【e-bike×路線バス】雪中の石北峠チャレンジ

2021/12/10(金) 18:44

【e-bike×路線バス】雪中の石北峠チャレンジ

北海道旭川市と北見市をつなぐルート上に位置する石北峠。標高は1050mと、有名な峠に比べたら高くはないが、展望台からは、大雪山や遠く阿寒の山々、峠を取り巻く樹海を望むことができる。この峠の周りには、本州の標高3000mに相当する植生が広がっており、多くの人が訪れる人気観光スポットだ。
石北峠の秋の紅葉は、特にすばらしく、絶景だと聞いていた。四季折々の景観を楽しめ、勾配もゆるく、ロードバイクなどには走りやすい。そのため、地元のサイクリストには人気のヒルクライムルートである。
だが、最寄りとなる北見駅から峠までは距離があり、勾配がゆるい分、走行距離は長くなることから、一般層にはハードルが高かった。そこで、自転車搭載が可能となった北海道北見バスに、進化型電動アシスト自転車e-bikeを載せ、最寄りのバス停から走る__。このルートなら、一般の人たちでも手軽に自転車で秋の絶景を堪能できるのではないかと考えた。

この日走る国道39号線は、少し前まで旭川と北見をつなぐ主要ルートであり、石北峠はオホーツクの入り口だった。だが、高規格道路が整備され、通行が分散され、交通量も減り、自転車にとっては、かなり走りやすい道になっているという。


夏の石北峠。豊かな自然が広がり、絶景が楽しめる

決行時期は10月中旬。緊急事態宣言の解除を待って企画したため、ベストの時期からは遅くなってしまったが、色づいた葉は、ギリギリ持ち堪えているとの事前情報もあった。
この日の交通手段は、北見バスの温根湯・留辺蘂運動公園線だ。北見バスターミナルで乗車し、終点の「道の駅おんねゆ温泉」に向かう。距離は約33kmで、所要時間は60分。土日は自転車を専用の袋に入れなくても、そのまま積み込めるため、重量があり解体しにくいe-bikeでも、長距離の移動が可能なのだ。
「道の駅おんねゆ温泉」から石北峠までの距離は約35km。往復70kmのライドは、確かに長いが、ラスト10kmまでは勾配が非常にゆるく、帰路は足を止めても進むダウンヒル。軽快に走れる下り基調のルートの組み合わせであり、本当に頑張るのは峠手前の10kmのみ。走ってみると、意外なほど走りやすい。この距離の長さと、ラスト10kmの頑張る区間という課題をe-bikeでクリアできれば、誰にでも走れるのではないだろうか。もちろん、走りきった達成感は満点だろう。

今回走ってくれる小島智香さんは151.5cmと小柄であり、ミニベロ型のe-bike、BESVのPSA-1をお借りしてトライすることになった。


バスの車椅子エリアに自転車を載せ、指定のベルトで固定する


峠にはどんな景観が広がっているのだろう? 車窓から紅葉を眺めながら思いを馳せる

日没の早い秋は、道の駅を13時50分に発つ便が帰路の唯一の選択肢になるため、行きは早めのバスを選んだ。朝7時23分にバスに乗り、のどかな眺めを楽しむこと1時間。8時26分に「道の駅おんねゆ温泉」に到着した。朝まで降っていた雨の影響で路面は濡れていたが、天気予報は晴れ。徐々に路面は乾いて来るだろう。


運転手さんに見送られ、バスを降りる。親切な方だった


石北峠へのヒルクライム、スタート!

のびやかに広がる田園風景の間をひた走る。勾配は少し上っているのだが、e-bikeでは、ほぼ感じないレベル。この日は強い向かい風が吹き付けており、アシストのパワーを拝借することになった。のんびりした眺めを楽しみながら、ヒルクライムに思いを馳せる。この地域は紅葉といっても、黄色に色付く木々が多い。植生が異なるという石北峠は、どんな色に染まっているのだろう?


牧草地帯であるため、晩秋でも緑の景観が広がる

5kmほど走り「塩別つるつる温泉」で小休止。美肌の湯を楽しめる人気の宿だ。
この日、帰路のバス乗車前にゆったりランチを食べるのは難しい見通しだったが、早朝出発になるため、出発前に調達できるはコンビニのみ。ここまで来てコンビニ弁当では味気ない。


塩別つるつる温泉の駐輪スペースに自転車を置く。屋根付きが嬉しい

そこで、この宿の朝食ブッフェで残った料理などを詰め、ランチボックスにしてもらえないかと打診したところ、主旨を理解し、快諾してくれたのだ。本来廃棄されてしまう食べ物であり、フードロス問題の解消にもなるだろう。こちらとしては、人気宿の料理を楽しめ、施設サイドも収入になる。なんていいアイデアだろう! 価格は450円(しかも税込)と聞いていたが、受け取った包みはずっしりと重かった。ご協力と大盤振る舞いにお礼を言い、重すぎる包みはサポートカーに積んで、自転車にまたがった。


つるつる温泉キャンプ場脇を走る。紅葉が美しい

塩別つるつる温泉の人気のキャンプ場は紅葉に染まっていた。見上げると青空が顔をのぞかせており、周囲は明るい。遠方の山々も光に輝いており、ルート上の景観に期待が高まる。


走り出すと路面は乾いていた。青空も顔をのぞかせ、美景を堪能できる予感!

