サイクリング屋久島(前編)

2020/03/30(月) 10:53

サイクリング屋久島(前編)

2月16日、屋久島で『サイクリング屋久島』が開催された。世界遺産エリアを含む屋久島を一周する約100kmのコースを走る人気のファンライドで、今大会は10回目となる記念大会となる。屋久島は「一年に366日雨が降る」とも言われるほど雨が多い環境にあるものの、このサイクリングは第1回をのぞき、天候に恵まれてきた。だが今年は、強烈な雨と風の中での開催に! まさに、参加者の記憶に残る『記念大会』になったのだった。

[caption id="attachment_31977" align="alignnone" width="640"] イベントは屋久島の外周を走る。厳しいのは西岸だ[/caption]

16日の早朝、続々と参加者がスタート地点となる尾之間のすこやかふれあいセンターに集まってきた。大雨を警告してきた天気予報に反し、曇天。ここまでの数日も大雨の予報ながら、現実的には降らなかったこともあり、参加者の中には「今日もいけるんじゃないか」という、どことなく希望的な感覚が漂っていたように思う。大会には、ビギナーやファミリー向けに、50km、20kmコースも設定されており、これらのコースは、それぞれ永田、栗生から時間差でスタートし、すべてのコースの参加者が尾之間にゴールする形になる。
コースは、島の南東部にある尾之間を出発し、反時計回りに島の外周を一周する。難関は島の西部の『西部林道』。20kmほどアップダウンが続き、コース内で最もキツいエリアだが、世界遺産地域であり、苔むす屋久島らしい景観を楽しめ、ヤクザルやヤクシカなどの動物に出合える可能性も高い、大会のハイライトでもある。西部林道以外は、それほど多くの登坂はなく、美しい自然や海を楽しみながら島を一周できる。島では中学校などが行事として走ることもあるそうで、比較的ビギナーでも走りやすいロングライドコースだ。
6時50分、開会式が始まった。関係者の挨拶に続き、毎年ゲストしてこの大会を走ってきた安田大サーカスの団長安田さんが今年も登場。トライアスリートとしてトレーニングを積む経験を生かし、参加者のウォーミングアップを兼ね、自転車で使う筋肉や、乗車姿勢で凝りやすい部位をほぐすストレッチを指導した。参加者たちは神妙な顔で団長安田さんの指示に従い身体を動かし、これからのライドに向け、カラダをほぐし、温めた。

[caption id="attachment_31978" align="alignnone" width="640"] 団長安田さんによるウォーミングアップとストレッチ。経験を活かし、自転車に乗ることに特化したメニューを指導[/caption]

[caption id="attachment_31979" align="alignnone" width="640"] 団長さんの指示を聞きながら、真剣にウォーミングアップをする参加者たち[/caption]

この日の天気予報は、大雨と強風に加え、午後に向けて気温が低下することを予想していた。
ただし、昼ごろから風は北西の風に変わるため「西部林道を含むコース後半は追い風になる」という地元情報も! 『風速10mを超える追い風』が、実際に使えるものなのかわからないが、希望を抱ける情報であることは確かだ。

[caption id="attachment_31980" align="alignnone" width="640"] スタート前に全員で記念撮影。今年は約400名が参加した[/caption]

[caption id="attachment_31981" align="alignnone" width="640"] 数十名のグループごとにスタート。幅広い年齢層の参加者が集まった[/caption]

全員で記念撮影をした後は、速やかにスタートラインへ移動。まだ空は明るく、気温も低くない。逆を言えば、今日の天気は今が最高ということか。号砲が鳴り、参加者たちのスタートが始まった。走りやすい気温で、路面状況も悪くない。しかも追い風! 「万が一、雨が降ったときのために」早めに走り切ろうという心理が働き、第1エイドまでは高速の集団が形成された。

[caption id="attachment_31982" align="alignnone" width="640"] 家族で玄関に並び参加者に声援を送る近隣の方々[/caption]

[caption id="attachment_31983" align="alignnone" width="640"] 名産の柑橘『たんかん』を手に参加者を応援[/caption]

[caption id="attachment_31984" align="alignnone" width="640"] 手をあげ、声援に応える団長安田さん[/caption]

街頭には、近隣の住人たちが並び、参加者に声援を送る。名産『たんかん』を配るひとたちまで登場。心のこもった歓待ぶりに面して、皆の表情も明るい。参加者たちは、あっという間に島の東岸の安房に開設された第1エイドに到着した。高速走行で、汗だくだ。

[caption id="attachment_31985" align="alignnone" width="640"] 続々と雨の中参加者たちが集まってくる。空が暗くなってきた[/caption]

このイベントはエイドステーションでのふるまいが手厚いことで有名なのだが、リピーターたちによると「勧められるまま食べていくと大変なことになる」とのこと。コースマップに掲載されるエイドは全部で4つ。最後の『栗生』のカレーが“ともかく絶品”との前情報があった。このカレーを食べられるよう、胃を空けてこのエイドに到着するのも大切な目標となった。

[caption id="attachment_31986" align="alignnone" width="640"] スタート後まもないにも関わらず、並ぶ『ぼたもち』に食欲をそそられる[/caption]

[caption id="attachment_31987" align="alignnone" width="640"] からん団子登場!エイドごとに餅の種類が違うため、毎回食べてしまう[/caption]

ところが、第1エイドからこの目標が揺らぎ始める。かからん団子のほか、たんかんの餅や、
数々のお菓子がずらりと並んでいたのだ。食べるよう勧めてくれる温かい地元のボランティアのやさしさにほだされ、ついつい食べてしまう……しかも、何を食べてもおいしいのだ!
天候への不安から、第1エイドを早々に出発し、北へ向かう。ところが、雨が降り始めた。顔にぶつかる雨粒が痛いほどの本降りになり、強烈な追い風だった風も、行く手を阻む風へと変わってきた。気温も下がってきたようだ。

