2023/05/10(水) 11:44
茨城県石岡市で「悲願」の「第1回獅子頭ライド」が3月18日、ついに開催された。
石岡のシンボル大獅子頭の前にて。茨城サイクリングナビゲーターの篠さん、もえさん
このイベントの初回は、2020年3月に企画され、そのルートの美しさとエイドの魅力から、期待値も高く、募集開始後ほどなくして満員御礼となった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大が進み、開催は中止に追い込まれた。その後も、毎年企画はされたものの、冬季の感染拡大を受け、3年連続で中止に。今回の開催は、3年の年月を経て、ようやく実現することができたものであり、関係者にとっても、くじけずにエントリーし続けた参加者たちにとっても、まさに「悲願」の開催だった。
雨の中、会場に集まってきた参加者
e-ticketを提示し、出走手続きを行う
改めて紹介すると、石岡市は、茨城県の県南地域に属する市である。ナショナルサイクルルートに指定された「つくば霞ヶ浦りんりんロード」に隣接(霞ヶ浦の北方)し、筑波山を望む位置にあり、石岡駅には特急も停車することから、東京からのアクセスも良好。サイクリストにとっては、ベストポジションと言える土地だ。
市内には、美しい里山風景が広がり、グルメも豊富。タイムスリップしたかのようなレトロな看板建築が並ぶ商店街は、文化庁から有形文化財に指定されている。この石岡の魅力を発信しようと、サイクリングイベントが企画されたのが発端だった。
石岡は「まつり」でも知られており、各地区に獅子舞があり、まつりの際には多くの観客を集めている。この地域に根付いた獅子舞文化から「獅子頭ライド(ししがしライド)」と名付けられた。
会場にスタンバイした獅子舞たち
「獅子頭ライド」のコースは、2種類。ベースになるのは、改築された「石岡市役所」をスタートし、反時計回りに石岡市内を1周する「ショートコース」。健脚組に向けては、このコースの西側から、筑波山系の南側に位置する朝日峠を上るヒルクライムパートが加わる「ロングコース」が用意された。
何と言っても、獅子頭ライドの最大のウリは、エイドステーション。市場には出回らない完熟イチゴや豊かな郷土料理がふるまわれる。満を辞して開催するこのイベントには、SNSでも期待の声があふれていた。
だが、イベント当日、会場には無情にも冷たい雨が降りしきっていた。低温だけでなく、風も強く、天気予報を信じるなら、雨風が弱まる見通しもない。市長を始め、実行委員会は苦渋の選択を迫られ、ヒルクライム区間を中止し、全参加者にショートコースを走ってもらうという決定を下した。雨に濡れた路面は滑りやすく、ブレーキの効きも悪くなる。参加者の安全を思えば、止むを得ない決断だったと言えよう。
この「ショートコース」は、距離にして48.9km、獲得標高は509mと、それなりにタフなルートである。緩やかなアップダウンを繰り返し、ダイナミックに走れる「フルーツライン」が盛り込まれており、疾走感や達成感は十分大きいだろう。
お囃子の演奏も披露された
獅子舞も見送り準備完了!
第1回とあって、400名に限定された定員は、早々に満員になっていたが、出走を取り止めた方もおり、エントリー数より少ない方々が並びスタートを迎えた。雨と防寒の対策を万全にされた方が多く、雨の中でも、リラックスした様子の参加者が多かったようだ。スタートに合わせ、地元の獅子舞保存会がお囃子を演奏し、獅子舞がスタートを見送った。
北西に向かって走ると、次第に里山の風景が開けてくる。出番に向けてスタンバイする田畑が広がる春の景観を抜ける。第1エイドである「旧有明中学校」に到着だ。
雨の中、整列しマナーよく走る参加者
田園風景の中を爽快に走る
雨に煙る春景色もオツなもの。花粉症に苦しむ参加者の中では「めぐみの雨」だったという声も
やった!ファーストエイドに到着だ
※最初のエイドで、参加者を待っていたのは……!?
最初のエイドでは「石岡サンド」が待っていた。「石岡サンド」とは、市内の菓子店やベーカリーなどが、「石岡市産品を使用」「サンドしている」「各店のオリジナリティが加えられている」という3つのルールを踏まえ、考案し販売するオリジナルフードのこと。スイーツが多いようだ。市内複数の店舗が販売しており、マップを手に、「石岡サンド」めぐりをするのも楽しいだろう。
参加者にふるまわれたブルーベリーといちごの「石岡サンド」
この日は、いちごとブルーベリーの「石岡サンド」が提供された。おいしいスイーツに、少し緊張していた参加者も、ほっこりとした笑顔を見せる。
湯気を上げるほかほかの「れんこんまん」
ほかほかの「れんこんまん」もふるまわれた。ジューシーで甘みのあるポークとシャキシャキのレンコンが包まれた、ふるさと納税でも人気の返礼品だ。第1エイドからして、肉まんとスイーツ。すでにコンプリートした感があるが、お品書きによれば、今後もまだまだふるまいがあるそうだ。
笑顔の参加者。温かい肉まんとスイーツのセットは大好評だった
ここからは、アップダウンが続く「フルーツライン」を走る。「脚に来るコースなので、ここでしっかりエネルギーと水分補給を」とのこと。栄養補給は、万全だ!
