2025/10/30(木) 13:30
10月22日から10月26日まで、チリのサンティアゴにおいて開催された「2025年UCI自転車トラック世界選手権大会」でメダルを獲得した日本代表選手の会見が30日、公益財団法人JKAにて行われた。
今回の世界選手権では、佐藤水菜が女子ケイリンで優勝(2連覇)、女子スプリントで準優勝。さらに窪木一茂が男子オムニアムで準優勝の活躍を見せた。
帰国した両メダリストと、快挙を続けるナショナルチームのコーチ陣の会見の模様をお伝えします。
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佐藤水菜
◆女子ケイリン:金メダル(2年連続2回目)
◆女子スプリント:銀メダル(史上初)
「もっともっと強くならないといけない」
メダルを取れると思っていなかったので、メダルを取ることができて嬉しく思います。
(質疑応答より抜粋)
---ゴールした時の気持ち
(決勝は)行くしかなかったので、とにかく前へという気持ちで飛び出して、イギリスのエマ(フィヌカン)選手の横に行った時に、彼女がタイミングよく出てきてしまったら嫌だなと。でも、自分が行くのが早ければ、問題ないので、そこだけ意識していました。バックストレートでイタリアのミリアム(ヴェチェ)選手を抜いた後に、後ろにコロンビアの選手(ステファニー・クアドラード)が最初からいたので、ついてくるだろうなと思っていて。彼女もすごい強い選手だったので、ゴール線を切るまでは正直、誰が優勝するか分からなくて、とにかく精いっぱい走ったような記憶があります。
---女子ケイリン2連覇について
本当に取れると思っていなかったです。予選の感じでは、体調も気持ちも、うまく持っていけない状態でしたが、何とか決勝に上がれたので、あまり気負わずに、レースを楽しむことをすごく大事に、今回は受け止めて走りました。ジェイソンコーチからは「コミットしろ、コミットしろ」と、ずっと言われていたのですが、「コミットって何だろう」と思いつつ。ゴールして、表彰が終わった後に「覚悟しろ」ということだと。コミットできて良かったです。
---ロス五輪への思い
五輪後の世界選手権は、日本チームの教えではないですけど、一番メダルが取りやすい大会だと、私が初年度に挑んだ世界選手権で言われました。強豪国は五輪で人が変わったようなすごいパフォーマンスを出してくるんですよね。自分たちはいつも常にベストパフォーマンスを出しているし、いつもいい状態を作っているはずなのですが、それを超えてくるパフォーマンスを出すのを昨年、目の当たりにしました。なので、この1、2年は(メダルが)取れたけど、たぶん来年、再来年は正直メダル争いできるかと言ったら、たぶん無理だなと思っていますし、危機感しかない。ある意味、このメダルを取れたことで気が引き締まって、もっともっと強くならなきゃいけないなと思いました。ロスまで2年しかないので、2年でどれだけ仕上げられるか。なかなか厳しいとは思いますが、2年でしっかりと築き上げていきたいと思います。
---1個目の金メダルとの違い
私が1年間、言い続けたのは、昨年、金メダルを取れたのはラッキーチャンピオン。展開も、五輪後で強豪も少なく、とにかく自分はいい場所に入れて取れた。そういう風に思って1年間を過ごしてきました。だからこそ、自分は成長し続けなくてはいけないと、ずっと考えて過ごしてきました。自分の理想の金メダルの取り方は、自分で前で駆けてゴール線を切る。そういうことを世界選手権とオリンピックでやったのが、ニュージーランドのアンドリュース選手だったので、その背中を追いかけています。去年は、イギリスのエマ選手を差してメダルを取りましたが、今年は自分で手にしました。喜びとか嬉しさは、去年は初めてだったし、4回目のチャレンジだったので、すごく大きかったです。(今回は)喜びは少なかったけど、確実に自分の成長だったり、いろいろ含めて嬉しいな、やりたいことができたなという安心感、満足度は今年が強かったです。
---スプリント銀メダルについて
まず2025年の目標を設定した中で、ハロンタイムやスプリントの勝ち上がりでトップ4に入りたいと決めていたので、自分は目標をひとつ落としてしまった、あと一歩が届かくて悔しいなと思っていました。ハロンの難しさを、すごい改めて感じています。
