宇都宮シクロクロス(レースレポート)

2020/01/16(木) 11:40

宇都宮シクロクロス(レースレポート)

栃木県宇都宮市の『道の駅うつのみや ろまんちっく村』を舞台に、12月14日、15日の2日間、『カンセキpresents 2019宇都宮シクロクロス』が開催された。これは、冬のオフロード競技であるシクロクロスのレースであるが、レース挑戦へのハードルが下げられ、誰でも参加できるように設定が工夫された人気の大会である。参加型のレースだけでなく、UCI(世界自転車競技連合)の登録選手のみが参加できるカテゴリーのレースも連日開催。国内のトップ選手だけでなく、男女共に海外から招待選手も参戦するとあって、多くの観客が集まった。

レースのカテゴリーとしては、成人男性はレベルや経験に合わせた『カテゴリー(C)』2〜4と、1980年以前生まれの参加者を対象とした『マスターズ(M)』1~3、女性は『カテゴリー(CL)』2と3が設定され、キッズは2学年刻みで、3つにカテゴリー分けされている。規定時間の中で何周走れるかを競う『エンデューロ』は中学生以上であれば誰でも参加でき、観戦がてら参加することも可能だ。UCIレースは、『エリート』と呼ばれる成人の男子(18歳以上)、女子(16歳以上)に加え、15~17歳男子のUCI登録選手を対象としたジュニア男子の3カテゴリーが設定されている。

[caption id="attachment_31238" align="alignnone" width="640"] キッズカテゴリーのレースも開催された[/caption]

正式なエリート男子レースの競技時間は60分。「この世でもっとも厳しい競技」とも評されるように、レースの運動強度が高く、さらに補給もない中での60分は『人間の限界』に近いところに設定されている。その苛酷なレースに挑む姿を観戦するのが人気で、本場北ヨーロッパのトップレースには、何万人もの観客が押し寄せる人気競技なのだ。

[caption id="attachment_31239" align="alignnone" width="640"] ジリジリと選手の体力を奪う三段坂[/caption]

[caption id="attachment_31240" align="alignnone" width="640"] コントロールが難しい砂セクション[/caption]

[caption id="attachment_31241" align="alignnone" width="640"] 華のあるフライオーバー(立体交差)[/caption]

この2日間のレースにおいて、UCIレースをのぞいては、多くの参加者が「苦しむことを楽しみに来た」というところ。設定された1周2.6kmのコースには、三段坂や、泥キャンバー(斜面に作られた走行路部分)、砂セクション、シケイン(障害物)が設定され、これを何周回も走ることを考えると相当に「キツい」コースだ。ただし、シクロクロスはスピードが出ず、路面には草地や泥が多く、転倒しても怪我することが少ないこともあり、やみつきになって参加する一般ライダーも多いのだ。観客との距離が近く、応援や愛のあるヤジが飛び交い、アットホームな雰囲気の中、レースが進行していく。

[caption id="attachment_31243" align="alignnone" width="640"] 今回、多くの選手たちを、もてあそんだ砂セクション[/caption]

特に、エンデューロは『仮装の表彰』も設けられており、グループでの参加も可能。参加者たちは、思い思いの格好での参戦を楽しんでいた。どことなくゆったりとした会場の雰囲気が、UCIレースに該当するカテゴリーが始まると、少しずつ引き締まっていく。

参加者は少数ながら、力のある若手選手の真剣勝負となったジュニアのレースでは、2日間ともに、迫力あるレースが展開された。

[caption id="attachment_31244" align="alignnone" width="640"] 熱戦となったジュニアのレース。初日は鈴木来人が優勝[/caption]

14日は鈴木来人(BonneChance)が優勝を決めたが、初日に惜敗した松本一成(TEAM SCOTT JAPAN )が2日目の優勝をもぎ取り、会場を沸かせた。

[caption id="attachment_31245" align="alignnone" width="640"] 白熱したジュニアレース。ガッツポーツでフィニッシュラインを越える[/caption]

エリート女子は海外からMTBのクロスカントリー競技を専門とするスロバキアチャンピオン、ジャンカ・ケセグステブコア(OUTSITERZ cycling)が参戦。

25年のオフロードレースのキャリアを有する43歳のベテランが強さを見せつけ、1周目から先行、日本のベテラン・唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)が健闘を見せたが、1日目はケセグステブコアが、そのまま独走でレースを終えた。西山みゆき(Toyo Frame Field Model)が3位。

[caption id="attachment_31246" align="alignnone" width="640"] 健闘した唐見(弱虫ペダルサイクリングチーム)[/caption]

[caption id="attachment_31247" align="alignnone" width="640"] ケセグステブコア、唐見、西山の表彰台[/caption]

2日目は、海外遠征から帰国したばかりのジュニアチャンピオン渡部春雅(駒澤大学高等学校)が参戦。

[caption id="attachment_31248" align="alignnone" width="640"] ケセグステブコアに果敢に挑んだ渡部[/caption]

ケセグステブコアに果敢に挑んだが、やはり突き放され、ケセグステブコアが独走優勝。パワーとテクニックの差を示した。

[caption id="attachment_31249" align="alignnone" width="640"] 独走で連勝を決めたケセグステブコア[/caption]

[caption id="attachment_31250" align="alignnone" width="640"] レース後の上位3名。渡部の健闘をケセグステブコアは高く評価した[/caption]

エリート男子のカテゴリーは、シクロクロスとロード競技の知名度の高い選手や海外招待選手が参戦し、迫力あるレースが展開されることから、多くの観客を集めるメインイベントとなる。

