2021/04/06(火) 13:56
福島県南会津を舞台に毎年開催されてきたサイクリングイベント「走ってみっぺ南会津」。9月に9回目を迎えたこの大会は、例年7月の海の日に開催されてきたもの。東京五輪への影響を考慮し、時期をスライド。新型コロナウィルスの感染拡大を受け、多くのイベントが中止となる中、政府からのイベント開催条件の緩和状況を見ながら、感染防止策を徹底した上で、開催に踏み切ることになった。主催者、参加者一丸となって実施された9月のイベントをレポートしていきたいと思う。
ゲストと参加者有志との少し間隔を確保しながらの記念撮影。
例年は100kmのロングライドイベントとして開催されるのだが、昨年はスタート時、走行中、エイドステーションと、あらゆるシーンで「密」を避け、ソーシャルディスタンスを確保。そのため、距離を短縮した60kmと30kmの2コースが設定。例年豪華なエイドステーションでの振る舞いが好評を博しているのだが、短縮されたコースの中でも、いかに参加者に楽しんでもらうか検討が重ねられた。名物の「マトン丼」も健在だ!
多くの参加者とイベントスタッフが安全にイベントを終えられるよう、この大会では独自の「ガイドライン」を作成した。スポーツ庁や観光庁から出ている感染予防ガイドラインや、自転車競技連盟、レース開催を再開した実業団連盟が出すガイドラインや情報に加え、医療関係からの情報を加え、大会にさまざまな立場で関わる有志たちが話し合って内容を練ったものだ。
マスクもさまざま。UVケアと思えば楽しめる!?
例年参加者が楽しみにしてきたゲストの選手たちとの記念撮影や交流も、距離を空け、握手などの接触はしないことが決まり。参加者は素直に配慮をし、終日トラブルなしで笑顔の開催となった
走ってみっぺは、例年前夜祭が非常に好評である。イベントとしては非常に稀なことで、前夜祭を含めた参加組が参加者の大勢を占めていた。だが、今回は密を避けるため、この前夜祭も断念。前夜祭もなく、距離も短縮され、ガイドラインの遵守を約束してまで、参加してくれるサイクリストがどれだけいるだろうか。運営側としては、感染防止策と集客と、大きな不安を抱きながらの開催だったことだろう。
コスプレライダーも配慮はバッチリ!サイクルロードレース観戦の定番キャラである「悪魔おじさん」は赤いマスクを着用し、消毒液携帯の上でコースを走った
例年より短い募集期間を終え、2コースへのエントリーは330名!この状況下では、おそらく国内最多であろう参加者が集まり、開催を実現することになった。最多といっても、ライドを開催するフィールドの規模を考えれば、密にはならず、十分安全に楽しめる数だ。
参加者は全員検温を受けることが義務となった
受付を前に手指の消毒をする参加者
受付スタッフ全員がフェイスシールドを着けて対応。参加者もマスクの着用が求められた
スタートは朝8時。スタートに先立ち、受付と開会式が予定されていた。参加者は皆、サーモカメラでの検温を済ませ、手の消毒をし、参加キットを受け取る。
開会式には全員マスクやマウスガードを着けて参加、注意事項を確認した。参加者は走行時、車間を2m、目安としては自転車1台分プラスアルファ程度の距離を確保する。エイドステーションでは原則マスクを着用し、手指の消毒も必須。ドリンク等は、大会スタッフが補充作業を行うこととし、参加者が共用の容器に手で触れるシーンを作らないように配慮された。
ゲスト、MCもソーシャルディスタンスを保った上で開催された開会式
参加者は間隔を保ち、会場に広がった状態で、大会の感染予防策とこの日のルールを熱心に聞く
例年、追い抜き時などの参加者間の接触やトラブルを防ぐため強く推奨されていた「声かけマナー」も本年は休止。原則ハンドサインを出すこととした。ビギナーも多い大会であり、緊急停止時にもハンドサインを出せない場合は、後方に顔を振るなどジェスチャーで示すこと。さらに、声をかけあえない分、いつもよりも視野を広く確保し、前方で起きていることを目視で確認するように要請。とはいえ、ギスギスせず、皆が楽しめるよう、積極的に笑顔、目配せなどでコミュニケーションをとることも提案された。
ゲストは今年も豪華で、栃木のロードレースチーム、宇都宮ブリッツェンや那須ブラーゼンから選手らが集まるとともに、ブリッツェンの女子ユニットであるブリッツェンラバーズや、栃木のFM局レディオベリーでパーソナリティーを務める水間有紀さんらが参加。大会を盛り上げた。
全ゲストがスタートゲートに整列!大会を盛り上げる
例年ユルさをうたってきた自由な大会だったのだが、今回は全員がゼッケン番号順に整列し、10番刻みでグループを作り、1分半おきにスタートしていく方式となった。ここにゲストが分散して参加していく。管理下に置かれる印象で、少々窮屈であろうし、誘導ができるのかと懸念されたが、参加者が自発的に状況を見て自分のゼッケン番号のタイミングに合わせて集合し、スムーズに全員がスタートすることができた。
第1グループ。ツール・ド・フランスのようにスタートコールまで全員がマスクを着用して待機
要請に従い、きちんと整列してスタートを待つ参加者たち。マナーの良さに感動!
