2020/07/29(水) 10:40
〜失敗しないバイクの選び方〜
最近、自転車を移動手段や商品の配達に使うケース、運動や気分転換として乗る方が増え、街やメディアで自転車を目にする機会が多くなっている。そのような中、軽量で颯爽(さっそう)と、走るスポーツバイクに興味を持つ方が急増しているそうだ。とは言え、スポーツバイクはハードルが高く見え、手が出せないという方が多いという。そこで今回はこのスポーツバイクを取り上げ、失敗しないバイク選びから実際の乗り方まで、シリーズでお伝えしていきたいと思う。
今回のお題となるスポーツバイクについて教えていただくため、スポーツバイクショップの老舗「YOUCAN(ユーキャン)八王子店」を尋ねた。自転車の販売だけでなく、ショップチームも有し、これまでに数々の日本のトップ選手を輩出してきた名門店だ。全国に9店舗を展開するが、この店員のほとんどがトップチームへの所属歴のある元プロロード選手たち。もちろん、超ビギナーも多数、訪れる敷居の低い店舗なのだが、スタッフたちの経験を活かし、これから乗り始める方から競技をやりたい層まで、幅広くカバーできるキャパシティを持っている。
JR八王子駅から徒歩10分余り、浅川近くにあるYOUCAN八王子店
今回、取材に応じてくれたのは村上純平店長。人懐っこい笑顔と柔らかい物腰からはあまり想像できないが、名門鹿屋体育大学自転車競技部時代にU23の全日本チャンピオンとなり、卒業後は日本のトップチーム・シマノレーシングに所属した経歴を持つ、日本を代表するプロロード選手だった。
村上純平店長
元プロロードレーサーの経験を持ち、どんな客層にも対応できる
スポーツバイクって?
そもそもスポーツバイクとはどんな自転車なのか。
「スポーツ走行ができ、走るために設計された自転車、ですね」と、村上店長。
走行性能に優れており、レースやロングライドなどでも活躍すると同時に、長距離の乗車ができるため、交通手段としても使用可能。全身を使うため、身体を変えてくれるフィットネスツールでもある。
皆、どうやってファーストバイクを決めているのだろうか?そんな筆者の問いに、村上店長は「店舗に並ぶバイクを見せながら説明してくれた。舗装道路上で乗ると考えると、代表的なものはクロスバイクとロードバイクの二つ。ミニベロの愛好家も多いのだが、スポーティーに走ろうと考えた時には多くの方がファーストバイクとして、このどちらかを選ぶという。
それでは、この2種をどう選び分けているのか?
村上店長からは「実際は予算枠で決められる方がほとんどです」という意外な答えが返ってきた。
一般的にはクロスバイクは5~6万円から選べるが、ロードバイクで薦められるものとなると、10万円の大台は超えてしまう。メインの用途が通勤や街乗りで、ロングライドやレースなどの予定がないのであれば、ロードバイクを買っても持て余す可能性があるため、クロスバイクを勧めることもあるそうだが、クロスバイクに決まるのは圧倒的に絶対的予算枠があるケースだという。
この2車種の違いを解説していただいた。ロードバイクは元々、競技で使用されるマシンであり、選手たちは高速走行をしながら、厳しい登坂、急な下り坂などもこなし、1レースで走破する距離は長い場合で250kmを超えることもある。この走りを支えられる高度な走行性能がロードバイクの最大の特徴だ。軽量で空気抵抗も削ぎ落とした車体に、レースの展開に合わせ、速やかにシフトチェンジができる多段ギアを付けている。一番の特徴となるドロップハンドルのメリットは握る場所により、体勢や重心を変え、疲労を軽減したり、空気抵抗を減らして効率良くスピードアップしたりするなど、シーンに合った乗り方ができることにある。
