2024/11/12(火) 10:00
今年13回目となる「宇都宮ジャパンカップクリテリウム」が10月19日に宇都宮市の宇都宮大通りを交通封鎖して開催され、5万3千人の観客が集まった。
このクリテリウムは、2016年よりアジア最高峰のワンデイロードレース「宇都宮ジャパンカップ」の前日から始まった。ジャパンカップの選手が参加するため、ツール・ド・フランスをはじめとする世界最高峰のレースを走るトップ選手を含め、国内外のトップ選手が目前で本気のレースを繰り広げる貴重な機会とあって、日本中から多くの観客がやってくる。
レースに使用するのは、JR宇都宮駅から東にまっすぐ伸びる宇都宮大通り上に設営され、両端に折り返しのヘアピンカーブが設定された1周2.25kmのコース。ほぼ平坦であるが、最終コーナーからフィニッシュに向けて、わずかに登りの傾斜がかかっている。
何重にも人垣を作って沿道を埋め、大歓声を送る日本のファンの期待に応えるべく、海外のトップ選手が全力で挑むため、直線部分は時速60kmにも及ぶことのあるハイスピードレースで、世界のトップレースと見紛うほどの熾烈な戦いが繰り広げられる。世界でもこれほど速く、本気勝負になるクリテリウムはあまりないそうで、「世界最速のクリテリウム」とも呼ばれている。
14時に交通封鎖が始まると、速やかにコース設営が進められる。仕上がったコースでまずは高校生のレース、続いてガールズケイリンの選手によるスペシャルレースが開催された。ロードバイクに乗った宇都宮市佐藤市長や県議会議長やゲストライダーに続き、ついに参戦する選手がチームごとに入場し、パレード走行を行った。観客とハイタッチを交わしたり、ノベルティーを撒いたりとファンと交流するチームも多く、会場はこの段階で大いにヒートアップ。
ジャパンカップ参戦チームに、競輪/トラックレースとロードレースの選抜選手が編成したクリテリウムスペシャルチームを加えた20チーム、計118名の選手たちがスタートラインについた。
大本命は名スプリンターのマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)。トレックは過去にこのレースを4連覇し、「勝ち方を知っている」チーム。今年はピーダスンの破壊力あるスプリントで優勝を狙っているものと予想されていた。
号砲とともに、1周2.25kmを15周回する合計33.75kmのショートレースが始まった。ファーストアタックで畑中勇介(キナンレーシングチーム)が飛び出し、スピードに乗ったところでスイスチャンピオンのマウロ・シュミット(チーム・ジェイコ・アルウラー)たちが合流した。冒頭からいきなりレースは活性化し、ハイスピードの展開に持ち込まれる。
スピードを持ち味にするイヴ・ランパールト(スーダル・クイックステップ)らが動く中、2周目の上河原交差点折り返しでニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)が自ら動き、加速する。シュミットやマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)、アントワン・ユビー(スーダル・クイックステップ)、さらにローガン・カリー(ロット・デスティニー)が加わりグループを形成し、トップスピードで先頭を走り始めた。パウレスやモホリッチは翌日のレースの本命とされており、クリテリウムの先頭集団に入って、逃げの態勢に入るのは、予想外の展開だった。
後続のメイン集団との間には一定の差がつき、この先、衰えることがあるとは思えない勢いで先頭を走り続ける。
逃げ切りの可能性を感じたのか、合流の動きが生まれ始めた。4周目にアンドレア・バジオーリ(リドル・トレック)が単独で先頭に合流。
続いてカナダのチャンピオンジャージを着たマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)やアントニー・ペレス(コフィディス)、トムス・スクインシュ(リドル・トレック)、ジャンマルコ・ガロフォリ(アスタナ・カザクスタン・チーム)が合流。
この段階で、一通りの海外の強豪チームがメンバーを送り込んだ形になり、後続集団の海外チームは集団を先頭へと追い上げるモチベーションがなくなったため、先頭を捕らえる動きを打ち出すのは、かなり厳しくなった。
5周目と10周目に設定されたスプリントポイントはモホリッチが先頭通過、2回スプリント賞を獲得した。
8周目にはブレイディ・ギルモア(イスラエル・プレミアテック)が合流した。先頭のスピードは衰えず、後続集団の先頭にもワールドチームのメンバーが蓋(ふた)をするように並び、引き上げは難しい状況が続き、差が縮まる様子はないままだった。もはや、逃げ切りというストーリーが、固まったように見えた。
12周回目のスプリント賞はローガン・カリー(ロット・デスティニー)が先頭通過し、獲得した。
いよいよ逃げ切りは確定し、牽制や相手を試すように軽いアタックが仕掛け合われる。最終周回を告げる鐘が鳴ると、スクインシュが飛び出した。ウッズらが追い、ふたたび集団は鎮静化した。最終コーナーを回ると、最後尾から再びスクインシュがアタックした。
トップレーサーたちがスプリントを繰り広げる中で、ロングスプリントを仕掛けたスクインシュがすばらしい加速を見せ、先頭に踊り出た。勝利を確信し、両手を広げてのフィニッシュ。リドル・トレックが見事に5連覇を達成した。
ジャパンカップクリテリウムといえば、スプリンターが輝くスプリント勝負がテッパンだったが、今年は初の逃げ切り優勝。リドル・トレックは、過去にはレース全体をコントロールし、最後にスプリントで優勝していたが、近年は毎年異なった勝ち方で、しかし確実に、勝利を掴んで来ている。
2位にはシュミットで、3位は若手のアントワン・ウビーが入った。
積極的な走りを見せたパウレスはフィニッシュでは5位に留まったが、軽くペダルを踏み込むだけでスピードに乗ってしまうような調子のよさを見せていた。
今年の平均スピードは48.75km/h。本来は全体が落ち着く展開となる「逃げ切り」型のレースでありながら、歴代3番目の速さをマークした。
優勝したスクインシュは「短いレースであっても、常にレースは速く厳しいもの。クリテリウムにおけるチームの(勝利という)伝統を守ることができて嬉しい」とコメント。大歓声に手を振って応え、笑顔を見せていた。
スプリント賞を2回獲得したモホリッチはこの日が誕生日。声援を贈られながら「本当は(スプリント賞を)3回全部獲りたかったのだけれど、力が及ばなかった」と笑顔で語っていた。
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【結果】
宇都宮ジャパンカップクリテリウム
1位/トムス・スクインシュ(リドル・トレック)41分32秒
2位/マウロ・シュミット(ジェイコ・アルウラー)+0
3位/アントワン・ユビー(スーダル・クイックステップ)+0
4位/ブレイディ・ギルモア(イスラエル・プレミアテック)+0
5位/ニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)+0
【スプリント賞】
4周目、8周目 マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)
12周目 ローガン・カリー(ロット・ディステニー)
画像:2024宇都宮ジャパンカップ (©2024UJC)