冬の絶景を走るスノーライド!

2023/03/15(水) 18:03

冬の絶景を走るスノーライド!

今年2月、北海道北見市で、新たなイベントが企画された。冬季は零下25度程度まで気温が下がるこの厳寒地で、スパイクタイヤを履いたファットバイクに乗り、海岸線や湖岸を走り、この地域に点在する遺跡スポットをめぐるスノーライドを楽しもうというものだ。今回、このイベントの様子を取材した。


北見市常呂町で開催されたスノーライド。氷が打ち上げられた常南海岸を走る

2月某日、北見市常呂町の常南海岸に参加者が集まってきた。まず午前中に、海岸を走るという。オホーツク地方で、接岸する流氷や、流氷が堰き止め、波がなくなった海を眺めながら、雪と氷で覆われた海岸線を走る企画は「流氷ライド」と名付けられ、複数の海岸で冬季に開催されている。この日は、北見市でオフロードのライドを企画運営するする「ヒーローズパーク」の田中さんがガイドを務め、複数のファミリーが参加し、「スノーライド」と雪遊びとを組み合わせて楽しむ形で開催されていた。まずは「流氷ライド」パートからスタートだ。


ヒーローズパークからファットバイクを積んでやってきた田中さんが到着


雪と氷に覆われた常南海岸。前日には流氷がいたそうだが、この日は残念ながら青い海が広がっていた

大人の参加者はファットバイクを受け取り、装備を整えて海岸へ向かう。今季のオホーツクは異常気象に見舞われ、12月には災害級の豪雪に苦しんだが、1月以降は極端に雪が少なく、気温が上がる日も出たという。結果、極めて積雪が少なく、流氷もほとんど接岸しなかった。代わりに、川から流れ出した氷が海岸に打ち上げられ、海岸が氷で埋まる「ジュエルアイス」が登場し、地元の方でも経験がない景観が広がったそうだ。この日の時点では、若干量の積雪がアイスを覆い隠しており、バイクでその上に乗り上げると危険だったため、波打ち際ギリギリを走ることになった。
ファットバイクを押して海岸まで来た参加者は、とても珍しく、貴重な景観にテンションも上がり、階段をファットバイクで駆け下りるなど、ビーチに出るところから大盛り上がり。フィッティングやレクチャーの後、田中さんの後ろに付いて海岸のライドがスタートした。


冬のビーチに大興奮! 雪に覆われた階段駆け下り合戦が始まった

たとえ積雪量は少なくとも、うっすらと白い雪に覆われた海岸線や、雪の間からクリスタルな氷が輝くさまは、未経験の美観。そんな眺めを楽しみながら、雪や氷、凍結した路面の上を太いスノータイヤで走る感覚も新鮮! 例年、雪や氷の大きな塊があり、長距離は走れないのだが、今季はルートを選べば延々と走れる状況が整い、参加者は意欲的にライドを楽しんでいた。


打ち上げられた「ジュエルアイス」の上にうっすらと雪が積もる


氷のないラインを探して走行を楽しむ


絶景を楽しみながら海岸を走る。記録的に降雪は少ないが、それはそれで珍しく、美しい

一方、子どもたちは、夢中になって雪や氷と戯れていた。美しいジュエルアイスを掘り出したり、雪だるまを作ったり。中には海にヒトデを見つけ、捕獲する子どもや、勢い余って海に入ってしまい、すぐに着替えを余儀なくされる少年も。大人も子どもも、珍しい環境と初めての経験を大いに満喫した。


雪と氷で覆われた海岸で思い思いの興味に基づき自由に遊ぶ

ランチは地域で人気の食事処へ。皆が選んだのは、店舗一押しの「ホタテフライ」! 特産の肉厚のホタテにしっかりと衣をつけてカラリと揚げた一品だ。料理が運ばれてくると、その分厚さに、皆が驚く。さっくりした衣を噛むと、中から、じゅわっと旨味が詰まった汁が流れ出す。あちこちから感動の声が上がっていた。


ぜいたくに分厚いホタテが並ぶホタテフライは、ここでしか食べられない絶品だった。「たべものや」にて

午後は公道を走って常呂遺跡のスポットをめぐる15km程度のスノーライドが企画されていた。ここには、日本で初めて販売されるe-ファットバイクも、スパイクタイヤを履いてラインナップに並び、皆、興味津々に試乗を楽しんでいた。協議の結果、脚力に自信のない女性陣が乗ることになったようだ。


日本に入ってきたばかりのe-ファットバイクBRONX TRX-2WD


「ネイパル北見」を出発!