国道39号線に戻ると、変わらず激しい向かい風が吹きつけていた。ついペースが鈍るが、峠まではまだ30kmある。少しペースを上げることにした。e-bikeであっても、少しがんばらなくてはならない強度。「e-bikeで本当によかった!」と、智香さんが笑う。じんわりと汗ばむ運動になり、体脂肪も燃えているかも!
林や草原など、ルートは美しい自然の中を抜けていく。ふと、顔にポツポツと冷たいものが当たるのを感じた。雨だ! 空は明るく、お天気雨のようで、幸い、すぐに止んだ。「このあと、また雨になっちゃったりしてね」と、天気予報を信じていた二人は、冗談を交わす。いや、この時は冗談だと思っていた。

北見富士が見えてきた。フォルムが美しく、市民に愛される市内最高峰の山は紅葉に彩られていた。ここに紅葉があるなら、きっと石北峠にも美しい紅葉が広がっているに違いない。「峠の紅葉がキレイだといいですね」と、走りながら、思いをめぐらせる。


雪が降ってきた。「キレイ!」と笑顔で喜ぶ

ふと、何かが舞っていることに気づく。雪!?が降ってきた。だが、空は明るい。お天気雨ならぬ、お天気雪か。雪はすぐに止んだ。北海道の山では、この時期でも時々、雪が舞うのかなどとぼんやり考えていた。


光に輝く木々の前を通り抜ける

白樺エリアに入った。日の光を浴びて輝く白樺林がとても美しい。路面はかなり濡れていた。雨が降ったり、止んだりしているのだろう。「路面に気をつけた方がよさそうですね」と智香さん。落葉も多く、濡れた路面は滑りやすい。気を引き締めて、行かなくては。


道のモデルルートに指定されており、自転車の通行を示す矢羽根やピクトグラムが描かれている

このルートはサイクリングのモデルルートに指定されており、ドライバーに自転車の通行を啓発する矢羽根と自転車のピクトグラムが描かれている。交通量も多くなく、通り過ぎるクルマは、しっかりと空間を空けて抜いてくれるため、不安を感じることはない。

今回のバイクは深い前傾姿勢にはならず、景観を眺めやすい。当然その分、風の抵抗は大きくなる。しかし、アシストがあるため、向かい風の上り坂でも、景観を楽しみながら上ることができる。「e-bikeって、イイですね!」と智香さん。太めのタイヤで安定感もあり、落ち葉が散乱する濡れた路肩でも怖くない。ルート沿いの景観は、林や草原、小川などと多様で、遠方の山々も眺めることができ、飽きずに走ることができた。

しばらく白樺などを楽しみながら走る。すると空が暗くなり、時折、雨粒が落ちて来るようになった。コーナーを回り、前方の山々を見て、二人は凍りついた。山が、白いのだ。「標高が高いところは、もう雪が降り始めているんでしょうね」。客観的に、それほど「遠景」ではない気もするが、半ば自分たちに言い聞かせるように、言葉を交わした。若干の不安がよぎったが、木々に白い雪がかかる景色は、クリスマスを想起させ、悲壮感は感じなかった。まだ「雪」への現実的な感覚がなかったのだ。


山の景観に違和感を覚えた


よく見ると、確かに白い!

サポートカーが我々のところまでやってきた。「気をつけた方がいいですよ、対向車の上に、雪が積もっています。峠の向こうは、おそらく雪です!」と伝えてくれた。雪が積もっている? でも、空は明るく、まだ10月半ばなのに! お礼を言いつつも、この時点でも、まだ「まさか」と思っていた。


葉の上に雪が積もっている

だが、このあたりから雲行きは本格的に怪しくなっていった。コーナーを回って、息を呑んだ。思わずバイクを止めた智香さんが「これ、雪じゃないですか?」と、道沿いに広がる植物の葉を指さした。白いものが乗っている。「確かに、雪ですね」と、筆者もうなずいた。この地点で、もう雪が積もっているとは!
この後は勾配も上がっていく。ここで、いったん休憩し、補給することにした。持ち込んできた大福を頬張る。残すは10kmあまり。厚着していたため、身体はホカホカだったのだが、止まってみると、気温はかなり下がっているようだった。


赤大福の中身は、白のつぶあん。食感も楽しくておいしかった

エネルギーをチャージし、再スタート。ここからが本番のヒルクライムだ。
だが、ほどなく、雪が眼前に舞い始め、あっという間に前が見えないほどの雪に変わってしまった。激しい向かい風に乗って雪が吹き付けてくる。冷たい!
バイクはあくまで優秀で、ペダルを踏み込めば、我々を上へと運んでくれる。だが、雪で前がよく見えなくなってきた。「ここで止めましょう、もう危ないです!」。二人で自転車を止め、サポートカーを呼んだ。カラダもバイクも、もはや真っ白だった。
協議の結果、とりあえずクルマに乗り、安全を確保し、様子を見ることになった。峠までもう少しだったのに残念!

