2020/09/14(月) 18:16
今年は梅雨明けが遅れ、暑さの到来が遅れたが、いざ、梅雨が明けたら酷暑が続いている。新型コロナウイルス感染予防のため、日常的にマスクを着用することになり、自転車に乗る時も、飛沫対策のエチケットとしてマスクやネックゲイターなどで口元を覆わねばならないシーンが出てくることになる。例年よりも熱中症のリスクが高いと警告されているが、どのような対策が取れるだろうか。
エチケットとして歩行者と行き交うエリアなどは自転車に乗る際もマスクオンとなり、熱中症のリスクが上がる可能性がある。
△熱中症とは?
まず、熱中症とは何だろうか。人間の身体は暑さや身体運動などで体温が上がっても、汗をかいて蒸散させたりすることで熱を外に逃し、体温調節をするように機能する。だが、外部の温度が上がり過ぎたり、日差しが強い、湿度が高い、風がなかったりする状況になると、身体が巧く機能しなくなる。そして、汗をかけなかったり、炎天下の作業や運動などで負担が掛かり過ぎたりすると、身体がバランスを失い、体温調節ができなくなり、発症してしまう。
暑さの中で身体がコントロールを失い、体温調節ができなくなってしまう。
熱中症は__だるさ、吐き気、めまい、頭痛、筋肉痛、けいれんなどが代表的な症状になるが、命を落とす人もおり、万が一起こした場合は速やかに冷やし、水分補給を行うなどの手当てをし、重度の場合は医療機関での処置が必要となる。何よりも十分な予防をすることが大切なのだ。
●今年特有の高い熱中症リスク
熱中症は身体が熱への対応ができなくなった時に起こる。例年、身体が暑さにまだ慣れていない夏の始まりなどに多くの熱中症が出るのだが、今年は外出の自粛で、身体が外気の暑さに慣れないまま酷暑に突入したこともあって、熱中症を起こしやすくなっているのだ。
マスクをすると呼吸で身体を冷やすことが難しくなるため、熱中症のリスクがあがるとも言われている。
マスクをすることで口の周りの温度が数度高くなり、空気も暖めることから、呼吸で身体を冷やすこともできなくなる。さらに加湿で、喉の乾きに鈍感になりやすいというリスクもあるという。マスクをしたまま運動をすると、呼吸しにくく、心拍数、呼吸数、二酸化炭素が増えたという研究結果が出ており、体への負担が高まると警告されている。さらには吐きだした二酸化炭素がマスクの内側に溜まれば酸素濃度が落ち、高地の低酸素トレーニング状態になってしまうという。
マスクを着用したまま運動したり、炎天下で活動したりすれば熱中症になるという訳ではない。だが、身体への負担が高まることは確かであるため、本格的な夏こそ終わったが、例年より念入りに対策をする必要がありそうだ。
●熱中症にならないために
それでは、熱中症予防にはどのようなことができるだろうか。これまでも様々な種目のトップ選手の栄養指導を担当し、現在はオリックスバファローズの専任管理栄養士を務める河南こころさんにお話を伺った。
「対策としては『体内の水分が不足しないようにする』、『体温を上げない』がポイントになるかと思います」
人間の身体は体内で熱が発生すると、血液に熱を移し、温度が上がった血液が皮膚近くの毛細血管に広がっていく。その熱を体外に放出したり、発汗を蒸発させる気化熱を使ったりして身体を冷やそうとする。水分が不足すると、身体は熱を排出できなくなってしまう。発汗そのものでも体内の水分は失われていくが、水分が不足すると、筋肉や脳、臓器に血液が行き渡らなくなり、足つりなどの症状や高まった熱そのものが悪影響をもたらすことがある。酷くなると、意識障害や肝臓、腎臓の機能障害まで出てきてしまうこともあるのだ。
熱中症の予防には水分補給が鍵になる。
具体的にはどのようなことに気を付けて行動したら良いのだろうか。
「こまめに水分補給をすることですね」
やはり、最も基本的、かつ効果的な対策は水分補給になるようだが、この「こまめに行う」とい点も意味があるようだ。人間は軽い脱水症状の時には喉の渇きを感じないという。熱中症の危険のある状況の時は喉が乾く前から少しずつ飲み始めておくことが大切だ。
