2022/07/20(水) 15:35
国内のプロサイクルロードレースリーグであるジャパンサイクルリーグ(以降、JCL)の第3戦「広島トヨタ広島ロードレース」が、7月9日に開催された。会場は、先日開催された全日本選手権と同じ、広島県立中央森林公園。JCL単独のレースとしては、初戦の栃木以来、3カ月ぶりの開催となる。
(今年のJCLプロロードレースツアー)
JCL開幕戦!カンセキ真岡芳賀ロードレース
JCL第2戦・カンセキ宇都宮清原クリテリウム
広島県立中央森林公園のコースは、広島空港を囲むように配置されており、起伏に富み、うねるようなコース設定が特徴。道幅も狭く、アップダウンの連続で休む区間がない厳しいコースであるからこそ、さまざまなドラマを生んできた。まだ記憶に新しい全日本選手権も、サバイバルレースとなり、目が離せない展開の連続だった。
この日は天気には恵まれたものの、気温が上がり、湿度も高く、全日本選手権を思い出すような厳しいコンディションのレースとなった。
JCLのレースとしては3カ月ぶりだが、UCI(世界自転車競技連合)認定の国際レースとして5月末に開催された「ツール・ド・熊野」の結果をポイントとして大きく反映させたため、上位の順位は、大きく入れ替わっていた。
リーダージャージは、ツール・ド・熊野で総合優勝を決めたネイサン・アール(チーム右京)。熊野で400ポイントを獲得して、JCLには未登場ながら、首位に躍り出ていた。また、熊野で4位になった増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が200ポイント獲得し、2位にジャンプアップしている。
U23の首位は湯浅博貴(ヴィクトワール広島)がホワイトジャージを、ブルーのポイント賞ジャージは、小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)が、レッドの山岳賞ジャージは山本元喜(キナンレーシングチーム)が、それぞれ所有している。
別リーグのJBCFシリーズ、Jプロツアーから、昨年の優勝チームマトリックスパワータグの参戦を受け、10チーム、計60名が出走する。スタートラインの先頭には、ホストチームとなる地元、ヴィクトワール広島の選手が並んだ。
この日のレースは、1周12.3kmのサーキットを10周する123kmの設定で競われた。
スタート
スタートと同時に、アタックのかけあいが始まった。1周目の登坂区間で早くも山本元喜がアタック。これをきっかけに、チーム右京、キナンレーシングチームが前方を固め、早々にペースアップを始めた。この厳しく、道幅が狭いために隊列を組みにくいコースで、力のあるチームがキツい展開に持ち込んだことで、集団は大きく崩れ、早くも遅れる選手が出始めた。
ホストチームとして、積極的な走りを見せたヴィクトワール広島(オレンジヘルメット)
2周目には、すでに集団は小さく絞り込まれ、主にキナンレーシングチーム、チーム右京、宇都宮ブリッツェンの有力選手からなる先頭集団が形成されていた。下り区間で転倒が起こり、巻き込まれた選手を含め、2名がレースを降りることになってしまう。
ハイペースのレース展開に、選手がふるい落とされ、集団の人数が絞られていく
3周回目・5周回目・7周回目完了時にスプリントポイントが、4周回目・7周回目に山岳ポイントが設定されており、それぞれのジャージを狙う選手の動きにより、ペースアップが生まれた。この動きに堪えきれなくなった選手がこぼれていき、次第に集団は小さくなっていった。3回のポイント賞は、すべて小野寺が先頭通過、2回の山岳賞は、山本元喜が先頭通過、着用するジャージを守っている。
ポイント賞リーダーの小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)が先頭に立ち、ペースアップ。小野寺はすべてのスプリントポイントで先頭通過した
9周回目に突入するころに集団は、増田、宮崎泰史(以上宇都宮ブリッツェン)、山本元喜、トマ・ルバ(以上、キナンレーシングチーム)、小石祐馬(チーム右京)の5名にまで絞り込まれていた。最終周回に入り、一気に動きが本格化。積極的に攻撃を仕掛け続けてきた小石が渾身のアタックを繰り出した。小石を捉えるべく、集団はペースアップ。この仕掛けに堪えきれなかった宮崎が、ここで脱落した。
小石を追った増田、山本元喜、ルバは「三段坂」と呼ばれる名物の登坂区間で、小石をキャッチ。そのまま置き去りにし、さらにフィニッシュに向け、ペースを上げていった。勝利は、この3人の間で戦われることになった。
2名のキナン勢と、単独の増田では、キナン勢が有利であることは明らかだった。ルバは現在、日本で走る選手の中では間違いなくトップクラスのヒルクライマーであり、山本元喜はスプリント力にも長けたオールラウンダー。このペアとともにゴールした場合、増田に勝ち目はない。増田は事態を打開し、勝機を得るために仕掛けるが、キナンの実力者2名を振り払うことはできなかった。ルバも負けずに積極的な走りを見せ、先頭に立ち、増田の体力を奪っていく。山本元喜は2名の後ろにぴったりと付き、最後の瞬間に備える。
トマを先頭に3名は最後の200mに差し掛かった。 タイミングを計っていた山本元喜は、増田の背後から狙い澄ませた加速を繰り出す。このキレのある飛び出しは、増田の追随を許さず、先頭でフィニッシュラインを通過。昨年のこの大会では1-2-3-4フィニッシュで上位を独占したキナンレーシングチーム。今年も完璧なレース運びで快勝し、同大会連覇となった。
雄叫びを上げ、トップでフィニッシュする山本元喜(キナンレーシングチーム)。背後では勝利を確信したトマ・ルバ(同チーム)がガッツポーズを決めている
落車リタイアもあり、非常に厳しいレースとなったこのレースの完走者は、わずか27名だった。
完璧なレース運びでの優勝に笑顔を見せる山本元喜(中央)と勝利を支えたトマ・ルバ、悔しい2位となった増田成幸(左:宇都宮ブリッツェン)
山本元喜は、自ら全ての山岳賞を先頭通過、ポイントを積み増して山岳賞ジャージを守りつつ、優勝を決めるという最高の形になった。表彰台では「思い描いていたプランとは異なったが、キナンらしく戦えた」とレースを振り返る。「チームメイトがしっかりと動いてくれたために、最後のスプリントで勝つことができた」と感謝を述べた。「スプリントでの1勝」が今年の目標だったと語り、顔をほころばせた。
各賞のリーダーたち。増田成幸がイエローの総合リーダージャージを奪取した
リーダージャージはこの日2位となり、ポイントを獲得した増田の手に渡ることになった。バセドゥ病と戦う増田にとっては、気温の高いレースは厳しかったはずだが、「最後の最後まで諦めない」増田らしいレースを見せてくれた。
***************
【結果】JCLプロロードレースツアー2022・第3戦「広島トヨタ広島ロードレース」
1位/山本元喜(キナンレーシングチーム)2時間57分35秒
2位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)+0分01秒
3位/トマ・ルバ(キナンレーシングチーム)+0分04秒
4位/小石祐馬(チーム右京)+1分05秒
5位/宮崎泰史(宇都宮ブリッツェン)+1分12秒
【JCL各賞リーダージャージ】
イエロージャージ(個人総合首位)
増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
ブルージャージ(スプリント賞)
小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
レッドジャージ(山岳賞)
山本元喜(キナンレーシングチーム)
ホワイトジャージ(新人賞)
湯浅博貴(ヴィクトワール広島)
画像提供: ジャパンサイクルリーグ(JCL)(P-Navi編集部)