2022/12/09(金) 17:36
11月23日(水・祝)に、東京都臨海部を中心に「GRAND CYCLE TOKYO」と名付けられたスポーツ複合イベントが開催された。
レインボーブリッジを交通封鎖してサイクルイベントを開催(東京都提供)
東京都の臨海部レガシースポーツイベント実行委員会が主催したもので、昨年開催された東京2020オリンピックのレガシーイベントとしての性格を持つ。東京臨海部を広域に使用し、6つのイベントサイトを設け、自転車を中心に、ロッククライミングやサイバーボッチャ、パルクールやボートなど、30種類のスポーツを体験できるビッグイベントだ。
固定自転車でのレーシングを体験する参加者(東京都提供)
BMXのパフォーマンスも披露された(東京都提供)
この中の目玉が、あのレインボーブリッジを交通封鎖し、サイクリングしてしまおうという「レインボーライド」。幸運にも参加権を獲得した2000人が、このライドに参加することになった。
レインボーブリッジ上を走る参加者たち(東京都提供公式動画より)
コースは、お台場海浜公園に立つ自由の女神横からスタートし、レインボーブリッジを渡り、折り返して、お台場エリアに戻る。東京港臨港道路を使って南下し、海の森トンネルを抜け、海の森公園方面に向かい、折り返してセントラル広場に設置されたゴールに向かう。普段自転車では走れない、東京のランドマークとなる場所を走行する貴重な機会だ。
コースはシンプルに上記の全エリアを走る19kmの「レインボーミドル」、後半の海の森公園方面を2周し30kmを走る「レインボーロング」、レインボーブリッジとその周辺のみを走る8kmの「レインボーショート」、海の森方面を走る13kmの「海の森エンジョイ」の4つが設定された。
橋の上に向かうスロープに登坂が含まれ、レインボーブリッジを含むコースは、「斜度5%の1.5kmの上りが上れること」が参加条件の一つとなったが、電動アシスト自転車の使用も認められた。用意されたレンタルサイクルも電動アシストタイプだったことから、参加のハードルはかなり下げられ、自転車に乗れる方であれば、希望すれば誰でも体験できるライドとなった。
レンタサイクルには、電動アシストタイプのシェアサイクルが使用された
年齢制限は、自分で走る場合は小学4年生以上。幼児同乗型の「子乗せ」電動アシストと、チャイルドトレーラーの牽引が許可されたため、未就学児も大人と一緒であれば、レインボーライドに参加し、楽しめることになった。
筆者はレインボーミドルへの参加権を得て、走らせていただくことになった。レインボーブリッジの上から、自転車で眺める景色は、どのように見えるのだろう?
ついに迎えたイベント当日は、あいにくの雨。天気予報も、この日の前後には快晴のマークが並んでいたのに、なぜかこの日1日のみ、気温も真冬なみに低く、終日かなりの降雨が予想されていた。もちろん、この最悪の天気予報を受け、雨と防寒対策は万全にしたものの、天気予報が外れ、雨が止んでくれることを祈りながら、早朝のお台場に向かった。
受付会場に向かう参加者
検温後、受付手続きに臨む
会場では、自転車を押し歩きする大量の参加者が受付エリアに向かっていた。新型コロナウイルスの感染防止策で、全員が検温をし、自転車を押してチェックゲートを越える。それぞれがエントリー時に、どこかのウェーブ(グループ)を指定されており、自分が該当するウェーブに整列する方式だ。筆者は第11ウェーブ。全カテゴリーのすべてのウェーブに、走行管理のボランティアスタッフが配置されており、ペースメーカーをするとともに、参加者が安全に走行できるよう、誘導してくれるそうだ。聞けば、講習会があり、そこに参加した上で、この日を迎えているという。頭が下がります!
そして、レインボーロングの参加者から順にスタートを迎える。先頭では、小池百合子都知事や、元F1レーシングドライバーの片山右京氏らがセレモニーを開催していた。
手を振ってスタートして行く参加者を見送る小池都知事(東京都提供)
誘導に従い、少しずつスタートラインに近づいていく。雨はさほど強くなく、参加者は皆、ワクワクした笑顔でスタートの時を待っていた。
誘導に従い、進みながらスタートの時を待つ
お台場海浜公園に入り、ついに第11ウェーブのスタートの時が来た!
スタッフの皆さんが笑顔で手を振り、送り出してくれた。これから、どんな景色が広がるのだろう?
