2024/02/15(木) 11:23
第29回シクロクロス全日本自転車競技選手権大会が1月13日~14日に、栃木県宇都宮市の「宇都宮ろまんちっく村」特設コースで開催された。会場に設営された特設コースは、テクニック、パワー、スピードが試される難コース。三段坂などの厳しい登坂や斜面をゆく「キャンバー」など、シクロクロスの要素がふんだんに盛り込まれている。
国際レースなど重要なレースで使用されて来た名コース(出典:日本自転車競技連盟コースレイアウト資料より)
※シクロクロス全日本戦選手権(女子)のレポートはこちら
男子エリートは、14日午後2時半にスタート。今季負けなしの強さを見せ、次元の違う走りを見せる織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)が本命。宇都宮開催ということで、なんとしても地元で勝利を飾りたい沢田時と小坂光(ともに宇都宮ブリッツェン)も注目に推されていた。沢田が全日本を初めて制したのも、このコース。相性もよく、モチベーションは高い。さらにはこの難コース、難コンディション下では、これまで各国で経験を積んできたベテランながら、今季欧州遠征も経て、じわじわと調子を上げている竹之内悠(/slashCinelli-Vision)の存在も無視できないと見られた。
男子エリートレースが始まった。いっせいに全力で飛び出す
緊張感に満ちたスタートから、一気に選手が飛び出した。最初にコーナーを回ったのは、竹内遼(GHISALLO RACING)。だが、有力勢は落ち着いてペースを上げ、主導権を握りに行く。織田はペダルの金具の装着にわずかなミスがあり、スタートで、少し遅れを取っていた。
宇都宮ブリッツェンの赤いジャージ2名を先頭に三段坂をクリア
凍りつき、スリッピーなキャンバー(斜面)に勢いよく突入
1周目中盤では、先頭に沢田、続いて小坂が上がり、三段坂へ勢いよく突進していった。地元選手の先行に、会場の観客は大いに沸いた。このまま2名を先頭にシングルトラックへと入っていく。
順調に先頭をゆく沢田時(宇都宮ブリッツェン)
もちろん、好調の織田が後ろに控えているはずはない。織田は着実に位置を上げ、2周目に竹内とともに先頭のパックへと合流した。竹之内、横山航太(PEDAL)らもこのすぐ後ろに控え、先頭を追う。
先頭を追う小坂光(宇都宮ブリッツェン)、横山航太(PEDAL)ら
ここで、沢田を悲劇が襲った。キャンバー区間を走る中で、チェーンが落ちてしまったのだ。チェーンを直すロスは数十秒ではあったが、このシビアな局面での数十秒は、残酷なまでに大きかった。沢田は、先頭から一気に順位を下げてしまった。織田は自分のペースを掴んだかのように、軽快にペダルを踏み込み、スピードアップしていく。この時、織田は、後続を引き離そうと「全開で攻め」たという。ハイペースを刻む織田は、一気に後続選手との差を開いて行った。竹内はこのペースアップに堪えきれず遅れ、織田は単独で先頭を走る形に。竹内との差は、ぐんぐん開いていく。
沢田が遅れ、単独首位となり、ペースを上げながら集中して走る織田聖
これまでのレースのデジャブを見るかのように、先頭を単独で快走する織田。揺らぎもためらいもなく、圧巻の走りで先頭を行く。
バイクトラブルで遅れ、地元宇都宮の応援を受けながら、全力で追い上げる沢田
沢田はレースに復帰し、全身で応援を受け止めながら、決死の追い上げを見せた。見事に遅れを取り戻し、2位の位置にいた竹内に合流すると、2名で先頭の織田を追った。
揺るぎないペースで先行する織田
織田の走りはこのコースでも驚くほど正確で安定しており、ミスや遅れもなく、ペースも衰えない。力強いペダリングで、軽やかに先頭を走り続けた。
沢田はついに竹内を振り切り、単独で織田を追った。だが、織田の走りは、その上を行っており、思うように差を詰めることはできなかった。
沢田は全身全霊をかけた走りで、2位まで位置を上げた
織田は悠々と先頭を走り、そのまま貫禄のフィニッシュ。軽々と全日本選手権の連覇を達成して見せたのだった。バイクを高く掲げ、大きな声援を浴びながら、連覇の喜びを噛み締めていた。
高々と上げた手で「1」を示し、独走でフィニッシュ、連覇を決めた織田
2位には沢田がフィニッシュ。3位には竹内が入り、4位にはテクニックに長けた美しい走りで、会場を感嘆させた竹之内が入った。
連覇を達成した織田は、女子も同チームの小林あか里選手が制し、チームで全日本を制覇できた喜びと、チームや、ここまで支えてくれたメンバーへの感謝を語っていた。
ゴール後、地面に座り込み、悔し涙を流した沢田。11ヶ月後、この地で開催される次の全日本選手権で雪辱を果たすことを誓った
沢田は人一倍大きな思いを胸に臨み、勝利に向けて走ったが、この日、勝利の女神は沢田に微笑まなかった。「不運もあったが、そこから差が開いていく展開となってしまい、脚(力)が足りていなかったかなという思いもあり、悔しいが、準優勝というのが、今日出せる一番いい結果だったのかなと思う」と、悔しさをにじませながら語った。
優勝した織田、2位の沢田、3位の竹内が並んだ表彰台
プレッシャーから解放され、笑顔を見せる3名
今年は、この後UCIレースや大きなレースもなく、全日本選手権の終了を以ってシクロクロス レースは一区切りとなる。
この日、2024-25シーズンの全日本選手権が、今年12月に、このろまんちっく村で開催予定という告知があった。この日の結果に一喜一憂していた選手たちが、次の決戦は早くも11ヶ月後にやってくるという現実を突きつけられ、ピリッと空気が引き締まったようだった。
選手たちの目は、早くも、次のシーズンに向けられている。
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【結果】
シクロクロス全日本選手権 エリート男子
1位/織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)58:27
2位/沢田時(宇都宮ブリッツェン)1:40
3位/竹内遼(GHISALLO RACING)2:06
4位/竹之内悠(/slash Cinelli-Vision)2:44
5位/小坂光(宇都宮ブリッツェン)3:26
画像:Satoshi ODA(P-Navi編集部)