ブラケットと呼ばれるハンドルに取り付けたギアの突出部分を握るのがドロップハンドルのスタンダードな握り方だ。
急ブレーキ等の危険がないエリアでゆったり乗る登坂時などはハンドルの上部を軽く握る。上体を起こした姿勢になり、胸を開き、酸素も取り入れやすくなる。
ハンドルの下部を握り、低く構えるポジション。レースなどで展開に応じ、一気にスピードアップしたい時や安定させたい下りなどで用いる。
全身を使うため、シェイプアップ効果も高い。ただし、性能が優れている分、金額も高く、作りは繊細で、室内保管や整備も必須となる。さらに出先の駐輪時も盗難対策などに気を遣う必要があり、安全な駐輪場所を確保できないことが多い日常の移動にはあまり向いていない。
手頃な価格で実用性と走行性能を兼ね備えたクロスバイク
[参考]コーダーブルーム RAIL700
一方、クロスバイクはより日常に即した形で作られている。前に紹介したように、ママチャリ寄りのものもあり、展開の幅は広いのだが、今回はスポーティーなものを想定し、話しを進めたい。
ロードバイクより耐久性を高め、実用向きに作られていることが多く、価格はリーズナブルだ。太めのタイヤを履き、乗車姿勢も深い前傾にはならないので、比較的、ユッタリと、乗ることができる。多段ギア付きのものも多く、ソコソコの高速走行や登坂もこなせて、脚力・体力があれば長距離のライドも可能。通勤・通学や近距離の走行がメインなのであれば価格を考えるとクロスバイクに軍配が上がるだろう。
村上店長は説明を終えると「ウチではお客様が購入を決める前に、用途や目的に適っているのかをシツコイくらい(笑)、確認させていただいています」と、付け加えた。“勢いで買ったけれども、結局乗る機会が作れなかった”というケースも、よく聞く話しだ。そうならないように来店客の話に耳を傾け、売り手として、実際に乗り手の生活の中で使って貰える自転車を提案し、渡していきたいのだと語る。
ロードバイクを選ぼう
ロードバイクを選ぶべきなのは、どんな人なのだろう。
「走ることを楽しみたい方、レースを含めて、スポーツとして走りたい方、ですね」と、村上店長。「スピードは出さなくても長距離やアップダウンコースを走りたいということならばロードバイクをオススメしています」
優れた走行性能はレース走行にもプラスだが、疲れ難く、楽に走れるため、一般層にとっても走行できる距離やルートの可能性を広げてくれることになる。実際のところ、ロードバイクを自分のペースで、ユッタリ楽しむ愛好家は多いのだ。
この店舗ではロードバイクをメインに扱っており、展示車も売り上げもロードバイクが大半を占める。ロードバイクは価格は安くないのだが、実は日本ではここ数年、人気が急上昇している。今回はこのロードバイクにフォーカスしてみようと思う。ザッと、店内を見渡しても、ロードバイクは展開の幅が広く、ルックスも価格も驚く程に様々だ。販売経験も乗車経験も豊富な村上店長にロードバイクの失敗しない選び方について教えていただくことにした。
一口に「ロードバイク」とは言っても、その幅は広い
バイク選びで皆が一番重視するのは何だろうか?を尋ねてみると、店長の回答はとても意外だった。
「カラーですね」
共に楽しむ相棒として、見た目の要素も大きいのだろう。眺めていると、ブランドごとに打ち出している特色も濃い。
「好きなブランドや憧れの選手が乗っているブランドなど、これというブランドを決めて来店される方も少なくないですね」と、村上店長。
特にデザインにインパクトがあるのがイタリアンブランドで、色味やロゴ、フレームの形状など圧倒されるような存在感を放つバイクも。細部まで実直に作られた国内ブランド、コスパの良い台湾ブランド、性能重視の米国ブランドなど、ブランドごとに特徴を比べてみるのも楽しい。
バイクの性能・価格の違いはどこからくる?
