2020/06/02(火) 16:45
『e-(イー)バイク』という乗り物をご存知だろうか。日本では電動アシスト自転車と言えば、街乗りの実用車が中心だが、世界的には走るための自転車を細やかにサポートする進化型の電動アシスト自転車が主流となっている。日本でもスポーツ走行をもサポートできる高性能の電動アシスト自転車をe-バイクと呼んでおり、近年、大きな注目と支持を集めているのだ。
電動アシスト自転車は1993年に日本で誕生した乗り物である。現在は世界に広がり、特に欧州では流通する自転車の中でもe-バイクが主流になりつつあるというところまで浸透している。シニア層のサイクリングなどに人気があったからなのだが、サイクリングの『走る楽しさ』だけを満喫したい人たちに支持されるようになった。さらには温室効果ガスを排出しないクリーンな交通手段として、価値が認められ、社会の中に組み込まれつつあるようだ。電動アシスト自転車は進化し、欧米のような楽しみ方と共に、日本にも入ってきたという訳だ。
[caption id="attachment_33746" align="alignnone" width="640"] 欧米で大きな支持を得ているe-bike 参考:TREK Verve+ ¥ 231,000(税別)[/caption]
電動アシスト自転車とe-バイクを比べた時、最も大きく異なるのは組み込まれたモーターユニットの性能だ。ギアチェンジを多用するスポーツライドで繊細に反応し、驚く程、自然にアシストしてくれる。バッテリーの性能も大きく向上し、最長走行距離は140kmに達するものまで登場している。バッテリーは大容量とは言え、シートチューブの後方にボッテリと、大きなバッテリーが配置されるのではなく、フレームを快適なスポーツ走行ができるジオメトリーに設計できるように計算しながら、ダウンチューブ内やシートチューブの後ろなどにスマートな形で組み込まれている。e-バイクにとっては性能と共に、ルックスも非常に重要なのだ。
[caption id="attachment_33747" align="alignnone" width="640"] スタイリッシュなルックスが人目を引く 参考:BESV PSA1 ¥18.500(税別)[/caption]
実は、この電動アシストの規定は国ごとに異なり、日本ではアシスト力を速度に応じて弱め、時速24kmに達した段階で0とするよう定められている。そうなると日本で電動アシストが活躍するのは高速走行を楽しむライドではなく、登坂など、パワーの必要なコースの走行になるだろう。発売当初のe-バイクはマウンテンバイク型のスポーティーなものが主流だったが、近年は車種もバラエティーに富み、生活の中で使う想定のものも増え、販売台数も伸びている。
e-バイクは街中でもレンタサイクルなどで見掛けることが増えてきた。レースなどでもe-バイクのカテゴリーが設けられるようになってきている。最近の動向や人気車種について、e-バイクの販売・レンタルを行う『ル・サイク土浦店』の新井店長に話しを伺ってきた。
[caption id="attachment_33748" align="alignnone" width="640"] 完成車のほか、パーツ、アパレルなど品揃えの豊富なル・サイク土浦店[/caption]
[caption id="attachment_33749" align="alignnone" width="360"] 丁寧にe-バイクについて教えてくれた新井祥平店長[/caption]
どのような層に受け入れられているのか尋ねると「年齢層としては40~50代の男性ですね」と、新井店長。もっと上の年代かと想像していたので、意外な回答だった。「通勤など、車からの乗り換えで使用する方が多いです」。なるほど、車よりヘルシーで、脚力や体力にそれ程の自信がなくても、それなりの距離を走れるということか。e-バイクにすることで、車に代わる交通手段として受け入れられるなど、自転車の持つ可能性が発揮されるようになるとすれば、e-バイクの存在は非常に重要だと言えるだろう。
女性に関してはどうなのだろうか。
「女性の場合はお一人で来店されるのではなく、パートナーの男性が乗っていて、そこに追加する形で買いにいらっしゃるケースが多いですね」。これも意外な回答だった。スポーツバイクに乗っている男性と共に、走るために女性が買うケースが想定されていたのだが、e-バイクで一緒に走る方が足並みが揃えられて良いのかも知れない。
[caption id="attachment_33750" align="alignnone" width="640"] 展示試乗会でもe-バイクへの関心は大きい[/caption]
