2024/08/20(火) 14:56
静岡県伊豆市の日本サイクルスポーツセンターで6月22日、23日の2日間に渡って、開催された全日本自転車競技選手権大会ロードレース。ロード2日目の朝は、濃い霧と包まれ、雨の中おこなわれた。
早朝は絶望すら感じさせられる天気に見舞われていたが、朝から開催されたマスターズのレースは、コース短縮の措置もないまま予定通り開催され、少しずつ、天気も好転していった。
雨に濡れた会場。男子エリートの頃までには、雨の勢いは落ち着いたが、強風が皆を悩ませた
大会で最も大きな注目を集める男子エリートのスタート準備が始まる頃には、雨も小雨になり、集まった観客たちも傘をささずにいられる程度の天候に。ただ、マスターズを走った選手によると、悪天候の影響でコース内に砂が浮き、非常に滑りやすい箇所が多いとのこと。風も時間を追うごとに強くなっており、厳しいコンディションであることは間違いなかった。
この日、使用されるのは、通常のサーキットに、登坂の厳しい3kmを追加した8kmサーキット。まったく休む場所がなく、ひたすらアップダウンを繰り返す、日本屈指のタフコースだ。このコースを20周する160kmで競われる。周回コースであるため、何度も何度も厳しい登坂がループ再生のように繰り返される160km。国際レースのために来日する選手がよく「日本の特殊な設定のレースに慣れる必要がある」と語るが、今回のレースの設定は、まさに日本特有のものと言えるだろう。
使用されるコースは、一般開放されている5kmサーキットに厳しい登坂が続く3kmを加え、終始アップダウンが続くタフな8kmサーキット
スタート時刻の午前11時を前に、参加選手がラインナップする。コールを受け、パリ五輪にトラック競技で出場を決めている橋本英也、今井駿介(ともにチームブリヂストンサイクリング)と、ロードレースに出場する新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が最前列に並んだ。新城は最高峰のワールドチームに所属し、ヨーロッパで活動しており、このために来日してレースに臨んだ。昨年同コースで開催された全日本で勝ったディフェンディングチャンピオンの山本大喜(JCLチーム右京)も最前列に並んだ。
観戦に駆けつけた観客の歓声を浴びながら、参加する選手がスタート。優勝者が決まるまでは、長く、厳しい戦いになるだろう。
107名が参加するレースがスタート
スタート直後に飛び出したのは、橋本英也。会場を沸かせながら、先頭を行く。
橋本はほどなく、集団に吸収され、そのカウンターアタックで飛び出した元プロ選手の井上和郎(バルバサイクルレーシングチーム)が先行、大歓声を浴びながら2周目に入っていく。こういった選手たちもアマチュア選手として多数エントリーしており、出場資格をクリアしたアマチュア選手たちがプロとともに挑むことも、全日本選手権の見どころの一つになっている。
風はますます強まり、チームテントも飛び上がりそうなほどの強風に。コンディションは悪く、コースは果てしなくキツく、このコースにしては、設定距離も長い。消耗の激しいこのレースを、チームとして、選手個人として、いかに走るかが、レースの結果を分けることになりそうだ。
集団のまま周回をこなしていく。落葉があり、濡れて滑りやすい路面の中、アップダウンを繰り返す選手たち
井上が吸収され、4名が抜け出すが、ほどなく吸収され、集団のままレースは推移した。
4周目に入ると、また動きが生まれる。若手の実力派、石上優大(愛三工業レーシングチーム)が飛び出し、4名が協調。逃げ集団が形成された。だが、この集団も吸収され、新たな飛び出しがかかるものの、また集団に捕らえられる。
抜け出した選手らを捕らえるものの、集団は人数が激減
この抜け出した選手たちを捕らえるためのスピードアップを受け、メイン集団から堪えきれなくなった選手たちがボロボロとこぼれ落ちていく。レースははやくも大いに人を減らし、107名だったメイン集団は、6周目の段階で、もう3分の1にまで絞り込まれていた。
7周目に東京2020五輪に出場した増田成幸(JCLチーム右京)が抜け出し、逃げ集団を作ったが、吸収され、再度8周目にアタック。ここに2日前のタイムトライアルの全日本選手権で2位になった宮崎泰史(キナンレーシングチーム)が合流した。今度は集団が先行を許し、2名で先行する形に。集団はこの一連の動きで疲弊し、20名以下にまで小さくなっていた。
増田成幸(JCLチーム右京)がアタック。40歳のベテランながら、’22の大ケガから完全復活を遂げ、この日も積極的に動いた
先行する2名のスピード維持能力は高く、集団との差を2分半まで一気に開く。宇賀隆貴(さいたま佐渡サンブレイブ)が単独で集団から飛び出し、先行する2名を追い始めた。
増田と宮崎泰史(キナンレーシングチーム)が先行
宇賀隆貴(さいたま佐渡サンブレイブ)が単独で追走を始めた
力のあるメンバーに絞り込まれたメイン集団
12周回目に増田がパンク、修理のために遅れたが、追走していた宇賀と合流、2名で先頭復帰を目指して再スタートした。