しばらく待避すると、雪はかなり穏やかになり、路面状態も落ち着いた。「走りたいです!」。車から降り、峠までの数kmを走ることになった。フワフワと舞う雪の中、白く染まった景観の間を走るのは、特別な経験だ。智香さんもこの状況が楽しくなってきたのか、雪の中、笑顔で走っている。


舞う雪の中を走る。思わず楽しくなる智香さん

黄色か赤色かと、紅葉の絶景を楽しみにしてきたけれど、峠の景観は白に覆われていた。想像とは異なる真っ白い絶景の中、橋を越え、峠にたどり着いた。一部ショートカットしたけれど、ともかくも峠に着いたのだ!


完全な雪景色に突入。カラフルな景観はなかったけれど、白もそれはそれで美しい


石北峠、到達! 一部クルマに乗ったけれど、峠に自転車でたどり着く感動は味わえた

ここで再び、吹雪のような天候に。絶景を眺めながらの食事は断念し、車内でランチボックスを開く。おにぎり、唐揚げ、たまご焼き、焼き魚、明太子……ランチボックスは驚くほど豪華だった。廃棄される運命にあった料理を、こんなにおいしくいただけることに、幸せを感じる。


ランチは、おにぎりもおかずも、たっぷり詰まっていて、ひとつひとつのおいしさと思いやりに感動

展望台に登ることも諦め、危険を回避し、サポートカーで下山。塩別つるつる温泉へと戻って、お弁当のお礼を伝えた。
前方には青空すら見え、路面も一部乾いている場所すらあった。雪はあくまで、山の天気だったのだろうか。道の駅のバス停まで5km程度。せっかくなので、走らせてもらうことにした。


道の駅まで走る。暖かく、峠とは別世界のよう

のんびりとした田園風景の中、下り基調の道を気持ちよく走る。さっきまで雪の中にいたなんて、夢を見ていたみたいだ。ところが快適に走っていると、にわかに空が曇り、暗くなってきた。再び嫌な予感が、ふたりを包む。


天候が急変、横殴りの雪に襲われる。雪が痛い!

突然、大粒の雪が舞い始めた。天気の急変に戸惑っていると、横風に乗った雪が強烈に吹きつけてきた。露出している顔が、雪に叩きつけられて痛い。サポートカーは先行しており、自力で走り抜けるしかなかった。スタートした時は晴れていたのに! 横なぐりの雪に耐えながら、道の駅にたどり着いた。


道の駅に帰着!真冬のような雪になってしまった(レンズも水滴だらけ)

道の駅に着き、到着撮影をし、自転車を停めたら雪は止んだ。「こんなこともありますね」と智香さんは笑う。名物の「ホット生牛乳」と、揚げたて熱々の「白花豆コロッケ」を注文し、冷えた身体を温め、帰路のバスに自転車とともに乗り込んだ。


特産の高級豆「白花豆」のみで作られたコロッケ。豆の旨味が詰まっている


しぼりたての生牛乳。ホットにすると、牛乳の香りが漂い、いっそう風味を堪能できる

運転しなくてもいいのは、やはりありがたい。のんびりと進むバスのシートに身を委ね、北見バスターミナルを目指したのだった。


バスにバイクを乗せる。女性には少々重いが、袋に入れなくてもよいため、十分搭載可能だ


自転車の固定方法について運転手さんが教えてくれる

地元の方も、10月中旬にこれほどの雪が降るのは非常に稀だったと語っていたが、10月以降の北海道の峠は、天気の急変に気を付けるべし、ということを学んだ。
予想もしない雪に翻弄されてしまったが、路線バスでアクセスし、e-bikeを使えば、石北峠にトライできることは、証明できただろう。いずれにしても、忘れられないライドになったことは、間違いない。

今年、北見バスでは、終日バス乗り放題と自転車の積み込み放題がセットされた「サイクリストパス」が2660円で販売(今年は10月末で販売終了)されていた。このパスなら費用も抑えられ、レンタサイクルと組み合わせて挑戦することも可能だろう。日が長く、ゆったり過ごせる夏か、紅葉を狙える9月末あたりの時期をオススメしたい。
北見バスの自転車搭載サービスは、来年も実施予定とのこと。石北峠の景観は、実際のところどうなのか見てみたい方は、来年チャレンジしてみてほしい!

画像:編集部(P-Navi編集部)

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