2022/11/09(水) 10:55
大分県大分市で「OITAサイクルフェス!!!2022」が10月1日から開催された。初日には、JR大分駅前の「大分いこいの道」に設営された特設コースでクリテリウムが、2日目は、市内中心部の特設コースでUCI(世界自転車競技連合)認定の国際レースが行われた。JR大分駅前の芝生広場には、大分県各地の物産品や自転車メーカーのブースなどブースが並び、メディアも大きく大会を取り上げる。大分市内は、自転車レースを中心に据えたお祭りの二日間を迎えた。
JR大分駅前のいこいの道で開催
この2レースは、コロナ禍で、2020年はUCIレースとしての開催を断念したものの、国内レースとして開催。昨年は、基本的には自粛としつつ、ウイルス検査を経た観客のみ観戦可能とするなど、独自の感染拡大防止策を打ち出しながら、国内チームのみが参戦するUCIレースとしての開催に踏み切った。今年は、3年ぶりに海外から招聘したチームが参戦し、完全な形での開催が叶うとともに、名称にある「フェス」のにぎわいを取り戻しての開催になった。
出場チームは15チーム。海外からは、オーストラリアのARAプロレーシング・サンシャインコーストと、香港ナショナルチームの2チームが来日した。
初日の「おおいたいこいの道クリテリウム」は、JR大分駅前の「大分いこいの道」と、その周辺の公道を使い設営された1周1kmのショートコースを40周する。例年、ハイスピードの展開となり、沿道を埋める多くの観客の目の前を、選手たちが全力で駆け抜ける人気のレースだ。
大分駅前のヘアピンコーナーが難所であり、同時に観客に人気のスポット
コースは、まったくのフラットであるが、テクニカルなヘアピンコーナーや、カーブが含まれる。距離も短く、抜け出しても目視でき、先行しにくいこともあり、集団スプリントでのゴール勝負になることが多い。
10月とは思えない30度近い気温の中、レースがスタートした。
沿道を埋める観客に見守られながらスタート
スタート直後から積極的にアタックが仕掛けられるが、集団もそれを許さず、すかさず吸収する。決定的な動きは生まれず、集団のスピードも緩まない。選手たちは一団となって観客の拍手を受けながら駆け抜けていく。
次々とアタックが仕掛けられ、今年もレースは序盤から高速の展開に
14周目に宇賀隆貴(チーム右京)とライアン・ガバナ(ヴィクトワール広島)の2名が飛び出し、先行する。集団の先頭はマトリックスパワータグが固め、コントール。
先行する宇賀隆貴(チーム右京)とライアン・ガバナ(ヴィクトワール広島)
集団の先頭はマトリックスパワータグが固め、レースをコントロール
ほどなく宇賀が集団に吸収され、粘ったガバナも集団に飲み込まれて行った。決定的な動きが生じないまま、大集団に戻った選手は、高速でコースを駆け抜け続けた。
山本大喜(キナンレーシングチーム)が単独で飛び出した
集団は冷静に山本大喜を追う
ラスト15周のタイミングで、山本大喜(キナンレーシングチーム)が単独でアタック。ここに再びガバナも加わり、二人が先行する。ガバナが遅れ、集団に吸収され、二人と集団との差も詰まった。このまま仕切り直しかと思わせたが、山本大喜は諦めず全力で先頭を行く。30周回目のポイント賞も独走で獲得。いったん縮まった差を、終盤に向け、むしろ開いてみせた。
快走を見せる山本大喜
ラスト5周、言い換えればラスト5kmの時点で独走する山本大喜と、追う集団とのタイム差は20秒まで開いていた。一人対集団では極めて難しいと思われていたが、スピードに乗り、力強く駆け抜ける山本大喜の走りを見る限り、逃げ切りの可能性も否定できなくなっていた。
だが、他チームもあっさり勝ちを譲るわけにはいかない。集団の先頭にスプリント勝負に持ち込みたいチームが上がり、本格的にペースアップを図り始めた。スプリンター小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)で勝負したい宇都宮ブリッツェンの赤いジャージが前方を固め、マトリックスパワータグとともに、強烈にペースアップを図った。
最終周回に入っても、なおも先頭を走り続ける山本大喜。残り1kmを切り、逃げ切れるのか、集団が吸収するのか、会場は、勝負の行方を見守る観客の熱気と緊張感で包まれた。
だが、悲劇が起きた。山本大喜がコーナーでまさかの転倒。勝利を逃してしまう。勝負は、スプリンターを引きペースアップしていく集団のスプリントに持ち越されることになった。
宇都宮ブリッツェンと、スプリンターたちで構成されるスパークルおおいたレーシングチームが前方に上がり、熾烈な位置取り合戦を展開する。
ゴールを狙うスプリンター小野寺玲を引き上げ、最終局面に臨む宇都宮ブリッツェン
群を抜いたスピードで走るこの2チームが前方に抜け、エーススプリンター沢田桂太郎を引き上げる孫崎大樹(以上スパークルおおいたレーシングチーム)と小野寺を引き上げる阿部嵩之(以上 宇都宮ブリッツェン)が、先頭に飛び出した形で最終コーナーを回った。
ラスト300m。ロングスプリントは、引き上げてきたアシストのもとを離れ、沢田と小野寺の一騎討ちに託された。トラック競技で全日本のタイトルも獲得してきた長身の沢田が繰り出す力強いスプリントが大きく伸び、小野寺を寄せつけることなく、先頭でフィニッシュラインを越えた。会場を埋める地元ファンの前で、堂々の優勝を果たしたのだった。
沢田桂太郎(スパークルおおいたレーシングチーム)が圧巻のロングスプリントでレースを制した
喜びに沸くスパークルおおいたレーシングチーム
2位に小野寺、3位に山本哲央(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が入った。
コース上に設営された表彰台に上がる沢田、小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、山本哲央(TEAM BRIDGESTONE Cycling)
沢田は「絶対に最後は(先行していた山本大喜が)捕まると信じていたので、自分の力を出し切るだけだった」と振り返る。終盤の展開は、過去に勝利した時と似たものだったため、リードアウトの孫崎とは「言葉も要らず、阿吽(あうん)の呼吸で」最後の勝負に臨んだ。孫崎は今季でチームを退団するという。地元であることと、孫崎への恩返しから、このコースでの勝利に懸ける沢田の思いは、なみなみならないものだったようだ。「昨年は勝てず、今年は絶対に勝たなくてはならないという思いだったので、優勝できて感無量です」と、プレッシャーから解放された笑顔で喜びを語った。
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【結果】おおいた いこいの道クリテリウム(40km)
1位/沢田桂太郎(スパークルおおいたレーシングチーム)54分26秒
2位/小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
3位/山本哲央(チームブリヂストンサイクリング)
4位/フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ、スペイン)
5位/デクラン・トレザイス(ARAプロレーシング・サンシャインコースト、オーストラリア)
【周回賞】
LAP10/孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)
LAP20/ライアン・カバナ(ヴィクトワール広島)
LAP30/山本大喜(キナンレーシングチーム)
画像提供: ジャパンサイクルリーグ(JCL)(P-Navi編集部)