2021/02/04(木) 15:29
長野県飯田市__。
環境文化都市宣言をし、独自の環境プランを設定。さらに地域環境権を宣言、再生可能エネルギーの活用を推進するなど、環境モデル都市の中でも抜きん出た存在感を放つ環境先進都市だ。この飯田市では全国でもかなり早い段階で、健康や環境、観光など、担当課を横断する形で、自転車の利用促進を進めてきた。現在も環境モデル都市推進課が担当となり、レンタサイクルを実施している。この利用料は市民以外でも無料!今回はクロスバイクを1台お借りし、飯田中心街のポタリング(ゆったり自転車で散策すること)を楽しんできた。
飯田市では現在、計12箇所で自転車が借りられる(平日/休日で台数や車種などが異なる場所もある)。市外からの来訪者に対しても考慮されており、飯田駅や天竜峡駅近くや市役所、観光案内所などのアクセスしやすい市の機関でも貸し出しが行われている。市民への貸し出しは電動アシストバイクがメインだが、クロスバイクやマウンテンバイクも用意されている。アップダウンの多い地域だが、自然景観は素晴らしく、電動アシスト自転車があれば誰でも気持ち良く散策を楽しめることだろう。環境面を考え、自動車から自転車への交通手段のシフトが目標の一つであるため、市民に対しては電動アシスト自転車を長期(3カ月)貸し出しするシステムも用意されている。
市内12箇所でレンタサイクルが貸し出されている
自転車の貸し出しは美術博物館でも
この日は『りんご並木のエコハウス』で、クロスバイクを拝借することにした。この『エコハウス』は太陽光、太陽熱、木質バイオマスなどの再生可能エネルギーを活用し、化石燃料を使わない。環境共生型住宅の普及や環境への意識を高める飯田の環境事業のシンボル的存在だ。
クロスバイクを借り、環境共生型の建築「りんご並木のエコハウス」を出発!
甘味マップゲット!
(実際に持ち運んでいたため、ヨレヨレになってしまったのはお許しを)
飯田市は立地的に大都市からアクセスしにくい環境にあり、交流が少なく、地域の中で様々な文化や技術が熟成されたと、聞いたことがある。人形や水引などの細かい装飾の質が高いこともこれで説明がつく。さらに和菓子のクオリティーが非常に高く、市内の菓子店の店舗数が多いのも、こういった事情に由来するようだ。エコハウスには市内の和菓子マップが用意されていた。これを1枚、拝借し、菓子店を中心にブラブラと、市内を自転車で散策してみることにした。
古い商店をリフォームしたという「ひらのや」
店内に入ると手書きのメニューが並ぶカウンターが
まずは腹ごしらえ!飯田市通り町のカフェ『ひらのや』を訪れた。古い商店をリフォームしたという店内はレトロながらオシャレな雰囲気。店内に足を踏み入れると、正面にオーダーをするカウンターがあり、横のガラスケースにはスイーツや輸入物のドリンクやチョコが並んでいた。中には雑貨や洋服のセレクトショップも併設されているが、フェアトレードやオーガニックなど、環境や社会に優しい商品を選び扱っているようだ。
ランチセットは日替わり含め、好きな2種を選べる。サンドイッチ、キッシュ、カレーなど。筆者は悩みに悩んだが、この後も食べ歩くことも考慮し、軽そうなキッシュセットをチョイスした。
店頭には海外から輸入されたドリンクも並ぶ
キッシュセット、意外とボリューミー!
登場したキッシュセットに驚いた。分厚いキッシュに、濃厚そうなスープ、フルーツも混ぜ込まれた野菜サラダ、ラペやザワークラフトのような野菜の和え物が並び、なかなかのボリューム!彩りが鮮やかで、眺めているだけでもワクワクする。新鮮な野菜に食べ応え満点の具沢山キッシュ、旨味たくさんのスープ。程好い量で盛られており、どれを食べても飽きがこない。野菜タップリで、シッカリしたボリュームで大満足だった。よしっ、デザートは自転車で散策して、食べ歩きをしよう!
