シクロクロス全日本選手権2021(男子)

2022/01/14(金) 23:55

シクロクロス全日本選手権2021(男子)

茨城県土浦市で12月11日~12日に行われた2021年の「シクロクロス全日本選手権」。注目の男子エリートは、大会の最終種目として、12日午後に開催された。

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この日のコース「りんりんポート土浦/川口運動公園周辺特設コース」は、ほぼ平坦であり、路面状況はドライ。男子エリートは、より一層、高速になる展開が予想された。この日の関東地方の気温は高く、15度に迫るほど。原則的に、補給をしないシクロクロスにおいて、競技時間が60分を越える男子エリートでは、この気温もいくばくかの影響を持つかもしれない。

これまでの主要レースの結果から見ると、ジュニア、U23でそれぞれシクロクロスの全日本で優勝を経験し、昨年のエリートの全日本を2位で終えた織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)と、前年度のシクロクロスのチャンピオンであり、先日今年度のMTBクロスカントリーの全日本選手権を制した沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)の実力が抜きんでており、この二人の一騎討ちになる展開が続いていた。


優勝候補の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)


全日本連覇とMTBクロスカントリーとのダブルタイトルを狙う沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)

この圧倒的優勝候補の二人に加え、過去に全日本を制している小坂光(宇都宮ブリッツェン)も今季の表彰台の常連であり、注目を集めた。シクロクロスを活動の中心に据えてきた稀な選手であり、国内のシクロクロッサーの代表とも言える。これまで積んできたシクロクロスレースの経験から来るテクニックに加え、ロードレースもトップリーグに参戦しており、スピードコースでも強さを発揮するだろう。


日本を代表するシクロクロッサー小坂光(宇都宮ブリッツェン)


本場ヨーロパでの経験も豊富な竹之内悠(ToyoFrame)

小坂と同い年の竹之内悠(ToyoFrame)も同じく、豊富なシクロクロスの経験を有するシクロクロッサー。長く不調に苦しんでいたが、ケガの治療が明け、最近のレースでは急速に調子を上げて来ていた。本場ヨーロッパのレースを転戦した経験もあるシクロクロスのベテラン竹之内が、大舞台で底力を発揮する可能性は十分にあるだろう。


81名の選手がスタートラインについた

大いに会場を沸かせたエリート女子のレース終了後、14時半に号砲が鳴り、男子エリート81名の選手がスタートした。「J:COMフィールド」のトラック上でスタートした選手たちは、スタートからトップスピードに加速し、コースへと飛び出して行く。


全力で飛び出す選手たち。スタートの瞬間からフルスロットルだ

好スタートを切ったのは、連覇とダブルタイトルを狙う沢田時。第1コーナーをトップで回る。後ろにはピタリとライバルたちが付けていた。
コーナー前で減速し、コーナーを抜けるとたちまちスピードに乗せていく。テクニックも脚力も申し分ない優勝候補4名は、1周目から驚くようなスピードでコーナーやアップダウン、泥エリアなどがふんだんに盛り込まれたコースを駆け抜けて行った。織田聖、沢田時、小坂光、竹内悠は、圧倒的なハイペースで後続を寄せ付けず、早々に先頭に4名のパックを作った。


たちまち織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)、小坂光(宇都宮ブリッツェン)、竹内悠(ToyoFrame)が4名のパックを作る


海が見えるマリーナ脇を駆け抜ける4名

シケイン(障害物)をバニーホップで跳ぶか、降りてバイクを担いで跳び越えるか、急傾斜は降りてバイクを押すか、乗ったままクリアするか。4名は瞬時に自分に有利な方を決断し、同じペースで魔法のように周回をこなしていく。もちろん高速レースになると予想されてはいたが、先頭4名が刻むペースは、大勢の予想をも上回る速さだった。


安定したハイペースで周回を刻む4名

だが、ここでトラブルが起きる。優勝候補だった沢田のバイクのチェーンが、シケインを越えた際に外れてしまったのだ。もちろん沢田は速やかにチェーンを直し、レースに復帰したが、このトラブルの間に織田がアタックし、優勝候補たちのカルテットは早々に崩れることに。この日のレースがハイペースだったが故に、先頭を走る織田たちと沢田との間にはチェーン落ちひとつでも大きな差が生じてしまった。


沢田がトラブルで遅れ、先頭は3名に

先頭には3名のパックが再結成され、変わらぬハイペースで周回をこなしていく。

織田が先頭を行き、そのすぐ後ろに、落ち着き払った表情の小坂がつき、やや遅れて竹之内が続く。身体を軽く左右に振りながら、叩きつけるように力強くペダルを踏み込む織田。そして小坂は先頭に立つシーンでも、気張ることなく無駄のない走りでコースを抜けていく。竹之内は先頭2名を目視できる差を守り、ほぼ同じペースで後につけていた。