笑顔のスタート
コースはスタート地点となる、たかつえ高原のアストリアロッジから、まず2kmの下りを経て、下りきったところから、30kmと60kmのコースに分かれていく。この高原までの下り(最後には上りになる)以外は大きなアップダウンはない走りやすいコースだ。
最初の下りは、グループごとにゲストか、任命されたリーダーが先頭に立ち、速度を抑え、全員でゆっくりと安全に進む。ここを越えれば一安心。目の前に広がる緑豊かな環境の中を気持ちよくペダルを踏みこんでいった。
下りを終え、笑顔で秋の南会津の町へ向かう参加者たち
走ってみっぺ名物!方言を使った温かい案内板
ほどなく、最初のエイドが登場する。館岩物産館だ。エイドスタッフは、マスクにフェイスシールドを重ね、手袋を着用した上で参加者に接する。完全防備体勢でありながらも、かけてくれる言葉や気遣いに地元の皆さんの温かい想いがにじみ出てくる。
水辺の風景も美しい
最初のエイドステーション。スタッフ、参加者の皆さんも慣れないコロナ禍の中での交流に最初は緊張した様子だったが、すぐに慣れたようだ
クッキーなどが振る舞われた
コロナ禍でイベントも少なく、自粛期間もあり、屋外で自転車にほとんど乗っていない参加者も多かったようだ。スタートと最初の下りには緊張が漂ったが、全員が最初の関門を無事に越え、ここでリラックスした時を過ごしていた。
MCの棚橋麻衣さん、ゲストの水間さん。クッキーゲット!
「すずきさん」の私設応援団も!(アレとは仏語で「行け!」の応援の言葉)
しばらく進むと前沢曲屋集落が現れる。ここは国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、茅葺屋根の家屋が並び、日本の原風景を今に残す集落で、中門造り(曲家)含む伝統的家屋が19棟あり、現在も人々の暮らしが営まれている。豊かな自然の中に広がるこの集落の景観は、まるでタイムスリップしたよう。もちろんバイクを止め、この集落の見学を楽しむこともできる。
茅葺き屋根の民家が並ぶ前沢曲屋集落
昔ながらの住宅の内部も見学可能
30kmのカテゴリーは、スタートからの下りを経た後、60kmとは反対側に向かい、「そばソフトクリーム」で有名な「番屋道の駅」を回って、館岩物産館で休憩、前沢曲家集落で折り返す。このショートカテゴリーは時間的にも余裕があり、前沢集落に立ち寄った参加者も多いようだ。
木々が並び清涼感のある気持ちの良い道を行く
たわわに実った稲が揺れる実りの景色
60km組はこのまま気持ちの良い道を進む。正面には美しい山並みを眺めながら、実りの時期を迎えた稲穂が揺れる田が広々と広がる真ん中を行く。真夏の鮮やかで濃い緑の景観もよいが、今年は24度と、ちょうど走りやすい気温に加え、カラッとした秋の空気。ライドは爽快そのものだ。館岩川を越える橋の上からの景観がまた絶景。水と緑が織りなす涼やかな眺めを楽しむことができる。広々とした絶景に包まれ、快適にバイクを飛ばして行く。
川を越え、ギッシリと行儀よく並ぶ木々の横を抜けて行く。蛇行する川に沿ってルートが弧を描くエリアは、水辺を見晴らすことができ、最高の美しさ。静かに走らなくてはと思いながらも、思わず歓声を上げてしまう。
参加者でにぎわう自然の中の内川のエイド
甘辛の味噌付き「ばんでい餅」と冷やしきゅうり
川とともに絶景の中を抜け、2つ目の「内川」のエイドステーションにたどりつく。ここでは「ばんでい餅」やシュークリームが振る舞われた。参加者たちは、おいしいエイドを頬張りながら、(マスク着用の上でだが)たべものやライドの感想を語り合う。皆、久しぶりのサイクリングイベントに慣れ、全力でこの貴重な時間を楽しむかのようだった。
広大な自然の中をぜいたくに駆け抜ける
県外の人間にとっては、スノーシェッドを抜けるのも特別な経験
さて、ここからは伊南川と共に行こう。市街地からも離れてきて、グッと川が近くなる。より一層、自然が近くなり、また違う開放感が漂う。冬は雪深い地域になるようで、コース内に何箇所か、屋根がかけられたトンネル状のループを抜ける。川側は柱になっており、景観は遮られないのだが、ここの冒険感が大きい!