そこからは対戦に切り替えていきましたが、1/4が自分の中で壁になっていて。ここを越えたら、今までメダルは獲得できている。越えられないと敗退していくので、カナダの格上の選手と戦う時に、ヒリヒリヒヤヒヤどうしようと思っていました。でも、思ったより1本走ってみたら手応えがあって。2本目は取られてしまったんですけど、すぐ修正して、しっかりと勝ち上がれたので、自分は、テクニックの部分も、脚力の部分も、すごく向上していると思いました。
次の日は1/2からでしたが、1日の始まりの1本目は、なかなか自分の中ではうまくパフォーマンスが出せないことが課題でした。でも、格上とやるという緊張感だったり、世界選手権の舞台だし、直近の1年で2回も破れている選手なので、どうやったら倒せるか、すごく楽しい気持ちで前向きに考えることができました。初めて1本目を取れた時に、すごく手応えがありました。
決勝は金銀が確定していた中、正直、金メダルを取りたい気持ちよりも、この場のスタートラインに立てたことがすごく嬉しかったです。もう本当にいろんなことが、発走をする時に頭をぐるぐるして。この場に立てることの感謝だったり、ここまでジェイソンを信じてきたからこそ、ここに来られたし、こんな選手と戦えて幸せだなと思いながら走りました。2本とも負けてしまいましたが、あの舞台に立てて嬉しかった気持ちと、すごく悔しかったとゴールした後に思ったので、自分にはまだ伸びしろがあるし、高みを目指したいと思える自分がいるということにも気づけました。
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窪木一茂
◆男子オムニアム:銀メダル(史上初)
※4大会連続メダル獲得
「今回の悔しさを次にぶつけたい」
初めて世界選手権でオムニアムに出場しましたが、優勝を目指して、その自信もありましたので、一番悔しい気持ちが強いですね。4年前にメダルを取った時はものすごい嬉しさがあったのですが、素直に喜べないということが、成長してる証拠だと思います。また来年から、世界選手権でメダルを目指せるように頑張りたいなとすごく思いましたし、(女子ケイリン)金メダルの佐藤選手に続きたかったという気持ちもあったので、その悔しさをまた次にぶつけたいと思います。
(質疑応答より抜粋)
---モチベーションについて
自転車競技連盟だったり、HPCJC(ハイ・パフォーマンス・センター・オブ・ジャパン・サイクリング)のスタッフが、色々な最新鋭のコーチ考え方で、ものすごく盛り上げてくれているからキープができています。あとは、こうやって近年は選手がメダルを継続して獲得できていることで、自分も頑張りたい、負けたくないという気持ちがあります。また、自分について言うと、4年前に競輪選手になり、競輪業界に入ってから、すごく刺激を受けている気がします。36歳になりますが、競輪業界をのぞくと、もっと上の年齢で最前線で活躍してる選手が本当にたくさんいて。そういう方々の背中を見て、自分は競技に打ち込められている部分があるので、そう考えると、まだまだこれからだと思いますし、僕としては昔から大器晩成型と自分で思っていたので、そこが今、繋がってきているのかなと思いました。
---金メダルまであと一歩
今回は練習もしっかり組んでこられましたが、事前に体調を壊してしまったり、日本にいる時にちょっと転んでしまったり、いくつかアクシデントがありました。最後の4種目ポイントレースは、いつもの自分の走りが全くできなくて、今までで一番走れてないぐらい、ずっと人の後ろを走っていて、ずるく勝ったという印象です。力強さのある選手が優勝すると思っているので、全然、力を発揮できていなかったですし、2位は仕方ないよねと自分の中でも思いました。今回のようなケガをしないようにして、もう1回、今のパフォーマンスを発揮できれば、すごくメダルは近いのではないかと思いますし、4大会連続でメダルも取れているというところで、すごく相性のいい大会だと僕も思っています。また来年が楽しみですけど、日本のレベルが上がってきているので、また世界選手権に選ばれるかは分からないのですが、まずは国内の大会から頑張っていきたいなという風に思います。
---ロス五輪への思い
ロスへの挑戦、自分自身への挑戦だったり、今までの経験を踏まえて、もっと何ができるかが、自分の中にすごくありまして、それを体現するのがすごい楽しみです。ロス五輪まで、順調に行けたらいいと思いますけども、やはり1年、1年が勝負です。もちろん競輪も走りますし、それにケガもつきもの。そのリスクを背負いながらも、勝負の世界で戦いたい、最前線で海外のトップアスリートと戦いたいという気持ちが消えない限りは、このまま成長し続けていくのではないかなと思っています。