スタートが近づくと、スタートエリアに観衆が集まってくる。連日、あっという間に、スタートエリアは観衆で覆い尽くされることになった。前列に並ぶ優勝候補の有力選手たちは、一人一人名前をコールされ、拍手を受けながら、スタートラインに着く。皆、リラックスしたような表情を浮かべてはいるが、スタートに向け、エリア全体の緊張感が高まっていく。

今大会の海外招待選手は、オーストラリア選手権のU23チャンピオンのベン・ウォーカーデン (オーストラリア)とブレンドン・シャレット(ニュージーランド)。さらには、国内でも注目度の高いUCIレース、ラファスーパークロス野辺山を征したエミル・ヘケレ(チェコ)も参戦した。

1日目、地元を背負う小坂光(宇都宮ブリッツェン)を先頭にレースがスタート。チームメイトである織田聖、前田公平(ともに弱虫ペダルサイクリングチーム)が先頭に立つ。前田公平は、この前の週に開催された全日本選手権で優勝し、連覇を決めたばかり。今年度の全日本チャンピオンジャージをまとっての出走だ。この日の本命、エミレ・ヘケレはその背後に控える。

[caption id="attachment_31251" align="alignnone" width="640"] 織田の後に小坂、前田が続き、砂セクションを力強く進む。背後には海外勢が[/caption]

前田が前週に続き、調子の良さを見せるかと思いきや、転倒、足を傷め、レースを早々に去ることになってしまった。

[caption id="attachment_31252" align="alignnone" width="640"] ボリュームゾーンでは混乱が起きる砂セクション。上位入賞には、早い段階で前に上がるしかない[/caption]

[caption id="attachment_31253" align="alignnone" width="640"] 大迫力の三段坂。熱狂した観衆の声援の中、選手たちが上がってくる[/caption]

単独でのレースとなった織田が先頭を行く。後続との距離も開き始めたようにも見えたが、後半に入ると、ヘケレがジワジワと差を詰め始めた。ラスト2周を切ったところで、織田が転倒、リカバリーに時間がかかり、大きなタイムギャップが開いてしまう。織田は集中を切らさず、懸命にヘケレを追い、タイム差を縮めるが、無情にもゴールが近づく。

[caption id="attachment_31254" align="alignnone" width="640"] シケイン(障害物)をバニーホップ(ジャンプ)でクリアする織田[/caption]

ヘケレを捕えるには、あまりに距離が短かった。ヘケレは悠々とフィニッシュラインを越え、今季日本での3勝目を決めた。織田は2位でフィニッシュ。小坂光が、3位表彰台を獲得した。

[caption id="attachment_31255" align="alignnone" width="640"] 上位3名のシャンパンファイト[/caption]

[caption id="attachment_31256" align="alignnone" width="640"] ヘケレが優勝を決めた1日目[/caption]

2日目も、最終レースが男子エリートのUCIレースとなった。参加者は前日より多く、さらに激しい戦いになることが予想された。前日のレースはリタイアとなった全日本チャンピオン前田は、傷めた足にゴーサインが出て、足首等に処置を施しての出走となった。

[caption id="attachment_31257" align="alignnone" width="640"] 緊張感がみなぎるスタートライン[/caption]

[caption id="attachment_31258" align="alignnone" width="640"] 泥キャンバーを降車し走る前田、ヘケレ、織田[/caption]

スタートと同時にハイスピードな展開になり、前日と同じように、織田、前田とヘケレが先頭に立った。三段坂の急勾配の登坂や、砂エリア、泥のキャンバー(斜面)、シケインなど、テクニックやパワーを要するコースを、3人は慎重に、パワフルに、集団のまま越えていく。ついに、3名の集団のまま最終周回に突入した。

[caption id="attachment_31259" align="alignnone" width="640"] バイクを降りざるを得ない局面も多い泥キャンバーが選手にダメージを与えていく[/caption]

先頭3名のうち、織田、前田はチームメイト。有利だと思われたが、前田が落車、遅れをとり、ヘケレと織田の一騎打ちに。ヘケレを先頭に最終コーナーを回り、連覇を目指すヘケレは全身全霊のスプリントで織田をねじ伏せ、勝利をもぎ取った。

[caption id="attachment_31260" align="alignnone" width="640"] 辛くも織田が届かず、ヘケレが連勝を決めた[/caption]

これでヘケレは関西クロスのマキノラウンド、ラファスーパークロス野辺山、宇都宮シクロクロスの2戦と、参戦した日本国内の主要UCIレースをすべて制したことになる。

[caption id="attachment_31261" align="alignnone" width="640"] 華やかな表彰式[/caption]

[caption id="attachment_31262" align="alignnone" width="640"] 表彰式には大観衆が集まり、3名の健闘を称えた[/caption]

男女ともに、体力的には下り坂に達していてもおかしくない40代のベテランが若手選手を打ち負かし、連続優勝を飾った。シクロクロスは強度の高い競技ではあるが、その中でも、難しいセクションをクリアするテクニックや、体力をセーブして、勝負を賭けるべきところで賭ける経験値や体の使い方など、ベテランだからこそ上回るものが、十分にあるのだろう。無駄のないトップレーサーの美しい走りと、そこに食らいつく日本人ライダーとの接戦に、会場が沸きに沸いたUCIレースだった。

日本のトップ選手たちは、2月1~2日にスイスで開催されるシクロクロスの世界選手権に向け、欧州に渡る者もおり、ここから本格的に調整をすることになる。

会場には2日続けて多くの来場者がやってきて、思い思いのスタイルでレース観戦を楽しんだ。<後編>では、イベントを楽しむ来場者の様子をお伝えしようと思う。

(イベント編に続く・・・)

写真提供:カンセキpresents 2019宇都宮シクロクロス/編集部(P-Navi編集部)

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