ペースアップした集団が13周回目に入ると、増田と宇賀を吸収、先頭は宮崎1名となった。ここで注目の新城が滑って転倒し、左肩を負傷してしまう。
全員が吸収され、再び集団に戻るが、人数はかなり絞り込まれていた
帰国し、単騎でレースに臨んでいた新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が転倒し負傷
宮崎は単独で先行を行っていたが、スピードを上げた集団に吸収された。ここで、今季絶好調で、2日前のタイムトライアルの全日本選手権を制したばかりの金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)が飛び出す。金子の動きに追随できたのは、昨年のタイムトライアルチャンピオン小石祐馬と山本大喜(ともにJCLチーム右京)、一昨年のJプロツアーを制した小林海(マトリックスパワータグ)のみだった。
4名の先頭集団が形成された
4名の中では、2名を送り込んだJCLチーム右京が有利。レースの経験値という面で言えば、若い金子がもっとも不利であり、日常的にはフルタイムワーカーとして勤務し、クラブチーム所属で、守ってくれるチームメイトもいないまま最終局面を迎えている点でも不利である。
この4名の後ろには、ワールドチーム組の新城と留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)や石上優大(愛三工業レーシングチーム)らが追走で控えている。追いつかれれば、まったく違う展開になる可能性もあり、逃げ切りたいなら、先頭はペースを維持するしかない。山本大喜が先頭交代の中で先頭を引くことを拒否するシーンもあったが、金子中心に先頭を引き、4名の体制をキープしたまま、周回をこなしてしていった。
先頭4名を追う4名。ここには新城と留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)と、世界最高峰のワールドチーム所属選手が2名含まれている
ラスト2周、小林が仕掛けたが、3名はすぐに反応。4名の体制が崩れることはなかった。一方で追走集団からは徐々に選手がこぼれ落ちていき、2名に絞り込まれていた。
厳しいコンディションの中の、残酷なまでにタフなレース。どの選手も激しく消耗されており、この後の後ろからの展開はないと見てよいだろう。事実上、今年の優勝候補はこの4名に絞られた。
小林海(マトリックスパワータグ)が仕掛ける
先頭集団からいったん小石が遅れたが、復帰し、4名の体制で最終周回に入る。それぞれ相手の出方を見ながら、周回を走り、4名のままで最終決戦へ。
最終周回に入り、先頭は牽制し合いながらフィニッシュを目指す。金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)が最も長く先頭に立っていた
まず、小石が仕掛けた。捕らえたところからカウンターアタックが仕掛けられ、遅れたものの、小石は先頭3名に再度合流、そしてそのままの勢いで、3名をかわし、単独でゴールに向かって加速していく。
ゴールスプリントがかけられ、先行した金子に小林が並びかける
金子を交わし、小林が勝利をもぎ取った。死闘の末の勝利に喜びが湧き上がる
小石をかわして金子が加速し、ラスト150m、金子が先頭に立つ。山本大喜はこれに反応できず、小林だけが金子を追って加速して行った。小林は金子を捕らえ、横に並ぶと、金子をかわし、振り切って、高く腕を天に突き上げながらフィニッシュ。自身のキャリアで初めて、全日本エリートのタイトルを手にしたのだった。
2位には金子、3位には山本大喜が入っている。山本は3年連続の全日本選手権表彰台となった。
優勝した小林、2位の金子、3位に入った山本大喜(JCLチーム右京)の表彰台
小林は「めちゃくちゃキツかった」とレースを振り返った。序盤から「信じられないくらい」ペースが速く、終盤、4人になってからもキツく「何も考えることもできないような状態で、レースをこなしていた」「勝てると思っていなかった」と謙遜する。最後金子に並んだ時、先着できるという体感はあったという。体調不良や故障もあり、不調が続いていたが、2年ぶりの勝利。喜びが湧き上がるような笑顔を浮かべていた。
タフなコースに、強風と荒れた路面コンディションの中、非常にきびしい展開となった男子エリート。完走は19名だった。
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【結果】
全日本選手権ロードレース2024
男子エリート
1位/小林海(マトリックスパワータグ)4時間47分25秒
2位/金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)
3位/山本大喜(JCLチーム右京)
4位/小石祐馬(JCLチーム右京)+10秒
5位/石上優大(愛三工業レーシングチーム)+1分4秒
◆全日本選手権ロードレース(女子)のレポートはこちら
画像:Satoshi ODA(P-Navi編集部)