---エリア・ヴィヴィアーニ選手の引退について思うこと
ヴィヴィアーニ選手は、僕が自転車を始めた時から、世界のトップクラスで走っている選手。彼の写真や動画は、僕の携帯にたくさん入っています。(引退は)すごく残念に思いますし、いずれアスリートは引退があるとは思っていますが、(競技を)続けられる環境に、改めて感謝しました。ヴィヴィアーニ選手が辞めてしまうのは、気持ち的な部分も、環境の変化もあると思いますが。今は日本の自転車の環境が年々すごく手厚くなっていて、もちろん、競輪の方からも補助していただいたり、スタッフも含めて、日本の選手が五輪に対して一生懸命に取り組める環境があることを、ヴィヴィアーニ選手が引退したということで、改めて僕は実感しました。この年齢でも続けられていることに対して、もっと感謝を表していきたいと思いました。同時に、同世代で頑張っている選手も、まだまだいると思うので、他の競技でもどんなスポーツでも、そういう人たちに向けて、いい刺激になれば、頑張っている意味はあるのかなという風に思います。気持ちが続く限り、まだまだ続けたいなという風に思いました。
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短距離ヘッドコート
ジェーソン・二ブレット
【大会総括】
佐藤水菜選手の金メダル、銀メダルが大会全体のハイライトではあるんですけど、その中でも、全選手のパフォーマンスで良かったことも、悪かったこともあります。それを選手とスタッフで振り返る必要があると思います。
(質疑応答より抜粋)
---佐藤選手のスプリント競技について
佐藤選手はケイリンではいい成績を残していて、2024年の上旬からスプリントでも世界と戦えるレベルまで上がってきました。それの理由としては、戦略だったり、走り方がすごい大きな要因になったのかなと思います。もちろん今回の大会もミスは多少ありました。それをしっかり振り返って、翌日の準決勝、決勝でいい走りができました。
---今回のメダルの個数について
去年の世界選手権が、すごい特別だったということがありまして。それが続いたらラッキーだなと思っていました。今年も兒島選手だったり、太田選手だったり、メダルまであと一歩というところまで来ていたので。そういうパフォーマンスはあったと思います。もう1回言いますけど、去年は特別だったという感じです。
---今後の強化について
まず個人で上げていかないといけないポイントがたくさんありますが、チームとしてできることは、今年新しいスタッフが入ってくるので、それについて、自分たちができたことを振り返って、次のステップに向けて、どう改善すればいいのか、スタッフの観点から考えていきたい。そして、来年から国際競輪が再開されることもあり、世界のトップレベルの選手が日本に来て、日本の競輪を走り、この環境で練習をすることによって、日本の選手もそれを見て感化されるように、いい影響を受ける。個人としても、チームとしても、すごく上がるのかなと思っています。
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中距離ヘッドコーチ
ダニエル・ギジガー
【大会総括】
アジア選手権では3年ぐらい日本がアジアで1位で、全種目をしっかりいい成績で出しています。中距離の方は、世界のレベルも最近は伸び始めていて。今回だとチームパシュートはいい結果ではなかったですが、他の種目ではいい結果が出て、全体的にもレベルが上がっていると感じました。
---オムニアムでの銀メダル獲得について
(窪木は)選手の中でも経験があり、モチベーションも高く、4年連続のメダル獲得はすごいこと。今回はオリンピック種目でもあるオムニアムでメダルが取れたのは、大きなことかなという印象です。今年のオムニアムもすごいレベルが高く、最後まで誰が世界チャンピオンになるか分からないような高いレベルだった。そこで2位が取れたのはすごく嬉しく思います。
---窪木選手の強さとチームへの影響
ベテランながらも、そのモチベーションをしっかり高く持って生活をしていることが、世界大会の強さかなと思ってます。チームにもたらす影響は、いろいろあります。すごく重要な役割を担っているボス的な存在。皆の上に立つような、良い代表的な存在であり、皆を導いたり、レースではそのチームで話して、いろいろ決めたりするという、いい影響を与えています。
(P-Navi編集部)