サイクリング屋久島(後編)

2020/04/08(水) 11:17

サイクリング屋久島(後編)

※前半はこちら

いつ、ランチエイドが現れるのかとワクワクしていると、『やすみ』という紙を手に立つ男性が見えてきた。奥にはコンクリートの建物があるようだ。お店の名前? その前を通り過ぎると、多くの参加者が滞在していて、手招きしている参加者もいるのが見えた。エイドステーションだろうか??

[caption id="attachment_32008" align="alignnone" width="640"] このエイドは海を見晴らす場所に立つ[/caption]

[caption id="attachment_32009" align="alignnone" width="515"] 貝を香ばしく網焼き!「陣笠」に形が似ているからこの貝を「ジンガサ」と呼ぶのだとか[/caption]

[caption id="attachment_32010" align="alignnone" width="640"] またこのお餅!おいしくて、何度も食べてしまう。今度は、黄色と紫だ[/caption]

Uターンして中に入ると、プーンと強烈な磯の香り、さらに香ばしい醤油の食欲をそそる香りが漂ってくる。自転車を停め、入り口に向かうと、男性たちが大量の貝を網焼きしていた。なんという大盤ぶるまい。都内の炉端焼き店などで頼んだら、いったい、いくらするのだろうか? 傘の形をしていることから『ジンガサ』と呼ばれている貝なのだとか。噛み締めると、ジンワトと旨味が広がる。
「これも食べていって!」
汁ものというより、ほぼ具の豚汁が出てきた。豊富すぎる具材から、ダシがたっぷり出て、最高の味! ここでも、かからん団子やフルーツ、漬物などがふるまわれる。このエイドは「今年から公認になった」という情報もあったものの、コースマップには載っていない。
このゆるい不確定な状況のまま、これだけの施しをしてしまう大らかさに、一同はいっそう屋久島が好きになった。
「食べられないなら持っていきな!」と、スタッフの方が、ティッシュに包んでポケットに入れてくれた。「ありがとう!」と、お礼を言い、ぐっしょり濡れた冷たいグローブを絞り、再びバイクにまたがる。誰も彼も、ここではどうして皆がこんなに温かいのか。

すっかり心がポカポカになって、バイクを走らせる。雨が、穏やかになってきたようだ。ほどなく、待望のランチエイドが登場した。

自転車を置くと、建物の中に誘導された。通常は屋外で食事をとるらしいのだが、雨天ということで、急遽、室内に飲食スペースを確保してくれていた。強烈なダシの香り。中に入ると、つなげた長テーブルの上に、ズラリと提供料理が並んでいるではないか。

[caption id="attachment_32011" align="alignnone" width="640"] 参加者はブッフェのように料理を皿に取っていく[/caption]

[caption id="attachment_32012" align="alignnone" width="640"] 名物の貝「亀の手」ととびうおのすり身揚げ(奥)[/caption]

[caption id="attachment_32013" align="alignnone" width="515"] 脂の乗ったサバ[/caption]

[caption id="attachment_32014" align="alignnone" width="640"] 「これも食べていって!」トレーに置いた皿にどんどん食べ物が増えていく[/caption]

[caption id="attachment_32015" align="alignnone" width="640"] とどめはフルサイズのうどん!温かくて、おいしくてつい食べてしまう[/caption]

[caption id="attachment_32016" align="alignnone" width="640"] もはや昼定食[/caption]

昆布と椎茸のあえもの、さばみそ、軟骨付き肉と野菜の煮物、飛魚のすり身揚げ、焼きサバ、亀の手(貝)、さらにゆでたてのうどん一人前!料亭の昼御膳レベルである。400人もが参加するサイクリングイベントで、これほど手間のかかる料理を全員に提供することなど考えられない。材料を揃え、切って調理して、配膳するまで、どれほどの手間と時間がかかったことか。どれもこれも、感動ものの味。レシピを公表してほしいくらいだ。

[caption id="attachment_32017" align="alignnone" width="640"] シューズを脱いで、ランチを味わう。くつろぎすぎて、再スタート困難者が続出[/caption]

問題は、ずぶ濡れの身体で、このぬくぬくとした空間から脱出し、再スタートするのが非常に辛くなったこと。ここから、本格的な登坂が始まる。西部林道に突入するのだ。ここでゴールしたい思いを抑え、またバイクにまたがる。最後のエイドでは、“カレー”が待っている!

