2023/03/24(金) 18:32
3月3日、4日の2日間に渡り、静岡県富士市で「富士クリテリウムチャンピオンシップ」が開催された。これは、国内に存在するプロチームの2リーグ「JBCF Jロツアー」と「ジャパンサイクルリーグ(JCL)」に登録するチーム、さらには日本学生自転車競技連盟から大学生たちがエントリーし、クリテリウム(都市部で開催される小周回レース)の国内チャンピオンを決めるというもの。昨年初開催され、リーグの垣根を越えた「頂上決戦」として注目され、多くの観客を集めた。今年は2回目の開催となる。
早咲きの河津桜が咲き、会場を取り巻くのは、美しい春景色
コースとして使用されるのは、富士市役所が面する青葉通り。1.8kmのコースが用意された。コースは、青葉通りの一部を交通封鎖し、ごく緩やかなカーブはあるが、コーナーはなく、両端に折り返しの180度ターンが設定されたのみのシンプルなもの。ほぼ平坦だが、ゴールに向けては軽く上る設定になっている。スタートゴール近くに位置する中央公園に大会のメインサイトが設けられた。
青葉通り上に設営されたコースの両端には180度ターンが設定される
大会は2日連続で開催され、1日目は、選手らを3組に分けた予選が開催され、各組の上位25名が翌日の決勝にコマを進めることになる。
この予選が、大波乱の幕開けとなった。
ロードレースでは、集団でゴールした場合は、順位を求めて起きるクラッシュを回避するために、全員が同タイム扱いとなる。特にクリテリウムでは、集団ゴールとなることが多いため、順位をほぼ気にしない習慣があった。(※上位にポイントなどが付与される場合を除く)。
この予選では、25番までにフィニッシュラインを越える必要があるが、25名のゴールは一瞬で終わってしまう。集団内に流れが詰まる場所があれば、その後ろにいた選手は予選を越えられなくなる。そのため、昨年は、力のある選手が多く予選で敗退する結果となった。「予選敗退」の屈辱を避けるため、今年は緊張感が漂うスタートになった。
予選は、同コースを20周する36kmの設定で行われた。1組、2組にはJプロツアーとJCLの選手が混合で、3組には学生たちと、選手を振り分けての開催となった。もっとも強豪チームが多く、激戦となることが予想された1組には、昨年のチャンピオンであり、現在Jプロツアーのリーダージャージを着る岡本隼(愛三工業レーシングチーム)がエントリー。他、強豪チームが含まれた。
強豪チームが多く含まれた予選第1組
1日目から、会場には多くの観客が足を運んでいた
河津桜が晴天に映える
最後は大集団のスプリントとなったが、危険を回避した岡本が、踏みとどめ、予選で敗退する事態になった。レース中にも接触や転倒が起きており、リーグで首位を走る立場から、安全を重視したのだろう。他にも、強豪チームから、昨年全日本選手権で2位になった新城雄大(キナンレーシングチーム)や安原大貴(マトリックスパワータグ)らも、25名に入れず、予選敗退となっている。この「25名」を分けるのは、当然1秒にも満たない一瞬であり、予選を切り抜けるには、集団内でどこにどう位置するか、その点が非常に重要だと言えよう。
1組のフィニッシュは、集団スプリントに。ほんのわずかな位置取りの差が、予選通過の明暗を分けることに
この波乱を受けてスタートした2組には、宇都宮ブリッツェン、チームブリヂストンサイクリングなどが参加。クリテリウムに強く、昨年のJCLチャンピオンの小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)やトラックのネイションズカップでエリミネーションの金メダルを獲得した橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)らが注目を集めた。今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)ら4名が抜け出し、まず決勝進出を決めたが、ここでも橋本が予選で敗退するという番狂わせが起きてしまった。
予選3組の大学生の選抜レースを終え、1日目は幕を下ろした。
大学生のレースも集団スプリントで決することになった