遠くの山並みと、手前に広がる草原を見晴らしながら走る。ブルーベリーファームの看板もあり、フルーツの名産地なのだろうと思いをめぐらせる。
ゆるやかなアップダウンが続くジェットコースターコース「フルーツライン」へ
自然豊かな里山を抜けていく
いよいよ、フルーツラインに入った。曇天ではあるが、空が広く、広がりのある春の景観が気持ちいい。時折、木立の間を抜けるなど、変化もあって楽しい。このあたりには、果物や野菜の直売所も多いのだとか。
フルーツラインは、細かいアップダウンはあるが、うまくペースをつかみ、リズムよく走れば、気持ちよく走れる。サイクリストに人気のルートというのも、納得だ。気温が低いとはいえ、もちろん冬ほどではなく、多くの参加者が快調にバイクを走らせていた。最近、大改装が終わり、話題のいばらきフラワーパークの前を走り抜け、第2エイドの「朝日里山学校」に到着。
ここでは温かいソバがふるまわれた。先ほど肉まんを食べたばかりのような気もするが、皆、にこにこ笑顔でソバを受けとり、美味しく味わう。
次のふるまいは、温かいおソバ!
地元の方々が手際良く調理と配膳をしてくれていた
笑顔でソバをすする参加者
さらに、完熟いちごが登場! そもそも、「いばらキッス」は、石岡が誇るブランドいちごで、クオリティーはピカイチ。遠方まで輸送できない完熟のいちごは、本当に貴重なもの。この日のために、この付近でいちご栽培を行う農家さんのご協力を得て、実現したものだという。
通常、地元にしか出回らない「いばらキッス」の完熟いちご
お皿には、なんと7粒もの美しいツヤツヤのいちごが並べられている。これほどたくさん、貴重ないちごを! これだけでも、十分「走った甲斐」があると言えよう。
口に運ぶと、香りたつような豊潤ないちご。最高の贅沢だ。ここから、ロングコースの参加者はヒルクライムパートに向かう想定だったが、この日は全員が第3エイドに向かうことになった。
ここからのパートは、農道などを織り交ぜ、車通りの少ない道を縫っていく。ここにも意外と小さなアップダウンが潜んでいて、ライドが終盤になり、気が抜け、からだも濡れていることもあり、じわじわ疲れが来た方も少なくなかったようだ。でも、あと少し!
春の石岡を笑顔で走る
アップダウンコースも、笑顔でクリア!
※いよいよ、巨大なアレが待ち受けている第3エイドに。
第3エイドの常陸風土記の丘に到着! ここには、巨大獅子頭が待ち受けていた。雨に濡れる獅子頭の大きいこと。中にも入れるようで、記念撮影を楽しむ参加者も。
名物の大獅子頭を記念撮影
大獅子頭の中に入ることもできる
このエイドでもボリュームメニューが待ち受けていた。味噌の風味が効いた「味噌焼きそば」と石岡名産の銘柄豚「弓豚」を使ったソーセージ。焼きそばにも、この弓豚が使われているのだとか。旨味がギュッと詰め込まれたソーセージも、味噌が香り立つ焼きそばも、絶品だった!
味噌が香りたつ名物の「味噌焼きそば」。希望者は大盛りもOK!
石岡名産の銘柄豚「弓豚」のソーセージ
エイドを出て、再出発。疲れもあるが、ラストスパートだ。スタートした石岡市役所を目指す。
ゴールへと向かう。景観や風情も多彩で、飽きずに走れるコースだった
立ち並ぶ家々の間を抜けていく
比較的、交通量の少ない道が使われており、アップダウンもほとんどなく、最後は皆、落ち着いて市役所にフィニッシュ! お腹も満たされ、雨ではあったが、大満足のライドだった。
ついにゴール! ショートコースではあったが、達成感や満足感はとても高かったようだ
実は、ゴールエイドも用意されており、最後に提供されたのは八郷地区の「しし鍋」。まったく脂っこくなく、野菜のダシもしっかりと効いていて、こちらも絶品。手作りの麹で作ったという、やさしい味の甘酒もいただき、ほっこりと、心もカラダも温められて、会場を後にした。
野菜たっぷりの「しし鍋」。「すでにお腹がいっぱいでも、美味しかった」と評判だった
温かいふるまいにホッとする
自家製麹の「甘酒」。地元のおもてなしの想いが詰まっているような、やさしい甘さを楽しんだ
あいにくの天気ではあったが、それでも石岡の春の景観は美しく、食べたもの全てが美味しく、ふれあう人々は皆、温かい。いつかまた走ってみたいと強く感じる土地だった。このイベントは、来年の開催は未定だが、また何らかのサイクリングイベントは、企画される方向だという。次はどのようなイベントが開催されるのだろうか。今から、楽しみだ!
画像:Yosuke SUGA
協力:石岡市サイクリングイベント実行委員会運営事務局(P-Navi編集部)