2021/06/15(火) 18:26
UCI(世界自転車競技連合)認定の国際ステージレース、2021ツアー・オブ・ジャパン(通称TOJ)が5月28日、幕を開けた。
最終ステージが開かれる東京都、第2ステージが開かれる神奈川県に発令されていた緊急事態宣言及びまん延等防止強化措置の延長を受け、一時は開催が危ぶまれた。しかし、選手・関係者全員のPCR検査の実施、外部から遮断する「バブル方式」の徹底と、観戦自粛の要請、取材撮影メディアの制限といった感染防止対策を徹底することで開催を決行することとなった。
例年は海外チームを迎え入れるのだが、今年は海外からの招聘は難しく、国内チームのみが参戦する形で開催。陽性者が出た1チームが前日に出場を自粛、15チームの参加が確定した。
2019年までは、大阪、京都、岐阜、三重、長野(富士山、修禅寺)、静岡、東京と大阪と東京を結ぶ8ステージで構成されていたが、今年は初開催となる相模原(神奈川)を含め、3ステージのみの開催に絞り込まれることになった。
第1ステージは富士山ステージ。来る東京五輪の個人ロードのゴール地点である富士スピードウェイの西ゲートをスタート、五輪の個人タイムトライアルのコースの一部を使用する13kmの周回を4周したあと、富士山の登坂コースの中でも、もっとも勾配のきついあざみラインを用い、5合目に向かう激坂ヒルクライムでフィニッシュする。あざみラインは平均勾配でも10%を超えており、最高勾配は20%以上。15%以上の激坂区間が連続して現れる超難関コースなのだ。
周回を終えた後は、富士山への上りが待っている
終盤、須走ICからは、壁のようにそびえ立つ激坂が続く。78.8kmのレースで、獲得標高は2600mを超える
富士山ステージは登坂能力により、通常のロードレースでは生みにくい大きなタイム差が付きやすい。このステージの結果が、個人総合成績を決めることが多く「富士山を制したものが、ツアー・オブ・ジャパンを制する」とも言われてきた。今年は国内チームのみの戦いになること、国内チームの中でも、ずば抜けた能力を持つ外国人選手が合流できていないチームもあること、選手たちが疲弊していない初日に設定されていることなどがどう現れてくるかと注目を集めた。
このレースで最大の栄誉となるのは、各ステージの結果を総計し、もっとも速かった選手に贈られる個人総合リーダーだ。リーダーはその証としてグリーンジャージを着用する。このほか、コース内およびゴールに設定される山岳ポイント、スプリントポイントなどを上位通過し、最多ポイントを獲得した選手に贈られる山岳賞(レッドジャージを着用)、ポイント賞(ブルージャージを着用)、U23の首位の選手に贈られる新人賞(ホワイトジャージを着用)も重要な目標になる。
富士スピードウェイ前からスタートする選手たち
スタートは午前10時半。曇り空でありながらも明るく、富士山の姿はくっきりと拝むことができた。観戦自粛が出ていなければ、多くの観客たちが富士山に向かい走る選手たちの姿を見に、集まったことだろう。一斉にスタートする選手たち。4kmあまりのパレード走行の後、レースが始まった。安原大貴(マトリックスパワータグ)のアタックに5名が同調、6名が抜け出しに成功する。ここに愛三工業レーシングチームは唯一、大前翔、草場啓吾の2名を送り込み、有利な状況に。他のメンバーは孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)、渡邊翔太郎(那須ブラーゼン)、小出樹(京都産業大学)の3名だ。
アップダウンをこなしていく先頭集団
2周目に入るとメイン集団とのタイム差は1分程度に。ここから小出が遅れ、先頭集団は5名となった。快調にペダルを回す選手たち。
若手選手たちも積極的な走りを見せた
第1ステージでは2、4周回目終了地点にポイント賞が設定され、ここを上位で通過した3名に、それぞれ5、3、1ポイントが与えられる。富士山ステージは特殊なヒルクライムステージであり、勝機を望めないメンバー構成のチームの中には、ポイント賞ジャージを狙う作戦を立てたところもあるだろう。先頭集団の中でも、熾烈なポイント賞争いも展開された。
集団をコントロールする宇都宮ブリッツェン
東京五輪のタイムトライアルコースを使用した周回を回る
1回目のポイント賞は、大前、孫崎、草場の順に通過。ポイント賞の行方がかかった2回目のスプリントポイントまでには、先頭は3名に絞り込まれており、この中での競り合いに。1回目に1ポイント獲得していた草場が意地を見せて1位通過。ポイントジャージを手に入れた。草場の後は渡邊、安原の順に通過している。
周回内、前方に控える増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
4周回が終了、ここから選手たちはあざみラインに向かう。前方にチームUKYOや宇都宮ブリッツェンが並ぶメイン集団は、じわじわとペースアップし、あざみラインへのアプローチ区間で3名を吸収。いよいよレース本番が始まるという緊張感に包まれた。
あざみラインに向かう選手たち
最後の登坂が始まった。ハイペースを刻む集団から堪えられなくなった選手たちや、仕事を終えた選手たちが、バラバラと集団からこぼれ落ちてくる。
きつい勾配を登っていく選手たち
過酷な11.4kmのあざみラインに突入。集団は登るにつれ、メンバーを絞り込んでいく。ラスト8kmを切る頃、集団からスルスルと注目の新星18才の留⽬⼣陽(⽇本ナショナルチーム)が前方に抜け出してきた。しばらく独走を続ける留目と、状況を見るかのようにペースを刻み続ける集団。ここから大きな動きが生まれる。有力候補のトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)が追走を始め、同じく有力候補の増田成幸(宇都宮ブリッツェン)もここに同調したのだ。