大会2日目は、朝から男女のジュニア、マスターズ、U23、一般のレースが開催された。メイン会場にはパブリックビューイング用のスクリーンも準備され、さまざまなブースがオープンし、続々と観客が集まってきた。
天候が思わしくない中でも多くの観客が沿道を埋め、今年は解禁された声援を送った
会場にはパブリックビューイング会場も用意された
メイン会場のブース出店の中には、花を売る店舗も
静岡名産の干物を販売する店舗。「今朝沼津から持ってきた」とか
午後ひとつ目のレースは、予選を通過できなかった選手たちのレース「交流戦」。こちらにも多くの有力選手が流れていたため、見応えのあるレースが展開された。
まずは交流戦が開催され、橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)が制した
最終レースは、いよいよ、「富士クリテリウムチャンピオンシップ」の決勝戦だ。予選を勝ち上がった75名がスタートラインに並ぶ。レースは予選と同じ1.8kmのコースを30周する設定で競われ、10周、20周完了時に周回賞が設定された。
この日は全国的にくもりや晴れの予報だったのだが、不運なことに、静岡県のみ午後から小雨が舞う予報になっていた。午後に入ると空がいっそう暗くなり、気温の低下と、ときおり細かい雨粒が舞い、警戒はしていたが、連日3月とは思えない陽気に恵まれていたこともあり、軽い雨が降る程度だろうと、誰もが、いわば油断していた。
75名の選手がいっせいにスタート
大きな声援を受けながら選手がスタート。まもなく、雨が降り始めた。天気の変化にはお構いなしに、序盤から激しいアタック合戦が繰り広げられた。
アタック合戦からペースが上がり、集団は長く伸びた。降りはじめた雨で、路面も濡れていく
さまざまな選手が渾身のアタックを繰り出すが、集団に吸収されてしまい、なかなか新しい動きが生まれない
雨は次第に強くなり、天気予報をくつがえす本降りの雨に変わった。厳しいコンディションの中、レースが動いたのは、折り返しとなる15周目。兒島直樹と、予選でも健闘を見せた今村駿介(ともにチームブリヂストンサイクリング)が飛び出した。スピード維持能力の高いふたりの動きに、多くの選手が反応し、11名の先頭集団がまれた。
ハイスピードを保つ能力に長けたメンバーで構成された11名の逃げ集団が生まれた
ここには、渡邊翔太郎(愛三工業レーシングチーム)、スプリント力のある孫崎大樹(キナンレーシングチーム)、昨年の活躍で移籍を果たした谷順成(宇都宮ブリッツェン)、重要な動きには必ず名を連ねている入部正太朗(シマノレーシング)、横塚浩平(VC福岡)、吉岡直哉(さいたま那須サンブレイブ)らが入り、主なチームの面々がほぼ全て揃う形になった。ここには、若手の五十嵐洸太(弱虫ペダルサイクリングチーム)、大学チームからも、小泉響貴(明治大学)、高本亮太(立命館大学)も入っていた。
一通りのメンバーを含む集団が形成され、選手の疲弊もあり、この集団の先行は容認され、差は順調に開き、30秒に。
メイン集団と先行するメンバーとのタイム差はじりじり開いていく。雨がひどくなり、体感気温はぐんぐん下がっていった
20周回目の周回賞はこの動きを作った兒島直樹が獲得した。
前日の予選の春めいた気温を受け、ほとんどの選手が春物のウェアで出走していたが、気温はますます下がり、雨が止む気配はない。濡れた身体は冷え、体感気温はかなり下がっていたことだろう。観客たちも、レインウェアや防寒具を着て、傘を差し、沿道の風景も、時間とともに変わっていった。周回を回るメイン集団には、どこか覇気がなく、先行する11名に向けて追い上げるというより、淡々と周回をこなしているような停滞したムードが漂っていた。
メイン集団は思うようにペースアップできないまま、周回をこなしていく
「このままではいけない」と感じたのか、クリテリウムに多くの戦績を残す小野寺玲らがラスト10周を前に、追走の動きを始める。だが、ペースを緩めることなく周回を刻む先頭集団との差は思うようには詰まらなかった。
ゴールが近づき、昨年の優勝チームである愛三工業レーシングチームが集団の先頭に立ち、ペースアップを試みるが、集団は重く、ペースが上がらない。