ほどなく、上りが始まった。世界遺産でもあるこの西部林道には、枝ぶりやうねる根が印象的な存在感の大きい木々が並んでいたり、苔むす巨大な岩が鎮座していたり、緑の岩壁の間を抜けたり、と、屋久島らしい空間が広がる。20kmほどに渡りアップダウンが続く走りごたえのある区間ではあるが、自転車で走ると、五感で味わえる要素が多く、感動も大きい。雨の影響で川の流量が増え、滝のように水しぶきを上げていたり、思わずバイクを停め、記念撮影をしたくなるようなスポットも。きついきついと言い合いながらも、参加者たちは雨だからこその景観も楽しみ、この区間を越えていった。

[caption id="attachment_32018" align="alignnone" width="640"] 上りが始まった。幸いにも雨が弱まり、風向きも味方に[/caption]

[caption id="attachment_32019" align="alignnone" width="640"] 太古の空気を醸し出す自然の中を走る。雨に濡れた姿もやはり美しい[/caption]

[caption id="attachment_32020" align="alignnone" width="640"] 西部林道にはヤクシカの姿も[/caption]

[caption id="attachment_32021" align="alignnone" width="640"] 西部林道ではヤクザルに遭遇する参加者も[/caption]

[caption id="attachment_32022" align="alignnone" width="515"] あちこちに川や滝が生まれていた。苔むす岩々の間を流れる光景の美しさに思わず立ち止まる[/caption]

[caption id="attachment_32023" align="alignnone" width="640"] 西部林道内にはドリンクエイドも用意された[/caption]

西部林道を抜けると、大川の滝(おおこのたき)が待っている。88mもの落差がある、迫力を誇る滝だ。外周路から離れ、滝に向けて降っていくと、轟音に近い水音が聞こえてきた。見たことのない ドでかい滝が、あたりが煙るほどの水煙を上げている。
「うわー!!!」
皆、思わず声をあげる。この大雨で流量が増え、巨大な滝に成長していたのだ。こんな滝が日本に存在するとは。

[caption id="attachment_32024" align="alignnone" width="640"] 巨大化した大川の滝。水しぶきすらうねりを上げる迫力に圧倒された[/caption]

聞けば、この日の昼までは水量が増えすぎて、付近に近づくことも禁止される危険なレベルだったのだとか。清涼な空気を漂わせる、というより、風が起きるレベルの水流に圧倒されつつ、多くの参加者が貴重な眺めを楽しんだ。

滝を出ると、バンが停車していた。食べものを並べているようだ。またプライベートエイド?「食べていってー!」と、女性が一口大にスライスしたケーキを差し出す。戸惑いながら受け取ると、バナナの香りが口いっぱいに広がった。おいしい!「受け取れなかった人に!」と、女性は坂道を駆け上がり、停止した参加者の口にケーキを差し込んでいた。皆、思わず大笑い。どこまでも、温かい。

最後のエイドである栗生に到着。ここまで、シッカリとカレーのための胃は空けてきた!待ちわびたカレーは、ごく普通のカレーに見えたけれども、並ぶトッピングに度肝を抜かれた。かき揚げ、サバ、サバみそ!? 屋久島ではこれらを混ぜ込んで食べるのだそうだ。おそるおそる混ぜ、ほおばると、確かにサバとミソの持つ旨味がカレーの味に深みを与えて、何とも言えないおいしさに。衝撃だった。自宅で再現することも難しく、ここでしか味わえないカレー。このエイドのカレーを推す人が多かったのも、納得だ。

[caption id="attachment_32025" align="alignnone" width="640"] ついに到達した最終エイド!雨もかなり弱まった[/caption]

[caption id="attachment_32026" align="alignnone" width="640"] 最後のエイド。カレーにトッピングを選ぶ。食後のお餅もスタンバイ[/caption]