無料で楽しめる飯田市動物園
少々重くなったカラダで飯田市動物園へ。ここは嬉しい入園無料!ウサギやヒツジ、ヤギ、サルの他、ペンギン、カモシカ、コンドル、フラミンゴ、ミーアキャットなど、たくさんの動物達が暮らしている。ジックリ見るも良し、軽く散策を楽しむも良し。市民にとっては憩いの場にもなっているようだ。この日は時間がなく、入り口のみで退出。いつかジックリ園中を楽しみにきたいものだ。
爽快なダウンヒル!市街地を一望する絶景を楽しんだ
絶景を眺めながらバイクを進める
目当ての和菓子屋があり、市役所前を抜け、坂を下ることに。見晴らしが良く、飯田市街を一望できるダウンヒルは爽快だ。下り切り、川を越え、和菓子店『まんさく』を目指す。ここには『お菓子どうぶつ園まんじゅう』やナス餡などが入った『南信州の味覚やさい・くだもの饅頭』があるそうだ。かわいらしいルックスが気になっていたスイーツ。1度、見てみたいし、味わってみたい!
ところが、店舗に辿りついてみると、シャッターが降り、しばらく開店していた気配すらない閉店ぶりだ。定休日ではなかったはずなのに、開く雰囲気が全くない……。
ここで調べてみると、しばらく店休になっており、お向かいの工場で可能な対応はしてくれるそうだが、『お菓子どうぶつ園まんじゅう』は予約販売なのだとか。あらかじめ調べてくるべきだった……と、悔やんだが、後悔先に立たず。元々、ポダリングとは『あてもなくブラブラする』という意味なのだから、決め込んで出発しないと、こういうトラブルも起こる。自転車は多少の失敗もリカバリーしやすいので、こんなハプニングも楽しんでいこう!(笑)
それなりの規模の坂を下ってしまったのだが、「景観を楽しみ、よい腹ごなしと運動ができた」と、ポジティブに自分に言い聞かせ、えっちらおっちらと、きら坂を上る。多段ギアのクロスバイクを選んで良かった!
レトロで品格のある飯田市立追手門小学校の校舎
気の向くままに散策しつつ、飯田の文化を感じられるエリアに出向くことにした。まずは飯田市立追手門小学校へ。気品ある美しさが漂うレトロな建築を見て、小学校だと、当てられる人は少ないだろう。この小学校の歴史は明治5年まで遡る。『筑摩県管内第三十番小学校』として設立され、その後、『飯田尋常高等小学校』へ改称。現行の教育制度ができた昭和22年に『追手門小学校』と、改名され、現在の小学校になった。この鉄筋コンクリートの校舎は昭和4年に建設されたもの。もちろん、改築や補修を繰り返し、安全で快適な環境を確保する共に、現代の子供たちの教育に必要な設備も整えているという。
この向かいには『赤門』と呼ばれる飯田市の有形文化財である『飯田城桜丸御門』が建っている。赤門とは将軍家の娘を迎えた大名に建築が許される特別な門のこと。正式には徳川将軍家の娘を意味する『御守殿(ごしゅでん)』の門として『御守殿門』と、呼ばれる。消失しても建て替えが許されないことから、全国でも現存する赤門はごく僅かなのだとか。
この桜丸御殿の中にはヒガン桜と枝垂桜が合体した『桜丸の夫婦桜』があり、春には多くの人の目を楽しませている。推定樹齢は400年!この桜は徳川の世からの移り変わりも見届けてきたのだろうか。
赤門は閉じられているが、春には追手町小学校の入学式に合わせ、開門式が行われ、この日のみ番所が公開されるそうだ。この日は工事が行われているようで、残念ながら見学はできなかったが、4月には3週間あまり開門されているようだ。桜の季節に改めて訪れてみたい。(現在はコロナ禍にあり、2021年の予定は未定)
風情ある和風の門構えの中には?
