富士クリテリウムチャンピオンシップ

2022/04/02(土) 11:03

富士クリテリウムチャンピオンシップ

静岡県富士市で「第1回富士山サイクルロードレース・富士クリテリウムチャンピオンシップ」が3月19、20日の二日間、開催された。交通規制を行い、華やかに開催されたレースイベントには、この日を待ちわびた全国のサイクルロードレースファンや、地元の方々が訪れた。

1年目の今年は、富士市役所近くの公道「青葉通り」の両車線を使った1.8kmの周回コースを設営し、都市の小周回を使う「クリテリムレース」として開催された。国内に存在する「全日本実業団自転車競技連盟(以下JBCF)」、「ジャパンサイクルリーグ(以下JCL)」という2つのリーグと、学生たちのレースを対象とする「日本学生自転車競技連盟(以下学連)」の選手が参戦し、3リーグのトップを決める「富士クリテリウム“チャンピオンシップ”」として設定され、注目を集めた。
片側3車線の大通りではあるが、コースの両端には180度ターンの折り返しが生じる。緩やかにカーブし、フィニッシュに向かい緩やかに上る勾配が含まれていた。


富士市の大通りに設定されたコース。イベントサイトが設定された側の沿道は、この折り返し地点からスタートゴール地点までびっしりと長く観客の列が続いている


コースの両端には180度ターンが設定された

19日は、上位25名ずつが20日の決勝戦に進む権利を与えられる各リーグの予選。だが、この予選は多くの番狂わせが生じた。JBCFの予選では近年のリーグで圧倒的な強さを見せているマトリックスパワータグが2名、愛三工業レーシングチーム、シマノレーシングも3名ずつしか予選を通過させることができなかったのだ。JCLの予選でも、昨年の優勝者を出したキナンレーシングチームや、チーム右京は2名ずつしか決勝にコマを進めることができず、全選手が敗退するチームも出る大波乱の結果に終わった。学連の予選では、日本大学、日本体育大学、明治大学が5名ずつ決勝に進むことになった。


朝から、さまざまなカテゴリーのレースが開催された(画像提供:静岡県)

迎えた20日は、暖かな日差しに恵まれ、絶好のお出かけ日和。この日は朝からパレード走行や、男子ジュニアからU23、エリート(一般)、マスターズの一般レースや女子レースが開催され、午後から3リーグの決勝に進めなかった選手たちの交流戦、チャンピオンシップが開かれるという、盛り沢山のスケジュールが予定されていた。
コースと隣接するイベントエリアには、スポーツバイクやウェアなどの自転車関連に加え、クルマや地域の特産品などが並ぶブースが設営され、終日のにぎわいを見せた。レースに特別深い関心がない方でも、ブース巡りをまじえて、楽しむことができた。


たくさんの出店ブースがならんだイベントエリア


環境にやさしい車の展示も

家族連れも多く、自然豊かな広場を、楽しそうに走り回る子供たちの姿も。マスク着用など、来場者には十分な感染防止策の遵守が呼びかけられ、もちろん皆が応じていたが、広々としたにぎわいのある会場で皆がのびのび過ごす姿は、長かった新型コロナウイルスとの戦いの出口が見えてきたという希望を感じさせる光景だった。プロのレースも含まれながらも、観戦は無料。レース観戦も、ブース巡りや近隣に買い出しに出向くのも、移動はもちろん自由。交通規制が実施されていることもあり、自転車で訪れた方も多く、自転車を押し歩く来場者も多かった。好みの観戦スポットを探したり、のんびり座ってただ活気ある空気感を楽しんだり、皆が思い思いのスタイルで春の1日を楽しんでいた。


観戦を楽しむ家族連れも多く見られた


自転車で訪れた観客が多く、随所に多様な自転車を押し歩く人の姿が

会場では、朝のパレード走行を皮切りに、各カテゴリーのレースが開催されていった。コース沿いを埋める観客の数は時間を追うごとに増えていった。


午後になると来訪者はさらに増え、コース沿いには幾重にも観客の列ができた

午後には、プロカテゴリーの2レースが開催された。大波乱だった前日の予選を受け、決勝に臨まない選手たちが参加する交流戦には、決勝の優勝候補だった選手も含まれ、豪華な顔ぶれが並ぶことになった。レースは、予想を超えるハイスピードな展開に。コースロープギリギリを高速で走り抜ける選手たちの姿に、会場から驚きの声が上がる。


高速ですぐ目の前を走り抜ける選手たちの姿に釘付けになる観客たち(画像提供:静岡県)

この日の最終戦は決勝戦。距離がぐっと長くなり、コースを30周する54kmの設定に。ハイレベルだった交流戦の迫力に感動した観衆の期待も、ボルテージもあがる。プロリーグの選手たちにとっては、絶対に負けられない戦いであり、失うもののない学生たちにとっては、挑むしかない戦いだ。

大勢の観衆に見守られる中、レースがスタートし、地元チームの佐野淳哉(レバンテフジ静岡)がファーストアタックを仕掛け、元全日本チャンピオンの名に恥じない鮮烈な飛び出しを決めてみせた。


ファーストアタックを決めた佐野淳哉(レバンテ富士静岡)

