能性も高く、切られているうちにいつの間にか後方となってしまうからです。

 その逆で前に橋本と太田、後方に後藤と村田がいた河端はレース判断がしやすい位置取りとなりました。河端の後ろに付けていた皿屋は河端に前を任せながら、ゴール前勝負に持ち込む作戦でいたはずです。「PEDAL ON」と共に上昇していったのは予想通り最後方にいた村田でした。ただ、村田は前に出ることを目的にしておらず、思い切りよく踏み込み、2番手となった橋本との差をみるみるうちに広げていきます。

大逃げの策に出た村田瑞季(3番車・レッド)

 橋本も村田が来ることは並び順からも想像していたはずです。ただ、5番手となった後藤も一緒に動き出してくるはずだと読んでいたのではないのでしょうか。村田と後藤の後ろを確保して3番手で勝負になると考えていたと思います。しかし後藤は村田に付いていかなかった。橋本からすれば村田の背中だけが遠ざかっていくような展開になりました。

 この村田の仕掛けに対応して、橋本はそのまま番手を狙う策もあったと思います。そうなれば、村田の大逃げを許さなかったどころか、一番優勝に近い展開でレースを進めたかもしれません。ただ、結果的に橋本は後ろの4人を引き連れながら、風を切っていくという苦しい展開にハマってしまいました。

残り1周半、先頭の村田と橋本、太田、河端の車間はかなり空いていた

 一方、大逃げを打った村田ですが、自転車競技のケイリン種目ではこのようなレース展開はよく見受けられます。村田自身がこのメンバーでは「上のクラスの選手に胸を借りる立場」であったこともあったのでしょう。前を切りに行っても、その上から河端などの実力上位の選手に切られた場合に、その上を捲り切るのは難しいとの判断で、思い切った大逃げの策に打って出たのだと思います。

ファイナルラップは4番手から猛追した河端

 250バンクで行われる自転車競技では、このような“奇襲戦法”がハマることがあります。実際、ファイナルラップに入ってもその差は縮まりませんでした。ただ、ホーム過ぎからタイミングを見計らって果敢に動き出していったのが河端でした。

 もしも河端が今大会の一次予選や過去のシリーズの決勝のように「構えるレース」をしていたのなら、このタイミングよりも仕掛けは遅くなっていたのかもしれません。とはいえ、遥か前を行く村田だけでなく、河端の前を行く橋本や太田もスピードが出ており“カカっている”状態でした。その上を乗り越えていった河端の脚力は「ケタ違い」と言っていいと思います。

残り半周、橋本(2番車・ブラック)を交わし、トップの村田に迫っていく河端(1番車・ホワイト)

 2コーナー過ぎで横に膨らんだ橋本の動きで外に振られたものの、スピードは削がれることなく、最終4コーナーで村田を捉え切っての勝利。届いた場面では「さすが河端だ」と思いました。

ケタ違いの脚力を披露し初優勝を決めた河端朋之(1番車・ホワイト)

 いや、でも、むしろここまでの実力や自転車競技実績がありながら、これが初優勝とは意外でしかありません。これまでは予選や準決勝までは圧倒的な強さを証明しながらも、決勝ではなぜか構えてしまったり、消極的なレースをするばかりに優勝を奪われていました。

 これも脚を溜めての捲っていく自分のスタイルで勝ちたいとの気持ちも強かったのかもしれませんが、今回は二次予選から人が変わったかのような積極的なレースを見せていました。それが決勝での仕掛けるタイミングにも表れていたと思いますし、自分から動き出して1着を取りに行くという気持ちが見受けられました。この優勝で一皮むけたと思いますし、今後のPIST6ではさらに強い河端の走りが見られると思います。

 河端をマークし続けた皿屋は2着でした。皿屋自身も不利にあっていましたし、河端のハイペースの走りについていきながら、2着を確保してしまうのは、さすがは競輪の実力者です。皿屋はPIST6にも慣れてきた印象を受けますね。次回の参戦でどのような走りを見せてくれるのかと楽しみです。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

 MVPは初優勝にして年間チャンピオン、決勝で強いレースを見せてくれた河端に他ならないでしょう。ただ、決勝の大一番、レースを盛り上げてくれたのは間違いなく村田です。奇襲戦法だったのかもしれませんが、他の選手からすると「あいつはやるな」との印象を与える“魅せるレース”ができていました。今回は自分で風を切り続けた結果、勝利には繋がりませんでしたが、実力上位の選手たちを相手にして、どれだけ通用するのか肌で感じられたはずです。今回は敢闘賞ですが、村田はいつかMVPとなるような結果を残せる選手だと思いました。

初優勝を果たしてチャンピオンズトロフィーを持つ河端(表彰台は左から皿屋豊河端朋之橋本壮史)


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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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