2023/02/08(水) 11:56
愛知県稲沢市の「ワイルドネイチャープラザ」に設営された特設コースで、シクロクロスの全日本選手権が1月15日に開催された。例年は12月に開催されており、シーズンも終盤の1月に全日本選手権が開催されることは稀である。この時期の変化が、各選手にとっては、どう機能するのか注目された。
※シクロクロス全日本選手権2023(男子)のレポートはこちら
ワイルドネイチャープラザのコースといえば、砂。シクロクロスでは、サーキット内に舗装道路や草地、泥、林間など、多様なフィールドを盛り込むのが常であるが、障害物など、降車してクリアする想定のセクションも含まれる。このコースで使用される公園の正式名称は「国営木曽三川公園ワイルドネイチャープラザ」。木曽川独特の河岸砂丘「祖父江砂丘」を生かして建設された公園である。この河岸砂丘を生かし、コース内には、テクニックを要する起伏のある砂セクションが含まれているのだ。全日本選手権でこのコースを使用するのは、今回が初めてとなる。
スタート後、長いホームストレートを走る選手
ホームストレートが他のコースと比べると長く、砂セクションは下り基調。コーナーも多く含まれてはいるが、比較的直線区間が長く、砂を走破できるエリートカテゴリーなどでは、ハイスピードのレースになることが予想された。コース1周は2.6kmに設定されている。
当日使用されたコース。長いホームストレートと砂セクションが特徴だ(出典:東海シクロクロス大会サイトより)
選手権の1日目は、マスターズのレースとシングルスピード(変速のない自転車)の選手権レースが開催された。
そして、迎えた2日目。午前中には、ジュニア、U15、U17、そして午後からいよいよ注目の男女エリートのレースが開催された。今季から「JCF(日本自転車競技連盟)シクロクロスランキング」が設定され、このランクが全日本選手権出場の条件となり、指定の3レースを走れなかった選手たちは、出場権が得られなかったため、例年より出走数が少なく、コンパクトなレースとなった。この日は好天に恵まれ、路面は完全なドライ。砂セクションにも、完全に乾いた砂が待ち受けていた。
女子エリートは、13時10分スタート。スタート時刻が近づくと、参戦する25名の選手が、緊張した表情で集結してきた。
スタートラインに並ぶ女子エリートの選手
今年の本命は今期勝利を量産している小川咲絵(AX cyclocross team)だ。どのような路面でも圧倒的な強さを見せ、テクニックとパワーのバランスの取れた力を見せている。今季のJCXランキングでは首位を走り、世界選手権への出場も決定しており、選手間では抜きんでた実力を見せている。
ディフェンディングチャンピオンは渡部春雅(明治大学)。今季も勝利を挙げているが、過去の同会場でのレースでは、砂区間に苦戦した経験もあり、この日の仕上がり次第というところか。また、急成長を見せている小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)は、今季、MTB(クロスカントリー)の全日本選手権、アジア選手権、ロードの全日本選手権(すべてU23)でも優勝を遂げ、「ここ一番」という重要な大会での強さを見せており、シクロクロスでも戴冠の可能性は十分にあるだろう。今季表彰台によく姿を見せている石田唯、大蔵こころ(早稲田大学)も注目だ。
ついに、スタートの号砲が鳴った。いっせいに25名の選手が飛び出していく。ハイスピードコースであり、さらに林間のエリアでは追い抜きが難しい。スタートダッシュは非常に重要だ。
ロケットスタートで先行した渡部春雅(明治大学)
弾丸のようなスタートを見せたのは渡部。ロードとポイントレースでも結果を残している脚を活かして、連覇に向けてのロケットスタートを繰り出した。渡部は一気にタイム差を築き、先頭を独走する。小川、小林、石田が追走集団を作り、そ
の後ろを走った。
今季卓越したスピードとパワーを見せている小川は、落ち着いて先頭の渡部を追う。じわじわと、その差を詰めると、1周目の砂セクションで、早くも小川は渡部に迫った。
砂セクションで早くも渡部に迫る小川咲絵(AX cyclocross team )
ここで、追走していた小林、石田も合流、先頭集団は4名になり、レースは振り出しに戻る。
小川、渡部に小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)、石田唯(早稲田大学)が合流、4名の集団を作った
砂セクションを終え、平坦区間に差し掛かると小川がアタック。一気に加速し、3名を振り切ると、早くも独走態勢に入った。
3名を引き離し、独走態勢に入る小川
先頭で快走する小川は、誰よりも速く、コースを駆け抜ける。経験を生かし、冷静にペダルを回し、ミスなく走る小川に対し、追う選手たちの間には、焦りもあり、ミスが出たという。差は少しずつ開いて行った。
ここで黙っていなかったのは、3冠を有する小林だ。「砂セクションは誰よりも速く走れる自信があったため、多少の差は落ち着いて対処できた」と語った小林は、MTBのアジアチャンピオンのテクニックで、砂区間も巧みに走り、先頭の小川を追う。だが、差は、およそ30秒にまで開いてしまっていた。
「前半は焦りが出て、体が硬くなり上手く走れなかった」という小林。後半は素晴らしい追い上げを見せた
小林は走るごとにコースを習得するかのようにペースを上げていく。一時は果てしないギャップにも見えた差を縮めて行った。
最速のラップタイムを刻み、全日本女王に向け、先頭を走り続ける小川
石田は着々と追い上げ、単独3位のポジションで走る
だが、差が詰まりきらないまま、レースは最終ラップに突入した。懸命に追う小林を振り切って、小川は観客とハイタッチを交わしながら、笑顔でフィニッシュ。天に「1」のサインを掲げながら、悲願の全日本女王の座を勝ち取ったのだった。
コース沿いの観客とハイタッチをしながらフィニッシュラインに向かう小川
小川は「1」と天に掲げながら、全日本選手権初優勝を決めた
2位には小林が、3位には渡部を振り切って追い上げた石田が入った。
勝ちにこだわって走ったという小川は、表彰台でも感慨深げな笑顔を浮かべていた。「1秒でも先行できればよかった」と語ったが、独走を貫き、2位の小林とは28秒の差を守っており、完璧な勝利だったと言えよう。
表彰式前に身なりを整える小川
小林は表彰台でも悔しさをにじませた。「シーズンの最終目標に、照準を合わられず、まだまだ自分の弱さを痛感するレースとなった」と振り返り、次シーズンではもっと強くなれるよう、トレーニングを積むことを誓った。
表彰台を勝ち取った小川、小林、石田。緊張から解放され、やわらかい笑顔を見せた
先頭の走行に合わせ、遅れた選手がレースから除外されていくため、このレースを走り切ることができたのは、わずか5名のみ。小川がいかに速かったのかが、この結果からもわかるだろう。
続いては、熾烈な戦いが予想される男子エリートレースの開催を迎える__。
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【結果】全日本シクロクロス選手権(2022-23)女子エリート
1位/小川咲絵(AX cyclocross team)50:12
2位/小林あか里(弱虫ペダルサイクリングチーム)+0:28
3位/石田唯(早稲田大学)+2:05
4位/渡部春雅(明治大学)+3:16
5位/大蔵こころ(早稲田大学)+4:40
画像:Satoshi ODA(P-Navi編集部)