佐野は吸収されたが、選手たちが入れ替わり立ち替わり飛び出しを仕掛けては、集団に吸収されていく迫力のある展開が続く。


なかなか決定的な動きが生まれず、レースは長い間集団で推移した


幾重にもなった観客の前を走る集団(画像提供:静岡県)

折り返しを越えた頃、競輪選手でもあり、東京五輪にはトラックレースで出場した橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)、昨年度まで全日本チャンピオンジャージを着ていた入部正太朗(弱虫ペダルサイクリングチーム)、高梨万里王(レバンテフジ静岡)の3名の飛び出しが決まり、先頭集団を作った。ほどなく、先頭3名にレオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)が合流、高梨が遅れてしまい、新たな顔ぶれの3名の集団となる。
メイン集団から抜け出した、宮崎泰史(宇都宮ブリッツェン)、中井唯晶(シマノレーシング)、佐藤健(日本大学)、佐野淳哉らが先頭3名に合流し、先頭集団は11名まで増えていく。だが、メイン集団とのタイム差は思うように広がらない。メイン集団がじわじわとペースアップし、その差を縮めにかかり、先頭を吸収した。


メイン集団の先頭に立つ岡本隼(愛三工業レーシングチーム)後ろには、積極的に動き続けた橋本英也(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が続く

ラスト3周。再度、橋本がするすると飛び出し、先頭を独走する。観客の拍手を受け、笑顔を見せる余裕すらみせる。橋下を追うメイン集団の前方には、スプリンターたちがじわじわと集まり、スプリント勝負に備え始めた。
最終周回を目前にして、東京五輪にロードで出場した増田成幸(宇都宮ブリッツェン)や競輪選手でもある窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)らが、ついに橋本に追いついた。新城雄大(キナンレーシングチーム)らと小集団を作り、最終周回へ突入。先頭集団は吸収され、レースは集団に戻った。ゴールを狙う各チームが駆け引きを交わしあい、激しくうねる集団がゴールに向かう。
ここでU23の全日本ロードだけでなく、トラック競技オムニアムの全日本も制したスピードのある兒島直樹(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が単独で飛び出し、緊張が走った。メイン集団は、全日本チャンピオンジャージを着る草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)が先頭に立ち、全力で引き上げる。草場の後ろには、優勝を狙うチームメイトの岡本隼、中川拳(ともに愛三工業レーシングチーム)がピタリと付いている。集団は兒島を飲み込み、一気に加速。ゴール前に差し掛かり、草場の牽引を受けた岡本が全力で飛び出した。スプリンターたちが一斉に仕掛けるが、岡本は誰も寄せ付けないスピードを保ち、力強いロングスプリントを最後まで踏み切って、ガッツポーズでフィニッシュ。「絶対に勝利を譲らない」という気迫があふれ出すような強烈なスプリントだった。
富士クリテリウムチャンピオンシップの最初の勝者となった岡本は、割れるような拍手の中、嬉しそうに、何度も何度もガッツポーズを繰り返した。


力強いロングスプリントで勝利をもぎ取った岡本隼(愛三工業レーシングチーム)

2位には、追い上げたが、辛くも及ばなかった窪木が入り、中川が3位に入った。


表彰台に登った岡本、窪木、中川。弾けるような笑顔を見せた


表彰式まで多くの観衆が残り、惜しみない拍手を送った

岡本は表彰台で「これだけ広い道で、街の中で、走れるのは、最高に気持ちよく、初代チャンピオンになれたという価値を感じる」と喜びを語った。これまで無観客レースが続いたこともあり「声援が力になって、気持ちが高まった」と感慨深い様子を見せた。「チームとしては、危ない展開だったが、最後のスプリントに向けて脚(力)をためて、そこを信じ切れた」と勝因を振り返った。
この日、会場には「初めてレースというものを見にきた」と語る地元の方々の姿が多かった。会場の実況解説もつき、ネット上では生中継も行われ、会場のどこにいてもスマホで解説を聴きながらレースを見ることができた。表彰式まで残り、選手たちに拍手を送った観客も多く、感想を聞くと「面白くて、迫力があって、感動した」と、興奮した様子で語る方も。

今回が第1回目の開催ではあったが、観客はマナーよく、感染防止プロトコルにも従い、大きなトラブルもなく、大成功だったと言えるだろう。来年以降も大会は継続を目指しているそうだ。ロードレースの開催も今後の目標としているという。会場を取り巻く雰囲気も非常によく、選手たちのモチベーションも非常に高く、来年以降、重要な大会へと成長していくのではないだろうか。
富士市は、この日も健闘したレバンテフジ静岡が本拠地を構える都市だ。昨年、チームの事務所の1階に富士市サイクルステーションがオープンし、ロードバイクやe-bikeの貸し出しを行っている。これから富士市は、自転車のまちとして大きく進化していくかもしれない。

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【結果】富士クリテリウムチャンピオンシップ決勝戦
1位/岡本隼(愛三工業レーシングチーム)1時間16分35秒
2位/窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)+1秒
3位/中川拳(愛三工業レーシングチーム)
4位/小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
5位/今村駿介(チームブリヂストンサイクリング)

画像提供:富士山サイクルロードレース実行委員会、静岡県、編集部(P-Navi編集部)

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