2022/04/27(水) 17:19
国境を越えて、人々を魅了するニッポンの象徴として「桜、富士山、新幹線」が、よく挙げられる。今回は、桜と富士山の絶景とグルメを楽しみ、富士市を走るサイクリングが企画され、一緒に走らせてもらうことになった。
3月下旬に桜は開花したものの、不安定な天気が続いていたため、その合間を縫ってサイクリングが決行。朝まで降っていた雨も止み、集合場所となった「ふじのくに田子の浦みなと公園」を訪れる頃には、道路も乾き、空も明るくなってきていた。
JR吉原駅を降り、集合場所に向かう道はナショナルサイクルルートに指定され、シンボルマークと自転車レーンを示すペイントが施されている
この日は、サイクリストによる私的なグループライドの予定だったのだが、地元のサイクリストである増島さんがご好意で一緒に走ってくれることに。計画されたルートは事前にマップ上で確認していたものの、同行はとてもありがたい。
「ふじのくに田子の浦みなと公園」駐車場に、各所からサイクリストたちが集合。一番遠方の参加者は、大阪からだった。
空も明るくなり、笑顔で出発前の記念撮影
増島さんによるブリーフィングがあり、記念撮影をして出発。まず、公道に出るまで堤防上を走る。この高所の道から眺められる、海とみなとの景観がとても美しかった。長く続いた自粛生活の影響もあり、解放感のある眺めは、気持ちが晴ればれし、いっそう心に響くのかもしれない。皆の表情も、ますます明るくなってくる。
解放感抜群の堤防上からスタート
公園を出て、緑地の間を走って行く。雲の晴れ間に、ところどころ青空が見えるようになってきた。
合流のタイミングで振り返ったメンバーが声を上げた。指差す方向を見ると、雲の間に、富士山が頭をのぞかせているではないか! 一気にテンションが上がる。
「富士山だ!」子供のように無邪気に喜ぶ
ここから、一同は桜の美しいスポットをめぐる。最初に目指すのは「御殿山広場」だ。山全体が桜色に染まる花見の名所として知られており、トレッキングのルートとしても人気が高いそうだ。
ローカルな香りのする上りに差し掛かる。この御殿山がある蒲原地区は、東海道15番目の宿場町として栄えた土地。この山は徳川家康が作った蒲原地区の薪を取った山であることから「御殿」山と名付けられた。「御殿山広場」は、今もその風情が漂う市民憩いの場所だという。
木漏れ日が降り注ぐ、幻想的な上り
絶景が顔をのぞかせるスポットも
時に少々厳しい勾配を上り、時に軽く下りながら、「御殿山広場」を目指す。アップダウンはあるが、ルートを取り巻く春を迎えたばかりの生命感が漂う景色に、パワーをもらえるような感覚になった。
朝まで降っていた雨の影響もあり、滑りやすい箇所もあったが、下り切ったところで、景観の開けたスペースにたどり着いた。桜とガードレールの向こうには、海が広がっている。突然現れた絶景に、一同は大喜び!
眼下に広がる絶景
自転車を置き、階段を徒歩で下っていくと、桜の木々に囲まれた広場があった。自然の中に、しつらえられたシンプルなスペースで、逆に格の高さのようなものが漂っている。もしかしたら、江戸当時の風情のままなのかもしれない。この先には桜吊り橋もあり、運動がてら、散策を楽しむ方も多いようだ。先客の家族連れがのんびりと景観を眺めていたが、いつまででも、座って時間を楽しみたくなるような、居心地の良い空間だ。
海を望み、丸ごと桜色に染まる御殿山広場
我々も、周囲を探検し、少々長居してしまった。
再びアップダウンを経て、街へと復帰。ふと前方に、桜の霞に包まれた公園があるのが見えた。「あの公園、すごい!」と、声が上がり、もちろん立ち寄る。遊具の数も少ない、小ぶりの公園。おそらく、この季節以外は、ありふれた地域の公園なのだろう。だが、この日は「ほぼ桜に覆われ」ており、圧倒的な存在感を放っていた。なんと美しい。
映えるアングル探しに夢中
一旦、愛車を置いて、さまざまなアングルから写真撮影を楽しむ。それにしても、こんなに桜の割合が高い公園が存在しているなんて! 一年に一度、この季節に輝きを放つこの公園をデザインした方のセンスに感服だ。
再スタート。しばらく走り、緩いカーブになる坂を下り始めたところで、「わぁー!!!」と、歓声が上がった。
歓声の先には大きな富士が
富士山が目の前に姿を現したのだ。その大きさ、美しさに改めて感動する。それにしても、富士山が見えると、どうしてこんなに嬉しい気持ちになるのだろう?