準備をして「ネイパル北見」を出発し、一同は東へ向かう。この常呂エリアには、旧石器時代からアイヌ文化期まで、2800を超える住居跡などの遺跡が発見されている。今回は地域の北西部に点在する主要な遺跡集積スポットを中心にめぐる予定だ。
異常気象のせいで、交通量の多い道路にはほとんど雪がなく、雪を踏み締めるスノーライドの路面感覚が楽しめない部分もあったが、それでもやはり、雪に覆われたフィールドを眺めながら走るのは特別な体験だ。


交通量の多い路面は雪が溶けていたが、雪に覆われた周囲の景観は良好だ


慣れない路面もあり、時々停止し、状況の確認と遺跡スポットや歴史の説明があった

海沿いのかつて砂州だったエリアは、食料も水も豊富で、古代から住居好適地だったらしい。多くの住居跡が集中しており、ファットバイクで走り抜ける道の両端の森のほとんどが、過去の人々の住居が多く発見された土地、いわば「過去のムラ」だったようだ。そんな説明もあり、一同は感慨深く木々の間を覗き込みながら、バイクを走らせる。
そしてm、「栄浦第二遺跡」の見学路入り口でいったんストップ。バイクを置いて、中に入ってみることになった。この遺跡群だけでも、2000を超える竪穴住居の跡が発見されているそうだ。


「栄浦第二遺跡」の見学路ヘ。どんな世界が広がっているのだろう?

見学路に足を踏み入れると、左右の木々の間の雪原は、所々くぼんでいる。「このくぼみは、すべて過去の竪穴住居の跡なんです」と田中さん。見回すと、あちこちに数えきれないほどのくぼみがある。ここには主に縄文時代からオホーツク文化期(北海道特有の時代で、本州では古墳から平安時代ごろ)までの住居跡や墓などが見つかっており、多くの出土品も出ているそうだ。時代により住居の形やサイズが異なるそうで、眺めてみるとくぼみの大きさもまちまちだ。小さいものは縄文時代のもので、大きなものがオホーツク文化期のものなのだろう。


竪穴住居跡の数の多さと密集ぶりに驚く。大きな集落だったに違いない


くぼみの中に入り、当時の暮らしを思い浮かべてみる

参加者は、先人たちの暮らしに思いを馳せつつ、雪に覆われた美しい森の中の探索を楽しんだ。

栄浦第二遺跡の後は少し西側に戻り、やはり先人たちが飲み水を確保し、魚を採ったライトコロ川沿いに軽く南下することになった。かつては常呂川と合流し、サロマ湖に流れ出ていたこの川は、アイヌ語で「死んだ・常呂・川」を意味する。「驚くほど流れの遅い川だった」という説が濃厚とのこと。だからこそ、漁に適していたのだろうか。この川沿いも、暮らしやすかったと見えて、多くの遺跡が発見されている。


国道から離れ、ライトコロ川沿いを行く

凍結したライトコロ川の上には、無数のキツネの足跡が残っていた。真冬の景観は、なにもかもが珍しい。小休止しては記念撮影をしながら進んだ。


ライトコロ川にかかる橋の上。凍った川の流れは壮観だ


たくさんの足跡が残る川の水面。「何の足跡?」で盛り上がる

「ここから、ちょっとした上り坂があります。ギアを軽くして、ちょっとがんばっていきましょう!」と田中さん。スパイクタイヤとはいえ、雪で覆われた路面を上るには、少し慎重になった方がいいのかもしれない。
だが、ノリノリの参加者は、一気に上りに突入。女性陣はe-bikeのパワーを得ており、スイスイと斜面を上っていく。ファットバイクでも、スノーライドでも、やはりe-bikeは無敵だ! もともとバッテリーは寒さに弱いのだが、防寒のカバーをかけることで、問題なく厳寒の土地でも使えているそうだ。筆者も快調に走る参加者から少々遅れを取りながら、必死で上った。


ちょっと苦戦する上り坂も、それはそれで楽しい!