●効果的な水分補給方法
どんなものを、どんなタイミングで飲んだら良いのだろうか。体液は水分とミネラル成分(電解質、塩分などと表現される)でできているが、発汗の多い時にもミネラル分を補填せず、水分だけを摂取し続けると、発汗で失われたミネラル分が体内に不足し、血液が薄まってしまう。酷い時には血中のナトリウム濃度が生命の維持にも危険なレベルに低下することもあり、注意が必要だ。ミネラル(電解質)や少々の糖類が含まれていた方が吸収も速やかであることもあり、水分補給にはこれらの成分を含んだスポーツドリンクや経口補水液が使用されることが多い。
水やお茶よりもミネラルが入ったスポーツドリンクを選びたい。
「昔はスポーツドリンクの中でもハイポトニック(体液より薄いドリンク)が良いと言われていましたが、現在はアイソトニック(体液と同じ濃さのドリンク)が推奨されていますので、薄めずにそのまま飲むことをオススメしています」と、こころさん。スポーツドリンクにも様々な種類があり、溶かされた成分の量によって浸透圧が異なり、吸収速度が異なってくる。「アイソトニック」は少し甘さが強くなるため、甘すぎて胃に不快感が出る、口の中がベタベタするのが嫌い、というのであれば薄めても良いとのことだった。
「こまめな水分補給」を運動後の習慣にしたい。
運動をする場合はどうしたら良いのだろうか。
「運動をスタートする30分前までには水分を摂り、運動中は15分ごとを目安に水分を補給しましょう」
さきほど「こまめに」という表現が出てきたが、運動中はかなり頻繁に水分補給することが必要になる。持久系競技、長い時間運動する場合には体格や気温、運動強度にもよるが、1時間あたりの500~1000mlを目安に、水分を補給することが勧められるそうだ。喉が乾いてからではもう体内の脱水が進んでしまうので「早目に飲み始める」ことも大切なポイントだという。
ドリンクの温度にも目安はあるのだろうか。
「『5~15℃に冷やすと飲みやすい』と、されていますが、冷たいものを飲んでお腹が痛くなる場合は問題ない温度に調整してください」
ある程度は飲みやすいと、感じる好みで選んで良いようだ。
水分補給に加え、首を冷たく冷やしたタオルなどで冷やすことも効果的!
特に暑い中で身体を動かす時などは「こまめな水分補給」に加え、何か対策はないのだろうか。
「冷たいものを摂取して体内から冷やしたり、大動脈が流れている首元などを冷たいタオルなどで冷やしたりすることも良いです」
ロードレースの選手が真夏や灼熱の地のレースでは氷を入れたストッキングで、首筋から背中を氷で冷やしながら走るという話しを聞く。ダイレクトに冷やすということも現実的な対策になるようだ。
「冷たいもので体内から冷やす」方法だが、水やスポーツドリンクなどを製氷し、氷を微細に砕いてシャーベットと液体が混ざり合った状態にし、この流動性のある氷の粒子を飲むことで体内から効果的に冷やす「アイススラリー」という方法があるそうだ。
こころさんもチームで導入しているというアイススラリー。
氷を微細に砕き、流動性のある氷の粒子を含むドリンクを作る。
国内でも大塚製薬が馴染み深いポカリスエットのアイススラリーを製品化しており、ドラッグストアなどで店頭に並べる店舗も増え始めている。「アイソトニック」のポカリスエットと同じ電解質バランスを保ちながら凍らせると「スラリー」と呼ばれる、液体と氷との混合物になるという。ちなみにこの「スラリー」は氷を細かく砕くことで流動性を持たせるフローズンドリンクやスムージーとは異なり、細かくした氷が液体に分散した流動体の状態になっているために、体内に浸透しやすく、冷却効果が高いのだそうだ。「直接、熱を下げることや深部の冷却効果がプラスされた究極の製品」と、謳われている。
市販されているポカリスエットのアイススラリー。
本来特殊な技術や設備が必要なのだが、家庭の冷凍庫で凍結させてもスラリー状になる液体を開発。
ドラッグストア、ウェブ、一部のコンビニエンスストアなどで購入可能。
