2020/04/17(金) 18:00
昨年、茨城県のつくばや霞ヶ浦エリアに延びる『つくば霞ヶ浦りんりんロード』が、日本が世界に誇るサイクリングルートとして『ナショナルサイクルルート』の認定を受け、このエリアでの自転車を取り巻く気運が急速に高まりつつある。ルートのゲートウェイ(入口)となる土浦駅も、駅ビルを大幅に改装、サイクリストを迎え入れる環境を整え、生まれ変わった。今回は、この駅ビル『プレイアトレ土浦』と、『つくば霞ヶ浦りんりんロード』のライドレポートの2本立てで、土浦の魅力をお伝えしようと思う。
(※3月に取材)
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土浦がアツい! 土浦駅は東京駅から特急で最短49分。車でのアクセスも良く、長年の間、霞ヶ浦や筑波山を目指す首都圏近郊のサイクリストたちが経由する入口ではあったが、近年、この周辺エリアの進化がめざましく、多様な来訪者が遠方からもやってくるようになった。その大きなモチベーションの一つが、『自転車』をキーワードとし、『日本最大級のサイクリングリゾート』をうたう駅ビル『プレイアトレ土浦』のオープンだ。
[caption id="attachment_33079" align="alignnone" width="640"] 土浦駅はホームから自転車を意識[/caption]
[caption id="attachment_33080" align="alignnone" width="640"] 駅直結のプレイアトレ土浦[/caption]
『プレイアトレ土浦』は、2018年より低層階から順次オープンし、今年春、最大の目玉であったサイクリングホテル『星野リゾート BEB5土浦』が開業、全館グランドオープンを果たした。館内は、なんと!自転車持ち込み可。いたるところに駐輪用のサイクルラックが設置されている。館内はスタイリッシュで、もちろん、駐輪といえども、旧来の駐輪場のような雑然としたものとは全く異質。自転車が、そのおしゃれな空間を演出するアイテムとして機能し、施設全体が自転車のある上質なライフスタイルを描いてみせている。サイクリストにはもちろんだが、そうでない方でも十分楽しめ、魅力を感じられる施設になっているのだ。
[caption id="attachment_33081" align="alignnone" width="640"] プレイアトレ土浦はJR土浦駅直結。改札を出るとすぐ、STATION LOBBY への入り口が[/caption]
[caption id="attachment_33082" align="alignnone" width="640"] STATION LOBBYやカフェにも自転車ラックが設置されている[/caption]
それでは、詳しく『プレイアトレ土浦』を見ていこう。地下1階と1階には『りんりんスクエア土浦』と名付けられたサイクリング拠点が設置されている。地下にはコインロッカーや更衣室、シャワールームも設置されている。
[caption id="attachment_33083" align="alignnone" width="640"] 地上側入口 屋外から地下の自転車関連施設に直接出入りできる[/caption]
[caption id="attachment_33084" align="alignnone" width="640"] B1側・自転車は専用のベルトコンベアーに車輪を乗せ、移動[/caption]
1階にはサイクルショップ『ル・サイク』が展開。おしゃれで、豊富な品揃えの店舗では、自転車や関連グッズを販売すると同時に、スポーツバイク、Eバイクのレンタサイクルを行っている。もちろんメンテナンスや修理の依頼も可能とあって、サイクリングで自転車にトラブルがあった際にも頼れる心強い味方となる。
[caption id="attachment_33085" align="alignnone" width="360"] 屋外から店内にブルーラインが引かれている[/caption]
[caption id="attachment_33086" align="alignnone" width="640"] りんりんスクエアの中で大きな役割を担うル・サイクの入り口。レンタサイクルも好評だ[/caption]
館内には、近年、街で見かけるようになった自転車の通行空間であることを示すブルーラインが引かれている。もちろん、ここでは押し歩き限定にはなるが、利用階のサイクルラックに駐輪すれば、食事や買い物をする際や、宿泊時にも、愛車から遠く離れ、盗難の不安を抱く必要はない。ゆったりと滞在を楽しむことができるのだ。
[caption id="attachment_33087" align="alignnone" width="640"] 1階のタリーズコーヒーはサイクルカフェに。施設内だが、駐輪スペースが設置されている[/caption]
昨年オープンした2階、3階は、飲食や買い物、時間を楽しむスペース。レストランやカフェ、茨城県が誇るグルメを販売するゾーンが広がっている。
2階、3階の北側に広がる『STATION LOBBY』は、400坪もの広さに、カフェやレストランなどが並び、寛ぎの空間となっている。居心地のよい空間は、ついつい長居してしまいそうだ。
[caption id="attachment_33088" align="alignnone" width="640"] 洗練された空間の中でもリラックスできるSTATION LOBBY。スタンドからフードやドリンクを購入、飲食したり、仕事したり、おしゃべりしたり![/caption]
[caption id="attachment_33089" align="alignnone" width="640"] 光が差し込み魅力的な空間が広がるカフェレストラン「Nanairo Eat at Home!」も人気[/caption]
[caption id="attachment_33090" align="alignnone" width="640"] カフェ、ランチ、ディナー、お酒と、どの時間帯も楽しめる[/caption]
2階南側には、茨城県内各地の選りすぐりの店舗が並ぶマーケットゾーン。ディスプレイの美しさに惹かれ、味のクオリティーの高さに感動する。自転車走行時は、荷物を持つと疲労しやすく、揺れのダメージがあるため、買い物しにくいのだが、ゴール地点にこれだけのショップが集まっていれば、土産に悩むことはない!