[caption id="attachment_32027" align="alignnone" width="640"] 屋久島スタイルのカレー。サバみそとかき揚げをオン![/caption]

ここからゴールまではもう20kmを切っており、ほぼ平坦。完走は確実で、気持ちも軽くなる。再スタートするころには、雨もぐっと弱まっていたが、ほどなく止み、路面が乾いていることに気づく。あれだけの大雨の後、瞬時に路面が乾くことなどありえない。「南部は降らなかった」ということか!なんとなく悔しくなって「あんなに苦労したのに、なんだったんだ!」思わず声を上げる参加者も。

[caption id="attachment_32028" align="alignnone" width="640"] 信じられないほど乾いた路面が登場し、思わず、笑う。でも終わり良ければすべてヨシだ[/caption]

なんと、南岸は午前中で雨が上がったのだとか。大川の滝までは立ち入り禁止になるほどの大雨だったのに、この距離で、これほど天候が違うとは。島の天気って難しい。

南岸の海の景観を楽しみながら、バイクを走らせると、ずぶ濡れだったウェアが少しずつ乾いてくる。終わり良ければすべてよし。尾之間のすこやかふれあいセンターにゴールするころには、ウェアも、気持ちも軽くなっていた。

[caption id="attachment_32029" align="alignnone" width="640"] ゴール!タフなライドだったが、最後は身体も乾き、さっぱりした顔でフィニッシュできた[/caption]

[caption id="attachment_32030" align="alignnone" width="640"] 完走の証明、記念盾を受け取る[/caption]

ゴール会場では、記念の完走盾を受け取り、温かい飲み物がふるまわれた。ここから自転車を箱詰めし発送できるようになっており、島外からの参加者の多くは、ここで荷造りを終えることができる。

[caption id="attachment_32031" align="alignnone" width="640"] これだけの厳しい天候の中でも、キッズライダーたちは見事完走[/caption]

夕方、近くの提携ホテルや、宿泊先のホテルで入浴し、さっぱりした参加者が再度集結してきた。後夜祭が始まるのだ。ここでもおでんや食事がふるまわれ、サポートしてくれた鹿屋体育大の選手たちやMAVICのトークが展開された。これまで開催された大会の10回すべてに参加した3名には記念品が贈られたのだが、驚くべきことに、2名はもっとも遠い地、北海道からの参加者なのだそうだ。賞品満載の抽選会はゲストの団長安田さんがマイクを持ち、会場を盛り上げた。この日のライドを振り返りながら、参加者たちはとびきり楽しい夜を満喫、後夜祭は幕を降ろした。

[caption id="attachment_32032" align="alignnone" width="640"] 後夜祭開宴。ともに雨と戦ったこの日のライドを振り返り、話は尽きない[/caption]

[caption id="attachment_32033" align="alignnone" width="640"] 後夜祭にも、温かいおでんなど、心尽くしのもてなしが[/caption]

[caption id="attachment_32034" align="alignnone" width="640"] タフなライドに臨む参加者をサポートした鹿屋体育大学のメンバー。彼らの任務もタフなものであった[/caption]

[caption id="attachment_32035" align="alignnone" width="640"] 最年少ライダーは9歳[/caption]

[caption id="attachment_32036" align="alignnone" width="640"] 10回連続出場者の表彰。なんと2名は北海道からの参加[/caption]

[caption id="attachment_32037" align="alignnone" width="640"] 団長安田さんによる抽選会で盛り上がる[/caption]

[caption id="attachment_32038" align="alignnone" width="640"] 参加賞が豪華なのもこの大会の特徴で、サイクリングではタオルとエコバッグが、前日のヒルクライムではキャップとアイウェアが贈られた[/caption]

強い雨と風の中、きびしいライドであったことは確かだが、その分参加者たちの団結も強まり、地元の方々の温かさも際立ったように思う。美しい海に囲まれた世界遺産の島で、これほどのもてなしを受けるぜいたくなライド。1日がドラマチックだったからこそ、解散するときには、「終わってしまった」という淋しさに包まれた。また走りたいな。でも次は、できれば、晴天の下で!

写真提供:2020サイクリング屋久島&屋久島ヒルクライム/編集部(P-Navi編集部)

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