e-バイクは可能性豊かな乗り物ではあるが、20万円を超える値段のバイクが多い。車やオートバイの代替と考えれば、決して高くはないが、気軽に買える値段ではない。「現時点で、購入される方は車などにも詳しく、『良いものにはそれだけの価格がつく』ことを理解されている方が多い印象です」。筆者は自転車愛好家がセカンドバイクとして購入するのかと思っていたのだが、自転車乗りはe-バイクへの乗り換えに抵抗が大きく、頑なに乗りたがらない方も多いのだとか。大いに納得!『敗北』のような気持ちになってしまうのだろう。
e-バイクはぺダルを踏み込み、風を切る走行感はそのままで「とてもキツい」ところだけをカット。険しい峠ですら笑顔で上れてしまう。つまり自転車で走る中で、楽しい部分だけを体験できるのだ。とは言え、ペダルを回す運動であることは同じなので、身体に対してのフィットネス効果は残る。まさに「良いとこ取り」なのだ。
1度、乗ってみると、あまりの快適さに感動するのだが、同時に買ってしまったら「もうキツさを伴うライドには戻れない」不安を抱えることも確かだ。
現在の売れ筋モデルについては「スポーツライドを追求するモデルより『誰でも乗れる』バイクに人気がありますね」とのこと。日常生活において年齢性別を問わず乗れるもの、ということか。
[caption id="attachment_33751" align="alignnone" width="640"] 圧倒的な売り上げを誇るというミニベロ型のe-バイクBESVのPSA1[/caption]
例えば、ダントツに売れているというのがBESVのPSA1。都内でもかなりの売れ行きだという。理由は「価格ですね。このルックス、この性能で20万円を切ったのは大きい」。このバイクはe-バイクの中でも比較的、初期に日本に登場し、その大きなインパクトから『黒船来訪』とも評された。フルカーボンのミニベロ型e-バイク『PS1』をアルミ製とし、価格を抑えたモデル。
これまで「電動アシストに乗っている」ということは、生活の中で「力がないから」とか「楽をしたい」というような、どこか残念なテイストで語られることが多かった。ところが、このPSA1(デザインはPS1と同じ)はフレームに組み込まれた三角形のバッテリーやシートポストが独立した形になる独創的なデザインなど、シンプルでありながらもスタイリッシュ。日本でも、海外でも、数々のデザイン賞を受賞している。性別、年齢を問わず、このルックスならば「自分で選んで、優秀なギアに乗っている」と、自慢できることだろう。
『ミニベロ』と呼ばれる小型のホイールを履いた小さな車体であるが、前後にサスペンションがつき、タイヤも太め。路面を選ばず快適に乗ることができる。車体が小ぶりで、小柄な方にも抵抗なく乗れ、日本の道路、住居事情の中でも取り回しは滑らか。
[caption id="attachment_33752" align="alignnone" width="640"] 見やすく操作しやすいディスプレイ[/caption]
[caption id="attachment_33753" align="alignnone" width="640"] 前後にサスペンションがつき快適な走行を実現[/caption]
また、フル充電で90kmもの走行ができるパワフルさも受けている。液晶の見やすさと、操作や変速を考えるのが面倒であれば『スマートモード』を選ぶことで、バイク側が乗り手のペダルを踏む力を感知して、自動的に最適な電気量を出力してくれるため、これだけでこと足りる使いやすさも人気なのだ。
昨年には「持ち運べない」というe-バイクの弱点をカバーした折り畳み式のモデルが発売されたが、予約のみで初期ロットが完売になるほどの好評を得たそうだ。
[caption id="attachment_33754" align="alignnone" width="640"] 折りたためるe-バイクも登場 参考 BESV PSF1 ¥245,000(税別)[/caption]
もう一つ、ルックスがとても気になる1台を紹介して貰った。『サイクルスポット』の『e-VITA(エヴィータ)』だ。シティバイク的な実用感がありながらも、気品があり、女性にはもちろんだが、男性が乗っても様になるうえ、質感が漂っている。
[caption id="attachment_33755" align="alignnone" width="640"] 乗りやすそうなやわらかいルックスも人気 サイクルスポットeVITA ¥279,800(税別)[/caption]
人気の理由は「ママチャリユーザーからの違和感のない乗り換えができると好評です」とのこと。トップチューブは大きくスローピング(傾いている)しており、オフィスファッションの女性でもまたがりやすいだろう。オプションでカゴ、泥よけ、バッグなども装着可能とあり、生活の中で現実的に使用しやすいのもポイントだ。