いくつかの要素がバイクの性能や価格を変える。ホイール(車輪)は走行に直結するが、後から交換することも可能。バイク購入を決める重要な要素となるフレームとバイクを動かす駆動部分であるコンポーネントのグレードについて聞いてみた。
[フレーム]
フレームの素材は大きく分けて3種類。現在はリーズナブルなアルミと人気のカーボンが多い。また、街乗りには重量はあるが、パイプを細くでき、洋服にも合わせやすいクロモリ(スチール)も好まれている。
エントリー層に人気のハイパフォーマンスアルミロードバイク。アルミはカタいと言われるが、衝撃吸収性を高めるために、フレームのトップチューブ(フレームの上部)は前方部が太く扁平で、サドルに向かい次第に細くなっており、シートポストは扁平形状になっている。さらにフォーク(前輪を支える部分)はカーボン製。フォークは後方に向け、オフセットしており、安定性と衝撃吸収性を高めている。随所に施された工夫が人気の秘訣。コンポーネントはシマノ105が用いられている。
[参考]corratec(コラテック) DOLOMITI 160cm程度の女性が乗れるサイズから幅広く展開 159,000円(メーカー希望小売価格/税抜)
アルミは価格とフレームの扱いに神経質にならなくても良い点が魅力。相反することになる衝撃吸収の度合いと踏み込んだ時の反応の具合を自転車では「柔らかい(衝撃を緩和する)」「カタい(踏み込みへの反応が良い)」と、表現する。柔らかいと快適だが、レースなどで、ペダルを踏み込む力への反応という点では劣ってしまう。最近のアルミは柔らかさも増し、軽量になってはいるが、程好いカタさ、反応の良さが特徴。競技参戦を考えるビギナーライダー、旅などで自転車を持ち運ぶ方に特にオススメだという。
近年、人気のカーボンフレームは軽量でしなやか。個性の出るフレーム形状はデザインだけでなく、衝撃吸収や空気抵抗の軽減を計算されたもので、重要な性能の一つ。フレームやパーツをそれぞれ購入し、組み上げることも可能だ。
最近の主流はカーボンフレーム。最大のネックだった価格がかなり下がり、上質なアルミフレームとはあまり差がなくなった。カーボンは(乗り味が)柔らかく、軽い。路面からの衝撃を和らげるしなやかなフレームは疲労し難いし、軽量バイクはアップダウンコースを楽に走らせてくれる。ただし、カーボンがレース的な走り方には合わないという訳ではない。一流ブランドのフレームは車種に合わせてカーボンの積層を変え、レース向けのものは剛性を高め、ロングライド向け、女性向けのものなどは柔らかくして、作り分けているし、フレームの形状も乗り心地や空気抵抗を考え、設計されている。カーボンの質や性能向上のために盛り込まれた要素に応じ、価格は高くなる。カーボンのデメリットは価格とフレームが繊細であるため、扱いに注意を要するところか。
[コンポーネント(駆動部分)]
ビギナーの場合は高価な上位グレードのコンポーネントを選ぶことは稀だと言うが、乗りやすさや安全に直結するため、ある程度の使いやすさ、性能を持つグレードのものを勧めているとのこと。上位グレードのものは握り部分がコンパクトで、シフトチェンジ、ブレーキなどの操作がスムース。一つ、一つのストレスが少なくなり、これが長い時間のライドになると、大きな差になってくる。レースなど、瞬時の反応が重要な場合は上位グレードを選びたくなるだろう。下位グレードのもの程、握力などが必要になるため、実際に握り、安全に操作できるものを選んで欲しい。コンポーネントのブランドは主には3つ。国内では圧倒的にシマノ製が多いが、好みで選んで良いだろう。
レースに対応するグレードであるULTEGRAのコンポーネントセットで組み上げられたカーボンフレームのレーシングマシン
[参考] Focus(フォーカス)IZALCO RACE 9.8 3サイズ展開 338,000円(税抜/メーカー希望小売価格)
*5月末の取材時、YOUCAN八王子店では297,440円で販売
使用するコンポーネントの価格差だが、例えば、先にご紹介した「corratec」の「DOLOMITI」のメーカー希望小売価格(税抜)で見てみると、コンポーネント(シマノ製)が「ULTEGRA」で199,000円、「105」で159,000円、「TIAGRA COMPACT」 で139,000円、最もリーズナブルな「SORA COMPACT」で123,000円、と異なる。(ホイールもULTEGRAと105のモデルでは上位種を利用)
この上に最上位の「DURA ACE」が位置する。価格は張るが、シフトチェンジがクイックな電動モデルも人気が高い。性能と同時に価格も重要な要素だ。どのクラスのものを使うか、店舗で相談してほしい。
レースバイクはビギナーには無理?
