2021/06/25(金) 22:00
静岡県の富士スピードウェイを舞台に、自転車のレースイベント「FUNRiDE(ファンライド)presents富士チャレンジ200」が4月25日、開催された。
世界でもトップクラスのサーキットを自転車で走る
富士チャレンジは、クルマのレースのサーキットとして作られた富士スピードウェイを舞台に開催される人気の耐久レース。通常の耐久レースは走行時間が設定されるが、このレースでは、ゴールは距離で設定され、設定距離を最速で走り抜けた選手やチームが優勝となる。例年はタイトルにある200km(44周)部門をメインに、半分の距離である100km(22周)と2つの部門が設定されて運営されてきたのだが、コース上の混雑を緩和するためなどの目的から、午前と午後に100kmのレースを設定。ふたつのリザルトを合わせて総合優勝を決める「キング・オブ・富士チャレンジ」を新設し、3つのカテゴリーで表彰するという新しい形での開催となった。
モチベーションは「表彰台」だけではない。完走者の中で、上位5パーセント(参考時速約36km)を「ゴールドレーサー」、上位15パーセント以内(参考時速約36km)を「シルバーレーサー」、上位30パーセント以内(参考時速約33km)を「ブロンズレーサー」、通常の完走者を「富士チャレレーサー」とし、リザルトに合わせた完走記念品が贈られる。わかりやすくレベル分けされ、個々の目標を設定でき、毎年の成長目標にも設定しやすい。
レースとはいえ、4時間の制限時間の中であれば、自分のペースで休みを挟みながら走ってもよい。レースペースで走ることが求められているわけではなく、参加者が各々のスタイルで、走行用に作られたサーキットの最高の路面の上で200kmや100kmの走破に「チャレンジ」できることが人気のゆえんだろう。
昨年は新型コロナウィルスの感染拡大を受け、中止となったため、2019年9月の大会以来、1年半ぶりの開催となる。当日は、早朝から開催を待ちわびた参加者たちが続々と富士スピードウェイに集結したのだった。
今年参加者は、感染拡大対策として、検温、消毒、走行時以外のマスクの着用などのルールを遵守し、レースに臨む。駐車場は5時オープンとし、参加者が集中しないよう、密を避けられる設定としたが、皆の協力もあり、トラブルもなく、スムースにレースの準備が進められていった。
早朝はかなり肌寒く、曇天だったのだが、スタートを迎えるころには、気温も上がってきて、空も明るくなってきていた。スタートを前に、まずはサポートライダーとゲストライダーが紹介される。
国内のトップリーグに参戦する「レバンテフジ静岡」「さいたまディレーブ」「弱虫ペダルサイクリングチーム」の3チームの選手たちがサポートライダーを務めた
レースのペースを作り、接触などの危険を回避しながら、参加者が走行を楽しみつつ、レースを安全に運営できるよう、国内の3つのサイクルロードレースチームの現役選手たちが走行管理を担ってくれる。
昨年から国内のロードレースは無観客で開催されており、2019年シーズンを最後に、選手たちの走る姿を生で見られる機会はなくなっていた。3チーム中2チームが昨年誕生したチームであり、それぞれの地元のイベント等を除いては、初めてのお目見えになったようだ。
さらにゲストとして、ツール・ド・フランスを走った元プロロードレーサーの今中大介さん、SUPER GTなどで活躍するレーシングドライバーのジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手(GT300 2020年シリーズチャンピオン)、元嶋佑弥選手、ベルトラン・バゲッド選手が参戦。聞けば、日常のトレーニングに自転車を取り入れているという。普段はレースカーで走り抜けているサーキットをロードレーサーでどのように走るのか、期待と注目が集まった。
サポート/ゲストライダーを先頭に参加者がスタートラインに並ぶ
午前100kmの部がスタート!
