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【坂本勉のPIST6徹底回顧】“ギア比の差”が勝敗を分けた! 実力者・荒川仁に必要だったもの/レジェンドが見た疾風迅雷 #22

2023/02/22(水) 18:00 0 3

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は2月18日・19日に行われた「PIST6 ChampionShip2022-23」EXTRA STAGEラウンド3の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【PIST6 ChampionShip2022-23 EXTRA STAGEラウンド3 決勝レース動画】

学生時代から実力を示していた荒川仁

 今大会はPIST6初出場の選手の中でも、地元千葉荒川仁に注目していました。荒川は高校時代から競技を始めており、自分がナショナルチームのコーチをしていた頃、ジュニアの強化選手として選抜されていました。競技を続ける形で明治大学に進学してからも、荒川の練習を見る機会があったのですが、身体に恵まれていただけでなく、レースセンスの良さも感じさせる選手でした。

 優秀な成績を残していた荒川ですが、「全日本学生選手権トラック」のスプリント予選では、200メートルのタイムトライアルで当時の学連新記録となる9秒992を記録しています。このまま競技を続けたとしても、競輪選手になったとしても、相当強くなるなと見ていました。しかし大会となると準決勝あたりで不思議と取りこぼすレースも見受けられるようになりました。

タイムトライアル2位、PIST6初参戦の荒川仁

 その頃の荒川は力があるのに出し惜しみをしてしまうところがあり、「構えたレース」をしてしまうがばかりに、仕掛けどころが遅くなっていました。その結果、実力は勝っていても、先に動いていた選手を捉えられないことがありました。

 そのことを覚えていたので初参戦となったPIST6では「消極的なレースにならなければいいなあ」と見ていました。そんな中、一次予選も二次予選も捲りで快勝。準決勝では番手からのレースで小玉拓真の追撃を振り切るなど、しっかりと勝ち上がることに専念した走りを見せていましたね。

 その荒川と同じように一位予選からの3連勝で勝ち上がってきたのが山田義彦です。山田と言えばギア倍数5.67という「大ギア」であり、今大会でもその特徴を生かした先行力のあるレースを見せていました。タイムトライアル1位は山田で、2位が荒川となっていただけに、この2人の仕掛けどころや駆け引きが、勝敗の分かれ目になると見てました。

「PEDAL ON」で仕掛けた志智の狙い

 決勝のスタートの並びはインコースから③真船圭一郎吉田裕全山田義彦荒川仁志智俊夫小玉拓真となりました。

「PEDAL ON」の前から動き出したのは、5番手となっていた志智です。志智は今年で51歳とは思えないほどの若々しいレースをPIST6で見せており、どの大会でも決勝の常連となっています。

 ベテランらしい経験値もあるのか、後方のままではいけないと思っていたのでしょうし、自分が前に行くことで、「後ろの山田もしくは荒川が早めに仕掛けてくる」と考えていたと思います。仕掛けてきたところで、その後ろに入ろうとの公算があったはずです。

「PEDAL ON」で一度、先頭となった志智でしたが、すかさず巻き返してきたのが荒川であり、そのすぐ後ろには山田が入っています。志智としてはこの2人の後ろでも勝負になると見込んでいたはずが、荒川は山田を前に行かせようとしたのか、一瞬、並走状態となります。

山田義彦(1番車・ホワイト)の動きを確認する荒川仁(2番車・ブラック)

荒川と山田の“ギア比の違い”

 個人的な意見となりますが、ここで荒川は山田を突っ張るべきでした。それは初出場の荒川には若々しく、そして大きなレースをして欲しいとの気持ちもありますが、自分が注目していたのは、2人の“ギア比の違い”でした。先ほども書いたように、山田のギア比が5.67なのに対して、荒川のギア比は決勝に進んできた6名では最も低い4.62。これは2人の脚質の違いも関係しています。

 この決勝では山田のほかにも志智、そして吉田が5.67倍の大ギアを使っていましたが、これはベテラン選手になればなるほど、瞬発力は劣っていくものの、地脚とも言われる持久力は練習で補えます。その一方で、軽いギアだと踏み出しが速くなるので、一瞬で他の選手を引き離すことができます。

 荒川のような若い選手は軽いギアを使用することで、ダッシュ力を生かしたレースができます。ゴール前のトップスピードでは、ギア比の大きな選手に劣りますが、それまでにセーフティーリードを保っておく、もしくは並走となった時に一気に踏み出すことで、ギア比の大きな選手の持ち味を封じ込めることができます。