希望小売価格180円(税抜)
冷凍庫で4時間以上凍らせ、少し揉んで柔らかくしてから食べる。
粘り気も感じるようなトロッとした食感の冷たい液体に。
再凍結してもスラリー状になるという。
ポカリスエット味で氷菓としてもかなり美味。
こころさんによればアイススラリーを運動前に摂っておくことで、体温の上昇を抑え、発汗量を減らし、脱水症状を抑えることが期待できるという。また、大量の水分を飲むことに比べると、少量で効率よく体温を下げられるため、胃腸への負担が小さいというメリットもあるということで、現在のチームでも導入しているという。
冷却効果ももちろんだが、暑い時期には冷たい食べものは嬉しいものだ。同じ効果を持つものを再現するのは難しいが、「内側から冷やす」ということをヒントに、近いものはスポーツドリンクなどをベースに、家庭のミキサーやジューサーでも作れるかも知れない。もちろん、運動後のクールダウンにも使えることだろう。美味しくて、楽しみながら作れる熱中症対策になりそうだ。
●日常から心掛けたい熱中症対策
外出時や運動時だけでなく、日々の暮らしの中でできる対策はないだろうか。
「食事では汁物を加えるのがお勧めです。暑い時は冷たい汁物(宮崎名物の冷汁のようなもの)も良いですね。その中に、そうめんなどの麺類を入れると、エネルギーを摂ることもできます」
真夏は食欲も減退しがちだが、冷たい麺類なら食べやすい。さらに汁にも栄養価が高く、飲めるようなものなら、発汗の多い日にはうってつけだ。日本ならではの食事の中にもヒントがありそうだ。「汗をかいた時に失われやすいカリウムが多い、いも類、海藻類、豆類、バナナなども積極的に食事、おやつに取り入れたいですね」
冷汁は程良く塩分(ミネラル)も摂取でき、身体も冷やしてくれる。
栄養もタップリ!
カリウムの多い食材も積極的に取り入れたい。
意外なことだが、朝食の欠食や寝不足も熱中症のリスクを上げてしまう。睡眠中にも人間は多量の汗をかいており、起床時は脱水状態であることも多い。食事をせず、ブラックコーヒーだけを飲んで出発!などといった行動をすると、一気に熱中症の危険信号が灯ってしまう恐れがある。朝食からエネルギー、水分、塩分をシッカリ摂り、身体のエンジンを回していきたいところ。寝不足状態だと脳の動きが鈍くなり、体温調整が上手にできなくなってしまうこともあり、熱中症を起こしやすくなってしまう。シッカリ食べて、飲んで、睡眠を確保できるよう、生活を立て直すことも重要な対策だ。尚、アルコールの飲み過ぎや二日酔いは脱水症状を招きやすく、熱中症も起こしやすくなるので、飲み過ぎにはくれぐれも注意して欲しい。
シッカリ3食を摂り、睡眠時間を確保。
身体の状態を整えよう。
外出の自粛という課題もあるが、冷房の効いた家に籠っていると、身体が弱り、ちょっとした状況の変化で、すぐに熱中症を引き起こすようになってしまう。是非、屋外での散策や室内施設であっても身体を動かし、汗をかく時間を設けてほしい。暑くなり始めの時期から30分程度の適度の運動を心掛けていくと、身体が暑さに慣れてくるという。朝や夕方など、気温が落ち着いた時間帯を狙い、自転車で近所を散策してみてはどうだろうか。身体を動かすことで血の循環も良くなり、心身のバランスも取りやすくなってくる。
●夏を楽しむために
この夏はメディアで新型コロナウィルスの感染リスクや酷暑予報と熱中症の危険が日々強調され、今も残暑が続くので、気が重くなっている方もいるかも知れない。しかし、熱中症は一部の極めて過酷な条件下で活動される職業の方を除き、通常の生活をされる方であれば今回、ご紹介した予防ポイントやコツを心得れば十分に回避できることだろう。是非、熱中症にも耐えられる強い身体を作る生活を楽しんで、残暑も満喫していただけたらと思う。
参考資料:環境省 熱中症環境保健マニュアル
日本救急医学会「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」
写真提供:河南こころ、編集部等(P-Navi編集部)