9時30分、まずは午前の部がスタート。今年から、ゆったりと走行したい方向けに、スタート時の混雑を回避でき、安全にスタートできるよう、位置をずらしたスタートラインも設定されていた。サーキットイベントは、スタート時が一番混み合う。1周目は追い抜き禁止のローリングスタートとし、2周目にリアルスタートとなるが、リザルトを狙うライダーは、好発進を望むため、前方に位置したがったり、ペースが上がったりということが起きてしまう。安全に完走を目指したいビギナーにとっては嬉しい配慮だろう。
いよいよレースがスタート。緊張感とともに、待ちに待った皆で走る機会の到来に喜びがあふれる
スペースを確保してスタートしたため、例年より落ち着き、ゆったりと間隔を空けて発進することができ、トラブルもなく、参加者たちがスタートして行った。
全部門に女性カテゴリーもあり、ソロ参加の女性も少なくない
高揚感に笑顔がこぼれる。スピードを競う参加者が多いレースイベントでありながらも、明るい表情のライダーが多かった
2周目からは、ペースを作るサポートライダーを筆頭に、先頭集団は完全なレースペースで進んでいくが、多くの参加者は自分の選んだペースでサーキットを走る。今年は参加人数も抑えられており、1周約5kmのサーキットにうまく分散して、周回を回れる体制ができていた。
時速40km以上をキープする先頭集団
サポートライダーが、集団のコントロールを行い、参加者の安全を守る。集団の通過を知らせる笛を携帯
先頭は時速40km以上で周回していくため、追い抜きが起こるが、サポートライダーが参加者を管理し、追い抜き時には声をかけたり、笛を吹いたりして、接触を回避してくれる。サポートの選手間で役割分担を行い、うまく機能していたようだ。
天気が好転し、富士山が雲の間から徐々に顔をのぞかせてきた
レース中盤からは青空が
当初は、この状況下で約1000名が参加するイベントに懸念もあったようだが、解放されたように、幸せそうに、イキイキとサーキットを走る参加者を見て、改めて、皆が集うイベントの価値に気づかされた。バーチャルのイベントも楽しいものだが、富士山の絶景を見ながら、すばらしいサーキットを走れる経験に加え、人と関わり合ったり、競いあったり、同じ経験を共有できることも大きな価値を持つものだ。
全日本チャンピオンの入部正太朗選手(弱虫ペダルサイクリングチーム)もサポートライダーに。日本チャンピオンジャージで走る
チーム参加の場合は、常に1名が計測のアンクルバンドを着け、走り、残りのメンバーはピットに待機する。分散して長距離を走れるため、脚力に自信のないひとでも挑戦できる。
チーム参加の場合は、計測チップ入りのアンクルバンドをリレーのバトンのように受け渡しし、バンドを付けたライダーがコースに出ていく。この受け渡しの時間短縮も重要なテクニック!
ピットロードで交代を待つ参加者。大人顔負けの走りを見せるキッズライダーの姿も
順番を待つ間におしゃべりしたり、飲食したりと、わいわい楽しむのが常だったが、今回は大会の要請に全員が応じ、分散してピットを使い、空間をあけ、マスク着用が徹底された。感染対策を取り、来場者全員がルールを守ってくれれば、密集しない屋外イベントは、感染リスクは極めて低いと言えそうだ。
ピットやピットロードも、今年は参加者たちがフィジカルディスタンスを保ち、ゆったりと滞在した
天気は好転し、青空が見えてきた。美しい富士山もサーキット内の随所から眺められたという。
富士山が完全に姿を見せた。サーキットを走行する中で何回か富士山の姿を眺められることも富士スピードウェイの大きな魅力だ
広がる青空の下、快走する参加者たち
この日は、会場内にいくつかのブースも並んだ。出走を終えた参加者や、待機中の参加者を中心に、アパレルやグッズ、洗車等のケミカルや、サプリメントなど、ブースめぐりを楽しんだ。昨年から多くのイベントが中止されてきため、店舗にはない品揃えが並ぶブースを見るのは、貴重な機会だ。
オーダージャージのサンプルが並ぶ。実際に見ないとわからない素材感などがわかる機会は貴重
ビッグプーリー(後部のギアについている歯車)の展示ブース。ペダルがぐっと軽くなるとか
製品を使った洗車の仕方を教えてくれる実践的サービスも
また、富士スピードウェイを含む小山町は、来る東京五輪のロードレースコース。五輪までのカウントダウンフォトへの出演者も募集されており、多くの参加者がメッセージボードに記入、撮影に協力していた。
五輪カウントダウンフォトの撮影に参加する参加者。忘れられない経験になることだろう
午前のレースは、2時間22分台で男子の先頭がゴール。集団内での駆け引きもあり、ドラマチックなレースが展開されていた。次々と各カテゴリーの表彰台が確定していく。トップ選手のゴールタイムから割り出すと、平均時速は42km以上。このあと100kmを走る予定の参加者も多いことを考えると、かなりのハイペースだ。