近未来的な雰囲気をも漂わせる美術博物館
ガラス張りの中央図書館を見ながら進むと、また、和風の瓦付きの門が見えてきた。ここは『飯田市美術博物館』。自転車を停め、門を抜けて中に入ると、近代的な建物が建っていた。美術館、博物館としての常設展示に加え、企画展も開催され、人気のプラネタリウムの他、子供向けの化学工作教室などが開催される工作室なども用意され、市民が様々な用途で活用できるようになっている。
推定樹齢400年以上という安富桜。大きさに圧倒される
この敷地内にも『安富桜』と名付けられ、県の天然記念物に指定される巨大な桜が立っている。やはり、樹齢は400年以上と、言われ、春は桜を愛でに市の内外から多くの客が訪れる桜の名所だ。
美術博物館の先には飯田城跡があり、この中には長姫神社の社殿が建っている。真っ直ぐ空に向かって伸びる木々に囲まれ、どこか清涼な空気が漂っているように思う。この日はちょうど秋祭りだったようで、祭りの法被姿の方が境内で神事を行っていた。
飯田城跡の長姫神社、この日はお祭りだった
少し散策しながら、そろそろ和菓子屋さんを目指そうか。ダイレクトに中心街へ向かうのではなく、地図上で気になっていた弧を描くように伸びる道をいこうと、図書館手前まで戻り、曲がってみる。
失敗!下り坂だった……この下った分は、いつ上るのだろう
またもや下り坂!小学校の先まで戻れば完全に平坦な道で、苦なくアクセスできたのにと、もはや笑うしかない。それなりの勾配なのだが、市街地の中の道ながら左側が完全に開けており、開放感のある気持ちの良い下り坂。きたからには下り切ってみよう。
提灯屋さんを発見!こういう探検が楽しい
駅前に向けて伸びる通りへ無事に合流し、この道を駅方面に向かってみることにした。飯田は超大型の獅子舞祭などで有名なのだが、提灯屋さんを発見。祭りの文化が根付いているようだ。こんな風に自転車は歩くより気楽に道を選べて、広いエリアを散策できる。車より近くに景観や店舗を見ることができ、発見が多い。道も、店も、人も__偶然の出合いとの楽しさがそこにある。
山を借景にインパクトのある眺めが楽しめるよう設計された美しい公園
一目で商品展開の多様さが伝わる『田月』
エリアには休憩できる場所も多いようで、コンパクトながらも広がる山を借景に噴水が噴出しており、ゴージャスな公園も。散策をしていたら、『田月』さんに辿り着いた。
田月の名物、バリエーション豊かなな大福
「ぽぉ」が描かれた「りんごきんつば」と「お菓子とうふ」
店内に入ってみると、焼き菓子や和菓子、アイスバーなど、多くのジャンルに渡り、たくさんの商品が並んでいることに驚いた。フルーツを入れた大福、驚くほど大きな栗まんじゅう、モナカなど、多様なお菓子が所狭しと並ぶ。葡萄を入れた『ナガノパープル大福』、『シャインマスカット大福』、『チーズケーキ大福』など、フルーツやクリームを入れた創作大福が目についた。『田月』の名物はこの大福らしい。定番のきんつばもりんごが名産の飯田らしく、りんご入りのものがあったり、豆乳入りの『お菓子とうふ』というオリジナルのお菓子があったりと、一捻りした「この店にしかない」商品が多い。しかもアイスかと思えば、アイスケースの中にあるのは葛で固めた『葛バー』だった!聞けば葛で固めているため、1度、溶けても再凍結も可能なのだとか。土産などで持っていく際にも安心だ。もちろん、味は落ちる可能性が高いので、再凍結は可能な限り避けたいところだが……。
葛バーをいただく、ネットリした食感が楽しい
悩みに悩んで、『ナガノパープル大福』や『りんごきんつば』、『葛バー』などをチョイス。『葛バー』は程好い甘みで、イチゴの風味が強く生きている。アイスクリームの特徴である油分がないので、しつこくなく、独特のネットリした食感が病みつきになりそう。和菓子は比較的カロリーの低いものが多いが、これはアイスが止められないダイエッターにもオススメできそうだ。これ以外の和菓子は背中のリュックに入れ、先を急ぐことにした。
しばらくいくと、豆の名が並んだ店舗に出くわした。看板には『お豆やまきの』とある。豆の問屋さん?外から見ていても分からないので、入ってみることにした。
豆屋さん?