[caption id="attachment_33091" align="alignnone" width="640"] 通路にもブルーラインが[/caption]
かすみがうら市の『蔵出し焼き芋かいつか』の焼きイモは、特殊な熟成を経たオリジナルブランドのイモを焼いたもの。口に入れると、ねっとりとしたイモが、衝撃的に甘い。なんと最高糖度は47度にもなるという。天然素材を焼いただけとは思えない高級スイーツのようだった。
[caption id="attachment_33092" align="alignnone" width="640"] 別次元のイモスイーツが並ぶ「蔵出し焼き芋かいつか」[/caption]
[caption id="attachment_33093" align="alignnone" width="640"] 気軽につまめるスイーツも。帰りの電車でいただく?[/caption]
[caption id="attachment_33094" align="alignnone" width="640"] 衝撃の焼きイモ。ねっとりとした食感、甘さに驚く。天然の甘さゆえ、あと味はさわやか[/caption]
土浦に本店を構える『志ち乃』は、豊富な種類を誇るどら焼き専門店。スタンダードなフレーバーから生クリーム入りの生どら、さらにはスパイシーなカレーどらまで幅広く展開している。これまでも霞ヶ浦を走るサイクリストの定番土産であったが、駅直結ビルで買えるとは!スモークチーズを入れたおつまみにもなるオツな味のダブルチーズなど、店舗や季節の限定フレーバーもあり、買いすぎてしまいそう。
[caption id="attachment_33095" align="alignnone" width="640"] どらやき専門店「志ち乃」。霞ヶ浦を走るなら寄らずにはいられなかった人気店が、ここに![/caption]
[caption id="attachment_33096" align="alignnone" width="640"] 豊富なフレーバーが並ぶ。この店舗限定のフレーバーも[/caption]
[caption id="attachment_33097" align="alignnone" width="640"] クリーム入りの生どらも人気。土浦マロン(左)、抹茶ティラミス(右3月の季節限定品)はまるでケーキのようだった[/caption]
他にも200以上のお酒が並び、スタンディングバーも併設した『佐藤酒店』(ゴール後ならお酒もOK!!)や、彩り豊かなパンが食欲をそそる『クーロンヌ』、次世代型書店『天狼院書店』などが並ぶ。
[caption id="attachment_33098" align="alignnone" width="640"] 茨城の地酒を専門に扱う「IBARAKI佐藤酒店」はスタンディングバー付き[/caption]
[caption id="attachment_33099" align="alignnone" width="640"] 絶品のパンが並ぶ「クーロンヌ」は朝7時オープン!スタート前に購入してもよいだろう[/caption]
[caption id="attachment_33100" align="alignnone" width="640"] 食事パンもスイーツ系パンも高評価[/caption]
最後に訪れたのは、いま一番大きな注目を集めているホテル『星野リゾート BEB5土浦』だ。JR土浦駅の改札から直進すれば、そのまま3階のエントランスに到達する。センスもサービスも抜群。もちろんホテルへの自転車持ち込みはOK!
