2023/07/05(水) 10:22
ツール・ド・熊野の第2ステージが6月4日、「くじらの町」として知られる和歌山県太地町を舞台に開催された。長い歴史を持つ大会の中で、いつも最終ステージとして開催されてきた「太地ステージ」は太地湾に面した海沿いを走り、ジェットコースターと形容されるように、登りと下りが繰り返されるハードなコースが設定されている。
※第1ステージのレポートはこちら
このステージの舞台は例年通り太地町であるが、今年は新たなルートを通るコースが用意された。くじら浜公園前をスタートし、太地港、梶取崎を通り、太地小学校前を左折し、言葉の意味通り太地半島を1周して走るコースになっている。山岳賞の設定もなくなったが、太地港からの登り坂や、太地小学校前では、急な下りのヘアピンカーブなど、周回ながら変化に富み、けっして侮れないコースが選手たちを待ち受ける。今年は、この1周10.5kmのコースを使用し、104.3km(パレード0.7kmを含む)のレースが設定された。毎年完走率が低いステージとして知られていたが、新コースを用いたレースでは、どのように
レースが展開していくのだろうか。
まさに半島を周回する「太地半島周回コース」(大会公式サイトより)
なお、このコース内にはスプリントポイントが設定され、上位で通過した選手はポイントとともにボーナスタイムが獲得できる。フィニッシュ順位に応じて獲得できるボーナスタイムと合わせると獲得できるタイムは最大で16秒。36秒差を追う選手が20名ひしめくこの日のレースでは、「16秒」は大きな価値を持つ。
この日も、朝から青空が広がり、多くの観客を迎える中、選手たちがスタートラインについた。リーダージャージを着るのは、前日優勝した山本大喜(JCLチーム右京)だ。同じく山本大喜が保有する山岳賞ジャージは、前日山本大喜とともに先頭を走り、個人総合、山岳賞ともに2位につける岡篤志(JCLチーム右京)が着用する。新人賞ジャージを着るのは、留目夕陽(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)だ。
コールされ、手を挙げて応じるリーダージャージ姿の山本大喜(JCLチーム右京)
中間スプリントポイントやステージ優勝で逆転優勝の可能性も小さくはないため、序盤から狙ってくる選手たちは積極的に動いてくる可能性が大きいと予想されていた。
ついにレースがスタート
開始と同時にアタックの応酬が始まった
気温が上昇する中、レースがスタート。やはり、中間スプリント賞やステージ優勝を狙う各チームのはげしいアタック合戦となった。スピードが上がり、長く伸ばされた集団が、ハイスピードで周回コースを走り抜ける。周回を重ねるにつれ、集団からこぼれ落ちる選手が目立ち始めた。
美しい水辺を走り抜ける集団
レース中盤までに選手は半数ほどまで絞られ、小さくなった集団の先頭は、リーダーを擁するJCLチーム右京が固め、ペースをコントロールし、レースはいったん落ち着きを見せた。
折り返しを越えた6周目、山本元喜(キナンレーシングチーム)が単独で飛び出し、先行した。
集団から飛び出す山本元喜(キナンレーシングチーム)
メイン集団は山本大喜を擁するJCLチーム右京がコントロール
翌周は、チームメイトのトマ・ルバ(キナンレーシングチーム)が合流し、この日も同チームの2名が先頭集団を形成する展開に。メイン集団との差は30秒から40秒まで開いた。
山本元喜にトマ・ルバ(キナンレーシングチーム)が合流、前日のデジャヴのように、同チーム2名の先行が始まった
レースはこのまま最終周回に。だが多くのチームがすでにメンバーを失っており、連携してペースアップする態勢が整わない。JCLチーム右京が牽引し、タイム差は縮まり始めたが、先頭で好ペースを刻む山本とルバとの差を詰めることはできなかった。
JCLチーム右京が牽引するが、積極的に加勢するチームもなく、ペースが上がらない
ルバを先頭に好ペースを刻むキナンレーシングチームの2名
山本元喜とルバはホームストレートに連れ立って姿を現すと、山本元喜を先頭にフィニッシュ。この日は、勝利を祝福する歓声の中、地元キナンレーシングチームが、ワン・ツーフィニッシュを決めた。
ホームストレートに現れ、山本元喜を促すルバ
山本元喜とトマ・ルバがワン・ツーフィニッシュを決めた
メイン集団では、残り3km地点でイエロージャージを着る山本大喜がバイクトラブルに見舞われ、遅れてしまった。救済処置によりメイン集団と同タイムとされたもの、総合2位の岡篤志が総合優勝となる決定となった。3位にはゲオルギオス・バグラス(マトリックスパワータグ)が入った。
山本元喜、トマ・ルバ、ゲオルギオス・バグラス(マトリックスパワータグ)の上位3名の表彰
個人総合は、この日メカトラブルで遅れた山本大喜に代わり、岡篤志(JCLチーム右京)が首位となった
奇しくも、2日間、同じ展開で優勝が決まり、この地域に深い縁を持つ山本兄弟が2レースの勝利を収める形となった。
山本元喜は「ステージ優勝を狙うチームの射程圏に(自分たちふたりが)ずっといたので、逃げ切れるか分からなかったが、トマがずっと引いてくれて遅れないようについて行った」とチームメイトへの感謝を語った。「応援してくれる人達の前でワン・ツーフィニッシュできて本当に良かった」と笑顔で喜びを語った。山本元喜はポイント賞も獲得。地元にとっても嬉しい表彰台となった。
山本大喜は惜しくも個人総合の優勝は逃したが、準優勝と山岳賞は獲得。応援し続けてくれた地域の方々の温かい拍手の中、笑顔を見せていた。
この日も恒例の「餅まき」が盛大に行われ、大会は幕を下ろした
国際レースは、外国勢が優勝を飾ることが多かったのだが、今回は日本人が表彰台の主要な位置を占めたことは、大きなニュースだろう。ツール・ド・熊野で日本人が総合優勝をするのは、15年ぶりとなる。
今年は、悪天候の影響を受け「古座川シティ・インターナショナルロードレース」の開催が叶わなかったが、来年はツール・ド・熊野と合わせ「熊野インターナショナル・ロードレースフェスタ」として、地域の魅力を発信するレースが、地域に歓迎されながら開催されることを祈りたい。
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【結果】
ツール・ド・熊野2023 第2ステージ/太地半島周回コース(104.3km)
1位/山本元喜(キナンレーシングチーム)2時間31分27秒
2位/トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)+0秒
3位/ゲオルギオス・バグラス(マトリックスパワータグ)+26秒
4位/フェリックス・スティリ(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)
5位/ライアン・カバナ(キナンレーシングチーム)
【個人総合順位(第2ステージ終了時)】
1位/岡 篤志(JCLチーム右京)4時間0分51秒
2位/山本大喜(JCLチーム右京)+0秒
3位/ジャンバルジャムツ・セインベヤール(トレンガヌ・ポリゴン・サイクリングチーム)+33秒
【ポイント賞】
1位/山本元喜(キナンレーシングチーム)25p
【山岳賞】
1位/山本大喜(JCLチーム右京)19p
【チーム順位】
1位/JCLチーム右京 12時間3分9秒
画像提供:©️TOUR de KUMANO 2023(P-Navi編集部)