2023/04/18(火) 17:19
信号が少なく、100㎞をノンストップで走れる「100ZERO」をうたう島根県益田市。強豪アイルランド代表チームが東京五輪の事前合宿地に選んだというところからも、自転車の走行環境のよさがわかる。日本海に接し、美しい川が流れ、景観がすぐれていることも大きな魅力。益田は健脚ローディーでなくても十分楽しめると聞き、レンタサイクルで走ってみることにした。
まず訪れたのは、JR益田駅前の益田市観光協会。ここに、レンタサイクルがある。ロードバイク、クロスバイク、ミニベロ、ママチャリ型の電動アシストなどの選択肢があるが、もっとも乗りやすそうなクロスバイクを借りることにした。値段は、3時間1000円、1日2000円。スポーツバイクのレンタルとしては、リーズナブルと言えるだろう。
レンタサイクルを借りて、益田駅前からスタート
今回は、益田市の中央を流れる益田川と、何度も水質で日本一に選ばれている高津川、さらに日本海を眺めつつ、益田のグルメスポットをめぐる計画だ。ハンドルにホルダーを付け、スマートフォンをセットして、いざ出発!
線路を越えて駅の北側に渡り、益田川を目指す。のんびりとした町並みを眺めつつ走ると、ほどなく益田川にぶつかった。
堤防上に入ると、一気に視界が広がる。ゆったりと流れる益田川は、想像よりも、かなり広く、堤防には菜の花が咲き、まもなく開こうという桜のつぼみをたくさんつけた桜並木が続いていた。あと1週間ほど遅く来れば、絶景だったかもしれない。少々残念ではあったが、青空に恵まれた、この日の春の景観も十分に美しかった。
準備を終えた田畑。菜の花が咲き、期待に満ちた春の景観が見渡せる
堤防上を走る。日常を忘れてしまいそうな、のんびりとした春の景色が広がっている。もうすぐ実りの場となる稼動前の田畑には、希望に満ちたオーラが漂っているように見えて、少し幸せな気持ちになった。
しばらく、川を眺めながら進んでいく。対岸にも同じような道が走っているのが見えた。景観が気になり、橋を渡ろうとして、ふと見ると、河口側には、もう濃い青色の海が見えてきている。川の青と、海の青とが、美しいグラデーションを織りなしていた。
海が見えてきた!
対岸に渡り、海に向かって走る。
川面を眺めながら、海に向かって走る
堤防の道から、内陸に入って、海沿いに進み、今日一つ目の立ち寄りスポット「櫛代賀姫神社」へ。神社が立つ小さな丘に向けて坂を上がり、脇道に入ると、これまでとはガラリと雰囲気が変わり、高い木々が立ち並ぶ、どこか神々しい空間が広がっている。「櫛代賀姫神社」だ。自転車を停め、ちょっと背筋を伸ばして境内へ。かなり立派な本殿が立っており、益田川側の入り口には、大きな狛犬が2頭、構えていた。
これまでの景観と一転し、神聖な空気が漂う空間へ
鳥居の向こうには絶景が広がっていた
狛犬の視線の先を見ると、鳥居の外は広場になっており、その向こうに、益田川とその西側の町並みが広がっていた。丘を上ってきたご褒美だ。日の光に輝く川面が美しい。今日は、これから益田川の西側のエリアに向かう。
高津川と町並みを見晴らせる展望スペース
あちこちに春の景観が広がる
ふたたび自転車に乗り、川まで下り降りて、川沿いの道に合流。益田川を再度渡って、対岸に渡り、高津川に向かう。幹線道路ではなく、走りやすそうな道を選び、進むことにした。集落の間を抜ける形になったが、昭和を思わせるような風情のある家々が並ぶ路地は、どことなくノスタルジックで、美しい。気の向くまま、自由に道を探しながら走る。冒険のようなワクワク感があった。
ノスタルジックな町並みを抜ける
高津川へ
また、水辺にぶつかった。清流高津川だ。川沿いに南へ向かい、少し大回りして、橋を渡って対岸へ。典型的なクルマ向けの橋だったが、ドライバーたちが優しく空間をあけて走ってくれるので、怖さは感じなかった。
高津川にかかる橋を渡る。いくつもの橋がかかっているのが見えた
橋を降り、しばらくは幹線道路をゆく。軽食スポットに決めていたベーカリーカフェに着いた。しかし、様子が変だ。貼り紙を見ると、先日閉店したとの衝撃的な知らせが! ガッカリしたが、ここでショッピングセンターに入るのも味気ない。せっかくなので、マリーナまで行き、海を見ながら考えることにした。
期待していたおしゃれなベーカリーカフェが、まさかの閉店
多くの漁船が停泊するマリーナには、大きな風力発電機が建っており、印象深い光景に。大きなカモメが戯れるように船に止まったり、飛び立ったりを繰り返している。少し散策を楽しみ、代わりに益田のソウルフード的なベーカリーを目指すことにした。
失意の中、たどり着いたマリーナ。まったく違う世界が広がる
大通りからまた住宅街を探索しながら抜けて、南へ。
パン屋を目指し、裏道を行く
目指してきた「大山製菓・製パン」の住所に到着したものの、どこにも看板が出ていない。嫌な予感が漂う。地図上では店舗となっている建物をのぞくと、ガラスのショーケースが見えた。またもや閉店? 店舗に電話してみると、今では自社での販売を止め、店舗に納品しているのだとか。先に電話で確認すべきだった!