上った先の道は、それほどの高台ではないが、それでも見晴しは良く、田園風景や遠くの山を望むことができた。このあたりに巣があるというオオワシの姿も見え、いっそう盛り上がる参加者たち。


雪で覆われたフィールドを見晴らしながら、バイクを走らせる

快調に走り、「ネイパル北見」に帰着。ここで雪遊びをしていた子どもたちと合流し、竪穴住居の復元を観に行くそうだ。スパイクタイヤを履いた24インチのMTBも3台用意されており、ここからは男子3名もバイクで走ることになった。ほかの子どもたちはスタッフの車両に乗り、車とバイクで「ところ遺跡の森」へ。
たちまち、遺跡の森に到着。ここも、国指定の「常呂史跡」のひとつで、時代ごとに村のように固まっていた住居跡が多数見つかった台地の一部である。今は、美しい木々の間の散策を楽しみながら、遺跡を見学できるよう散策路が設置され、保全管理されている。続縄文時代、擦文時代(ともに北海道特有の時代区分で縄文時代に続く時代)の竪穴住居も復元されている。
バイクを置き、遺跡の森に足を踏み入れる。ゆるやかな起伏のある土地は公園のように整備され、気持ちのよい景観が広がっていた。広場を抜け、散策路を行くと、高台の上に茅葺(かやぶき)の住居が見えた。木々が立ち並ぶ真っ白な雪原が広がる静かな空間に、ごく当たり前のように竪穴住居が建っており、タイムスリップしたような不思議な感覚にとらわれる。


「遺跡の森」は、自然豊かな広場のような空間が広がり、子どもたちは大喜びで走り回る


いよいよ復元住居の中へ!


氷点下の中でも、住居の中は驚くほど暖かかった。「これなら住める」と再び盛り上がる

中に入ってみると、驚くほど暖かい。冬は極めて厳しい寒さが訪れるこの地域で、暖房なしに暮らすなど現代人には考えられないが、中にはカマドなども再現されており「意外と住める気がする」と語り合った。
この付近にも多数の住居跡のくぼみが残っていた。当時ここには、どんな暮らしが広がっていたのだろうか。

日暮れが近づき、バイクで走れる時間も残りわずか。バイクに乗る一同は急いでこの日の最後のパートである「ワッカ原生花園」を目指した。


凍りついた港の脇を抜け、サロマ湖に伸びる砂州「ワッカ」へ向かう

船が停泊する凍った栄浦漁港の横を走り、サロマ湖にかかる栄浦大橋を登る。ふと目をやれば、両サイドに広がるのは凍った湖。見たことのない景観に、思わず皆がバイクを停め、記念撮影していた。


真っ白な橋、真っ白な湖、輝く夕陽。すべてが初めての景色だった


記念撮影せずにはいられない!

ここから下り、サロマ湖とオホーツク海の間に伸びる砂州の東側に広がる「ワッカ原生花園」の入り口へ。原生花園は冬季休業となるが、この入り口付近でも、美しいサロマ湖の夕景を楽しむことができるのだ。


「ワッカ原生花園」入り口に到着。色づいた陽が凍ったサロマ湖を染めていた

傾いて色づき始めた太陽の光が、凍った真っ白な湖面をほんのり染めていた。眼前に広がる幻想的な眺めに、感動の声を上げた。急激に気温も落ちていたが、寒さも忘れ、この美しい景観に見入っていた。


さあ、戻ろう! スノーライドを楽しんだ子どもたちも満面の笑顔。貴重な経験だった

完全に日没してしまうと、バイクでの走行は危険だ。名残惜しいが、美しいサロマ湖に別れを告げ、帰路についた。
「ネイパル北見」に到着し、この日のライドは終了。それほど長い距離ではなかったものの、スノーライドという冒険を終えた少年たちは誇らしそうだった。なんと濃厚な1日だったことだろう。大人にとっても新しい経験づくしで、非常に刺激の多い1日だったようだ。
春近く、今季のスノーライドは終了するが、来季も状況が整い次第で、スタートするとのこと。タイヤの幅が広いファットバイクの安定感は抜群で、スポーツバイク経験がない方でも問題なく乗れるのだが、e-ファットバイクの登場で、さらに体験可能な層が広がったといえるだろう。
新しい感動があるスノーライド。興味のある方は、ぜひ来季、早めにチャレンジしてみてほしい。

画像:編集部 Naoki YASUOKA
協力:HEROES PARK(P-Navi編集部)

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