[caption id="attachment_33101" align="alignnone" width="640"] 改札を出て、直進すればホテルのエントランスに到達[/caption]
[caption id="attachment_33102" align="alignnone" width="640"] エントランスを抜けると秘密基地の様なロビーが広がる。近隣マップ(左手)は手描きなのだとか[/caption]
[caption id="attachment_33104" align="alignnone" width="640"] 各所に自転車のディスプレイが[/caption]
中に足を踏み入れると、駅の上とは思えない空間が広がっていた。内装が醸し出す雰囲気は、秘密基地や隠れ家のよう。このラウンジは嬉しい24時間オープン。ほどよく広く、ほどよく雑然としていて、視界を遮る場所もあり、リラックスできる。スタッフの皆さんは私服を着用し、フレンドリーで、居心地の良い空間を妨げない。聞けば、ホテルのフロントにある改まった空気感を作り出さないための配慮なのだそうだ。自転車関連の映像が流れるスクリーンや、アメリカから取り寄せたというペダルを漕ぐことでスムージーが作れるという遊びゴコロの化身のような自転車型マシンもあり、自転車にさほど興味がなくても、自転車というキーワードで楽しむことができそうだ。
[caption id="attachment_33105" align="alignnone" width="640"] フロントスタッフも私服でお出迎え。スマホのQRコードでセルフチェックインが可能[/caption]
[caption id="attachment_33106" align="alignnone" width="640"] リラックスして過ごせて、語り合いたくなる空間[/caption]
[caption id="attachment_33107" align="alignnone" width="640"] 材料を入れ、ペダルを回すとおいしいスムージーが出来上がる![/caption]
ホテルオープンの週末は開業を待ち兼ねたサイクリストが一気に押し寄せたというが、毎晩、夕食後にこのラウンジに皆が集い、話に花を咲かせ、大いに盛り上がっていたという。ラウンジにはシンプルなカフェが設置されており、ビールやワインの他、おつまみやスイーツなども楽しめる。部屋だけでなく、このラウンジで過ごす時間や居合わせた旅人たちとの出合いが、このホテルに泊まる大きな目的にもなるのではないだろうか。
[caption id="attachment_33108" align="alignnone" width="640"] カフェには自転車をモチーフとしたビールが人気[/caption]
[caption id="attachment_33109" align="alignnone" width="640"] セルフで注げる地ビールや量り売りワイン。飲む前から楽しい![/caption]
部屋の中は、通常のホテルの定番の部屋とは大きく異なり、オリジナルの空間デザインが施されたもの。美しく、スタイリッシュなのだが、利用者目線で設計されており、空間を非常にうまく活用している。居心地がよく、使いやすいのだ。
[caption id="attachment_33110" align="alignnone" width="640"] 自転車を部屋に持ち込めるサイクルルーム[/caption]
[caption id="attachment_33111" align="alignnone" width="640"] 空間を広々と使用できる。機能的だが無機質ではなく、居心地が良い[/caption]
一番広いサイクルルームは、広々としており、室内に自転車の持ち込みが可能。ガラス張りのシャワールームがあり、海外旅行に来たかのよう! 荷物が多くなりがちなサイクリスト向けに、荷物を開いてもストレスなく使えるよう、大きなフリースペースが確保されていた。
[caption id="attachment_33112" align="alignnone" width="640"] ロフトベッドのように空間上部も生かしたヤグラルーム。下のビッグソファーは集いの場に[/caption]
[caption id="attachment_33113" align="alignnone" width="640"] 眠る時は階段を上がって上へ。上下でのやりとりも楽しそう[/caption]
広報写真に使用され、話題を呼んだヤグラルームは、まさにヤグラのように上段にベッドが設えられており、下段は皆で囲んで座れる大きなリラックススペースになっている。宴会か、女子トークか、朝まで語り合ってしまいそう!ここなら、泊まるだけではなく、過ごす時間を目一杯楽しめるだろう。
[caption id="attachment_33114" align="alignnone" width="640"] シングルユースも可能なダブルルーム。窓の外は線路で、鉄道好きのココロもくすぐる[/caption]
