2022/10/07(金) 17:00
避暑地としても人気の美しい高原を走る「那須高原ロングライド」が9月4日、3年ぶりに栃木県の那須高原を舞台に開催された。
3年ぶりに開催された那須高原ロングライド
環境のすばらしさに加え、充実したエイドステーションや、愛情ある地元のボランティアスタッフのもてなしがリピーターを呼び、例年、メインの100kmコースは募集開始から数十分で参加枠が埋まってしまうほどの「プラチナチケット」となっている。
定食かと見紛うほど豪華なエイドステーションが有名な人気イベントだ。この豪華エイドは今年も健在だった!
そもそもは7月上旬のイベントであったが、五輪や新型コロナウイルスへの対応で開催時期が変わり、昨年までは、感染状況を踏まえ、直前になって開催を断念。今年は万全の対策を取り、開催に踏み切った。
このイベントは、2011年の東日本大震災後に、観光地としては非常に厳しい状況に追い込まれた那須高原を活性させるため、自転車に着目し、地元の観光施設や宿などの代表がNASA(那須オールスポーツアソシエーションズ)という組織を立ち上げ、サイクリングイベントを始めたところからスタートしている。最初は700人だった参加者が、年々倍々に増え、土地の評判を聞き、あるいは他の季節も走ろうと、イベントの日以外にも足を運ぶサイクリストが増え、那須町は地域密着型のプロのサイクルロードレースチームを有するところまで発展した。那須高原ロングライドとともに、いつでもスポーツバイクに出合う全国有数の「自転車のまち」になったのだ。
そんな那須高原ロングライドも今回で10回目の開催を数える。今年は、メインの「ヒルクライムコース100」、「チャレンジ70」、「エンジョイ60」、「ファミリー40」(数字は距離数)に加え、近年マヌルネコやスナネコなどの話題でメディアで話題の「那須どうぶつ王国」でバーベキューをして待つ家族のところに向かう「どうぶつ王国満喫BBQ50kmコース」が設定されている。
例年は圧倒的に100kmコースが人気だったのだが、今年は60kmコースが最多人数となった。新型コロナウィルスの感染状況を受け、これまで参加してきたサイクリストが参加を控え、近年自転車を始めたビギナー層が多くエントリーしたためかと推測されるが、例年より、初めての参加者が多いようだった。
エイドステーションをキッチンカーが運営するという新しい試み。大好評だった
例年はボランティアスタッフがエイドを運営したが、今年は、いくつかのエイドをキッチンカーが担当し、衛生状態に配慮してパックした食品を提供した。食べものを提供するエイドステーションの運営は、コロナ禍のサイクリングイベントにとって、非常に頭の痛いものであったが、提供する中身も、安全に提供できる種類のものに絞り込み、提供の方法も工夫して運営することになったという。このイベントでは、地元の施設や企業の協力を受け、エイドで人気の土産用の菓子などが提供されることも多いのだが、パッケージされた焼き菓子などは、渡す方も、受け取る方も、安心できる。それぞれのエイドで、安全を確保しながら、参加者が楽しめるよう、工夫を凝らしたもてなしが準備された。
エイドで土産品として人気のトラピストガレットがふるまわれ、大コーフン!
今年は、スタートゴールが設定されるメイン会場に初めて「那須町余笹川ふれあい公園」が選ばれた。スタート時の混雑を避ける目的もあり、アナウンスされたスタート目安時間に合わせ、各カテゴリーの参加者が集まってくる。最初にスタートする100kmコース参加者を中心に開会式が行われ、参加者はスタートラインに移動した。
距離の長いカテゴリーから順に、数十人のグループごとに参加者が出発する形式を取り、那須を本拠地とするサイクルロードレースチーム「那須ブラーゼン」の選手などのゲストライダーが、分かれていくつかのグループにランダムに入り、一般参加者とともに走る。
那須ブラーゼンをはじめ、ロード、競輪の選手がゲストライダーとして参加
キッズバイクやチャイルドトレーラーで子供を引いたファミリーなど、参加層が多様化した
マスクを装着せずに走るため、大会からは、例年より車間距離を開けるよう要請され、同時間隔をあけて出発したが、無理な追い越しなども全くなく、マナーのよい走り出しが続いた。順調に全てのカテゴリーがスタート。
この日は天気にもめぐまれ、参加者は、みな笑顔モード。地形的に、どうしても上りが多くなってしまうのだが、那須御用邸があるように、美しい緑に彩られ、気持ちの良い景観が広がっている。この中を抜けて走るのは最高に気持ちがよく、走るほどに身が浄化されていくような気分になる。サイクリングのために那須を訪れる方が多いのも納得だ。
楽しくて、楽しくて、笑顔がこぼれる
スタート後は、多くのカテゴリーのコースが、まず那須岳方面に向かうため、序盤から上りが待っている。各コースは難易度や距離を変え、うまく設計されており、100kmは那須岳方面に大丸温泉まで上り切るが、70kmは最後の大丸温泉に向かう厳しい登坂パートを割愛し、御用邸の横を抜けるロイヤルロードを下る。60kmコースなどはさらにその手前で、登坂がきびしくなる前に下り始める。同じエリア内にありながらも、コースごとに立ち寄れるエイドが分散されて指定されており、混雑を避けられるよう配慮されていた。