4時間をフルに使って完走した参加者も、途中で走行を止めた参加者もいて、楽しみ方はそれぞれ。
ゴール後は、速やかな回復を狙った配合のアミノバイタル製品の嬉しいプレゼントが
ここで話題になったのがSUPER GTのオルヴェイラ選手。先頭集団に加わっていたライダーたちが次々と、正々堂々としかしアグレッシブに挑むオルヴェイラ選手の姿勢を絶賛したのだ。インタビューに応じたオルヴェイラ選手によれば、意外なことにサーキットレースは初参戦とのことだったが「うまく走れなかった」と謙遜しつつ、レースを「楽しかった」と笑顔で振り返った。
先頭をひく姿も多くみられたオルヴェイラ選手。その果敢な戦いぶりに、ゲストとしては異例の敢闘賞が贈られた
ユーモアを交えながら、レースを振り返るオルヴェイラ選手
午前と午後の間には、人気自転車雑誌「サイクルスポーツ」の名物企画、全国の健脚自慢の店長たちが挑み合う全日本最速店長選手権が開催され、大いに会場を沸かせていた。
そして、13時半、午後のレースがスタート。午後の部も、レース自体はまったく同じ設定で開催されるが、トータルのリザルトを狙う参加者達にとっては、例年の200kmの半分の設定のレースで2回競い合う形となることで、レースそれぞれの強度が上がること、数時間のインターバルをどう過ごし、回復するかという要素が含まれることで、戦いはより高度で複雑なものになるという。
後半戦が始まる。ここから走り始める参加者もいるが、午前の部も走った参加者にとっては、回復の度合いが大きく走りを左右するだろう
午前よりもゆったりと空間をキープしながら発進する形になった午後の部のスタート
逆に、サーキットでの走行をゆるりと楽しみたい層にとっては、ゆっくりと朝起床し、会場に移動して、午後から走るという選択肢も選べるようになり、楽しみ方が多様化したとも言えるだろう。
午後もサポートライダーが各集団に加わり、レースを安全に進行させるため、ペース管理などのサポートを担った
メンテナンス等のアドバイスをしてくれるブースも。フィニッシュ後にはレースを走ることとはまた違う楽しみがある
この日も、参加者には午前でレースを切り上げ、帰宅したり、ブースめぐりや観戦を楽しんだりという層と、午前午後と参加する層、午後のみ走る層がおり、来場者の集中を避けるという意味でもプラスに機能していた。
積極的に仕掛けていくシーンも。観戦だけでも十分楽しめるハイレベルなレースが展開された
安全を期し、自分のペースを守って走る参加者も多かった
午後は途中から天気が悪化、冷たい雨と寒風が吹き付ける厳しい状況に陥ったが、トップ集団がゴールするころには雨も収まった。午後の100kmは2時間26分台でトップ選手がフィニッシュし、午前午後の合算であるキング・オブ・富士チャレンジ部門では4時間51分20秒が優勝タイムとなった。(表彰式は感染防止対策のため、賞状副賞の授与のみとなった)
雨が上がり再び広がった青空の下で、走行を再開する参加者も。少人数で世界トップクラスのサーキットを独占できる貴重な経験に
美しく輝くサーキットでゆったりと過ごす来場者
雨が降る間は走行を休み、天候回復を見て再スタートする「かしこい」参加者も。制限時間終了の17時半に近づくころ、まだ青さの残る空の下、金色の陽射しに照らされたサーキットは、えも言われぬ美しさを誇っていた。
最後の最後、17時半の制限時間終了を告げるまで、残った参加者たちが悠々とサーキットを走る。たとえ、周回数が22回に届かなかったとしても、富士スピードウェイをこの人数で独占し、走れただけで、参加した甲斐があったのではないだろうか。
早朝から盛りだくさんではあったが、一度始まってしまえば、あっという間の1日。例年より参加者数を抑え、分散させたため、サーキットが混み合うこともなく、参加者が開放感を満喫し、皆と走る喜びを噛み締めながら、充実した表情で走る様子が印象的だった。
感染症対策のルールをしっかりと守りながらイベントを楽しんだ参加者たちと、一時は悪天候に陥り、厳しい時間帯もある中でも、熱意を持ってイベントを運営されたスタッフ、サポートライダーの皆さんに敬意を表したい。
ソロは高校生以上、チームなら小学校4年生以上なら参加可能。ロードレーサーだけでなく、クロスバイクやミニベロ、MTBなど、一般的なスポーツバイクであれば参加できる。多少のアップダウンはあれど、走るために作られたサーキットを爽快に走り、随所で美しい富士山の眺めを楽しめる富士スピードウェイ。この会場で挑む富士チャレンジには、たとえレースとして臨まないとしても、一般的なロングライドとは違う達成感や魅力がある。スポーツバイクをお持ちなら、次回の参加を検討してみてはいかがだろうか。
画像:Kenta ONOGUCHI、編集部(P-Navi編集部)