ダブルルームはシングルユースも可能。シンプルでスタイリッシュだが、使い勝手はしっかりと計算されおり、ビジネスマンにも使いやすいだろう。畳敷きで、ほっこりリラックスできる。
まんまるの鏡や新聞配達用のサコッシュ(自転車選手などが使う肩掛けのバッグ)を基に発案したサコッシュ型のタオル掛けなど、ちょっとした調度品にもセンスと遊びゴコロが光る。
[caption id="attachment_33115" align="alignnone" width="640"] サコッシュをモチーフとしたホテル特製のタオル掛け[/caption]
[caption id="attachment_33116" align="alignnone" width="640"] 廊下が駐輪スペース。週末はずらっと自転車が並ぶのだとか[/caption]
広めにスペースが確保された廊下にはバーが取り付けられているが、これは自転車を固定し、鍵をかけて保管するためのスペース。自転車をドアの前に置くことで、室内の空間も有効活用できるし、すぐ近くに置いておける安心感と便利さがありがたい。
[caption id="attachment_33117" align="alignnone" width="640"] メンテナンススペースや、落ち着いて仕事ができるフリースペースも[/caption]
「サイクリストに限らず、ビギナーの方も、体験したことのない方にも、来てほしいんです」と、このホテルへの愛着が溢れ出るような笑顔を見せる宮越支配人。だからこそ、誰でも遊べるスムージーマシンを入れるなど、どんなひとでも『自転車』を楽しみつつ、ここで過ごす時間を楽しめる仕掛けを練ったのだという。「(レンタサイクルがあり)手ぶらで来られて、トラブル対応もできる安心感もあるこの施設の環境を丸々楽しんで欲しい」と語った。
考えてみれば、『アトレ』といえば、駅のファッションビル。自転車を持ち込んで買い物や食事、さらには宿泊するなんて、常識的にはありえない行動だったはず。それが、ここでは上質なライフスタイルとして、堂々とふるまえて、さらには、羨望の眼差しで見られてしまったりするのかも! 自転車とともに、この環境を楽しむこと全般をアクティビティと考えれば、それは誰にとっても心躍る体験であるはずだ。
[caption id="attachment_33118" align="alignnone" width="640"] 館内にはポップアップストアスペースも。この日は「弱虫ペダル」関連の展示が行われていた[/caption]
[caption id="attachment_33119" align="alignnone" width="640"] 品揃えの豊富な「ル・サイク」[/caption]
[caption id="attachment_33120" align="alignnone" width="640"] 「ル・サイク」では修理やメンテナンスも明瞭会計で依頼しやすい[/caption]
一階の『ル・サイク』の前で、自転車を輪行(専用の袋に入れ、電車などに乗せて自転車を運ぶこと)してきた女性2名に遭遇した。話を聞くと、今日は『星野リゾート BEB5土浦』に宿泊予定とのこと。「今日も走ろうと思って来たんですけど、(外を)見たら、風が強いから、今日はもうヤメちゃって、ゆっくりしちゃおうかなって!」と満面の笑顔を見せた。ここで、ハッとした。そうか、だからここは『サイクリングリゾート』なのか。マリンスポーツやテニスなどのアクティビティや、過ごす時間を楽しむ一般的な『リゾート』と同様に、ここは自転車と食事やショッピング、ホテルへのステイを総合的に楽しむ『サイクリングリゾート』なのだ。汗をかいて自転車で長距離を走破する必要なんて、全然ない。あくまでおしゃれに、気楽に、自転車をキーワードにリゾートステイを楽しめばいいだけなのだ!
『星野リゾート BEB5土浦』はここに泊まり、過ごす時間を楽しむために、土浦に来る価値があると思える場所だと感じたし、ここに来れば誰でも確実に、『プレイアトレ土浦』や絶好のロケーションでのサイクリングも楽しむこともできる。
『プレイアトレ土浦』全館に共通していたのは、おしゃれでセンスがいいけれど、リラックスできる場所であること。そして、そこに心身の健康にも、環境にもいい自転車というアクティビティが加わり、ただの受け身の『リゾート』ではない、個々が自由にデザイン可能な楽しみがプラスされる。
訪れれば誰でも、滞在を楽しめる場所であり、サイクリストにとっては、自分が自転車乗りであることをちょっぴり誇りに思える場所であるだろう。
今は、新型コロナウィルスの影響により、厳しい状況にあるけれども、状況が落ち着いたら、お祝いも兼ねて、皆で大いに盛り上がりに行きたい!
少しでも興味が持てるなら、土浦を訪れてみてはいかがだろうか。きっと「また戻って来たい」と思えるような、格別な経験が待っているに違いない。
※掲載情報は3月取材時のものです。営業状況については変更になることがございますので、必ずウェブサイトなどで事前にご確認の上、足をお運びください。
※追記:4月18日から5月6日までは、生活必需品業種のみ営業。全館18時に閉店となっています。
画像:編集部、施設提供(P-Navi編集部)