[caption id="attachment_31988" align="alignnone" width="640"] 雨は一気に本降りに。風も強まった[/caption]

[caption id="attachment_31989" align="alignnone" width="640"] がんばれー!全力で声をかけてくれる地域の皆さんに、応えることで元気をもらう[/caption]

だが、立っているのも厳しい悪条件の中でも、沿道の家々や店舗には多くの人々がスタンバイし、冷たい雨に濡れることも厭わず、用意した歓待や応援のメッセージが書かれたプラカードを掲げたり、身を乗り出しながら、「がんばれ!」と声をかけてくれたり、皆が全力で応援してくれるのだ。「ありがとうございます!」「がんばります!」と、厳しいライドにはなってしまったが、応援に応えることで、うなだれかけていた参加者たちも前を向く気力を取り戻していくようだった。

空港の脇を抜け、北へ。少し前まで「暑い!」という声が漏れるほどだったのに、全身が濡れ、寒さに苦しむ参加者も増えてきた。脇目も振らず、ひたすらペダルを踏み込む。雨風の影響で、スピードが一気に低下し、先が読めなくなっている。

[caption id="attachment_31990" align="alignnone" width="640"] 地元スタッフがおもてなしに待機。第2エイドにて[/caption]

[caption id="attachment_31991" align="alignnone" width="640"] 皮までおいしいと大評判だった安納芋[/caption]

[caption id="attachment_31992" align="alignnone" width="640"] 食べ物のおいしさと、エイドスタッフとの交流に参加者は笑顔を取り戻す[/caption]

二つ目のエイド『宮之浦』に到着。島内の中心街であり、店舗やホテル、各種施設が立ち並ぶ。ここで34km、コースの1/3を走った計算になる。雨に打たれ、身体が冷え始めており、屋根のあるスペースに、ホッとする。アツアツの具沢山スープ、柑橘の甘煮、むらさきいものかからん団子、サバとらっきょう、漬物の和え物、ぼたもち、ふかし安納芋……と、手をかけられた品々が並ぶ。
まずスープをいただく。具沢山で、良い香り! ゆっくり味わいたいと思いながらも、温かさが嬉しく、一気に飲んでしまった。冷えた身体にスープがしみわたる。甘いものが多くとも、安納芋の素材の甘み、ほどよい砂糖の甘さと、酸味や苦味とのバランスがよい金柑の甘煮、餅のやさしい甘み、と、ひとつひとつの甘さが違うため、甘党でなくともおいしくいただける。サバとらっきょうの和え物も、料理屋で出てもおかしくないクオリティーだった。天候が急変し、ぼうぜんとした様子で到着する参加者もいたが、このエイドで皆が元気をチャージし、笑顔になったようだ。

[caption id="attachment_31993" align="alignnone" width="640"] サバとらっきょうの和え物。料亭の味だった[/caption]

[caption id="attachment_31995" align="alignnone" width="640"] バイクの調子が悪くなった参加者のバイクのチェックを行うMAVICサポート[/caption]

バイクを取りに行くと、足元がかなり悪くなっていた。次のエイド『永田』では、大会名物のブッフェランチが待っている。いざ、出発!
中心市街地を抜けると、道幅が狭くなり、緑に囲まれた道に戻る。島の最北端である志戸子の集落が近づくと、美しい海が見えてくる……はずなのだが、雨音が会話をかき消すほど強く響く雨の中、海景色を楽しむ余裕もない。ねずみ色になった一湊の海水浴場を切なく眺め、先へ。さらに雨と風が厳しくなってきて、路面に溜まった雨が波打つ。強風に煽られ、ハンドルを取られてコントロールを失い、ヒヤッとすることも。落ち着くように自分に言い聞かせ、身体を低くして、ペダルを踏み込む。しかし、まったく思うように進まない。

[caption id="attachment_31996" align="alignnone" width="640"] 景観を眺めるべく止まれども、強風にあおられる。晴れたら、絶景が続くのだけれども[/caption]

[caption id="attachment_31997" align="alignnone" width="479"] 大雨で路面に溜まった水が強風に煽られ波模様を描く[/caption]

[caption id="attachment_31998" align="alignnone" width="640"] トラブルに備え、メカニック車も同行[/caption]

人だかりのあるテントが見えてきた。「この先、上りです。その前に休憩していってくださーい! お手洗いもあります!」と、男性が声をかけている。プライベートエイド??
テントには、数名のスタッフが待機して、温かい麦茶や、もち、菓子類をふるまっていた。非公認エイドで、この量!? 驚きつつも、躊躇していたら「いいよいいよ、ポケットに入れて持っていきな!これから上るんだよ」と、温かい声が飛んできた。ありがとうございます! エイドスタッフさんや居合わせた参加者の皆さんと会話に花を咲かせることで、ここまでの緊張感から解放され、皆が笑顔になった。本当にありがたい。上り坂なら身体も温まるはず! 行こう! 100m程度の高低差を上る坂が、このあと2つ待っているようだ。

[caption id="attachment_31999" align="alignnone" width="640"] 皆が思わず笑顔になったプライベートエイド[/caption]

[caption id="attachment_32000" align="alignnone" width="640"] たくさんのお菓子が並ぶ[/caption]

[caption id="attachment_32001" align="alignnone" width="640"] どれをもらおうかな?あれもこれも食べてみたくなる[/caption]

この上りはペースを守っていけば、すんなりクリアできる走りやすいものだったが、このあたりからコース内の上りパートに差し掛かる。気を引き締めていこう。

後編に続く!

写真提供:2020サイクリング屋久島&屋久島ヒルクライム/編集部(P-Navi編集部)

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