大きな袋に入れられた豆類、ポップを読むと買いたくなる
中に入ると、まさに豆屋さん!大きな豆の袋が並んでいる。量り売りもできるようだ。棚には様々な豆、ゴマ、雑穀類が並んでいた。お値段もなかなかリーズナブル。ついついアレコレ欲しくなる。感心していると、お店のご主人が気さくに話し掛けてくれた。豆類以外にもご親族が営まれている店舗のラスクなども店頭に並んでおり、なかなか面白い。
たくさんの豆、ゴマ、雑穀が並ぶ
リーズナブル過ぎる割れラスクは袋が大きく、リュックは一杯になった
悩んだけれども、とてもリーズナブルな割れラスクとオメガ3系の脂肪酸が摂れることで、近年、注目されている『エゴマ』を買ってみることにした。エゴマは炒って食べると良いらしい。ラスクが大きいため、リュックはもうパンパン!ご挨拶し、お店を後にした。
本気で店舗巡りをするならばもっと大きなリュックが必要だったと、ボンヤリ反省しながら再び自転車を漕ぎ出した。ブラブラ走っていると、フランス系の洋菓子のお店が。飯田は洋菓子店も充実しているようだ。
まだ日本では珍しいラウンドアバウト(ロータリー/環状交差点)
この先にはラウンドアバウト(ロータリー)が設置されていた。交差点内のルートは環状に設定されており、車両は一方通行でこの交差点に入り、行き先の道に退出していく。このロータリー内を走行している車両に優先権がある。眺めていると、クルマたちが慣れた様子で、次々と、ロータリーに入り、スムースに回っていく。信号機も設置されず、車は混雑時をのぞき、停止や再出発をしないため、省エネかつエネルギー効率も良い。みんなが周りの様子をシッカリ伺いながら減速して交差点に進入していくため、出会い頭の衝突も起こりにくいだろう。安全性も高そうだ。欧米では積極的に導入されている交差点の制御方式であるのだが、もう少し日本で取り入れられても良さそうだ。
代替わりしたという『ハミングパル』
定時にはカワイイ音楽隊がパフォーマンスを見せてくれる
さて、そろそろ自転車を返しに向かおうか。ロータリーを出て、トロトロ走っていると、絵本の中から出てきたような塔が現れた。『ハミングパル』だ。『人形劇のまち飯田』のシンボルとして1988年に設立された“とけい塔”で、市民のみんなに愛されてきた飯田のシンボル。定時になると、飯田のりんごの妖精『ぽぉ』が登場、丘の上の音楽隊の演奏が始まる。老朽化が進み、地域の募金活動や全国からの支援を受け、2年前に新しい塔が建設された。2代目のハミングパルは時計とガラスによる光の演出が加えられ、より美しく、魅力的になっているという。日が傾いて日陰になってしまったのだが、いつか明るい時間にこのハミングパルを見にいこう!青空の下、この“とけい塔”の扉が開き、キャラクターたちが動く姿はさぞかし愛らしいだろう。
もう売り切れ!飯田市民の和菓子を愛するパワーを感じた
魅力的な路地を発見、こういう路地に入っていくのも楽しい
『一二三屋まん十店』に立ち寄ってみたのだが、既にこの日は売り切れ!こんなに和菓子屋が乱立しているのに、午後早々に売り切れてしまうとは。さすが美食(甘党?)の街、飯田。
まんじゅうに出合えなかったのは少々、残念だが、最後に和菓子の名店『いとうや』に寄ることにした。飯田を代表する和菓子屋の一つだ。味にも定評があり、看板商品の『大名きんつば』は全国の有名百貨店でも販売されている。店の風情も満点で、店内も美しく、イートインスペースも設けられている。(新型コロナウィルス感染拡大状況に応じ、使用できなくなる可能性もあり)
お菓子の名店「いとうや」、店構えも風情がある
イートインもある広々とした店内
きんつばをはじめとする定番のお菓子も魅力的だが、季節のお菓子も捨てがたい。おはぎや『暦餅』と名付けられた各月のお菓子も人気が高いようだ。9月は『栗きんとん小餅』。小さな逆ドーム状の容器に敷き詰められた栗きんとんの上に、きんとんをまぶした小さなお餅が入っている。おせちの定番である栗きんとんは水飴や砂糖で仕上げられ、甘くネットリしているが、これは甘さ控えめで、ほぼ栗そのもの。なんと贅沢!他にも新栗を使ったお菓子が並んでいた。
敷かれた「栗きんとん」が絶品の「栗きんとん小餅」
新栗を使った栗のお菓子がこの季節のオススメのようだ
秋らしい商品も、美術作品のようだ
こちらの店舗では『栗きんとん小餅』、『大名きんつば』、『くるみ餅』を購入。どれも魅力的過ぎて選ぶのが大変だ!
中身がギッシリ詰まった「大名きんつば」
会計を済ませ、りんご並木のエコハウスへ向かう。エコハウスの閉館時間も近づいている。名残惜しいが、このポタリングもそろそろ終了だ。クロスバイクを返却し、お礼を言ってエコハウスを後にした。リュックはお菓子でパンパンだ!
陽が傾いたりんご並木、一部のりんごはもう色づいていた
エコハウスに帰着、楽しかった!
マップにはたくさんの和菓子屋があり、ほとんど外観も見ぬまま終わってしまったのがとても残念。甘酒を飲ませてくれるこうじ店にも伺えないまま、時間切れになってしまった。よしっ、絶対にリベンジするぞ!
電動アシスト自転車も含め、レンタサイクルは無料!長野県飯田市へ、1度、散策に足を運んでみてはいかがでしょうか。
(*2020年秋のレポートです)(P-Navi編集部)