うっかりキョロキョロ景色を見ていたら、ペースが緩んでしまい、「前方との間を空けすぎないでくださいね」と走行管理の方に声をかけられる。今回はこの主要ルートを交通封鎖しているため、時間管理は実にシビアなのだ。
ほどなく、レインボーブリッジに差し掛かった。入り口の料金所の電光掲示板には「ナイスライド!」のメッセージと自転車のイラストが表示されているではないか! 皆が指差し、歓声を上げていた。こんな表示機能があるとは知らなかった。
およそ自転車では誰も上ったことのないであろうスロープを、たくさんの自転車が上がっていく。「5%の勾配」が上れるかと、少し心配だったのだが、気分の高揚もあり、すんなりと上ることができた。上るにつれ、視界が開けてくる。
レインボーブリッジの上を走る。この日はメディアの取材・撮影も多く入っていた(東京都提供)
橋の上に上ると、まさに壮観! 曇天ではあったが、東京のランドマークとなる眺めを見晴らすのは初めての経験であり、あちこちから喜びの声が上がっていた。フレームで囲まれた車の中から眺めるのとは、まったく違う、格別な開放感だ。橋の往路は、品川埠頭や芝浦方面を眺めながら走る。橋の上を走ること自体が、とても気持ちいい。安全管理のため、両端に待機する無数のスタッフの方々が、「がんばってください」「気をつけて」と声をかけてくれた。
堅牢かつ、しなやかにそそり立つ橋の梁を見上げてみる。この角度から、レインボーブリッジを見上げることができるとは__感動の連続だ。走行中の手持ちでの撮影が許可されておらず、お伝えできないのが、非常に残念。
対向車線には、折り返しの参加者がやってきて、笑顔で手を振り合ってすれ違う。この日は、走行中ならマスクも不要であり、コロナ禍で人と人との交流が疎遠になっていた分、お互いの笑顔を見て、交流できる機会は本当に価値があったと思う。
ヘアピンコーナーを回る(東京都提供)
橋の対岸でヘアピンコーナーを回り、復路へ。今度は豊洲やお台場方面を見渡しながら走った。特徴のあるフジテレビ社屋を眺め、ガンダムについて語り、景観を堪能した。あっという間にレインボーブリッジパートは終了。だが、この後も未経験の道が待っていた。
東京港臨港道路南北線で海の森に向かう。こちらも、普段、自転車で走ることはない道だ。路面状態も良く、普段来ることはない倉庫街など、まったく観光地エリアと趣向が異なる景観が新鮮だった。
先にスタートしたウェーブの参加者とお互い笑顔で手を振ってすれ違う
東京港海の森トンネルへ差し掛かった。これまで一般の人間は、おそらく誰も自転車で中に入ったことはなかったであろう。自動車専用道のトンネルに自転車で入るのは、筆者も初めてでワクワクした。クルマの運転席からは見慣れた環境ではあるが、サドルの上から見ると、印象が違う! ここでも電光板が「グランドサイクルトウキョウ」とイベント名を流すなど、粋な取り計らいがあった。
海の森公園の南部を走り、折り返す。再びトンネルを自転車で走ってみると、トンネルの出入り口には、それなりの勾配があることがわかった。海の中を通るので、考えてみれば当然なのだが……。レインボーブリッジの上りのみを心配していたのだが、実は終盤のこういう小さなアップダウンが効いてくる。
「クルマの道って、意識しないアップダウンが意外とあるんですね」
「きつい!」
などと、皆で笑い合った。エンジンが『自分』となったこの日は、発見も多かった。
お台場中心部に戻ってくる
大興奮のライドも、終わりに近づいてきた。交差点で遭遇する人も、手を振って応援してくれる。東京の中心街をイベントで走ることは非常に稀だが、東京でもこういう交流ができるものなのだ。何とも言えず、嬉しい気持ちもこみ上げてきた。
セントラル広場にフィニッシュする参加者(東京都提供)
最後は、紅葉に彩られたストレートを行く。MCの方のアナウンスに迎えられ、フィニッシュゲートをくぐった。距離としては長くはなかったかもしれないが、最高に楽しかった!
もう一度、受付ゲートに戻り、参加賞のBEAMSコラボのTシャツとサコッシュ、水を受け取って、この日のライドは終了。
フィニッシュ後は受付を行なったゲートで参加賞を受け取る(東京都提供)
BEAMSの撮影ボードの前で記念撮影する参加者(東京都提供)
聞けば、遠方からの参加者も多いようだったが、大満足だったようだ。
メインステージではライブイベントが開催された(東京都提供)
参加賞のTシャツを着てステージに立つジャングルポケットの3名と片山右京氏(東京都提供)
ゴール後は天候が悪化し、夕方予定されていたプロライダーを招いたクリテリウムのエキシビションレースも残念ながら中止となってしまった。それでも、ステージではCHEMISTRYのライブや、吉本芸人のステージなども設定され、参加者だけでなく、イベントを楽しむために訪れた人々も一緒に、この日を楽しんだ。
エキシビションレースは悪天候を受けキャンセルとなったが、今季JCLに参戦した各チームを代表する選手が登壇し、ロード競技のPR(東京都提供)
紅葉が美しいプロムナードを抜ける女子ロード日本チャンピオンの樫木祥子選手ら。解説で有名なオリンピアン、飯島誠さんの姿も(東京都提供)
このイベントのきっかけを作ったトライアスリートの白戸太朗都議によれば、今回は、まだ構想の第一歩だと言う。ウェア姿でライドにも参加しており「まだまだこのイベントは拡大しますよ!」と笑顔で語っていた。
この日はハンドサイクルもコースを走った(東京都提供)
安全走行のためのシミュレーションに参加する少年(東京都提供)
チャイルドトレーラーを引き、お子さんと走る参加者
このライドには、オリンピアンや自転車競技の各種目のトップライダーも参加するとともに、パラサイクリストも参加した。足の代わりに手でペダルを回すハンドサイクルや、視覚障害者の方でも前部の席に座るパイロットが操舵することで、自転車に乗ることができるタンデムは、都内ではまだ走行が許されていないが、この日はともにコースを走った。
すべての自転車が、ともに走り、「誰でも自分の力で進む自転車に乗る権利がある」ことを示し、同じ感動を分け合うことができたように思う。また、欧米ではスタンダードである「チャイルドトレーラー」の使用も、イラスト入りの紹介を交え、公式に認められた。「皆でレインボーブリッジを走る」という五輪のレガシーとしての象徴的な意味合いを超え、非常に重要な意義を持つ機会であったと感じた。
あいにくの天候にはなったが、多くのメディアでも報道され、自転車への注目も集まり、今後の理解が進むきっかけになってくれたのではないだろうか。来年の開催日程は発表されていないが、エントリー開始後、すぐに満員になってしまうのは確実だろう。興味のある方は、気をつけて情報をチェックしてほしい。来年は晴天のレインボーブリッジを走りたい!
記事中画像:東京都提供 編集部
トップ画像:東京都提供(P-Navi編集部)