シクロクロス全日本選手権(男子エリート)

2021/04/27(火) 13:08

シクロクロス全日本選手権(男子エリート)

長野県飯山市の長峰スポーツ公園を舞台に11月29日、第26回全日本シクロクロス選手権が開催された。会場が感動に包まれた女子エリートレースに続き、男子エリートカテゴリー(成人)のレースが行われた。

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美しい山並みが見守る飯山市長峰スポーツ公園で開催された全日本選手権


泥が乾き、ねっとりと重さを増し、よりパワーを擁するコースに

男子有力選手を見てみよう。
前回のマキノで優勝し、国内トップシリーズ戦JCXシリーズをここまで3連勝(全勝)と、好調さを見せつけている織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)。2019年はU23を制し、今季からエリートに昇格。エリートとしては1年目の挑戦になる。国内のロードのリーグ戦でも、U23の年間チャンピオンに輝いている。


前戦マキノで優勝した好調の織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)。シケインをバニーホップで越え、会場を沸かせた ※11/22マキノ高原にて

マキノでキレのある走りを見せた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)も本命の1人。マキノでは最後の局面で2位に沈んだが、他を寄せ付けない登坂スピードとパワーを見せた。


マキノで抜きんでた登坂力を見せた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)※11/22マキノ高原にて

ディフェンディングチャンピオンとなる前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)は3連覇をかけて臨む。


2019年の全日本選手権で優勝した前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)※11/22マキノ高原にて

日本を代表するシクロクロッサーの一人でもあり、2度目のタイトルを狙う小坂光(宇都宮ブリッツェン)や、この会場での優勝経験を有し、2011-2015年までの全日本を連覇した竹之内悠(ToyoFrame)、U23で2回の優勝経験を持つ横山航太(シマノレーシング)も注目だ。


2回目の優勝を狙う小坂光(宇都宮ブリッツェン)


シクロクロスでそれぞれタイトルを有する竹之内悠(左・ToyoFrame)と横山航太(右・シマノレーシング)

前週マキノで活躍したトップ選手たちに加え、MTBクロスカントリーで12回全日本選手権を制している前人未到の域で日本の先頭を走り続ける王者、山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)もエントリー。シクロクロス歴は長く、当然、テクニックやパワーにも長けている。この会場でも2015年の大会では2位に入っている。

男子のレースは60分。ここまで2日間にわたり開催されたレースの死闘の跡を残しながら、泥はさらに重くねっとりと固まり、テクニックを要するタフなコンディションとなった。この環境下で開催される、2020年の全日本を制するのは誰なのか。

スタートの号砲が鳴る。順調なスタートを決め、第1コーナーを先頭で越えたのは横山。2014年、大雪に覆われた同会場でのナイターレースを制した経験を持つ。沢田や小坂ら注目の国内トップ選手たちはみな前方に位置し、順当な滑り出しだ。山本幸平も7番手に付け、先頭に加わるチャンスを伺う。


スタート後ほどなく現れる泥区間。各選手のさまざまな動きで大混乱となる。


先頭のパック。このレースでは担ぎとランニングの能力も重要な要素となった

登坂力に長けた沢田が前田とともにパックから抜け出した形になるが、前田はここから遅れてしまう。入れ替わるようにチームメイトの織田が沢田に食らいつき、2名が10秒程度先行する。竹内遼(FUKAYA RACING)が3位まで追い上げて先頭2名を追うが、この差が縮まらない。


先頭は沢田と織田の2名に絞られた

一対一の死闘を繰り広げる2名のペースは衰えず、じわじわと後続との差を広げていった。


泥とキャンバーのこのコースを苦手とする織田も 乗車区間も担ぎ区間もともに沢田にしっかりと食らいついた

先頭を守ろうとする沢田。そしてこのコースを不得意と語っていた織田は、沢田から遅れることなく、時には先頭を走り、周回をこなしていく。マキノで織田が大きなアドンバンテージを得た、シケイン(障害物)のバニーホップ(バイクに乗った状態で飛び越えること)も、配置間隔が狭く、高いシケインが設定されたこのレースでは効力を持たなかった。