積極的な走りを見せ、先頭を行く織田


「バニーホップ」でシケインを跳び越える織田と、降りてバイクを担ぐ小坂

織田はシケインでも降車せずに跳び越えて、ロスなしに、そのまま全力でペダルを踏み込み加速する。少しでも先へ、少しでも速く。勝利への渇望が見えるようだった。
ラスト3周、リスク回避にシケインでは降車し、バイクに飛び乗って加速する小坂との差はじわじわと開いた。タイム差は5秒。織田、小坂、竹之内は、ほぼ同じ間隔で並ぶ。だが、ペースを乱すことなく走るベテラン2名に焦りの色は見えなかった。むしろ、この先の展開を読んでいたのかもしれない。
ラスト2周になると、織田の勢いが鈍り始めた。小坂は落ち着いて差を詰め、織田を捕らえ、先頭に2名のパックが復活した。形勢逆転。これまで攻めの走りを貫いてきた織田への、小坂の攻撃が始まる。得意なセクションで強さを見せるなど、攻めの姿勢に転じたのだ。


小坂が織田に追いつき、反撃が始まった


最終周回には二人のデッドヒートが展開された

最終周回、抜きつ抜かれつの二人のデッドヒートが展開された。だが、二人の表情を見れば、小坂に分があるのは明らかだった。
小坂が仕掛け、先行する。だが、織田はここに食らいつくことができなかった。織田を置き去りにし、単独で先行する小坂。織田との間には、勝利を確信できる差が開いた。

ホームストレートに単独で現れた小坂は、優勝が決まる瞬間をかみしめるように、嬉しそうに片手を何度も突き上げた。地元から応援に駆けつけ、小坂の優勝を見届けるためにゴール脇に陣取っていた宇都宮ブリッツェンのサポーターたちとタッチし、悠々とガッツポーズでフィニッシュ。経験が導いた落ち着いた走りとそれを支える実力で見事勝機を掴み取った小坂。4年ぶり、2度目の優勝を決めた。


ゴール脇に詰めかけたサポーターとタッチを交わしながらフィニッシュに向かう小坂

20秒弱の遅れで織田が、そのすぐ後に竹之内がフィニッシュし、表彰台の3名が決定した。


スタッフと抱き合い喜びを分かち合う小坂。シクロクロスはピットで待機するスタッフのサポートも重要な要素になる


戦友・竹之内と健闘を讃え合う。同じ88年生まれの二人が圧巻のレース力を見せた

織田の失速の原因は、脚攣りだった。思うようにペダルが踏めないまま、追いつかれ、追い上げることもできなくなったという。表彰台では悔しさをにじませていたが、また来年の挑戦を誓っていた。


脚攣りで失速し、負けた織田はゴール後倒れ込み動けなかった。握手を求めに行った小坂。選手たちの絆は固い

この日のレースはハイペースで展開され、10周回で決する形になった。先頭の選手の1周目のタイムを基準とし、遅れた選手たちがレースから除外されていくため、完走を許されたのは30名。ロードレースを主戦場とするスピードに長けた選手たちが、トップ10に食い込んだのも今回の全日本の特徴だった。


戦いを終え、表彰台に乗った3名。それぞれの思いはさまざまだっただろう

4年ぶり2度目の全日本選手権優勝を決めた小坂は、とても誇らしげだった。今季の主要レースで一騎討ちを展開してきた沢田と織田の強さを認め、泥やコーナーなどのセクションでは自分や竹之内などのベテラン勢の方が優っている部分もあった、とレースを振り返った。今回の全日本では、優勝予想は沢田と織田に集中していたが、その中でも冷静にふるまい、きっちりとチャンスをものにした小坂は、自信に満ち溢れているように見えた。27位でこの厳しいレースを完走した父とも喜びを分かち合っていたという。


表彰式を終え、笑顔を見せた織田、小坂、竹之内。ドラマチックなレースだった

翌週開催予定だった宇都宮のUCIレースが、世界の新型コロナウィルスの感染状況から、中止を決定。1月のUCIレースも今年度は開催されないため、主要レースはこれで一区切り。1月末にアメリカ、アーカンソー州で開催されるシクロクロスの世界選手権に向け、代表選手は調整を行うことになるだろう。
地方リーグのレースは、この後も各地で3月まで週末ごとに開催が続く。興味が湧いた方は、お近くの会場に足を運んでみてはいかがだろうか。

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【結果】シクロクロス全日本選手権2021(男子エリート)
1位/小坂光(宇都宮ブリッツェン)1:00:57
2位/織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)1:01:15
3位/竹之内悠(ToyoFrame)1:01:17
4位/沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)1:02:24
5位/加藤健悟(臼杵レーシング)1:02:33

画像:Satoshi ODA(P-Navi編集部)

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