2023/07/03(月) 16:20
6月3日、4日の2日間に渡り、三重県南部と和歌山県東部にまたがる熊野地域を舞台とするUCI(世界自転車競技連合)認定のステージレース「ツール・ド・熊野」が開催された。
美しい熊野地域の自然の中で開催されたツール・ド・熊野(丸山千枚田にて)
2020、21年は中止、2022年は国内チーム中心の大会としての開催をしており、複数の海外チームを招き、国際レースとしての開催となるのは4年ぶりだ。豊かな自然の中に設定されたコースは、非常にハードなコースであると同時に、この地域が誇る唯一無二の景観の中を走る美しさもあり、人気の高いレースである。今年は初めて、レース観戦ツアーも開催された。
今年は前日に、同様にUCI認定の国際レースである「古座川シティ・インターナショナルロードレース」が和歌山県内で立ち上がり、2つのレースを合わせ「熊野インターナショナル・ロードレースフェスタ」として3日間で連続して開催される形となった。(初日の「古座川ロードレース」は災害級の大雨のために中止になった)「ツール・ド・熊野」は、例年は3ステージで構成されているが、今年は2ステージに濃縮した形で開催される。
例年、2日目に行われ、クイーンステージだった「熊野山岳ステージ」が、本年度の第1ステージになった。熊野倶楽部をスタートし、風伝トンネルまでの緩やかな登りを超えた後、紀和町まで下り、町内の中心部をUターンして、最初の山岳ポイントであり2級山岳に指定される「丸山千枚田」に向かう。再び311号を引き返し、その後最難関の1級山岳に指定された「札立峠」へのヒルクライムへ向かう。この「札立峠」は道幅も狭く困難な登りであるが、越えた後の狭く急な下りも意外な勝負ポイントだ。この厳しい下りから、再び紀和町を折り返して、再び2級山岳の「丸山千枚田」に向かう、という104.5kmの非常に厳しいコースである。登り、下り、平坦すべてを制した者のみが勝利を手に入れることができる厳しいステージが、初めて初日に設定されたということもあり、どのような展開になるかと注目が集まっていた。
厳しい地形を生かして設計された熊野山岳コース。当日は通行止めを受け、「札立峠」に向かう登坂を割愛し、短縮コースで走ることになった(大会公式サイトより)
だが、前日この地域を襲った豪雨の影響で、コースの一部が通行止めとなり、1級山岳の「札立峠」への登りと下りが割愛され、2級山岳の「丸山千枚田」を2回登ってフィニッシュへ向かう63.7kmに短縮されることに。距離が半分近くになり、最も厳しい山岳がなくなったことで、戦い方も大きく変わったことだろう。
土砂崩れなどの懸念もあったが、当日の朝は、気持ちのよい青空が広がっており、気温も順調に上がっていく見込みとなった。
短縮が決定され、レースがスタート
午前10時にレースがスタート。距離の短縮を受け、早々に抜け出しを狙ったアタックの掛け合いが始まった。このアタック合戦は約20kmに渡って展開された。だが、主導権を握るチームがないまま、1回目の千枚田への登りに差し掛かった。
激しいアタックの掛け合いが続く>
この中、昨年までこの地域に住んでおり、コースをよく知る山本大喜(JCLチーム右京)が先頭に出て、2級山岳に指定される頂上を先頭通過、山岳賞ポイントを獲得する。
山本大喜(JCLチーム右京)が集団から抜け出し、山岳賞ポイントに向かう
この後の下りで、チームメイトの岡篤志(JCLチーム右京)が単独で飛び出し、山本大喜に追いつき、同チームの2名が先行して40km地点を経過する。例年はこの後に最難関の上りがあるが、今年、残すのは2回目の千枚田への上りのみだ。登坂力にもスプリント力にも優れた2名の先行に、緊張感が走る。
先頭を固めるキナンレーシングチーム
メイン集団の先頭には、悲願の優勝を目指す地元のキナンレーシングチームが集まり、コントロールを始めた。
岡篤志(JCLチーム右京)が合流し、山本大喜と2名で先頭を走る
先行する2名との差は30秒から40秒で推移したまま、2つ目の上りに差し掛かる。各チームが前に出てペースを上げようと試みるが、山本と岡のペースは衰えず、後続を寄せ付けない。集団と2名との差は30秒前後のままで、一向に縮まらなかった。
山岳の細い道を進むメイン集団
メイン集団は先頭2名に20秒差まで迫る場面もあったものの、追走の動きがまとまらず、力を合わせてのペースアップが叶わない。残り10kmを切っても、差が縮まる気配はなく、むしろジワジワと差は開いて行った。
先頭2名のスピードは衰えず、追う集団を寄せ付けずに先行を続ける
山本と岡は好ペースを刻み続け、2人揃ってホームストレートに現れ、山本を先頭にワン・ツーフィニッシュを決めた。メイン集団がゴールしたのは、それから36秒後のことだった。
山本大喜と岡がワン・ツーフィニッシュを決めた
優勝した山本大喜は、「今日は何としても勝ちたい」という気持ちで臨んだという。「昨年までこの地域をホームとするチームに所属しており、たくさんの方々に応援していただき、成長することができた。恩返しのためにもここで勝ちたいと思っていた」と、感慨深げに語った。「よく知っている下りは誰よりも速い自信があったので、攻めて差を広げた」と勝因を分析する。「明日も激しいレースになると思うが、何としても総合優勝を勝ち取りたい」と強い思いを述べ、インタビューを締めくくった。
優勝した山本大喜の健闘を称える主催者団体理事長の角口氏
山本大喜が個人総合、山岳賞も首位となり、リーダージャージと、山岳賞ジャージを手に入れた。今年は、このステージにしか山岳賞の設定がないため、山本大喜の山岳賞は翌日のステージを完走しさえすれば確定となる。
第2ステージは和歌山県太地町で開催。この日メイン集団で入った20名ほどがトップと36秒差となるため、個人総合成績は36秒差に多くの選手がひしめき合う形となっていた。第2ステージの展開次第では、逆転を叶えられる可能性は十分にある状況だけに、逆転優勝を狙う精鋭たちによる緊張感が漂った。
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【結果】
ツール・ド・熊野 第1ステージ/熊野山岳コース(63.7km)
1位/山本大喜(JCLチーム右京)1時間28分58秒
2位/岡篤志(JCLチーム右京)+0秒
3位/ジャンバルジャムツ・セインベヤール(トレンガヌ・ポリゴン・サイクリングチーム)+36秒
4位/中井唯晶(シマノレーシング)
5位/ベンジャミ・プラデス(JCLチーム右京)
【個人総合成績(第1ステージ終了時)】
1位/山本大喜(JCLチーム右京)1時間28分58秒
2位/岡篤志(JCLチーム右京)+0秒
3位/ジャンバルジャムツ・セインベヤール(トレンガヌ・ポリゴン・サイクリングチーム)+36秒
【山岳賞(第1ステージ終了時)】
1位/山本大喜(JCLチーム右京)19p
【新人賞(第1ステージ終了時)】
1位/留目夕陽(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)1時間29分39秒
【チーム総合時間賞(第1ステージ終了時)】
1位/JCLチーム右京 4時間27分30秒
画像提供:©️TOUR de KUMANO 2023(P-Navi編集部)