2025/05/12(月) 12:00
東京スポーツの前田睦生記者がレースの中から”思わず唸った”選手をピックアップする「今週の競輪好プレー」。今週は競輪の極みを体現した荒井崇博の好プレーをお届けします。前田記者直筆解説と一緒にぜひご覧ください。
平塚記念の初日、5月10日は煌びやかなナイター開催で、最終の初日12R特選の豪華メンバーに場内は湧き立っていた。GIさながらの歓声の中、レースは進んでいく。松井宏佑(32歳・神奈川=113期)が先頭に立ち、打鐘の音とともに犬伏湧也(29歳・徳島=119期)が襲い掛かる。
あっ…。犬伏マークの荒井崇博(47歳・長崎=82期)は車間が空いてしまう。「千切れとるけん、ダメやろ」。確かにこのポイントを見ると失敗の走りになるが、そこでレースを終わらせない走りがあった。
離れた後…の好プレーがあった。「犬伏に迷惑はかけられんやろ!」。荒井の脳はその時点で把握に入った。神奈川3番手で踏み遅れていた和田真久留(34歳・神奈川=99期)の前に切り込み、松井と郡司浩平(34歳・神奈川=99期)が犬伏をけん制に上がったところを、先頭まで進んだ。犬伏をもう一度生かそうとする好プレーだった。
荒井の動きがなくとも、結果は犬伏が強くて勝っていたかもしれないが、外に1人でいる犬伏を目標に深谷知広(35歳・静岡=96期)がのみ込んでいた可能性はある。
2角上バンクから犬伏が先頭まで出切ることを捉えていた。犬伏としては「内外線間に荒井さんが見えた」と、荒井の動きに反応してドッキングを目指す。荒井は「早く犬伏、来い!松井に手こずりすぎやろ!」と思っていたそうだが、荒井は内から踏んで松井を合わせ切って、バックを取る形で犬伏を迎え入れた。
一度離れている地点があるので★は4つとしたい。とにかく、離れてもレースを捨てず、ラインをもう一度生かさないとと盛り返した走りは競輪の極みだった。
「お前のためにラインがあるんじゃねえ、ラインのためにお前がいるんだ」
昔からある格言が思い出された。「いや、千切れとるんよ、俺!」と怒られそうだが、4角でドッキングした時の“なんとかなった…”感が、心を打つものだったのは事実で、好プレーとして取り上げさせてもらいたい。競輪をやる男、競輪選手としてしのぎを削っている男の、熱い夜だった。
すごいで賞=★★★★☆(星4つ)