2022/12/16(金) 18:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は12月12日・13日に行われた「フォースクォーター」PIST6カップ1の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 サードクォーターファイナルラウンド 決勝レース動画】
自動番組で並び順が決まるPIST6ですが、決勝レースの並びを見た時に、「これは村田が可哀そうだな」と思いました。今ラウンドの村田はタイムトライアルで1位となっていただけでなく、捲りもあれば先行もあり、非常に幅広いレース内容で3連勝の勝ち上がりを決めていました。「サードクォーター」PIST6カップ2に続く優勝も十分に狙える仕上がりだったと思います。
ただ、不利とされている最後方6番手からということだけが“可哀そう”だったわけではありません。この決勝では1番手の木村佑来から119期の3人がズラリと並ぶ枠順になっていました。木村佑来は二次予選と準決勝で1番車、突っ張り先行でそのまま後続を振り切っての連勝を決めています。木村佑来はこの決勝でも突っ張り先行が濃厚という状況でした。
しかも、木村佑来の後ろには「サードクォーター」ラウンド7から連勝中の木村皆斗。しかも、3番手には同期の2人の走りを良く知る石塚慶一郎がいるわけですから、まさに競輪で言うところの「同期ライン」のような形になってしまいました。こうなると、レースの流れはハッキリします。私はこの時点で展開が想像できて、まさにその通りの結果となりました。同じように119期から狙っていた方も車券を取れたことでしょうね。
それでは改めて枠順を確認しましょう。インコースから③木村佑来②木村皆斗⑤石塚慶一郎⑥小峰烈④國廣哲治①村田瑞季となりました。
119期の3人の後ろに入ったのは、ベテランの小峰と國廣です。両選手ともに「脚を使ってでも前の3人を交わしていく」戦法よりも、後ろにいる村田が上がってきたタイミングで後ろに付いていこうと思っていたはずです。
「PEDAL ON」まで並びを変えていく“ワープ”を試す選手もいないまま、ついに最後方にいた村田が動き出します。その後ろに付けたのは國廣でした。ただ、その動き出しを分かっていたかのように、前を行く木村佑来との車間を取っていた木村皆斗は、村田の捲りに併せるかの様に発進。しかも、後ろの石塚も木村皆斗に付いていったために、木村佑来の先行を2人が手助けするような形となりました。
「捲りきれない」と思った村田は隊列に戻ろうとしますが、後ろにいた國廣が石塚の後ろに切り替えたので、5番手からの立て直しを余儀なくされます。残り1周回となった時、脚を溜め直した村田は再度仕掛けていきました。國廣の位置までは届いたかに見えましたが、前を行く3人はさらにスピードを上げていたので、そこからの追い上げは効きませんでしたね。
3コーナーを過ぎてから木村佑来の番手を回る形となっていた木村皆斗が、最終コーナーを前にスパートしました。木村皆斗は決勝の並びを見た時に木村佑来の後ろを回っておけば大丈夫と思っていたはず。最後方となった村田よりも怖いのは、すぐ後ろにいる石塚とも思っていた気がします。村田の捲りだけでなく、石塚の仕掛けにも警戒し、道中で木村佑来との車間を取っていたのだと思います。
一方、石塚としては木村皆斗は競輪学校(現・日本競輪選手養成所)の同期ですし、高校時代からスクラッチやロードでしのぎを削ってきたライバルでもあります。もし並び順で2人の位置が離れていたのならば、木村皆斗だけを意識したレースをしたかもしれません。
決勝は(こちらも同期の)木村佑来が突っ張り先行をしてくるのが分かっていました。その木村佑来を捉えに行く判断もあったとは思いますが、共倒れになる可能性もかなり高い。そんなことになれば木村皆斗をさらに有利にするだけですからね。石塚は木村皆斗の後ろにつけて「直線勝負にかけた方が勝利に近い」と決断したのでしょう。
ただ、万全なレースをしていた木村皆斗を抜き去るのは、そう容易いことではありませんでしたね。前回も完全優勝と実力も申し分ないですし、今回はそこに並びの運も加味されていました。そうなると木村皆斗を止めるのは難しく、本人も自信を持ってレースができたと思います。
一方、運がなかったのは冒頭でも書きましたが村田です。今回はタイムトライアル1位で、予選からスピードの違いを証明してきましたが、なぜ決勝では「最悪」とも言える並びになってしまったのだろうかと傍目から見ても可哀そうでした。
そんな中で「いいレースをしたな」と思えたのが木村佑来です。木村皆斗と石塚にはゴール前で交わされたものの、長い距離を踏んでいきながらの3着は見事です。特に準決勝では先行体制に入った後に、後ろから仕掛けていった選手を2度に渡って突っ張り切りました。
木村佑来はデビューして間もない頃から注目していた選手です。しかし、今年の夏にレースを見た時には、調子を崩している感じがあり気になっていました。ただ、自分も解説に行っていた「坂本勉カップ争奪戦」のA級決勝戦では、バックを取って2着に逃げ粘るなど、最近は復調する気配も見て取れました。
今ラウンドもチャレンジ精神で臨んでいたと思いますが、「自分が突っ張れるだけの脚を持っていること」を再確認できたはず。本人にとってこの結果は自信となっていることでしょう。木村佑来が次のPIST6参戦だけでなく、競輪でもどんな走りを見せてくれるか。みなさんも注目して追いかけてみてください。
その木村佑来だけでなく、ゴール前で木村皆斗を交わせなかった石塚もまた、同期の優勝はとても悔しかったに違いありません。今のところは木村皆斗に一歩リードされてしまっていますが、2人とも『挑戦していく気持ち』があれば、必ずチャンスは巡ってくるはずです。
また、2開催続けての完全優勝となった木村皆斗ですが、前の大会から連勝を重ねていただけに、負けられないというプレッシャーもあったことでしょう。でもそういったプレッシャーを跳ねのけるような走りは見事でした。S級選手との混合戦ではチャレンジャーかもしれませんが「思い切ったレース」をしていけば、今後も木村皆斗に結果は付いてくると思います。
MVPと言えば当然のように木村皆斗でしょう。これで4度目の優勝となりますが、結果に甘んじることなく、向上心を持ちながらPIST6に取り組んでいる印象があります。S級A級混合戦でもその走りは通用するのは言わずもがなですね。
そして敢闘賞は木村佑来です。決勝の結果こそ3着ながらも、二次予選や準決勝の走りは強く印象に残りました。石塚も含めて、また同期の3人が違った並びで戦う時、それぞれがどんなレースをするか楽しみです。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。