疾風のサイドストーリー/鈴木奈央(静岡110期)

2017/06/10(土) 08:31

疾風のサイドストーリー/鈴木奈央(静岡110期)

2nd「半分少女」なアスリート

ようやく競輪・オートレースの取材にも慣れつつあり、5月のゴールデンウィークが明けて1週間後の週末、筆者は仙台市内中心部から車で40分弱の宮城県自転車競技場(黒川郡大和町)に足を運んだ。
前夜からシトシトと雨が降り始め、『第86回全日本自転車競技選手権大会・トラックレース』及び『2017日本パラサイクリング選手権・トラック大会』は予報通りの雨の中(しかもかなりのザンザン降り)で、2日間に渡って開催された。


総合運動公園の広大な敷地内にある宮城県自転車競技場は333mバンクで、ホームストレッチを左右から挟むように観戦用のスタンド席(1,002席)が設置。その他の周回は芝生席(498席)だ。競輪場と比べると、当然、コンパクトな作りではあったけれども、立派な競技場であることは自転車競技に疎い(むしろ初めてだった訳だが)筆者でもよく分かった。
競技場の周囲には数多くのテントが並び、そこが各チームの控室も兼ねた拠点に。そして、競技場の建物の雨が避けられそうな場所にはひしめくようにローラーが置かれていて、選手たちは黙々と競技前の練習・調整に余念がない。
そのような光景をやや離れたところ(望遠レンズで)から撮影していると、カメラに気付いた1人の女子選手がいた。困惑したような!?いや、少し気恥ずかしいような表情!?後者であって欲しいのは筆者の勝手な希望だったのだが、とにかく彼女の表情はまだあどけない少女の面影を残したものだった。時間にしたら僅か1〜2秒、彼女はこっちに視線を向けたものの、再び熱心にローラーを踏み続けた。

彼女が競輪選手、ガールズケイリンの鈴木奈央(静岡110期)だと知ったのは、この出来事の約1時間後。次々に競技が行われる中、鈴木は中・長距離4種目にエントリーして輝きを放つ。競技中の鈴木の表情はさっきとは打って変わって少女ではなく、風格すら漂うアスリートにふさわしいものであった。

・女子エリートスクラッチ決勝(10km)1位
・女子エリートポイントレース決勝(20km)4位
・女子エリートチームパーシュート1位/強化チーム
・女子マディソン決勝(20km)2位/強化チームA

そう、鈴木は競輪選手であると同時に、日本自転車競技連盟の強化指定選手なのだ。現在、20歳という年齢からも、2020年・東京五輪の出場も期待される有望選手の1人として名前が挙げられている。

終始、雨だった宮城県自転車競技場から10日後、鈴木の走る姿を見たのは伊東温泉競輪場である。
その日のレースで、鈴木はガールズケイリンのトップクラスに名を連ねる梶田舞(結果は失格)と最後まで競り合って1着。宮城の競技の時と同じく、レース中の鈴木は勝負の世界で厳しく生きるアスリートにしか見えなかった。

レース後、バンクを出て検車場へ。レースを終えた鈴木が筆者の目の前にいる。
「お疲れ様です。宮城でも雨の中、お疲れ様でした」
筆者が“ダブルお疲れ様”の挨拶をすると
「お疲れ様ですっ!そうですよね、宮城にも来られていましたよね。どこのカメラマンさんなんですか?」
と、人懐っこそうな表情を浮かべながら返してくれたので、しばし会話のキャッチボールが成立する。
「そのうち鈴木選手に取材をお願いしたいと思っているので、その時はどうか宜しくお願いしますね」
最後にそう声をかけると
「本当ですかぁ?取材、待っていますね」
鈴木は無邪気な少女のような笑顔を見せてくれた。それは宮城で表彰式が始まる前の待ち時間に、戦友たちとスマートフォンで記念撮影をしていた時と全く同じだった。

3年後の東京五輪、鈴木はこの世界的スポーツイベントで我々を熱狂させる可能性を大いに秘めている。また、それまでに競輪界でも着々と、ステップアップしていくに違いない。ただ、その過程は平坦な道ばかりではなく、苦しい崖や辛い谷をも歩まなくてはならないだろう。そして、これらを乗り越えても時折、垣間見せる「半分少女」な部分も持ったままでいて欲しい___それも鈴木のアスリートとしての大きな魅力の一つだと、筆者は強く思っているから。

Text & Photo/Perfecta Navi・Joe Shimajiri(Joe Shimajiri)

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