新幹線が通過! ギリギリシャッターが間に合った!
さらに進むと、目の前の橋の上を東海道新幹線が駆け抜けて行くシーンも! 3種の神器「桜、富士山、新幹線」との遭遇に、テンションは上がりっぱなしだ。
ここからはグルメパート。目指すは、地域で愛されている、まんじゅう屋だ。ところが!
「完売」…。皆、ショックを隠せない
店舗にたどり着くと、まさかの「完売」の張り紙。シャッターも降りている。まだ午前中なのに、こんなこともあるのかと、御殿山へのヒルクライムを経て、スイーツを楽しみにしてきたメンバーが脱力する。
「他のスイーツを当たりましょう!」
誰とはなしに声が上がり、気持ちを切り替える。候補に入れていたケーキ屋が近くにあるはずだ。増島さんに場所の見当をつけていただき、店舗に向かう。
そして、先行したメンバーが「開いてます!!」と、OKサイン。やった!
洋菓子と和菓子を揃えた「菊屋」
さきほど店舗の前を通ったようなのだが、外観が控えめで、誰もケーキ店だと認識できず、気がつかなかった。おそらく、昔から営業しているのだろう。競争の激しい今も営業し続けているのだから、期待は高まる。
ガラス戸を開け、店内に入ると、すぐ目の前にショーケースが置かれ、中には、生ケーキが並んでいた。価格は、ケーキで300円台、マカロンでも150円程度と、驚くほどリーズナブル! 皆の目が輝く。サイドにはモナカなどの和菓子や、焼き菓子もあり、選択肢の幅も広い。
並ぶケーキはリーズナブル!
どれにしようかな?
ケーキか、タルトか、焼き菓子か。この後の立ち寄りとの「食べ配分」もあり、真剣な検討が始まる。思い思いの商品を買って、店外へ。筆者はプリンをセレクト。この日は暑かったこともあり、のどごしのよいものが食べたかったのだ。
素朴な味わいのプリンをゲット。ベストチョイス!
さっそく隣接する駐車場でいただいたが、深い味わいながら、しつこくなく、甘さもちょうどいい。何個でも食べられそうだ。あちこちから、「おいしい、おいしい」の声が上がる。一度「まんじゅう完売」に絶望した分、さらに味わい深く思えたかもしれない。心も満たされる最高の補給になった。
ドリンクも補充して再スタート。富士川と並んで走り北上する。
富士川橋の渡り口に到着すると、景観が開けており、美しい富士山が姿を見せていた。雲をまとった富士山の気品のあること、美しいこと。暗黙の了解で、行程は一旦停止になり、撮影会が始まった。好みの画角でシャッターを切る。美しすぎて、止まらずにはいられないのだ。
気品のある富士山が目の前に!
自転車を停め、ついつい眺めを楽しんでしまう
ようやく橋を渡り始めたが、景観が開けた左側に自転車と歩行者用のスペースがあり、澄んだ川と山々、遠くの街並みと美しい富士山という極上の眺めを楽しめる。どうしたって、写真を撮りたくなり、なかなか進めない。そんなニーズを見越してか、ところどころに待避スペースが設けられており、その待避スペースを活用しながら、記念撮影したり、眺めを楽しんだり、スローペースで橋を渡っていった。
一同は、増島さんに付いて走り、桜の名所である雁(かりがね)堤へ。エリアに入ったと同時に、大きな歓声が上がる。驚くほど大きく見える美しい富士山と、桜、そして春の草花。これは現実かと疑いたくなるほど、完璧な春の絶景が広がっていたのだ。「すごい!」。感動を隠せない。
富士山と桜が織りなす、絵のような景観。完璧だ!
撮らずにはいられない光景の連続に、再び撮影会が始まる
記念撮影を楽しむ。こんなパーフェクトな光景に遭遇することは、今後ないかもしれない。ひとしきり楽しんだあと、名残惜しくも出発した。夢のような景観の中を、ゆっくりと走っていく。
桜と富士をのぞむ、なかなか経験できないライドを堪能
さらに、美しい花霞の間を走り抜けていく
一同は富士山を正面に走る。まるで富士山に向かっているようだ。
ほどなく、細い川に遭遇した。富士川の支流である潤井川の龍巌淵というスポット。多くの車が並び、交通整理が行われていた。何があるのだろう?
増島さんに付いて、自転車を押し、視界が開ける滝戸橋まで行くと、その理由がわかった。大きな富士山が川の向こうに見えている。川沿いに咲く桜と相まって、ここも夢のような美しさだ!