濃い緑の山に向け、橋を渡る。水と緑の織りなす景色がこれほどまでに美しいとは……。参加人数が少ない分、景観が色濃く視界に迫ってくる。美しい景観の中を、気持ちよく走れる幸せ。自由と解放感をかみしめる。窮屈な時間が多い昨今だが、その全てが解き放たれて行くようだ。
道はほんのりと上っているようだが、厳しさを感じるほどではない。帰りは気持ちよく走れるだろうなと、ぼんやり思いをめぐらせた。美しい川とともに、しばらく走ると、前方にテントが見えてきた。ついにランチエイドだ!この高畑スキー場エイドでは、名物のマトン丼が振る舞われていた。サイクリング大会としては非常に珍しい定食レベルの大盛りで、このために参加しているという参加者も少なくない。
ついに来た!マトンエイド
香ばしい香りを放ちながら、マトンがあぶられている!
今年も各地で温かいごはんにドーンと盛られたマトンを多くの参加者が頬張っていた。マトンは噛み締めると、ジワッと旨味が染み出してくる。やわらかくて、タレが絡んだご飯とベストマッチ。さらにマトンとともに乗せられた柴漬けも驚きの太さ!噛み締めると、絶妙の歯応えが楽しめ、気持ちのよい酸味と、汗をかいたカラダにうれしい塩味が口の中に広がる。マトンの食後をサッパリさせてくれる相乗効果もあるようだ。
走ってみっぺ名物のマトン丼。この大きな柴漬けの存在感も大!
ランチを食べた後も、しばし参加者との交流を楽しんだ。さて、コースはもう少し奥まで伸びている。お腹は重いが、出発しよう。
白い岩と美しい川が織りなす不思議な世界「屏風岩」
折り返し地点は「屏風岩」。伊南川の急流が長い歳月をかけて生み出した白い岩々が、天に向かってそそり立つ絶景ポイントだ。美しい渓流の中に奇岩・怪岩が並び、自然の底知れぬパワーを感じさせられる。例年は真夏の大会とあって、ダイブする参加者がいるのだが、今年もいたとか、いないとか?美しい水に足を浸したり、散策したり、童心に戻ったように、この涼やかで美しいスポットを満喫したのだった。
窮屈なサイクリングシューズを脱ぎ、澄んだ水に足を浸し、開放感と清涼感を楽しむ参加者
名残惜しいけど、帰路につく。帰りは下り基調であり、走り慣れたサイクリストは、かなり気持ちよく飛ばすことができる。ブリッツェンやブラーゼンのゲストライダーとともに走行する参加者は、後ろに付かせてもらい、選手のスピードを味わいながら走ることも。今回は車間距離を広く取らなくてはいけないのだが、2m程度であれば、風除けになってくれる効果は残っているようだ。
今回のコースは往復同じ道を使うため、エイドも2回ずつ立ち寄ることができる。水分補給やコミュニケーションに2回ずつ立ち寄る参加者もいれば、快適な速度で巡航しながらストップせずに帰る方も。
再度立ち寄る内川のエイドでは、シュークリームとバナナがふるまわれた。マトンランチのデザート♪
同じ道でも、行きと帰りでは、また見え方も変わる。交通量も少なく、走りやすい伊南川エリアを抜け、再び内川のエイドへ。ここではシュークリームとバナナを味わえた。そこから、いよいよ終盤戦へ。
館岩川が弧を描く、美しいエリアに差し掛かる。ここは帰路の方が川側(内側)になり、澄んだ川が緑とともに描き出す美景をより近くで楽しむことができるのだ。目の前に広がる美しい景観にウットリ。
気持ち良くバイクを走らせる参加者
次第に民家も増えてくる。ゴールはもう遠くない。重さに首を垂れる収穫間際の稲穂が広がえる田園風景を楽しみながら、ゆっくりとバイクを走らせる。
エイドスタッフが再度笑顔で迎えてくれた