ついに愛三工業レーシングチームが先頭に並び、本格的にペースアップを図る
雨の中でも、雨具を着て応援する観客たち
ラスト10kmを切っても、両集団の位置関係に変化は生じず、先頭11名の逃げ切りがほぼ確実になった。先頭集団の中の緊張感が高まる。
先頭11名の逃げ切りがほぼ確実になり、新たな緊張感が生まれる
ラスト2周、最初に動いたのは、また兒島だった。ここから逃げ続けてきた11名の調和が崩れ、ゴールに向けての駆け引きが始まった。続いて仕掛けたのは今村。数的に有利で、さらにトラックレースでリザルトを残すスピードマンを揃えたチームブリヂストンサイクリングの2名が、積極的に仕掛け、集団を揺さぶる。集団はこれまでの協調がうそのように、蛇行し形を変えながら、雨のサーキットをハイペースで走り抜けた。
最終周回に入り、最初のコーナーを回ると、横塚がキレのあるアタックで飛び出した。残りは1kmあまりと距離はなく、明らかに危険な動きだ。だが、選手間に牽制が生まれたのか、ゴール直前に自分で捕らえにいくリスクを嫌ったか、他の選手らが反応せず、横塚は先行し、独走態勢に入った。
先行し、ゴールを目指し全力で独走する横塚浩平(VC福岡)
横塚は持ち前のスピードを生かし、最終コーナーを単独で回る。選手たちが追い始めるが、加速した横塚を止めることはできなかった。横塚はそのままストレートを駆け上がると、他の選手の追随を許さず、雄叫びを上げながら独走でフィニッシュに飛び込んだ。
最終周回を独走で走り、優勝を決めた横塚。6年ぶりの優勝だ
喜びと興奮を爆発させるように、両手を空に突き上げ、ガッツポーズをしながらフィニッシュした横塚。実は、横塚が公式のレースで優勝するのは、2017年以来のこと。昨年はレース中の転倒などからケガが重なり、非常にきびしいシーズンとなったが、今シーズンは非常に幸先のよいスタートを迎えることになった。所属する地域密着型のチーム、VC福岡にとっても非常に嬉しい勝利となったことだろう。
2位には学生ながら大健闘した小泉が、3位には今村が入った。
表彰台で笑顔を見せる横塚(中央)。2位の小泉、3位の今村、そして富士市のかぐや姫たちがステージに華を添えた
ゴール後、横塚は「勝つつもりで臨んではいたが、勝てて正直びっくりしている」と、はにかんだ笑顔で語った。「自分が勝つためには、スプリントではなく、独走に持ち込むしかないため、迷いなく踏み切った」と最終局面、勇気を持って1人で飛び出したシーンを振り返った。最終周回、先頭でフィニッシュを目指すときも、観客からの大きな声援が耳に届き「行けるぞ」と思えたという。観客への真摯な感謝とともに、チームで積極的に動き、レースを作れるようなシーズンにしていきたいと抱負を語り、インタビューを締め括った。
レースを終えた選手たちの中には、極度の冷えで震えが止まらず、低体温症に近い症状を見せる選手もいたという。かじかむ体をうまく使えず、本来のレースができなかった選手もいたようだ。表彰式では、そのような中でも最後まで迫力あるレースを見せた選手たちの健闘を讃える拍手が、いつまでも響いていた。
決勝は想定外の悪天候に見舞われ、サバイバルレースとなってしまったが、選手たちはすばらしい戦いを見せてくれた。濃いピンクの河津桜が咲き、天気がよければ、富士山も望める会場は、春の1日をゆったり楽しむことのできる気持ちの良いロケーションにある。今年も、多くの観客が会場に足を運び、春の週末を楽しみ、ライブ配信の視聴者数も多かったという。大会は今後も継続開催の方向。来年春には、より多くの観客がこの日を楽しみに訪れることだろう。
***************
【結果】第2回富士クリテリウムチャンピオンシップ決勝
1位/横塚浩平(VC FUKUOKA)1時間17分37秒
2位/小泉響貴(明治大学)+1秒
3位/今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)
4位/兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)+2秒
5位/五十嵐洸太(弱虫ペダルサイクリングチーム)
画像:富士山サイクルロードレース実行委員会、編集部(P-Navi編集部)