様々な要素を含む今回のコース。沢田は集中力を切らせることなく、全てを上手くこなしていく

重い泥がバイクにまとわりつくパワーコースとなり、降車し、バイクを担いで走る選択をするシーンも多くなる。乗車テクニックやパワー、スピードだけでなく、バイクを担いでのランニング力、ピットに入りバイク交換をするかどうかなどの現場判断力を含め、ありとあらゆる能力を試される総力戦となった。
シクロクロスにはトップの選手のラップタイムの80%を越えて周回を終えた選手は、レースから除外されるルールがある。先頭2名が驚異のペースを刻むため、スタートした選手の多くがタイムアウトを宣告される事態に。コース上を走る選手が周回ごとに少なくなっていく。


急傾斜のキャンバーをバイクを担いで走る2名

長く続いた緊迫の一騎討ちに動きが出たのは最終周回。沢田がアタックを積極的にしかけ、ゆさぶりをかける。このカウンターでアタックをかけた織田が、上り階段を先頭で越え、その後に続く下りで、さらに大きな差を開けたのだ。
最終局面でスプリント勝負を予期した織田は、フレッシュなバイクで臨もうと、このままピットに入りバイクを交換する。この数秒の遅れをチャンスに、泥の詰まったままのバイクにまたがった沢田はコースをひた走る。

2名の攻防戦は続くが、最後のキャンバーには沢田が先頭で突入、続く泥区間も冷静さを失わず先頭で越え、わずかに沢田が先行する形で舗装道路上のスプリント区間に突入した。


雄叫びを上げ、フィニッシュに飛び込む沢田。全身全霊で戦い、掴んだ勝利だった

スプリント力では織田が勝るかと思われたが、この日は、このレースに賭けてきた沢田が爆発させたスプリントが、織田を寄せ付けなかった。沢田は大きな雄叫びを上げ、両手を掲げ、力強いガッツポーズでフィニッシュ。自身2度目の全日本王者のタイトルをつかみ取ったのだった。


所属チーム監督がオーガナイザーを務め、沢田にとって負けられない戦いに。重圧から解放され、勝利の喜びと様々な感情が溢れ出る


男子エリート表彰台。3位には地元の応援を背負った竹内が入った。3名には特別なマスクが贈られた

自身のチームの監督がこのレースのオーガナイザーを務め、一種のホームゲーム的な要素も含むことになり、沢田にとっては負けられないレースだった。11月のMTBの全日本後に腰を傷め、乗れない日々が続いたという。前週のマキノも素晴らしい走りを見せていたのだが、十分な練習ができておらず、順位より追い込むことが目的だったと語る。マキノで得た自信と手応えがあったからこそ、全日本での素晴らしいパフォーマンスを見せることができた。
最後のピットインが勝負を決めた、と沢田は振り返る。いずれにせよ、パワーやテクニックに加え、判断力を含めた総合的な力やレース勘も問われる厳しいレースだったことに間違いはないだろう。


優勝した沢田。総合力が問われるタフなレースで、すばらしい戦いぶりだった

もともと苦手なコースであることを公言していた織田は、それでも悔しさをにじませながら、沢田の強さを讃えた。3位には、地元のプレッシャーを胸に、大きな応援を受けて走った竹内が入っている。
1周目に沢田、織田の2名のパックが形成されてからゴールまで、息もつけないほどの一騎討ちが続いた。相手の出方に意識を研ぎ澄ましながらの7周回。この長い戦いの間、緊張感を保ち、冷静なジャッジをし、巧みに戦い抜いた沢田に軍配は上がったが、誰もがこの2名が抜群に強かった、と語る。

この日、完走したのはわずか10名。非常に厳しいレースだったことは確かだが、いかに先頭2名の走りが抜きんでたものだったかということを示していると言えるだろう。

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【結果】男子エリート結果(7周回)
1位/沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) 1:00:13
2位/織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)+0:00
3位/竹内遼(FUKAYA RACING)+1:29
4位/小坂光(宇都宮ブリッツェン)+1:44
5位/山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)+2:27

写真:Satoshi ODA、編集部(P-Navi編集部)

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