館岩物産館で最後の休憩。ここでは、きのこそばと、南郷トマトと笹団子が振る舞われた。さっそくトマトにかぶりつくと、ジューシーで、うまみたっぷり。トマトはダシに近い成分が含まれているというが、こんなにうまみのつまったトマトがあったとは!エイドスタッフのオススメで、塩を振ってみると、またさらにうまみが引き立った。南郷トマトはブランドトマトであり、それなりのお値段なのだが、近くの店では、地元価格でこのトマトが売られているという。帰りに絶対に買って帰ろう。
驚くほどうまみが詰まった南郷トマトと笹団子
のどごしの良い蕎麦。溜まってきた疲労もシャキッとする
今回の走行距離では、カロリーオーバーな気がしないでもないのだが、勧められるままにそばをいただく。喉越しのそばはアッサリと胃の中に収まっていった。この土地はそばの名産地でもある。風味も良く、歯応えも絶妙。このコースは最後の最後に最難関地点が控えている。エネルギーを蓄えておかなくては。
ここまで来れば、ラストまでカウントダウン。ラストの2kmの上りに少し緊張しながら。楽しい時間を過ごした南会津の町の魅力を噛み締めて走る。ついに、朝の分岐地点に到着。ここから、長い上りが始まる。
最後の登坂に臨む参加者
悪魔おじさんの応援にパワーをもらう!
勾配はそれほどキツくないのだが、上っていくと、少し踏ん張りが必要な箇所も登場する。聞けば、平均勾配は6.8%とか。意外と厳しい。この上り坂は、コースを走り、大いにはしゃいだ後に登場するため、より脚に堪えてしまう場合もあり、押し歩きを選択する参加者も多い。「急がば、回れ」とも言うし、走るより楽なら、歩いてみっぺー!
ゴールはブリッツェンラバーズが迎えてくれた
坂を上っていくと、参加者に向けた、ねぎらいの言葉が聞こえてきた。ゴールだ!アストリアロッジに到着!「おかえりなさーい!」「完走おめでとうございます!」と、マイクを持ったブリッツェンラバーズのメンバーたちが笑顔で迎えてくれた。
今回の完走証
ゴール時にドリンクと完走証を渡してくれる
例年は、抽選会と閉会式があるのだが、密を避けるため、ゴール後は順次解散の形式となった。終わりが少し寂しいけれど、コース内で十分に楽しんだ!自転車は密を作らずに皆で感動を共有し、楽しめるツールであると再認識した参加者も多かったことだろう。皆がマナー良く、最初から最後まで、気持ち良く楽しむことができた。
ゴールして笑顔の参加者たち。この日は南会津にたくさんの笑顔の花が咲いた
1日の思い出を胸に、南郷トマトを買い、30kmコースの折り返し地点となった道の駅番屋でそばソフトを買って帰路についた。
本当に素晴らしい大会だった。苦労は大きかったと思うが、開催に踏み切ってくれた主催者に感謝したい。また、主催者の意図を組み、全力で楽しみながらも、シッカリと感染予防に協力した参加者の姿勢もすばらしかった。今年は特に、参加者、スタッフが思いを1つにしている感覚が大きく、まさに「ワン・チーム」となって、このイベントを楽しむこと、安全を守ることを実現させていたように思う。
2021年は10回目の節目を迎える「走ってみっぺ南会津」。日にちは未定だが、もちろん開催予定!小学生から参加可能(しかも小中高校生の参加費は1500円!)とあって、家族で楽しめる大会だ。次回はみんなで、走ってみっぺー!
画像提供:たかつえ地区マウンテンバイクリゾート構築による地域おこし事業推進委員会(イベント主催)
撮影:Michinari TAKAGI(Cyclowired.jp) 編集部(P-Navi編集部)