「パンは、今朝、スーパーキヌヤさんに納品したので、キヌヤさんに行けばありますよ!」とのこと。お礼を言って、電話を切った。
まさかの店舗クローズ。ガッカリするより、あんぱんを探しに行こう!
さて、今度はスーパーに行くのか? 自問自答する。だが、ネット上には、ここのあんぱんが「人生で一番おいしかった」というコメントもあり、やはり気になってたまらない。「キヌヤ」に行っても、たった数キロのロスだ。後悔するより、行こう! 川沿いの道に入り、南下してから橋を渡り、益田駅方面に向かう。中心街に入った。
幹線道路の下に、ちいさな踏切が。こんな発見もおもしろい
昭和を感じる「なつかしい」店構え
裏道に入っていくこと、しばし。見えてきた! キヌヤの看板だ。自転車を停め、一目散にパン売り場へ。大手パンブランドのパンに加え、地域のベーカリーのパンも並んでいる。あった! 人気商品なのだろう、袋に入れられた大ぶりのあんぱんが、たくさん並んでいた。一般的なあんぱんより一回り大きく、手に取ると、ズシッと重い。これが、噂のあんぱんか。お値段は、税抜き152円。
スーパーであんぱんゲット!
重いけれど、生地はふっくらと膨らんでいる。つぶさないよう、そっとリュックに入れた。せっかくここまで来たので、気になっていたスイーツ店に足を延ばすことに。
まっすぐ益田川に向かって走り、小道を上がったところに「菓子工房COCO」を発見。堤防上の道から店内にアクセスする作りになっていた。
「菓子工房COCO」に到着
小さなショーケースに、美しいケーキが並ぶ
店内に入ると、小さなショーケースに数個のケーキが並び、サイドのテーブルに焼き菓子と台湾カステラが置かれているのみ。こだわりのお店なのだろう。悩んだ末に、エディブルフラワーがあしらわれたイチゴのケーキをオーダー。「すぐに食べますから」と箱も断って店の外に出て、ケーキの写真を撮っていると、「フォーク、お貸ししましょうか?」と、お店の方がお皿とフォークを持って、店の外に出てきてくれた。「中で食べてもいいですよ」と、笑顔でドアを開けてくれる。なんて、やさしい!
イチゴのケーキをセレクト。見ているだけで幸せな気持ちになる
お言葉に甘え、ケーキをいただいた。ふわふわのイチゴムースの中にはピスタチオらしき少し食感のあるババロアとイチゴソースが入っていて、アクセントもあり、計算され尽くしたおいしさ。さらに、上に乗ったイチゴは、食感も味も、初体験の感覚。キュンとジューシーで、果肉がみずみずしく、これまで食べてきたイチゴと全然違う! 驚いて聞いてみたところ、地元のフレッシュなイチゴなのだそうだ。ここまで来て、食べられて、よかった! お礼を言って、店を出て、益田川を眺めながら、再出発。最後のスポットも、スイーツだ!
駅方面に向かって自転車を走らせ、一本奥の路地に入ると、「千両まんじゅう」のノボリが、はためいている。昔ながらの店がまえの横に、自転車を止めると、内側から女性が窓を開けてくれた。中をのぞくと、型のついた鉄板の上に、いくつかのまんじゅうらしきものが並んでいた。これが、「千両まんじゅう」か。
昭和の雰囲気が漂う店構え。1950年に生まれた「まんじゅう」だという
王道の粒あん、カスタード、期間限定のチョコをチョイス。お値段は80~90円とリーズナブル。受け取ると、大判焼き、今川焼きなどと呼ばれるものと比べると、かなり小ぶり。生地がもちもちして、水気が多く、ぷるぷるとやわらかい。想像と、まったく違った!
あんが詰まった「千両まんじゅう」。70年の伝統がある菓子だが、もちもちの食感は、むしろ新しい
「粒あん」を割ると、とろとろのあんが詰まっていた。ひと口、パクリ。もちもちしっとりしているので、生地部分もつるっと食べられてしまう。中のあんも、甘さ控えめで味が良い。初めての食感を試そうとする中で、気付いたときには全部食べ終えてしまっていた。生地が存在を主張しないので、何個でも食べられてしまいそうだ。やみつきになりそうな食感。70年ほど前に生まれた歴史あるスイーツだというが、どういう配分で生地を作っているのだろう?
観光案内所に帰着
甘いものばかりになってしまったが、ここで本日のライドは終了。駅に戻り、観光案内所に自転車を返す。「3時間以内」の利用となった。そう長いライドではなかったけれど、川、海、田園風景、町並みと、十分楽しむことができた。
大山のあんぱん。こしあんの噛みごたえを感じるほど、あんが分厚く入っていた
ちなみに、大山のあんぱんは、リュックの中でつぶれてしまったが、中にたっぷりのこしあんが詰まっていて、大満足のボリュームだった。この日走ったのは18km程度。次は、益田が誇る海や川の幸、フルーツも味わってみたい。
レンタサイクルを1日利用にして、もう少し遠出してみよう。
画像:編集部(P-Navi編集部)