バイクはそれぞれテーマや用途に沿って設計されている。空気抵抗を削いだエアロバイク、軽量を極めたヒルクライムバイクなど、細かい種類もあるが、大きく分ければ、競技の走りに対応するレース系。もしくはロングライドや旅を好む方向け、できる限り疲労を軽減させ、ユッタリ乗れるコンフォート系だ。
気に入ったバイクがレースバイクだった場合、ビギナーが選ぶのは危険なのだろうか?村上店長によれば「素材で言うと、トップレーサーは皆、カーボンフレームです。ただ、たとえバリバリのレース向けのモデルでも路面からの突き上げの疲労はレーサーにもマイナスになるので、コンフォート性能も重視されているのです」
競技選手は極めて深い前傾姿勢で極細タイヤのバイクに乗るイメージだったのだが、近年はこれも変わってきている。研究が進み、ヘッド(ハンドルが付く部分)が高めでも、有効なパフォーマンスが可能で、タイヤも極細でない方が接地面積を小さくし、転がりが軽くなると分かるなど、言ってみれば「乗りやすい」方向にシフトしているのだ。
「レースバイクの違う点と言えば、シートやヘッドの角度なのですが、これもあくまで『身体を有効に使う』点から設計されているのです。レースバイクはビギナーには乗れない、ということは今はほぼないと、言えるかと思います」とのこと。
当然、ユッタリ乗りたいならばコンフォート系が最適なのだが、ブランドにより分類の差異もある。乗り手の理解や知識に合わせて説明し、使い方や感覚に合ったバイクを勧めているそうだ。実際にはレースで戦うとなると、踏み込みの反応や硬さなど、細かい違いはあるそうなのだが、ビギナーの感覚で捉える場合はそこは気にしないでも良いのだろう。
圧倒的な存在感を放つイタリアンバイク「DE ROSA(デローザ)」。ハートのロゴが象徴だ。
色使いやフレームの形状などデザイン性が高い人気ブランド。ワイヤーケーブルをフレーム内に収納し、すっきりとしたルックスに。ヒルクライムからロングライドまで活躍するオールラウンダーバイク。ディスクブレーキを使用している。
[参考] DE ROSA アイドル カーボンフレーム コンポーネント:シマノ105(油圧ディスクブレーキ)3色展開 6サイズ 完成車価格430,000円(税抜/メーカー希望小売価格)
真紅のシーシートポストにはセライタリア 製のサドルが。デローザ のロゴ入り!
フォークの内側にあしらわれた真紅のカラーリングがデザインを華やかに引き締める
最終決定へ
ここまでの要素を踏まえると、安心できる性能を持つコンポーネントで組まれたバイクはアルミで10万円台前半〜、カーボンで10万円台後半〜、となり、ここに様々な要素が加わって、価格が決まってくる。「例えば、乗り込んできて、もっと走りを軽くしたいと感じるようになったら、ホイールを交換するなど、グレードアップも可能です。」と村上店長。このあたりも視野に入れて選ぶ方もいると言う。皆が口を揃えて言うのが「結局のところ最後は好み」であり「気に入ったものが一番」なのだそうだ。信頼できる店舗に並べられているバイクであれば、そもそも性能は保証されている。どんなに良質でも「乗りたい」と思えないものは避けた方が良い。この「相性」という要素は、実はなによりも大切だ。自分が楽しむために、買うのだから。
「一点、付け加えるなら、ブレーキは安全にまさに直結する部位です。特に女性など、手の小さな方、握力の弱い方は、確実にブレーキを操作できることを確認してから購入を決めていただきたいです」と村上店長は強調する。近年、比較的弱い力でも操作でき、雨天時や長い下り坂でもブレーキ性能が落ちないディスクブレーキ車の人気が高まっており、指で捉えやすい幅広のレバーも登場している。この辺りの要素も考慮した上で選びたい。
レース界でも近年使用率が急上昇しているディスクブレーキ。注意点もあるが、握力が弱く手の小さな女性などには救世主になるか?
ブレーキにもULTEGRAを使用していたIZALCO RACE 9.8。安全性能もチェックして選びたい。
真剣な面持ちで、丁寧に説明してくれる村上店長の姿を見て、改めて、スポーツバイクの奥の深さを知った。安い買いものではなく、買い替えは難しい。さまざまな要素に気づかせてくれて、選択肢を与えてくれて、十分に理解、納得した上で選び取らせてくれる店舗で選ぶことが、購入後にそのバイクを楽しめるかどうかを左右すると感じた。
次回は決めたバイクを快適に乗りこなせるように、自分自身に合わせ、調整する購入時の「フィッティング」についてご紹介したい。
取材協力:YOUCAN八王子店
〒192-0046 東京都八王子市明神町4丁目26−8
042-660-5307
http://www.c-youcan.com/contents/shop-list/hachioji/
写真:編集部(P-Navi編集部)