上りは多いけれど、景観の美しさに背中を押され、不思議と快調に上れる
標高が上がると、霧に包まれ、まったく違う空気感に。ツール・ド・フランスなどの欧州のレースの応援に出て来ることで有名なディアボロ(悪魔)姿の参加者も大会名物。他の参加者を応援し、盛り上げる。赤いカゴ付き自転車で参加するツワモノだ
100kmコースは那須を訪問するサイクリストの定番コース。行きは勢いのある緑の中を抜け、那須岳方面に向かい、今回の最高標高地点となる大丸温泉を目指す。標高が上がるにつれて霧が濃くなり、木々の量も減り、雰囲気が大きく変わるため、峠まで上ったという実感をビビッドに感じられる。下りでは、雰囲気は一転し、風情ある那須の温泉街を抜ける。ソフトクリームが絶品の「南ヶ丘牧場」などの人気施設を訪ね、板室温泉など那須塩原市内のスポットをめぐり、道の駅東山道伊王野また緑が豊かで爽やかな那須高原を走り抜ける。走るにつれ、変わる景観を楽しめるし、達成感も非常に大きい。獲得標高として1873m上ることになり、上級者向けではあるが、那須の楽しさが凝縮されたコースで、人気があるのも納得だ。
今年はファミリーの参加者の姿も目立った
40kmの部を無事に完走したファミリー参加の方々。パンクや子供達の転倒などのトラブルもあったが笑顔でゴール。「必ず来年も参加します!」と元気に語ってくれた
今回最多参加者数だった60kmコースは、那須岳までは上らず、厳しい登坂は回避しつつも、ロイヤルロードを走り、人気のエイドをめぐりゴールする、いわばダイジェスト的なコース。「ほどよいチャレンジ」として多くの参加者が笑顔で完走していた。
ちびっこライダーも力強く快走!
名物の豪華すぎるエイドの数も、距離に応じて異なり、フルにエイドを体験したければ、100kmコースが断然オススメなのだ。長距離走ることに慣れていなくても、ひとつひとつのエイドが次の目標となり、エイドを目指して走るうちに走りきってしまう。今年も、再標高地点のエイドでは、利益度外視の「うなぎのおにぎり」が提供されるなど、太っ腹エイドぶりは健在! コロナ禍ということで制約はあったが、那須高原を取り巻くように描かれたルート上では参加者の笑顔の絶えない1日となった。
「選べる」エイドがあるのも珍しい。選ぶ楽しさと、好みのものを食べられることで、参加者には大好評
ゴールも盛り上げてくれるディアボロさん
ゴール後は、地元の牛乳が振る舞われたが、コクがあって甘く、よく冷えていて、感動の味!「牛乳を久しぶりに飲んだ」という方も少なくなかったようなのだが、みな「牛乳がこんなに美味しいなんて」と感動していた。
ふるまいの牛乳を味わうゴール後の参加者
今年のメイン会場には美しい芝生が広がっており、そこにキッチンカーやフードブースが並び、さまざまなグルメを提供するスタイルが試行された。いくつかのキッチンカーは、エイドも担当し、エイドクローズ後にメイン会場に合流した。
ステーキ、沖縄料理、かき氷、コーヒーなどなど、たくさんのフード&ドリンクが並んだ
スタートを待つ参加者、応援の家族、ゴール後の参加者で終日にぎわったメイン会場
走行距離によって、ゴール時間は異なるため、早々に帰ってきたショートコースの方々から順次、ゴール後に改めて食事したり、デザートを楽しんだり、とキッチンカーを利用する方も多く、芝生エリアは会場のクローズタイムまでにぎわっていた。
そろいのジャージでグループ参加し、ともにフィニッシュ。グループの参加も非常に多かった
制限時間内に規定のスポットを通過できなかった場合、参加者はショートカットを強いられる。スタッフが「足切り(タイムアウトで失格にされること)侍」に扮して、そんなマイナスの通達をも楽しませる。この「侍制度」投入後は、無理をしてまで走破を狙わず「笑って斬られにくる」参加者が増えたそうだ
地元のショップのメカニックが連携し、駆けつけ、バイクのトラブルに対応
走行不可能になったサイクリストと自転車を運ぶサイクルタクシー。この日もトラブルがあった参加者をメイン会場に運んでいた
国内の感染状況がなかなか改善せず、対策について話し合いを重ね、開催に踏み切ったという那須高原ロングライド。参加者の満足度が高いことは、ゴール後も帰路に就くのが名残惜しく、会場にのんびりと滞在していた参加者たちの笑顔から明らかだった。
駐輪スペースには、会場での時間を楽しむ参加者たちのバイクがぎっしりと並ぶ
ゴール後も会場を楽しむ参加者
サポート体制も手厚く、那須は恵まれた自然環境だけでなく、サイクリング環境も国内有数と言えるだろう。今年新たに参加した層が、おそらくは来年もまた戻り、来年はコロナ前よりもさらに大きく盛り上がる大会になるかもしれない。イベント以外の日にも、戻って来る参加者も多いのではないだろうか。イベント当日も早朝から働き続けていた主催者たちからは「参加者が楽しめるように」という思いを共有しながら大会を運営していることが、痛いほど伝わってきた。このような地域が増えて行くことを祈りたい。
画像提供:m-wave、編集部(P-Navi編集部)