優勝候補2名の動きに追随できるものはおらず、この2名はペースアップ。ほどなく留目を捕らえ、そのままかわし、この2人の一騎討ちが始まった。2人とも落ち着き、相手を見ながら激坂区間での緊張した駆け引きが始まった。集団からは山本大喜(キナンサイクリングチーム)とフランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)の2名が先行、追走が生まれる。
15%を越える本格的にきつい勾配が始まり、マンセボが堪えきれず、ペースを落とすが、山本はペースを保ち、たんたんと前方の2名に向けペダルを回し続ける。ここで2名に合流すれば、キナンは圧倒的に有利な状況に変わるだろう。
残り3km、山本は追い上げるが、激坂区間の中で、差を一気に縮めるようなペースアップは叶わず、差は縮まらない。ラスト1km、ついに増田が仕掛けた。この増田の動きに応じられないトマ。増田は渾身の力でペダルを踏み続け、ちらりとトマとの距離を確認、また全身全霊をかけて、単独でゴールを目指していった。
超難関ステージを勝ち抜いた増田。勝利をかみしめるように、拳を握り小さくガッツポーズする姿が印象的だった
増田は最後の最後に新設された20%の激坂区間も落ち着いてこなし、トマに11秒もの差をつけて独走でフィニッシュ。圧巻の走りでこの最重要ステージを手中に納め、総合優勝をも手元にたぐりよせたのだった。
3位には44秒遅れで山本大喜がフィニッシュ。キナンサイクリングチームは3位以内に2名を送り込む形となった。ゴール順に従い、山岳ポイントが15、12、10ポイント与えられ、山岳リーダージャージも、ステージ優勝した増田成幸が手に入れることになった。
フォトセッションに応じる個人総合リーダージャージの増田成幸、ポイント賞ジャージの草場啓吾、新人賞ジャージの留目夕陽
増田は、前日の記者会見では「体調は悪くない」とコメントしていたが、レース中、あざみラインでは、「(トマと比べ)自分の方がきついかもしれない、今日は僕の日ではないかもしれないと考えていた」と語った。ラストは自信があって勝利に賭けたのではなく「仕掛けてみて、少しでも前に出られれば」との思いから、試してみたのだという。ここでトマが離れたことを確認し、そのまま全力でペダルを踏み、独走勝利を勝ち取った。自分のために動いてくれたチームへの感謝を語り「チーム一丸となって、明日からも頑張っていきたい」とインタビューを締めくくった。
ポイント賞のブルージャージを手に入れた草場は「集団に2名入り、有利な展開で、ポイント賞をとるためにうまく走れた」とレースを振り返った。第2ステージ以降に関しては、「ポイント賞リーダーは守っていきたいものの、総合などの動きもわからない。リーダーを守ることよりも、チーム優勝を優先させ、挑んでいきたい」と語った。
一方、初参加となる留目は、ツアー・オブ・ジャパンを「最初から憧れのレースで、精一杯やりたいと思ってスタートした」と語った。「挑戦者としてガツガツ行った」「最初からバチバチにあげようと思っていた」とフレッシュなコメントを残し「調子も上がってきており、ジャージを守りながら、総合に絡めるよう、明日からも頑張りたい」と意欲をにじませた。
翌日の第2ステージは、初開催となる神奈川県の相模原ステージ。アップダウンが続く厳しいコースであり、個人総合優勝の行方も、ここでほぼ決まる可能性が高い。それぞれのチームが目標に向けて競り合い、熾烈な展開が予想された。
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【結果】2021ツアー・オブ・ジャパン第1ステージ富士山
【ステージ順位】
1位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン) 2時間 35分52秒
2位/トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)+11秒
3位/山本大喜(キナンサイクリングチーム)+44秒
【個⼈総合時間賞(グリーンジャージ)】
1位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)2時間 35分52秒
2位/トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)+11秒
3位/山本大喜(キナンサイクリングチーム)+44秒
【個⼈総合ポイント賞(ブルージャージ)】
1位/草場啓吾(愛三⼯業レーシングチーム)6pt
2位/大前翔(愛三⼯業レーシングチーム )5pt
3位/孫崎大樹(スパークルおおいた)3pt
【個⼈総合⼭岳賞(レッドジャージ)】
1位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)15pt
2位/トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)12pt
3位/山本大喜(キナンサイクリングチーム)10pt
【個⼈総合新人賞(ホワイトジャージ)】
1位/留目夕陽(日本ナショナルチーム)
2位/門田祐輔(リオモ・ベルマーレ・レーシングチーム)
3位/⼩出樹(京都産業⼤学)
写真、画像提供: 2021ツアー・オブ・ジャパン(P-Navi編集部)