この絶景を撮影すべく、多くの方が押し寄せていた。橋の上の混雑を避けるため、立ち止まりは制限され、自転車は速やかに向こう側に抜けるようにと指示が飛んできた。大慌てで滝戸橋を対岸まで渡る。
川沿いの美しい桜と滝戸橋
潤井川沿いに並ぶ桜だけでも、ため息の出るような美しさ。さらに、富士山も眺められる! 桜の満開のタイミング、天気、さらに湿度が増え、霞むことの多い富士山がくっきりと見える。これほど気象条件の3つが揃うことはごく稀で、この日は、まさに奇跡揃いだった。春にこの時間まで富士山がくっきりと見えていることだけでも、珍しい。それが分かっているからこそ、多くの方々が真剣に写真撮影に来ていたのだ。
橋の上で記念撮影。自然と笑顔がこぼれる
思い思いの画角で撮影を楽しんだあと、一同は富士山と桜をバックに滝戸橋で記念撮影。この日、ここでしか撮れない思い出の写真が撮れた!
そろそろ、ランチにしよう。実は当初は富士市のソウルフード「漬けナポリタン」を予定していたのだが、ライドが押し、営業していた店舗(この日が定休日だった店舗も多かった)のランチ提供時間までにたどり着くことが難しくなってきてしまっていた。漬けナポリタンは諦め、走りながら候補に挙がっていた店を当たってみることにしたが、地域の店舗は営業自粛期の影響でランチ時間が短縮になっていたり、人数が多いと予約なしでは入れなかったりと、苦戦した。
結局、漬けナポリタンの発祥地、「吉原商店街」まで走ってしまった。候補の中からは蕎麦に軍配が上がり、ランチはモダンな作りの蕎麦店「戸隠そば 吉原」へ。多くのメンバーが、お得な「ランチセット」をすべり込みセーフでオーダー。戸隠は別の土地ではあるが、この地域で人気のある店舗だという。
おろしそばと小ネギトロ丼のランチセット。甘いタレがベストマッチ!
さっぱりしたおろしそばと小ネギトロ丼のセットが、この日のメンバーの一番人気。コシのある蕎麦が甘めのつゆに絡まって、つるりと気持ちよくいただける。美味なる蕎麦に、舌鼓を打った。
気がつけば、ゴール予定時刻が近い。「デザートに近場のスイーツを当たりません?」と提案があり、ゴール前に近くのスイーツ店に寄ることになった。
目指したのは「もちのき 今泉店」。和菓子も洋菓子もあり、イートインもある(平常時)ようだ。たどり着いてみると、かなり大きい店舗で、にぎわっている様子。季節のフレッシュフルーツとたっぷりのクリームを、どらやきの皮ではさんだ「どらサンド」が名物らしい。
賑わいを見せていた「もちのき 今泉店」
地域の名産、いちごを使用した季節の「どらサンド」
店内に入ると、生ケーキ類と、焼き菓子、和菓子という豊富なラインナップが出迎えてくれた。美しくディスプレイされ、つやつや輝くスイーツの誘惑に、皆はランチ後のふくれたお腹を無意識にさすりながら、あとどれくらいなら食べられるのかと真剣に悩む。「ここに寄るって先に決めておくべきだった」。誰かがポツリと心の声を漏らす。そう、分かっていればランチ「セット」にしなかったのに!
魅力的なスイーツが並び目移りする
だが、結局は、皆が思い思いのスイーツを選ぶ。筆者はシュークリームをセレクト。皮も濃厚なクリームもベストマッチ。至福の時だった。どらサンドは取り寄せも可能とのこと。いつかトライしてみよう。
この頃には空はすっかり曇り、富士山はもう気配も感じられない状況になっていた。
感動の多かった1日を振り返りながら、スタートした「ふじのくに田子の浦みなと公園」に戻る。今日は本当にラッキーだったし、ベストの時間配分で楽しめた。臨機応変に提案してくれた増島さんに、皆で心からのお礼を言う。地元の方だからこそ知っているスポットに連れて行ってくれたおかげで、検索した程度では決してたどり着けない絶景を楽しむことができた。土地を知る方と走らせていただくことの価値を、改めて知った。
ここで解散。筆者も再び吉原駅を目指し、帰路についた。富士は首都圏からのアクセスがよいことも特徴で、新幹線を使い、新富士駅経由での訪問も可能だが、JR東海道線を使うなら、かなりリーズナブルに訪れることができる。富士市にはe-bikeを含む高性能のレンタサイクルがあるとのこと。利用すれば、ビギナーの方でも気軽に遊びに来られるだろう。
今回は「漬けナポリタン」もお預けになったし、次回を企画するしかない! どんな形で、どんな季節に走りに来ようかな? 計画を練るのも、サイクリングの楽しみのひとつだ。
画像:編集部、Kenji Masujima(Special Thanks)(P-Navi編集部)