クレバーなレースを見せた小玉は惜しくも失格に

 残り2周で並走となった荒川と山田ですが、荒川は山田の内側にいました。内から軽いギアでスムーズに加速ができる荒川に対して、外で大ギアをかけている山田は、スピードを出した場合、遠心力の関係で更に外へと膨らんでいきます。その展開となれば荒川は山田との距離を取ったままレースの主導権を握れたのでしょうし、思い切って2周先行でもいいレースになったのではと思います。

 荒川には山田の後ろを取りたいとの考えもあったと思いますが、その位置を見逃していなかったのが小玉拓真でした。小玉は二次予選、準決勝と荒川の後ろからレースを運んでの2着。PIST6は初出場ながら、先行しそうな選手の番手戦を選んだ辺りにレース巧者ぶりを感じさせます。

失格となるも山田義彦(1番車・ホワイト)の後ろで勝機を模索した小玉拓真(4番車・ブルー)

 ただ、小玉は5周目の3コーナー過ぎで、先にスプリンターレーンを走っていた荒川の進路に侵入して失格となってしまいました。競輪的にはセーフなのかもしれませんが、PIST6のルール上ではアウトとなりました。どのレースも力のある先行選手に恵まれるなど、運もあったのは事実ですが、それでも初出場とは思えないほどにクレバーなレースを見せてくれただけに残念でした。ただ、この経験は今後の参戦にも必ず生きてくるはずです。

レース巧者ぶりが光った真船

 残り1周で山田-小玉の3番手となってしまった荒川は、外からの捲りを狙っていたはずですが、その外で並走していたのが真船でした。真船は競輪でも若手選手と一緒のレースでは、果敢に叩き合いを挑んでいく姿がよく見られますし、この決勝でも荒川を封じ込めれば、優勝のチャンスが回ってくると考えもあったのでしょう。ただ、外並走を続けながら向こう正面から捲り追い込みをしていった走りを見ていると、闘争心の強さだけでなく、能力も高い選手だと思いました。

残り半周、外から捲り追い込みを仕掛ける真船圭一郎(3番車・レッド)

 結果は山田がそのまま逃げ切って優勝。2着入線は小玉となったものの失格で降着。3着入線の真船が2着、4着入線の志智が繰り上がっての3着。山田と人気を分け合っていた荒川が4着に沈んだことで、3連単は6100円というなかなかの配当となっています。

残り2周からそのまま逃げ切った山田義彦(1番車・ホワイト)

 山田はこれで3度目の優勝となりました。大ギアで作戦通りのレースができたと思いますし、優勝後のコメントでも先行しか考えてなかったと言っていたように、年齢を感じさせない積極さで勝利を掴み取っています。PIST6での実績が物語っているように、勝負所を逃さない見事な仕掛けでした。

 そう思うと不利とは言えども、決勝で力を発揮できなかった荒川はかなり悔しいと思います。荒川の走りだけでなく、選手としての実力からしても、PIST6の絶対王者になりつつある中島詩音にも重なる部分があります。ただ、中島との違いはレースにおける積極性です。

 荒川は怪我に悩まされていた時期もありましたが、昨年末はA級2班へ特昇するなど競輪でもいい走りを見せています。PIST6はA級の若手選手たちが、S級の選手とも真っ向から戦える舞台でもあるだけに、次回はこの悔しさをレースにぶつけてもらいたいです。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

 3連覇を果たした山田義彦です。次回以降の大会も大ギアの持ち味を生かすような走りを期待しています。そして敢闘賞は荒川仁ですね。地元千葉で行われているPIST6でもありますし、他の選手より250バンクを走る機会も多いはず。次の大会では優勝という形でリベンジを果たしてもらいたいと思います。そのポテンシャルは十分に持ち合わせています。

逃げ切りで完全優勝を果たした山田義彦(表彰台でポーズを決める3人、左から真船圭一郎山田義彦志智俊夫)


【netkeirinからPIST6のレースに投票しよう!

netkeirinではPIST6の出走表を見ながら、ラクラク買い目を作成することができます。作った買い目はTIPSTARの車券購入ページに送れるので、そのまま車券投票が可能です。選手の成績やタイムトライアル結果などを参考にしながら、ぜひベッティングを楽しんでください。


●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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