[caption id="attachment_33756" align="alignnone" width="640"] ママチャリに慣れたユーザーに配慮したやわらかいサドル。装着可能な鍵など、日常に使いやすい工夫が詰まっている[/caption]
[caption id="attachment_33757" align="alignnone" width="359"] フロントにはサスペンション付き。クラシカルなライトがレトロな雰囲気を醸し出す[/caption]
とは言え、仕様は本格派。モーターユニットはトップクラスのライダーたちをはじめ、世界で支持されている日本のシマノ が日本向けに開発した『シマノ ステップスE6180』を搭載。日本の街中で繰り返されるストップ&ゴーにも対応、日常走行も、サイクリングもバランス良くスムースにアシストしてくれる。
[caption id="attachment_33758" align="alignnone" width="640"] 太目タイヤとちょうどいい径のホイール ビギナー向けバイクに見えながら、考え抜かれたスペック!大抵の路面は快適に走破可能なはずだ[/caption]
e-VITAのタイヤ径は650B×47。ドロップハンドルがつきながらも路面を選ばず走り回れる『グラベル』というバイクに好んで使われるホイールとほぼ同じで、安定感や快適性の高い太目のタイヤを履きながらもグングン進む走破性があるスペックというところ。フロントにサスペンションがつき、どんな状況下でもシッカリ効く油圧のディスクブレーキを搭載。フル充電で最長118kmを走ることができる。街中の実用走行に留まらず、サイクリングなどのスポーツライドにも十二分に使える走行性能を熟考したうえで設計された印象だ。
確かにe-バイクは価格帯が高く、スポーツ走行を想定する本格的なものを加えると、20万円前後~60万円程になる。原付バイクとほぼ同等で、交通手段と考えれば納得なのだが、自転車だと考えると、高価である印象は否めないだろう。ただ、価格を抑えたモーターユニットも登場し、10万円代に価格が抑えられた車種も増え、現実的なものになってきた感もある。
[caption id="attachment_33759" align="alignnone" width="640"] オフロードでのスポーツ走行も可能な本格派e-MTB。自然の中を走るのは格別な経験もe-バイクで楽しめる 参考:BESV TRS2 AM ¥445,000(税別)[/caption]
e-バイクは車体の乗り心地に加え、モーターなどの性能も関わるため、実際に乗り、走行感を確認してからでないと購入に踏み切るのは難しい。『ル・サイク土浦店』ではそのような声にも応え、店頭で10分間の無料貸出を行なっている。一般公道での試乗ができれば、かなり感覚を掴むことができるだろう。さらにレンタサイクルとして、1日単位でe-バイクを借りる(レンタル用として準備された車体に限る)こともできる。霞ヶ浦や筑波山を思う存分に走り、使い勝手や価値を納得したうえで購入を検討することができ、安心だ。
[caption id="attachment_33760" align="alignnone" width="640"] e-バイクと、一口に言えど……ブランド、車種、選択肢は様々 できれば実際に乗って、自分にベストなバイクを選びたい[/caption]
[caption id="attachment_33762" align="alignnone" width="480"] 展示会ではバッグを取り付けて、他の趣味と組み合わせてe-バイクを使う提案も[/caption]
今、世界ではほぼ全ての自転車の有名ブランドがe-バイクにも参入しているという。「山がちな地形で、アップダウンが多い日本こそe-バイクの価値があると思うんです」と、新井店長は強調する。
「加齢と共に、上りがキツくなってもe-バイクに乗り換えれば、仲間たちと同じライドが楽しめる」
「一緒にe-バイクに乗れば、脚力のない女性とも同じように絶景コースに繰り出せる」
「自転車通勤で使えば、仕事に疲れた帰路も爽快でリフレッシュできる」
e-バイクデビューした人たちからの声は歓喜に満ちたものばかり。e-バイクは『脚力』や『頑張り』を不要とすることで、誰でも自転車が持つメリットを受けられるようにしてくれる。
ちょっとした充電をするだけで、クリーンな交通手段として使え、その移動時間をフィットネスの時間に充てられるe-バイクはもしかしたら現代社会を救う救世主になるかも知れない。
取材協力:ル・サイク土浦店
茨城県土浦市有明町1−番30号
プレイアトレ土浦1階”りんりんスクエア土浦”内
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画像:編集部 BESV JAPAN トレック・ジャパン(P-Navi編集部)